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思考回数

 何もない空間でたった一人で、うつ伏せに悶えている。


 意識はあるのに、目が見えない、体が動かせない、感覚がない。


『……演算開始、【魔義駆動式】更新、細胞総数40億、右腕のみ』


  

 右腕に魔力を丁寧に、繊細に流し 細胞の一つ一つを、火花を散らすように点検し、結びつけ、反応を促す。何回も何回も、繰り返した同じ動作。数え切れないほどの右腕の収縮

 肉の繊維がわずかに震えた。誤差0.01秒未満。再補正。

 0.00001ミリのズレが、俺の“体”を殺す。常人であれば脳が焼き切れる情報量を一つずつミスなく()()する。


 俺は一体、どのくらいの回数を重ねた?


 腕を今まで通りに動かすだけでも、軽く100年はとっくに超えていた。


 なぜ俺がこんなことをしてるかって?俺が聞きたいね。

 そりゃあ、あのクラスメイト共をぶちのめしたいのが一番だけど、一から説明しないとついていけないと思うから、説明しよう。









 ことの発端は、二日前に遡る。


 俺はようやく部屋から出た。あの後ゲロってからしばらくの間、自分は布団にくるまり外に出ようとは思えなかった。


 まぁ、なんやかんやあって外に出て、あの少女と契約について話をした。久しぶりに外に出て、朝日を浴びてみるのも良いものだと思った。


「私からは、貴方の復讐のお手伝いとそれに見合う地位と復讐をしている間貴方は死ぬことはない事を約束できる、私からは貴方の感じた“感情”が欲しい」


 頭に直接声が聞こえる、何度聞いてもやはり慣れないものだ。


「ーー復讐が終わるまでだ、俺とお前の関係は」


「その後は、お前達を殺す。そのためならクラスメイト程度……殺してやるよ」


「……そう、わかったわ。なら右手を出してくれる?」


 俺はとりあえず右手を彼女に差し出す。その後、俺の手を雑に叩いた。パン!と音が響いた。音が鳴ったと同時に、彼女の髪の毛がパチパチと少し燃えてすぐに消えた。


「何すんの!?」


 叩かれた手をサッと引き戻して、叩かれた場所を見てみる。ちょっとだけ赤くなっていた。


「ほい、契約完了だよ」


「いや!何でいきなり手を……は?これで終わりなのか?」


「そうだけど?」


 いやいやおかしいだろ、補足をしておくが本来なら契約はこんな簡単に出来るものではない。契約する時は“内容”と“対価”、“条件”が必要である。


 魔法の場合だと、“対価”は一般的に魔力を消費する事“条件”は代表的なもので言えば呪文の詠唱などがある。“内容”は発動した魔法の効果である。


 この“内容”“対価”“条件”の三つが揃ってないと意味がない。当然、契約内容が強ければ強いほど求められる“対価”と“条件”のハードルが上がっていく仕組みだ。


 それをコイツは、手を引っ叩いて髪を少し焦がしただけで、あれだけの契約内容を済ませてしまった。


「……バケモンじゃん」


 心底、彼女に敵対しなくてよかったと思った。


「それじゃあまず、強くならないと」


 いきなりの発言に、疑問が飛んでしまった。


「へ?」


「地位に見合う実力をつけないといけないでしょ?それに……」


 その時、俺の体が急に動かなくなった。気付いた時には体だけではなく、目も耳も匂いも何も感じなくなってしまった。


「ゔぁっ……」


 この言葉を最後に体が崩れ落ち、不思議なことに、何も感じなくなったことも今はどうでもよくさえ思った。そうして俺の意識が落ちて体が鉛のように動かなくなった。





「ふぅ……もう出て来てもいいよ」


 ハルトが倒れ込み、動かなくなってからしばらく経って彼女は声をかける。


「ーー殺されないかと、ヒヤヒヤしましたよ」


 物陰からズッと禍々しい音を立てて出てきた男が、顔に少しの焦りを浮かべて小走りでやって来た。


「そうね、この場で【領域】を使用されたら、アンタも私も死んでたわね」


「そうなればコイツを切ってたよ。まぁスパイでは無いと俺は思うから、少しぐらいなら信じてもいいんじゃないんですかね?」


「他の奴らが、アンタみたいに素直だったら良かったのに……」


「そればっかりわ、俺に言われても……」


 お互いに肩を落として、やれやれといった感じで足元に倒れ込んでいるハルトに目線をやる。


