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魔族の生き残り王女の婚姻  作者: 天瀬 澪


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73.新たな出発へ③


 魔物へと姿を変えたアリシアを抱き上げたシリウスは、角度を変えて物珍しいものを見るように好奇の視線を向けてくる。

 オズモンドとマルヴィナも席を立ち近寄って来るが、他の人たちは警戒した方がいいのか悪いのか分からないという顔で戸惑っているようだった。



「ねぇシリウス、私にも触らせてちょうだい」



 きらきらと目を輝かせたマルヴィナが、シリウスに向かって両手を伸ばす。

 その腕の中に飛び込もうと思ったアリシアだったが、シリウスがひょいと体を上の方へと持ち上げた。



「待ってください。俺だってアリシアのこの姿は初めて見たし、もっと触りたい」


「もう、シリウスはいつでも触れるでしょ?」


「そうだぞシリウス、俺にも触らせろ」


「兄さん、人の妻にその発言はアウトだな。いいんですかマルヴィナ?」



 高く掲げられたアリシア(魔物)の周りで繰り返される不毛な争いと、それを何とも言えない顔で見守っている新しい宰相や外交官たちの空気に恥ずかしさが募る。

 アリシアはシリウスの手から素早く抜け出して床に軽々と着地すると、変身を解除し元の姿へと戻った。少し残念そうなシリウスたちの視線を気付かなかったことにしながら、この場で魔物の姿を見せた理由を説明しようと口を開く。



「……見てもらった通り、私の魔物の姿は戦闘面では驚くほど役に立たないの。でも、集客という点ではとても役に立つわ」



 魔物に変身するところを公表すると謳えば、怖いもの見たさで多くの人が集まるだろう。魔族だからと遠巻きにされるよりも、どんな理由であれ近くに来てもらえた方が何倍も言葉を届けやすくなる。

 小動物のような姿なら、人によってはシリウスたちのように触ってみたいと思うかもしれない。まずは“魔族”と“人間”との距離を縮めていかなければと、アリシアはこの城で過ごし始めて強く感じるようになっていた。



「つまりアリシアさまは……ご自身を敢えて見世物のように扱い、この国や他国の人間と距離を詰めていこうと考えている……ということですか?」



 外交官の真剣な問いに、アリシアはすぐに頷いた。



「ええ。魔族でも人間でも同じところは、物珍しいものに興味を惹かれるということよ。そしてこの距離の縮め方は、私にしかできないことだわ」


「……」


「だめかしら?魔物の姿で何か芸を披露することも考えていたのだけれど……シリウス、どうして笑いを堪えているの?」



 アリシアから顔を背け、肩を揺らし始めたシリウスが気になりじとっと睨めば、今度は別の方向から笑い声が響いた。

 驚くことに外交官が可笑しそうに笑っており、アリシアは突然のことに目が点になってしまう。今の提案に笑いの要素があると思ってもいなかったのだ。



「……ええと、私に何か変なところがあるのかしら?待って、この姿に戻りきれてなくて角がまだ残っているとか……」


「……はははっ!アリシアさま……どうやら我々は激しい思い込みをしていたようですね。あなたさまの心は我々の知る魔族と似ても似つかない……シリウス殿下の言う通りでした」



 外交官はどこか楽しそうにそう言うと、得意気に両腕を組んでいるシリウスに向かって頭を下げる。



「シリウス殿下、あなたさまの大切な方への無礼な発言をお許しください。あなた方なら、マクラウド国をより良い国へと導いてくれると……そう確信致しました」


「……散々言っただろ?アリシアは魔族から一番遠い魔族だってな。生まれ持つ強大な力で誰かの心をねじ伏せようだなんて考えは、最初から頭に無いんだ」



 シリウスはニヤリと笑い、呆然と立ち尽くすアリシアの頭を優しく撫でた。その手のひらから伝わる温かさに、この場の状況をゆっくりと理解していく。

 外交官の他の人たちも、アリシアとシリウスに向かって揃って頭を下げていた。それは、少なくともここにいる人たちにアリシアの存在を認めてもらえたという証になる。そして同じように、シリウスも―――。


