エピソード12 ヴェルクとは何者か
封印の裂け目が冷気を吐いた
中央の亀裂の冷えとは違う
別物
異質
まるで誰かが この広間に
石に属さない秩序を持ち込んだみたいに
向こう側の足音は落ち着いていた
罠じゃない
自分の家に入るみたいに
セイガの光が裂け目へ滑り
一瞬だけフードの端を映した
灰色の縫い目
その下に金属
濡れた煤みたいに黒い
ランゼは盾を斜めに構える
胸じゃなく 縁で受けるために
ミロスは横で影になり
リオルは柄を握りしめた
手じゃない
身体そのものが 自分をその場に縫い止めているみたいに
ケルトが小さく ほとんど痛みみたいに言う
- 顔を見るな
- 視線を取るんじゃない
意志を取る
ロヴが耐えきれず 低く吐き捨てた
- どうせ俺たちを売った
ケルトは答えない
裂け目が広がったからだ
石板は落ちなかった
ただ ちょうど一体が通れる分だけ滑った
封印が許したみたいに
壊れたんじゃない
決まりの一部だったみたいに
ヴェルクが広間に入った
背は高くない
大きくもない
それでも圧がある
雷鳴の前みたいな圧
フードが上半分を隠す
下は整った唇
笑みもない
怒りもない
手には薄い手袋
手首には黒い輪
飾りじゃない
縄の結び目みたいな
役割の印
ヴェルクは中央の亀裂を見た
深みがまだそこにいるか確かめるみたいに
それからショーンゴを見る
- 結び目を壊したな
ヴェルクが言う
- それは高くつく
ショーンゴはすぐ答えない
ただ一歩前へ
短く
真っすぐ
広間の空気が濃くなる
全員じゃない
ヴェルクにだけ
ヴェルクは感じた
唇がわずかに動く
- 圧
- それが武器だと思ってるのか
ショーンゴは落ち着いて
- これは答えの形だ
ヴェルクが手を上げた
魔術師みたいにじゃない
合図を出す者みたいに
その瞬間 背後の封印が閉じた
裂け目は勝手に塞がった
ヴェルクが入った代わりに
結び目が元へ戻ったみたいに
セイガが鋭く
- 裂け目を取られた
ランゼが短く
- つまりこいつが鍵だ
ヴェルクは指で空気に触れた
そこに属性はない
火も氷もない
ただ計算
広間の中央
石板の隙間の亀裂が広がる
深みの腕が二度目に出た
今度は乱暴じゃない
正確にリオルへ伸びる
リオルは下がれなかった
冷気が胸へ突き刺さる
心臓に石を投げ込まれたみたいに
ショーンゴが動く
大きくない
掌を少し回しただけ
圧がずれた
腕はリオルの半歩手前で止まる
見えない石板にぶつかったみたいに
ヴェルクは感情なく
- 抑えたな
- なら払え
それが貢ぎだ
止めた者が力を差し出す
セイガは感じた
光が急に弱まる
輝く権利そのものを飲まれていくみたいに
- 規則で吸ってる
セイガが囁く
- 力でじゃない
ミロスが影から 半分だけ現れる
声は低い
- なら規則を切れ
殴り合うな
ヴェルクが影へ視線を投げた
その瞬間
床から細い黒い糸が跳ねた
縄でも影でもない
封印の線そのものみたいな
ミロスがいた位置へ突き刺さる
ミロスは消えた
糸は石に食い込み
石が内側から焼けたみたいに黒くなる
ヴェルクは平らに
- 影も払う
- 全員払う
ランゼが飛び込んだ
盾で体当たり
頭じゃない
胴体へ
崩すために
当たりは綺麗だった
普通の
人間の打撃
ヴェルクは一歩も退かない
盾が空に当たったみたいに
その直後 ランゼは腕が重くなるのを感じた
盾のベルトが石に変わったみたいに
ランゼは指を握ろうとした
握れない
ヴェルクは触れていない
それでも貢ぎは動いていた
- 盾を持っているな
ヴェルクが言う
- なら盾が お前を持つ
ランゼは片膝をついた
盾が石板に落ちる
鈍い音
セイガがヴェルクを強く照らした
光を刃みたいに当てる
