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23.第一王子との数時間③


 ―――シリウスが助けに来てくれて安心した。

 アリシアはそんな感情が湧き上がったことが不思議で、返す言葉に詰まってしまう。



「……っ」


「どうした?……まさか兄さん、アリシアに手を出したりしましたか?」


「っはぁ!?」



 シリウスの視線がオズモンドへ向くと、驚いたような声が隣で響く。アリシアの腕を掴む手に力が入り顔をしかめるが、オズモンドは気付くことなく声を荒らげた。



「んなわけねぇだろ!生憎女には困ってねぇんだよ、俺は!」


「そうですか。怒鳴るより先にその手を離してください。あと感謝の言葉を口にするならタイミングは今ですよ」



 シリウスが薄ら笑いを浮かべ目を細め、アリシアはこれがオズモンドの言っていた“小バカにした目”なのかと思ってしまっていた。

 けれど、確かにシリウスの言うことには一理ある。閉ざされたこの空間から救い出してくれたのは、間違いなくシリウスなのだ。

 オズモンドは舌打ちと共にアリシアから手を離し、感謝の欠片も見せない態度でシリウスとすれ違い階段を上っていく。



「夫婦揃って俺を苛立たせる才能があるんだな。お似合いなことだ……全然羨ましくねぇけどな!」



 毎回同じように怒りで肩を尖らせ立ち去って行くオズモンドの後ろ姿を見送ってから、アリシアは床に座ったままシリウスを見上げた。



「……暴動は?おさまったの?」



 アリシアの問いに、何故かシリウスが可笑しそうに笑う。突然の笑顔に戸惑っているうちに、目の前でしゃがみ込んだシリウスが目線を合わせてから口を開いた。



「うちの第一王子よりよほど国想いだな、あんたは。……よっと」


「!?」



 膝の裏に腕を入れられ、肩を抱かれたアリシアはそのままひょいと軽々抱き上げられていた。突然の出来事に言葉が出ず、目を丸くしながらすぐ近くにあるシリウスの横顔を見つめることしかできない。


(もしかして……私の怪我に気付いた?でも、どうして……)


 シリウスならば、魔族の傷の治りが人間より早いことを知っていても不思議ではない。それに嫌いな魔族をわざわざ抱き上げてまで助ける必要はないはずだ。

 シリウスの行動の理由をぐるぐると頭で考えている間に、あっという間に階段を上りきり地上へと戻っていた。



「……アリシアさま!」



 アリシアの名前を呼びながら駆け寄ってきたのは侍女のミシェルだった。顔色が悪く、両手を握りしめながら震えている。



「ミシェル、どうしたの?まさか暴動に巻き込まれて……」


「巻き込まれたのはアリシアさまでしょう!私は、し、心配でっ……」



 今にも泣き出してしまいそうに顔を歪めたミシェルに対し、アリシアは心配をかけてしまった申し訳なさと、そこまで心配してくれた感謝の気持ちで胸がいっぱいになっていた。

 どうしてミシェルがここまでアリシアに気を許してくれているのかは未だに分からないが、それでも間違いなくこの城での味方と呼べる存在になっている。


 シリウスの胸元を押し、アリシアはその場に降りた。捻った足はまだズキズキと痛むが、ミシェルに余計な心配はかけたくないという思いが勝ち姿勢を正す。



「……私は何ともないわ。部屋に戻りましょう、ミシェル」


「は、はい」



 震える声で頷いたミシェルは、どこかホッと安心したように微笑んだ。

 アリシアが振り返れば、眉を寄せて不満気な顔をしたシリウスが腕を組んで立っている。その目が何を言いたいのかと考えたとき、大切なことを伝え忘れていたことに気付くのだった。



「シリウス、助けに来てくれてありがとう」


「……ああ」



 感謝の気持ちを口に出してみても、シリウスの表情は変わなかった。では何が不満なのかと考えてみたが、アリシアには答えが導き出せそうにない。

 このまま部屋に戻ってもいいのだろうかとためらう素振りを見せれば、シリウスが追い払うように手を振った。



「とりあえず戻れ。俺もこのあと処理が残ってるから……終わったら行く」


「えっ……ええ、分かったわ」



 シリウスがこのあとアリシアの部屋を訪れると言ったことに驚きながらも、今回の暴動の件を聞いておきたいと思い頷いた。

 深く息を吸い、足の痛みを忘れるように意識しながらいつも通り背筋を伸ばして歩き出す。

 白い髪が揺れる背中に注がれた視線に、アリシアが気付くことはなかった。






 ***


 シリウスが部屋に来たのは、夜が更け暗闇が静けさを取り戻したときだった。

 コン、と小さなノックが響き、眠気に襲われていたアリシアはハッと目を見開き立ち上がる。慌てて扉を開けに向かったところで、いつもシリウスはノックをしなかったことを思い出す。