 人前にも関わらず、アリシアは優しい眼差しを浮かべていたシリウスの胸の中に飛び込んだ。

 順調に未来へと伸びていく道のりが信じられず、けれど嬉しくもあり自然と顔が明るくなる。思い出すことの出来た笑みは、この先何度だって零れ落ちるだろう。



「シリウス、よかったわね……!本当に嬉しい!」


「……ありがとう、アリシア。ただ喜ぶのはまだ早い……ようやくスタートラインに立てたんだ。まだまだこれからだ」



 シリウスが国王となったその先に、国の未来を懸けた歩みが始まっていく。待ち受ける壁は高く、例え壁を乗り越えたとしても険しい道のりが続いているだろう。

 それでも心配ないと伝わるように、アリシアはシリウスの背中に回す腕に力を込めた。

 ひっそりと息を潜めていた今までとは違い、国王になれば堂々と行動に移すことができる。シリウスの輝きはより強くなり、迷子になった人々の心を明るく照らすのだろう。



「この先も、ずっと……一緒にいてくれるか?」



 シリウスの声が耳元で甘く響く。アリシアは体を離すと、笑顔で大きく頷いた。



「ええ、勿論よ。これは契約じゃなくて、約束よね?」


「そうだな……約束だ」



 出会った頃の契約書は、もう今のアリシアとシリウスにとって意味のないものとなる。その代わりに交わされる未来への約束に、幸せな想いばかりが心に降り積もっていった。


 新たな宰相が一枚の書類を取り出すと、シリウスはそこに躊躇いなく署名をする。これでマクラウド国の新たな国王はシリウスとなり、あとは戴冠式を行うだけとなった。

 まだ実感が湧かないのか、シリウスはペンを置くと書類を摘んで持ち上げ、まじまじとそこに記された文章を読み直している。



「……こんな紙切れ一枚で国王を担うなんてな。前の宰相みたいに、欄外に法外なことが追加で書かれてたりしないよな?」


「そのようなことを仰らないでください。それとも……彼らを止められなかった我々を、遠回しに責めておられますか?」



 宰相は眉を下げ困ったように微笑む。今この場にいる国の中枢を担う人たちは、前宰相の悪事に加担していなかった。けれど、今の言い方からして気付いてはいたのだろう。

 国王や王妃も悪事に手を染めていたとなれば、逆らえるはずもなかったと理解できる。シリウスは「そんなわけないだろ」と肩を竦め、書類をそっとテーブルの上へと戻した。



「ここに残ったお前たちのことを、俺は信頼してるし感謝してる。今まで表立ってお前たちに手を貸せなかったことを許してもらえるよう、新たな国王としてこの国を導いていくと誓うよ」


「……今の言葉で充分ですよ、シリウス()()



 シリウスの言葉に宰相が嬉しそうに笑い頭を下げれば、他の皆も次々と頭を下げていく。オズモンドは「陛下って響きはいいよな」とボソリと呟いてから、シリウスの胸元をトンと拳で叩いた。



「頑張れよ、シリウス。お前が忙しすぎて目が回る様子をマルヴィナと笑って見ててやるからな」


「またそういう言い方を……!もう、シリウスは国王なんだから自分で動かなくても周りを誰だって動かせるのよ。もちろんあなただってね、オズモンド」


「その通りですマルヴィナ。それじゃあ兄さん、さっそく戴冠式の準備を任せるからよろしく」


「……はあぁ!?」



 オズモンドの大声が響き渡り、アリシアはくすりと笑ってしまう。穏やかに流れるこの時間が夢のようで、紡がれてきた出会いが今立っているこの場所を彩っているのだと思うと、やはり一つの結論に行き着くのだ。


(私はこの国に来られて良かった。―――シリウスに、出逢えて良かった)


 アリシアの笑顔は、失っていたことが嘘だと思えるほど一日に何度も自然と零れ落ちるようになっている。予想もしていなかった未来が今確かにここにあり、この先もずっと続いていくのだろう。

 窓の外の景色は鮮やかに色付き、空はどこまでも青く澄み渡っている。暗く剣呑な空気が渦巻く魔族の故郷はもう消え去ってしまったが、たった一人生き残った魔族として、アリシアが後世のためにできることはたくさんあるはずだ。



「……アリシア、このあと一緒に準備してくれるか?」



 シリウスが笑いながら差し出してくれた手を、アリシアは躊躇うことなく優しく握る。

 わくわくと逸る気持ちを胸に、未来への一歩を踏み出していった。



次回、最終話となります。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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