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エピソード8 倉庫の夜

夜は落ちるのが早かった

町はそれを待つんじゃなく

ただ 自分の中に折りたたまれていくみたいだった


外れの倉庫は 埃と冷えで息をしていた

床は一歩ごとに軋む

隅では小さな命が擦れる音

扉の向こうでは ときどき見張りが通り

抑えて 慎重に歩いていく


ミロスは 町から渡されたものを全部まとめた

水は中央寄り

食べ物はその近く

弱い者は入口から遠くへ

武器を持てる者は扉の近くへ


ランゼは見張り番を組んだ

二人一組

誰も深く眠りすぎないように


リオルは板の隙間のそばに座り 外を見ていた

見つめているんじゃない

闇を 目で聞いていた


セイガはしゃがみ 床に掌を置いた

静かに

木じゃなく その下の地面を確かめるみたいに


ショーンゴは影の中に立っていた

見せつけるでもなく

ただ 自分が楽な場所に

影のほうが勝手に彼を見つけるみたいに


数分 沈黙が続く


セイガが もっと低く身を寄せ 囁いた


- 下

- 何か動いてる


ランゼが身を寄せる


- 俺たちの下か


セイガが頷く


- 空洞がある

掘ったか 広げたか

- そこで何かしてる


ランゼが盾のベルトを締めた


- つまり 下から入れる


セイガは板を指でなぞり 場所を覚えるみたいに


- 真ん中寄り

- 動きは遅い

音を出さないようにしてる


リオルは隙間から目を離さず 静かに言い足した


- 外も動いてる

四人

壁づたい

道じゃない


倉庫の中で 誰かが唾を飲み込んだ

大きすぎる音

今じゃない音


外の足音が止まる



それから ほとんど日常みたいな囁き


- ここだ

ここ


扉が小さく震えた

外から木に体重がかかる

壊すんじゃない

確かめている


- 持ってる物を全部出せ そのまま寝ろ

- 硬貨 装飾品 お守り

- 誰も死なない


ランゼが扉へ動こうとした

だがショーンゴが掌を上げた

命令じゃない

落ち着いた境界線だった


セイガがまた床に触れた

目が変わる


- 下

今だ


一か所 床がわずかに沈む

板が鳴って 割れた

隙間から湿った冷気

土の匂いじゃない

長く日が届かない地下の匂い


闇から手が伸びた

人間じゃない

指が長い

爪が黒い

皮膚は鈍く 薄い膜をかぶったみたいだ


ランゼが飛び込み 盾で叩いた

鈍い 不快な音

手は引っ込む


下から笑い声

低く

ぬめる

人間じゃない


- 言ったろ

ここだ


穴から一人目が這い上がる

背が低く 肩が広い

顔は布で隠している

仮面の下で 目が夜獣みたいに光った

布の端から 耳の尖った輪郭が見える


二人目が続いた

痩せて 骨みたいに細い

指には指輪

古い魔力の臭いがまとわりつく

閉じた部屋の煙みたいに 重くて嫌な臭い


そいつは人々を見回し 笑った


- さあ

難しくするな

渡して寝ろ

俺たちは余計な音が嫌いだ


ミロスが短刀を握り直し いつでも跳べるようにした

だが先に口を開いたのはショーンゴだった

平らに 静かに


- 何もない

- ここにあるのは 水と

兵がくれた食い物だけだ


外で誰かが短く笑う


- みんなそう言う

- なら服だ ベルトだ 金属だ 靴だ

- 俺たちを中に入れろ


低い方が横へ跳んだ

水でも食い物でもない

人へ

腰から外せる物

首から引きちぎれる物へ


リオルが進路を塞ぐ

刃が襲撃者の喉の近くで止まる


- もう一歩で

後悔する暇もなくなる


低い方は止まった

目は怒り

だが賢い


指輪の痩せた方が 影へ顔を向けた

笑みが消える


何かを感じた

部隊じゃない

怯えでもない

獲物でもない


- ここに誰かいる

こいつらとは違う


ショーンゴが影から一歩出た

たった一歩

それだけで 空気が重くなる


痩せた方が唾を飲む


- お前

ここの人間じゃないな


ショーンゴは静かに見た

脅威を測るんじゃない

愚かな選択を測るみたいに


- お前らは 何度も来てる

- 下からも 外からも

喧嘩を探してるんじゃない

追いつかない連中を探してるだけだ


痩せた方が唇を舐めた


- ここはみんなそうだ

町は小さい

人は黙る

見張りは疲れてる

賢い奴は払う


ショーンゴは声を上げない


- 今夜は帰れ

- 二度と戻るな


低い方が鼻で笑う


- 俺たちが そんな簡単に引くと思うか


ショーンゴは動かない

だが倉庫の空気が締まる

隅の蝋燭が 風もないのに消えた

足元の物音が まるで息を潜めた


低い方は言葉につまる

喉が思い出したみたいに

自分が脆いってことを


痩せた方が一歩下がる

声に慎重さが混じる


- 分かった

帰る


ショーンゴは視線を外さない


- 一人だけ残れ

- 道を知ってる奴

- 仲間を連れてきた奴だ


低い方が痩せた方を睨んだ

そこに仲間意識はない

怒りと計算だけ


痩せた方は一秒黙り

乾いた声を投げた


- 生きてみろ

できるならな


そして床の穴へ走った


セイガが掌を上げた

細い光の糸が亀裂に沿って走る

火じゃない

裂け目を縫い合わせる縫い糸みたいに


- 一分

それ以上は無理だ


痩せた方が空中で指を動かす

指輪が小さく鳴る

光の糸がびくりと跳ね 暗くなっていく


セイガが青ざめた


- 俺の魔術に絡みついてる


リオルが痩せた方を止めに飛んだ

だが低い方が肩でぶつけた

破城槌みたいに

リオルは一瞬だけ崩れる


その一瞬で十分だった


痩せた方は下へ落ちた

町の下の闇が飲み込んだみたいに


セイガが息を呑む

光の糸が切れた

穴から冷気

深い井戸みたいに


ランゼが盾を上げた


- 逃げた


ショーンゴは床の暗い隙間を見た

静かに

逃走じゃないみたいに

跡みたいに


- あいつは逃げてない

- 導いてる

- なら そこに指揮する奴がいる

小さな盗賊じゃない

まとめ役だ


外の扉の向こうで 誰かが急に退いた

足音が走る

焦り

恐慌

扉を押していた連中が

獲物を間違えたと理解したみたいに


リオルは肩を押さえた

指の隙間から血がにじむ


- 危なかった


ミロスが重く息を吐く


- まだ始まりだ

道があるなら戻ってくる

今度は四人じゃない


セイガは下を見た


- 層が一つじゃない

町の下に空洞が何重にもある

それと

俺は もっと強い何かを感じる

あの痩せた奴より


ショーンゴは皆へ向き直った


- 夜明けまで 交代はそのまま

- 夜明けに道を確かめる

- そこにいる奴は答える


声は平らなまま

だが冷たさが増していた


そして 準備している間も

町の下では誰かが動いていた

急がず

この闇を誰より知っている者の確信で

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