エピソード9 倉庫の下の秘密
夜明けは温もりを連れてこなかった
空は灰色
夜が一歩退いただけで まだ去っていないみたいだった
倉庫の中は汗と埃の匂い
リオルは肩を押さえて座っていた
血はもう止まったが 痛みは残る
ミロスが黙って傷を縛り直した
速く 正確に
ランゼは皆を見て回った
一人ずつ目を見る
震えている者と 持ちこたえている者を確かめる
それから 床が割れた場所で止まった
セイガはもうそこにいた
掌を板に置き
目は集中している
一睡もしていない
- 行ってない
セイガが小さく言う
- ただ止まっただけだ
俺たちを聞いてるみたいに
ランゼはショーンゴを見る
ショーンゴは急がない
亀裂を見ていた
まだ開いていない扉みたいに
ミロスがしゃがみ
短刀で板を引っかけた
次にもう一枚
木は古く 乾いている
だが釘じゃなく
黙り癖で持ちこたえているみたいだった
板が外れた
下から冷気がさらに強くなる
空気は地下の匂い
そしてもう一つ
細い
錆みたいな
でも金属じゃない
魔力の錆
床の下に裂け目があった
小さい
だが一人なら潜れる
縁は削れている
昔に作られ
何度も使われた跡
リオルが近づく
- ただ奪ってるんじゃない
- ここで暮らしてる
セイガが頷く
- 道は一つじゃない
まだ感じる
右
もっと奥
町の下に丸ごと袋みたいなのがある
ランゼが盾を握り込む
- つまり町は昔から首輪をつけられてる
ミロスが低く
- 見張りもだ
ショーンゴが縁にしゃがみ
指で木をなぞった
亀裂じゃない
痕跡を確かめるみたいに
- ここに印がある
ショーンゴは平らに言う
- 鍵のためじゃない
警告だ
セイガが身を寄せる
- どんな
ショーンゴはすぐには答えない
- 古い
- 先へ行くなって意味で置かれた
- それでも奴らは通る
ランゼが短く
- 降りる
ショーンゴが頷く
- ランゼが先
- リオルが次
- セイガは光
- ミロスは最後を締めろ
それと一人 上に残れ
出口を失うな
ランゼは反論しない
最初に潜った
身体を下へ
盾は前
闇が一瞬飲み込む
すぐ下から声
- 異常なし
今のところ
リオルが二番目
痛みで息を吸い込む
それでも止まらない
セイガが三番目
光はすぐ生まれた
細く
眩しくない
道だけを見せる
ミロスが四番目
地下は狭い
通路は斜めに下っていく
壁は湿っている
板で補強された場所もある
ただの粘土と石の場所もある
どこにも痕がある
靴跡
引っかき傷
蝋の滴
乾いた血
- よく通ってる
リオルが言う
- 週に一度とかじゃない
ランゼがしゃがみ
床を指でなぞり
光にかざす
- 新しい
今日のだ
さらに少し進むと
声が聞こえた
前だ
低く
苛立って
仲間同士の揉め事みたいに
- 逃げられた
最初から切るべきだった
- 影の奴を見ただろ
生き残れる確信がないなら切れない
- これで上の連中が荒れる
セイガが光を落とす
ランゼが盾を上げる
ショーンゴは最後尾
足音はほとんどない
通路そのものが 彼を売りたくないみたいに
曲がり角の先に空間
小さな広間
木の支柱
古い樽
袋
いくつかの寝床
そして ほとんど消えた焚き火
三人が炭のそばにいた
一人は唇が切れている
一人は手を押さえ 火傷みたいに
三人目はフードをかぶり
黙っていた
ランゼが先に出る
盾を上げたまま
セイガの光が顔を照らす
三人が跳ね起きる
手が刃へ
だが攻撃じゃなく
凍りついた
ショーンゴを見たからだ
フードが顔を上げた
- お前
そいつは囁いた
- 降りてくるべきじゃなかった
ショーンゴが止まる
- お前が指揮してる
フードはすぐ答えない
それから鈍く
- 俺は指揮する側の一人だ
名はケルト
リオルが一歩出る
- 指輪の痩せた奴はどこだ
ケルトが歪んだ笑み
- 痩せてない
- 俺たちには名前がある
あれはサルンだ
そして使者だ
ミロスが身を硬くする
- 誰の使者だ
ケルトがゆっくり立ち上がる
セイガの光が腕を滑る
手首に印
刺青じゃない
傷でもない
刻印だ
セイガが青ざめた
- これは地元の印じゃない
外の印だ
ここへ持ち込まれたみたいだ
ケルトがセイガを見る
- 分かるんだな
それからショーンゴへ
- お前らは触れちゃいけない場所に入った
この町は本体じゃない
入口にすぎない
- そしてお前らは
町の下で眠ってるものを いま揺らした
ランゼが歯を噛む
- 名前をそんなに軽く出すな
俺たちが密告したらどうする
ケルトが鼻で笑う
- 俺たちは とっくに行方不明扱いだ
- 誰かが来る頃には もう別の場所にいる
- それに お前は結局 誰にも言えない
ランゼが緊張する
- なぜだ
ケルトは落ち着いて答えた
当たり前みたいに
- 生きて帰れないからだ
間
ケルトは下のほうへ目を向けた
聞いているみたいに
- もう知ってる
お前らがここにいるって
セイガは光を握りしめ 震えないようにした
- 誰だ
ケルトが小さく言う
その静けさのほうが 叫びより怖い
- 俺たちに地下で生きる権利をくれる奴
- そして俺たちが 金じゃないもので払う相手
ショーンゴは視線を外さない
- 俺は払わない
ケルトの笑みがさらに歪む
- なら お前は俺たちの一人になるか
餌になるかだ
その瞬間
広間の床の下で 低い衝撃音
巨大な指が下から叩くみたいに
一度
二度目
そして地面が わずかに揺れた