火じゃない
形で
光がフードに触れ
一瞬だけ布が透けた
そこに顔はない
印がある
皮膚に埋め込まれた
結び目の焼き印みたいな
セイガが青ざめる
- こいつは封印を持ってるんじゃない
- こいつが封印だ
ヴェルクがゆっくりセイガへ向いた
光が三割ほど消える
光である権利を剥がされたみたいに
ショーンゴがもう一歩
圧が増す
石を拳で握り潰すみたいな音が広間に鳴る
ヴェルクが初めて首を傾けた
- ケルトが連れてきた奴らより強い
- それでも規則は全員に同じだ
ショーンゴが小さく返す
- なら規則を変える
ショーンゴは掌を強く下ろした
打撃じゃない
判決みたいに
圧はヴェルクへ行かない
床へ行く
石板の下の結び目へ
線が集まる場所へ
中央の石板がさらに割れた
亀裂は口になり
下から息が噴き出す
古い鉄の匂い
深みの腕が引きつった
痛がるみたいに
初めて払わされたみたいに
ヴェルクが一歩下がる
初めて
ケルトが息を呑んだ
それが聞こえるほど
目を疑っているみたいに
- お前は…結び目に払わせた
ケルトが囁く
- そんなのは無かった
ヴェルクが手を上げる
床から黒い糸がまた走る
影でも盾でもない
ショーンゴへ
空気を裂く
細い黒い刃みたいに
喉へ
目へ
心臓へ
ショーンゴは退かない
掌を前に上げた
前の空間が硬くなる
糸がぶつかり
一瞬止まる
見えないガラスに釘打ちされたみたいに
ショーンゴが指を握る
糸が砕け
闇の欠片になる
ヴェルクはフードを外した
芝居じゃない
その方が楽だからみたいに
顔は白い
目は暗い
額には印
セイガが布越しに見た結び目
生きている印
- お前はただの旅人じゃない
ヴェルクが言う
- お前は厄介だ
ショーンゴは平らに
- お前はただの取り立て屋じゃない
- お前は鎖だ
鎖は切れる
ヴェルクが初めて笑った
短く
喜びはない
- なら払え
命で
その瞬間
亀裂から三度目
今度は腕じゃない
闇から肩ごと飛び出した
滑らかな石
生きている石
それがショーンゴの見えない圧へ叩きつけ
広間が揺れた
ショーンゴは感じた
自分の中の何かが裂ける
骨でも筋でもない
もっと深い
自分の力が一瞬だけ 他人のものになったみたいに
ヴェルクが囁く
ほとんど優しく
- 貢ぎは強い者からも取る
- 強くある権利を取る
セイガが叫ぶ
- ショーンゴ
ショーンゴは答えない
ただ三歩目を踏み出した
今度の圧は違う
壁じゃない
重さでもない
刃
前の空気が薄い稜線になる
その稜線が一気に進む
見えない
それでも足元の石が裂けた
糸で縫い目を切られたみたいに
稜線がヴェルクの肩に触れる
布 皮膚 筋が骨まで開く
綺麗に
正確に
世界がこの切断を正当だと認めたみたいに
血は飛ばない
暗い線になってゆっくり流れる
ヴェルクは自分の骨を落ち着いて見た
受け入れる代価みたいに
- 今 見せたな
ヴェルクが言う
- ならもっと取れる
床から三つの黒い輪が浮かぶ
金属じゃない
象徴だ
輪がショーンゴの周りの空気に絡む
ショーンゴは感じた
輪が力を引く
奪い切るんじゃない
存在税みたいに削る
ランゼは立ち上がろうとした
盾がまだ引きずり落とす
ミロスは影に一瞬現れ
また消える
隙を探している
リオルは歯を噛み
初めて掌から熱が出た
弱い
それでも生きている
切るだけじゃなく 縫うことも覚え始めたみたいに
ショーンゴは黒い輪の中で動かない
ヴェルクを見る
その目に恐怖はない
問いがある
何を貢ぎだと思ってる
ヴェルクはその問いを感じ
一歩近づく
- 全て
ヴェルクが言う
- 次の息さえ
広間がまた揺れた
下の深みが声を上げた
もう分かった
この戦いは 一手では終わらない