「ハルトが目を覚まし次第、この子を魔神七将に入れるわ。ちょうど一席空いてたよね?」


「ええ、確かに一席空いてますが、他のメンツがなんて言うか……」


「そのためにも、強くなってもらわなくちゃいけないのよ」


「そうですか。なら、気長に待ちましょう」


 ズルズルとぐったりと倒れ込んでいるハルトの体を、引きずって連れていく。


「何年かかると思う?」


「さぁ?一万ぐらいは、いくんじゃないんですかね?俺なら数百年で出て来ますけどね」


 物騒な会話をしながら、お互いに笑っていた。







『クソっ、ここどこだよ?』


 真っ白な部屋で一人、ただ立ち尽くしていた。この空間に飛ばされてから体感十年は経過したはずだ。


『この手のお約束は、外と中の時間経過が違うって言うのがお約束だよな』


 この十年で分かったことは、この空間は何かを達成すればおそらく解放される。そしてしなければならない『何か』は、理解できてる。


『この体の事だよな』


 手を握って離して、握って離してを意識して繰り返しても何も感じない。いや、現実の俺の体にも、今の俺の体にも何も影響を与えていない。


『体と意識が切り離されているとか、そう言うレベルじゃねぇ』


 意識だけ切り離しているのであれば、動けたり出来るのだろうけど、今この場から動けていないのだ。十年の間ずっと。


 正直に言うなら、今自分は座ってるのか、立っているのか、寝ているのか、逆立ちしているのか、吊るされているのか、全く持って分かっていない。感じてないのだ、何も、眠気も、疲労も、痛みも、空腹も、感触も、何も感じなくなっているのだ。


『課題は、「体を魔力で動かせるようになれ」だったっけ?』


 俺が読んでたラノベとかだったら身体操作などと言う魔法もあるが、コレは別次元の話だ。


 身体操作は、あくまで体を動かす延長の物。決して、魔力だけで動いているわけでは無い。


 体に情報を伝えるのは、神経。

 その情報を元に動かすのは、筋肉。

 与えられた情報を処理するのは、脳。


 少なくとも、俺が与えられた課題は、コレらを意識的に動かせるようになれと言って来ている。


『ーー鬼畜だね』


 誠に残念ながら、本っ当にそう思ってしまった。

補足と説明


 今回、ハルトが受けた課題に関しての説明をさせていただきます。


 受けた課題は、「体を魔力で動かせるようになれ」と言った内容です。一見、簡単じゃんと思ってしまったお方もいると思いますが、コレかなり鬼畜です。


 何が鬼畜なのか?と言うと、まず皆さんの体に流れている神経。これを全て魔力で代替しろ。皆さんの体についている筋肉。これを魔力で上手い事動かせ。皆さんの頭についてる脳みそ。これを魔力で上手い事稼働しろ。と言う内容です。


 なぜこんなことをするのかと思われる方も少なく無いと思います。一番の理由は、ハルトが既に『死体』である為です。


 今のハルトを説明するなら彼は死体です。契約によって生きながらえているゾンビのような感じです。

確かに生き返ってはいますが、『死体』にかわりないため全身の機能が停止、および死滅しています。


 作中でバリバリ会話してますやん。と思った人もいるでしょう。ちゃんと理由があります。

この時は、“仮”契約であった為、死にはしないけど体の機能は停止してるよ、と言う状態です。その為、あの少女がハルトの体に干渉して発声、感覚の感知、視覚、聴覚などの“再現”をしていました。



少女の契約について。


 手を叩いて契約完了と言う発言をしましたが、もう少しだけ説明をしようかと思います。


 契約についてですが、これはこの世界においてかなりありふれた物です。主に魔法や、召喚、転送などに用いられています。主人公が使っていた【成約の紋章】はかなりレアな物でかなりのハイリスクな為扱う人が極端に少ない物です。


 契約は絶対に履行され、一部の能力やスキルで無効にする事はできます。

 

 対価と内容の簡単メモリ


 髪を少しだけ焦がす→初級の魔法単発

 肉や血を少し捧げる→中級程度の魔法の連発行使

 内臓消失or四肢欠損→結構すごい大魔法の行使


 と言う感じです。ちなみに主人公が結んだ契約はどれくらいかと言うと、大体最後のやつよりも相当重たい物です。



以上が、今回の補足と解説でした。ここまで見ていただきありがとうございました。


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