エピソード11 入口の代償
深みからの最後の衝撃のあと
広間は少しだけ静かになった
落ち着いたわけじゃない
石が聞き耳を立てたみたいな静けさ
セイガの光は真っすぐ保たれていた
だが光の縁が 闇にかじられているみたいで
その不安が 冷気そのものより刺さった
ランゼは前に立つ
盾は石板に押し当て
呼吸は整っている
それでも ベルトを握る指だけが張っていた
リオルは壁にもたれ
傷を押さえ
一滴ずつ水を集めるみたいに 力を集めて黙っていた
ミロスは柱の影に溶けた
時おり 空気の中で刃の微かな光だけが揺れる
ケルトは広間の中央の亀裂と 入口を交互に見ていた
頭の中に答えが一つじゃなく
いくつもあって
どれも汚れているみたいに
横には二人
唇が割れたロヴ
焼けた手のティル
ケルトが乾いた声で
- ロヴ
舌をしまえ
それから
- ティル
封印より前に出るな
ロヴは唾を飲み
生意気さを取り戻そうとした
- ここには決まりがある
- 初めて入った奴が 最初に払う
- ずっとそうだった
ショーンゴは振り向かない
中央寄りに立ち
亀裂を見つめていた
石の向こうの深さまで見ているみたいに
- その決まりを作ったのは誰だ
ショーンゴは落ち着いて聞く
- お前か
それとも もっと下に隠れてる連中か
ロヴは黙る
ティルも黙る
ケルトが息を吐いた
- 俺じゃない
- 奴らでもない
- ここに結び目を作った連中がいる
石に封印を縫い込み
深みが奪うやり方を教えた
俺たちはただ 貢ぎを先へ渡してるだけだ
セイガが小さく
- だからお前は言った
これは仕組みだって
- ただの一味じゃない
ケルトはわずかに頷く
- ここには言葉まである
払わない奴は 空の場所として記録される
まるで最初から来なかったみたいに
まるで最初からいなかったみたいに
ランゼが短く
- 都合がいい
- そして怖い
その時 入口側の通路
戻るはずだった場所から
正確な打撃が三つ
石を叩く音じゃない
封印を叩く合図
三つ目のあと
向こう側の声が 平らに響いた
名簿を読むみたいに
- 今日の貢ぎは倍だ
- お前たちは外の者を連れてきた
- 外の者が先に払う
ケルトはすぐ答えない
それから鈍く
- こいつらは初めてだ
- 決まりを知らない
声は変わらない
- なら 知ってる者を渡せ
- 一人ずつ
ティルが もう上から目線を捨てて囁く
- これは貢ぎじゃない
- 試しだ
奴らは 俺たちに自分で犠牲を選ばせたい
その選び方に慣れさせたい
ショーンゴが入口へ一歩進む
距離を保ったまま止まる
封印には触れない
力は認めないが 仕組みは侮らないみたいに
- 名を言え
ショーンゴが言う
- 影から話すのは楽だ
間
それから返答
- ヴェルク
- 深みに属するものを回収している
ランゼが低く
- 名乗ったなら
俺たちを恐れてない
セイガが足す
- それか
俺たちが出られないと確信してる
ショーンゴは声を上げない
- ヴェルク
- 俺たちには硬貨もない
装飾品もない
お守りもない
- あるのは 上の見張りがくれた水と食い物
そして 逃げない人間だ
向こうで短い笑い
楽しさはない
- なら一人渡せ
- 出る権利の代償として
残りは生きる
ケルトが肩を震わせ
ロヴは目を逸らし
ティルは指を握り潰しそうだった
リオルが 長い沈黙のあとで口を開く
- 奴らは最初から力で奪わない
- 服従に慣れさせる
- そのうち町が 自分で必要なものを運ぶようになる
ショーンゴは中央の亀裂を見た
あの腕が かすかに動いた
取引を聞いているみたいに
深みも 誰の名が出るか待っているみたいに
ショーンゴが平らに言う
- 貢ぎをやる
ケルトが鋭く振り向く
- 貢ぎは命だ
ショーンゴは見ない
- だから命は渡さない
- お前らの決まりを支えてるものを渡す
セイガはすぐ分からなかった
だが次に感じた
入口の封印は ただの壁じゃない
結び目だ
そして結び目には 支点がある
ショーンゴが掌を上げる
乱暴じゃない
見せつけでもない
空気の圧が横へ移動する
封印の脇の壁
石の継ぎ目 その一点へ
- セイガ
印が見えるなら
石板じゃなく
継ぎ目を照らせ
ショーンゴが言う
セイガは光を上げ 壁をなぞった
石に細い線が浮かぶ
塗料でも粉でもない
鉱物に縫い込まれた魔力の痕
ミロスが影から 半分だけ現れる
刃が その線の一本へ正確に乗る
叩き割るんじゃない
外す
ランゼは言葉なしで理解した
盾を封印に当てない
さらに下の継ぎ目へ
楔として押し込む
ぱきり
石じゃない
決まりが折れる音みたいに
封印が一瞬だけ閃いた
そして初めて
向こう側のヴェルクの声が尖る
- 結び目に触れたな
- 自分が何をしてるか分かっていない
ショーンゴは落ち着いて返す
- 分かってる
- お前らの決まりは力で立ってない
- 癖で立ってる
選ぶ恐怖で立ってる
誰かが生きるために
人が自分で首を差し出す仕組みで立ってる
ショーンゴの圧が増す
壁を壊すためじゃない
結び目を ずらすため
入口の石板は落ちなかった
だが そこに細い隙間ができた
通路の空気が入り込む程度の隙間
その空気と一緒に
別種の冷たさが入る
深みの冷たさじゃない
人間の意志の冷たさ
隙間の向こうで何かが動く
足音
落ち着いている
急がない
まるで自分の家に入るみたいに
ミロスが小さく 刃を外さず言う
- 自分で来る
- 他を使わない
ランゼが盾を上げる
- つまり自信がある
セイガが喉を鳴らす
- それか
一人じゃない
広間の中央の亀裂が また震えた
深みが感じ取ったみたいに
もう取引じゃない
壊し始めたってことを
ショーンゴは声を上げない
- 耐えろ
- ヴェルクが入ってくる
そして分かる
ここで獲物なのは誰か
広間は もう一つ鈍い衝撃で答えた
今ははっきりしていた
今日の貢ぎを取りに来たのは 二つだ




