エピソード10 トンネルと貢ぎ
彼らはもう 広間に立っていた
足元の石板は湿っている
天井は低い
縁には小さな窪み
中央には熾火の残る火鉢
セイガの光が石を滑り 影を切った
ケルトは中にいた まるでここで待っていたみたいに
横に二人
一人は割れた唇
もう一人は焼けた手
ケルトが乾いた声で言う
- ロヴ
静かにしろ
それから振り向かずに
- ティル
その手は引っ込めておけ
ランゼが盾のベルトを引き上げた
- ばらけろ
- 固まるな
ミロスは柱のほうへ滑り 影に溶けた
リオルは壁際へ下がり 傷を押さえる
ショーンゴは二歩前へ出た
広間の真ん中まで
- お前は言った
こいつは貢ぎを取る
- なら見せろ
どうやって取る
ケルトはゆっくり息を吐く
- ここは見る場所じゃない
- 感じる場所だ
最初の一撃は下から来た
音じゃない
衝撃だ
石板がわずかに持ち上がり 落ちる
二度目はもっと強い
火鉢が鳴り
石の継ぎ目から粉が落ちた
セイガが囁く
- これは魔術
- でも俺たちのとは違う
- 石に縫い込まれてるみたいだ
ランゼは床から目を離さない
- これは獣じゃない
- 人でもない
ロヴが顔を歪め 震えを隠すみたいに言う
- ただの通路だと思ったか
- 地下じゃ お前らは食われても気づかれない
その時 背後で かちりと鳴った
広間へ入ってきた通路のほう
彼らのいる場所じゃない
入口のところ
鈍い擦れ音
石板が下へ落ち 退路を塞いだ
表面に印が光る
空気が一瞬だけ壁みたいに濃くなる
セイガが掌を上げる
光が石板に当たり
火花みたいに散った
セイガが歯を噛む
- 封印
- ただの仕切りじゃない
ロヴが掠れた笑い
- もう客じゃない
- もう獲物だ
ティルが唾を飲む
それが見えるほど
焼けた手が震えた
- ケルト
- 上がってくるのが早すぎる
- もし出てきたら 誰も生き残れない
- お前らも
- 俺たちも
ケルトは黙っていた
だが目に一瞬だけ走ったのは恐怖じゃない
計算だ
三度目の衝撃
広間の中央の石板に かみそりみたいな亀裂
髪の毛ほど細い
そこから冷気が漏れる 濃い冷気
セイガの光の端に黒い染み
光が何かにかじられたみたいに
セイガが囁く
- 光を消してる
- 光を怖がってない
ランゼが亀裂と人の間に立つ
盾を石に当て
脚に力を入れる
- セイガ 俺に光を寄せろ
- ミロス 横から出たら腱を切れ
- リオル 力を残せ
ショーンゴは亀裂のすぐ前まで寄った
ケルトが鈍く投げる
- 近づくな
- 近い方を取る
ショーンゴは止まらない
- なら取れ
裂け目から腕が飛び出した
濡れた石みたいに滑らか
爪はない
その腕が石板を叩き 天井が呻いた
ランゼが盾で受ける
半歩押された
それでも踏みとどまる
セイガが腕を強く照らす
光が触れた瞬間
光が鈍る 何かに噛まれたみたいに
リオルが小さく言う
- 格が違う
ケルトが一歩下がる
- 言ったはずだ
ショーンゴは術者のような動きをしない
言葉も出さない
掌を上げた
裂け目との間の空気が重くなる
空間が固まるみたいに
腕は空中で止まった
見えない岩にぶつかったみたいに
下から苛立ちの圧
言葉じゃない
重さだ
ロヴが青ざめる
- そんなのありえねえ
ティルがショーンゴの掌を見て囁く
- これは属性じゃない
- 強制だ
ショーンゴが静かに言う
- 貢ぎを取ると言ったな
- なら試せ
圧が増す
亀裂が縮む
地面が口を閉じようとするみたいに
その瞬間 下から二つ目の波
誰かが頭で扉を叩くみたいに
石板が唸る
ランゼが歯を食いしばる
セイガは光を落としかけた
ミロスが柱の影から現れた
声は低い だが鋭い
- 入口は石板だけじゃない
- 向こうに誰かいる
- 急いでない
余裕がある
ショーンゴは声を上げない
- なら退かない
- 道を開く
- 答えを取る
セイガが光を高く上げる
ランゼが盾を前へ
リオルは呼吸を整え 柄を握る
ケルトはショーンゴを見る目が変わっていた
嘲りはない
獲物だと思っていた相手が違うと分かった時の
あの慎重さ
下からまた衝撃
亀裂の闇が蠢く
口のない笑いみたいに
広間が 彼ら全員を一つに閉じた




