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エピソード13 取れるなら取ってみろ

ショーンゴの周りの黒い輪は光っていなかった

魔術にも見えない

それは事実だった

誰かが石に刻み 世界に覚えさせた境界


ショーンゴが息を吸う

その瞬間 空気が重くなる

呼吸そのものが ふるいを通るみたいに


ヴェルクは向かいで落ち着いていた

肩は骨まで裂け

血はまっすぐ流れている

それでも視線は変わらない

痛みを感じないんじゃない

勘定に数字を記録しているだけみたいに


セイガは光を保っている

だが光は心臓の拍に合わせて鈍る

光も払っている

ここで存在する代価を


ランゼはまだ盾と戦っていた

ベルトは鉛を流し込まれたみたいに重い

歯の隙間から唸る

それでも手放さない


ミロスは消えた

最悪で 最高でもある

ミロスが消える時 逃げてはいない

探している


リオルは壁際に立つ

指先は弱い熱で光る

自分の傷に触れる

初めて血が止まりはじめる

遅く

均一じゃない

それでも起きている


ケルトはヴェルクを見る

それは生き物を見る目じゃない

こちらを見返す扉を見る目


ロヴが囁く


- 終わりだ

- こいつに吸い尽くされる


青白いティルが歯を食いしばる


- 嘘だ

- 傷つく

骨が見えた


ケルトが乾いた声で


- 傷つけることはできる

- だが殺すのは違う

こいつは肉じゃない

規則だ


ヴェルクが首を傾ける


- いい言い方だ

- 真実にも代価がある


ショーンゴの周りの輪の一つが縮む

縄じゃない

動ける可能性そのものを締める輪


ショーンゴは構えを変えない

だが中で何かが鳴る

握っていた力が 指の間から滑りはじめたみたいに


ヴェルクが一歩進む

床から細い黒い糸が立ち上がる

飛ばない

必要な場所にだけ現れる

膝の下

肋の下

喉の下

反応の時間が最も少ない場所に


ランゼは盾を上げようとした

盾が上がらない

糸が肩に食い込む

刺さらない

黒い印を残す

焼き印みたいに


ランゼが呻く

その瞬間 腕が弱くなる

力の一部が地面へ流れたみたいに


- こいつ…取ってる

ランゼが掠れた声


ヴェルクは平らに


- 取ってない

- 深みに返してるだけだ

お前らが生まれた時に すでに借りたものを


セイガが鋭く光を投げた

灯りじゃない


光の槍が空気を貫き ヴェルクの胸に当たる

一瞬だけ 直撃したように見えた

額の印が閃いた

触れられたみたいに


だが次の瞬間 光は崩れた

砂みたいに

下へ落ちる


ヴェルクがセイガを見る


- 俺に光を投げる

- それは光が お前のものだと認めることだ

なら俺は貢ぎとして取る


セイガがよろける

掌の光が半分になる


リオルが低く だが硬く


- 跳ね返してない

書き換えてる

これは自分のものだと言ってる


ケルトが苦く


- ここでは そうだ

この町の下は もう昔から全部あいつのものだ


ショーンゴがようやく口を開く


- なら場所を間違えた

- 俺は属さない


声は大きくない

それでも輪が震えた

言葉の方が魔術より鋭いみたいに


ヴェルクが目を細める


- 言葉も払う

- さあ見せろ

そのために何を差し出す


ヴェルクが手を上げる

同時に二つの輪が縮む

ショーンゴは心臓の拍が一瞬乱れるのを感じた

誰かがリズムに触れたみたいに


セイガが叫ぶ


- 内側を潰してる


ショーンゴは倒れない

ただ一歩出た

この戦いで二歩目

その一歩は 輪の中を進んだんじゃない

輪を抜けたみたいに見えた


ショーンゴの前の空気が細い稜線になる

壁じゃない

そうか そうじゃないかの境目そのもの


ヴェルクが短く笑う


- 空気を切るのか

- だが空気は規則を支えてない


ショーンゴが指を握る

稜線が一気にずれる

ヴェルクへは行かない

下へ

床へ

セイガが先ほど照らした線へ


石が薄く裂ける

亀裂に血で署名したみたいに

床から弱い黒い火が吹いた

炎じゃない

結び目の反動

痛み


ヴェルクが初めて半歩下がる

全員に見えた


ケルトが囁く


- 取り立て屋を殴ってない

- 金庫を殴ってる


ヴェルクが冷たく


- なら金庫を閉じるだけだ


指を鳴らす

ショーンゴの周りの輪が分かれた

一つは頭へ

一つは胸へ

一つは腹へ


どれも肉を締めない

感覚を締める

視界

呼吸

平衡


ショーンゴは一瞬 世界を水越しに見る

次に感じる

肺の空気が

自分のものじゃないみたいに


ヴェルクが近づく

落ち着いて

もう勝ったみたいに

ショーンゴだけに届く声で言う


- 強いな

- だから貢ぎが価値になる

- 命は取らない

道を取る


その瞬間 ショーンゴは理解した

ヴェルクは殺したいんじゃない

未来を書き換えたい

伸びる可能性そのものを奪いに来ている


ショーンゴは歯を食いしばる

初めて 中で別のものが持ち上がる

圧でも

刃でもない


もっと古いもの

規則を書き込まれるのを嫌うもの


広間の空気が震えた

セイガの光が一瞬だけ蘇る

もう一度 光であることを許されたみたいに


ミロスが音もなくヴェルクの背後に現れる

刃は黒い

影が闇から学んだ色


狙いは背骨があるはずの場所

中心

一点

断つために


刃は通った

だが血ではない

象徴を通った


ミロスは腕が痺れるのを感じた

肉を切ったんじゃない

書類を切ったみたいに


ヴェルクは振り向かない

ただ静かに言う


- 影も払う


床から糸がミロスの腕へ走る

手首に巻きつき

下へ引く


ミロスは歯を食いしばる

叫ばない

だが足元の影が黒く染まりはじめる


ショーンゴはそれを見た

そして選ぶ


結び目を切るのをやめる

中央の深みを押さえるのもやめる


深みを抑えていた圧が 一瞬消える


下から腕が跳ね上がる

飢えみたいに


ヴェルクの目が初めて大きく開く


- お前…


ショーンゴが囁く


- 息を取るなら

深みに牙をやる


亀裂の闇が下からヴェルクを叩いた

攻撃じゃない

債務の回収みたいに


広間が唸る

石板が震える

ケルトが膝をつく

ロヴが頭を抱える

セイガは光をやっと保つ


ヴェルクは横へ跳ぶ

フードが闇の奔流で裂ける

額の印が燃えた

心臓を殴られたみたいに


ヴェルクが吐き捨てる


- 混沌が味方だと思うのか


ショーンゴが掌を上げる

今度の圧は戻る

鋭く

硬く

鉗子みたいに


そして落ち着いて言う


- 取れるなら取ってみろ


ショーンゴは亀裂の闇を掴み 押し戻した

だがその闇は もう中立じゃない

ヴェルクを覚えた

借りを作った者として


ヴェルクは亀裂の縁に立つ

肩は裂け

フードはない

印は燃えている


そして初めて 声に怒りが混じる


- いい

- なら本当の貢ぎを見せてやる

人が払うんじゃない

町が払う貢ぎだ


足元の石が低く唸った

そして遠く

上の町で

何かが応えた


まるで誰かが今 上で一歩踏み

その一歩の代価が血になると知らないまま

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