(……あら?もしかしてシリウスじゃ……)


 違う人物かと冷や汗を流しそうになるが、開いてしまった扉の奥に立っていたのはシリウスだった。

 疲れ切った顔を歪めると、開口一番で小言が飛んでくる。



「誰がいるか確かめずに開けるな。いくら力があるからって、どこから狙われるか分からないんだぞ」


「……そうよね、気を付けるわ」



 こくりと素直に頷けば、気難しい顔のままシリウスが部屋に足を踏み入れてくる。

 今日はいつもの余裕ある表情ではなく、ずっと何か言いたげな顔をしていることに気付きながらも、アリシアは追求することはしなかった。余計なことを言って煙たがられることは避けたかったのだ。


 シリウスはすぐに我が物顔でソファに座るかと思えば、扉の前に立ったまま動こうとしない。

 さすがに心配になったアリシアは、シリウスの顔色をじっと伺った。



「……酔ってるの?」


「酔ってない」



 バサリと言い捨てられ、酔っているわけではないということだけは分かった。

 シリウスはため息を吐くと、何かを決意したかのように口を開く。



「足、ケガしてただろ。もう治ったのか?」


「ええ、治ったけど……もしかして、心配してくれていたの?」


「別に心配してない。……って言い切ったら嘘になるんだろうな」



 あーやだやだ、とボソリと呟いたシリウスは未だに眉間にシワを寄せたままだ。つまり、“魔族を心配している”ということを飲み込みたくないのだろう。

 アリシアは何と答えるのが正解か迷った挙句、素直な感想を口にすることにした。



「私は今まで、周囲に心配してくれるような人が二人しかいなかったから……増えてくれるのはとても嬉しいわ。でもシリウスが苦しむなら心配はしなくて平気。どんなに大怪我を負っても、人より早く治るから」



 ―――致命傷を負わない限りは。と心の中でそう付け足して、アリシアはソファへと腰掛ける。

 どんなに魔族の傷の治りが早いとしても、致命傷を負えばやがて命は尽きる。一日で魔族が滅んだのは、魔術師エリクが致命傷を与えられるほどの力を持っていたからだろう。


(魔術師……魔力。もしかして、魔族の中で最も弱かった私の力も、教えてもらえれば強くなったりするのかしら)


 ふとその考えが浮かんだとき、ソファがギシッと音を立てて沈んだ。

 隣に座っていたシリウスが視線だけでアリシアを捉えると、前髪を掻き上げて小さなため息を零す。



「ケガはあいつのせいか?」


「あいつ?……ああ、オズモンド殿下のこと?故意にやられたわけじゃないわ。そうだわ、あの指輪はやっぱり殿下のものだったの」


「……それはどうでもいいけど、結局面倒事に巻き込まれただろ。無理に関わろうとするのはやめておけ」



 これはまた心配してくれているのだろうかと、アリシアは都合の良い考え方をしては心の中で“それは違う”と否定する。



「大丈夫よ、もうシリウスに面倒はかけないようにするわ。それより、暴動の原因は何だったの?オズモンド殿下が狙われたみたいだけど……あと、シリウスがいつも暴動をおさめているって本当なの?」



 気になっていたことが次々と口を飛び出していき、アリシアはシリウスをじっと見つめながら返事を待つ。

 シリウスは背中をソファに完全に預けると、視線を天井に向けて「質問だらけだな」と呟いた。



「暴動の原因も、俺が何をしているかもあんたには関係ない。それでも、本当に知りたいと思うのか?」


「……知りたいわ」



 魔族の王女として、この国の王子であるシリウスの妻として、知らなくてもいいことなど一つもない。

 静かに答えたアリシアの言葉に、シリウスが僅かに笑ってくれたような気がした。



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