エピソード17 法の最初の一撃
地上では まだ街が目を開けきっていなかった
だからこそ もっと怖い
井戸の列で
女が桶を持ち上げようとして止まる
腕が どう動くか 忘れたみたいに
子どもが母の名を呼ぶ
声が半分で消える
口だけが動く
露店の男が銅貨を数える
指が一枚目で固まる
数える権利を取られたみたいに
門の衛兵が笛に息を入れる
音が出ない
息だけが白く漏れる
誰かが倒れる
一人じゃない
二人目
三人目
傷じゃない
支払いだ
その頃 倉庫の下では
扉の向こうの闇は ただの暗さじゃない
光が無いんじゃない
別の秩序が在る
廊下はまっすぐ伸びる
喉みたいに細い
天井は低く
石は目で見ても濡れている
そして一歩ごとに
見えない何かへ署名しているみたいに響く
ショーンゴが先頭
右肩を壁に寄せる
ランゼがその後ろ 中央
盾は胸に押しつけ
ベルトがきしむ
セイガは左
掌の光は松明じゃない
糸みたいに細い
リオルは右の壁沿い
指は温かい
血を止める準備ができている
ミロスは後ろ 入口寄りの影
ケルトはショーンゴにほとんど密着
ロウとティルはさらに後ろ
廊下から目を離さない
背後で石が小さく息を吐き
壁がまた壁になる
叩きつけない
ただ 通路はもう存在しないと決めただけ
ランゼが継ぎ目を指でなぞる
石は滑らかだ
ここで何かが開いたことなど一度もないみたいに
- 戻るのは簡単じゃない
ケルトが低く言う
嘲りはない
- ここは扉じゃない
許可だ
セイガは光から細い線を放つ
糸が床に伸び
道を覚えようとする
だがすぐ暗くなる
光る権利を削られたみたいに
リオルが自分の手首に触れる
魔法は従う
だが途切れ途切れ
殴られた後の呼吸みたいに
ミロスが首を傾ける
足元の影が動く
生き物みたいじゃない
注意深いものみたいに
ショーンゴが一歩
その瞬間 胸の中の空気だけが重くなる
肋が一瞬 入れ替えられ
戻された
だが他人のものとして
止まらない
前の床に かすかな線がある
ひびじゃない
図式だ
長く見ていると 四角に組まれる
数字のない表みたいに
ランゼが盾から目を離さず囁く
- 動きがある
あそこだ
何かが起きてる
セイガが頷く
光の糸が一本の線に沿う
その瞬間 廊下の前方から黒い細い糸が立ち上がる
飛ばない
必要な場所にだけ生まれる
膝の下
肋の下
喉の下
判断の時間が一番短い場所に
ティルが歯を食いしつばる
肌が青白くなる
目が大きく開く
ずっと出口を数えているみたいに
それが彼の印
彼はいつも 生き残れる方を見ている
ロウが小さく笑う
笑いは乾いている
顔は鋭い
鼻梁は折れた弧
いつも「終わり」と囁く
当たりたがっているみたいに
それが彼の印
- これは糸じゃない
ロウが言う
- 人を釣る鉤だ
一本の糸がランゼの盾に触れる
切らない
黒い印を残す
焼けた烙印みたいに
ランゼは感じる
腕が弱くなる
力の一部が床へ注がれたみたいに
- 奪ってる
ランゼが掠れ声で言う
- 奪わない
ケルトが言う
- 深みに返してる
ここでは借り物とされているものを
ショーンゴが掌を上げる
周りの黒い輪は光らない
魔法には見えない
だが廊下が反応する
認識したみたいに
前方の壁で何かが軋む
石は開かない
ページがずれるみたいに横へ退く
そこから現れた
廊下が言葉として吐き出した者
背が高く 痩せている
肌は羊皮紙みたいに白い
指は黒い斑
インクで洗って まだ落ちていないみたいに
首に細い紐
そこに印章がぶら下がる
瞬きしない
- 俺はタルン
平らに言う
- 廊下の書記
- お前らは記録なしで入った
彼の印は単純で怖い
もう書かれた判決を読むみたいに話す
セイガが光を高く上げかける
ショーンゴは見もしない
でも落ち着いて言う
- 糸で
槍じゃない
セイガが掌を締め
光はさらに細くなる
黒い糸を縫い目みたいに締める
殴らない
仕立て直す
タルンが印章を上げる
紐の印が短く瞬く
光じゃない
許可のカチリだ
糸が同時に二か所へ跳ねる
一本はミロスの首へ
もう一本はリオルの肋へ
ミロスが半歩で消える
足元の影が落ちる
糸は首を掴めなかった
空気だけを掴む
だが空気が重くなる
避けることすら課税されるみたいに
リオルは壁に押しつけられる
糸は貫かない
肌に黒い跡を残す
そして彼の治療が一瞬止まる
癒す権利を奪われたみたいに
ランゼが盾で前へ
殴るためじゃない
空間を押し広げるため
盾が糸に当たる
糸は飛ばない
ただ金属に記録される
借金みたいに
ショーンゴが廊下で二歩目
すぐ代価が来る
右手の指が重くなる
石が沈んだみたいに
頭の中で 自分の名が小さくなる
現実味を削られたみたいに
それでもタルンを見る
- お前は上じゃない
タルンは笑わない
印章を横に向ける
刃の縁を見せるみたいに
- 俺は 法にさえ報告先を持たせる者だ
- そして上は
タルンは廊下の奥の闇を見る
上司を見るみたいに
- 見られるのが嫌いだ
ショーンゴは闇を見ない
床の線を見る
理解する
糸が必要な場所に生まれるのは
場所がもう決められているからだ
糸が決めるんじゃない
廊下が決める
ショーンゴが指を握る
目の前の空気に細い稜線が生まれる
冷たい
「許される」と「許されない」の境界みたいに
ショーンゴはタルンを切らない
足元の線を切る
廊下が「必要な場所」を置いた部分を
石が細く割れる
下から暗い反動が噴き出す
炎じゃない
結び目の痙攣だ
糸が震える
一瞬だけ 正しさを失う
セイガはその瞬間を光で縫う
裂け目が傷になる前に捕まえる縫い手みたいに
タルンが半歩 下がる
初めて
命令じゃなく
身体で
- ルートを壊してる
タルンが言う
声に乾いた怒りが混じる
- なら街がもう一度払う
遠く上で
石越しに
短い人の音が通る
叫びじゃない
言葉でもない
息を落として 取り戻せなかったみたいに
ショーンゴはそれを聞き
目を逸らさない
- そうやって取るのか
- 俺からじゃない
あいつらから
タルンはゆっくり印章を下ろす
黒い糸は石へ戻る
逃げない
自分の行に戻る
そして小さく言う
印を付けるみたいに
- 記録完了
- お前らはもうリストに入った
前方の廊下が低く唸る
向こう側で誰かが本当に読んだみたいに
もう一歩ぶんの通行を許すみたいに
ショーンゴは黒い輪が一瞬縮むのを感じる
身体じゃない
可能性の周りで
彼はわずかに笑う
喜びはない
- なら報告してこい
- 俺もこの廊下を覚えたと伝えろ
闇の奥でカチリと鳴る
仕掛けじゃない
もっと上の封印の音だ
はっきりした
ヴェルクは扉だった
支配者じゃない
そして扉の向こうへ一歩踏み出したなら
今度は別の誰かが
自分の帳簿から顔を上げた




