急がねばいけないのだ、この世界で生き抜く為に
遅くなってすいません。
「それにしても……凄い威力だね」
魔力を使い切って少し軽くなった気がするそんな俺をフラベルが担いで呟いた。
地面に巨大な大穴が空き、木々が消え去って地面がやける匂いが鼻につく。
「まぁ、この技メリットよりもデメリットの方が若干強いんだよなぁ」
この技の良いところは、一撃で相手が消し飛ぶ事、この技の悪いところは、ほとんどの魔力がごっそり持っていかれると言う事である。
「一撃必殺って感じだね」
「だな」
どうやら、先ほどのドラゴンは上手に消し飛んだようだ。
その事に少し安堵していると……誰かが茂みを掻き分けて来た。
咄嗟の事で、俺とフラベルが戦闘態勢になったが、直後それが見知った人物である事に緊張を解いた。
「ハルト! 大丈夫!?」
今にも抱きついて来そうな勢いで両目が少し腫れて走って来たのは、アイリであった。
情けない姿は見せたくないので、下ろしてもらいアイリの正面に座る。
「大丈夫だよ……ほらちゃんと生きてるよ」
両手を広げて、無事なことをアピールする。
「本当に……本当に心配したんだから」
俺の手を強く握って、少しだけ手が震えていた。
その後彼女は安心したのか、泥のように眠ってしまった。
「なぁハルト、あの規模の技を使って【領域】に支障は無いのかい?」
「あー、今んとこは大丈夫だな」
何かを確認するように、宙に魔力の残り香を感じるように指を動かす。
「そうかい……気をつけた方が良い、あの技を【領域】の結界近くでしない方が良いと思う」
「分かってる、分かってるって、安心しろよ崩れやしねぇからよ」
「ーー分かってるよ、君がそんなヘマはしない事ぐらい」
その時、私は聞いてしまった。
その二人の会話を、【領域】とは何なのか、先ほどの光は何だったのか、聞きたい事は沢山あった……その事を私は後悔した。
「アイリちゃん!」
クラスメイトの一人が、俺の背中で寝ているアイリに駆け寄ってくる。
俺達は斜陽の森を抜け、王都に帰って来た。
幸い負傷者は多いものの、死者は数える程度だった。
王城では、あの森全土を包む光の異常事態の事でもちきりになっており、その時居合わせたフラベルや、討伐に行っていたクラスメイトにも事情を聞かれていた。
討伐されたドラゴンだが、あれはフラベルがやってくれた事にした。
俺が目立ってしまうと都合が悪くなるからである。
「おいおい、よくわかんねぇ能力でよく動けるなぁ!」
早速クラスメイトの……誰だっけ?
声と顔はどこかで覚えがある気がするが、まぁとりあえず、誰かがいつも通りに突っかかって来た、テンプレ展開ご所望じゃねぇよバカが。
いつも通りの会話(だいたい俺に対する愚痴や罵声程度)なので全てを無視して、アイリのところに行く。
「ハハっ! 図星で声も出ねえかよ、情けねぇ!」
「ーー黙れよ糞餓鬼が」
俺に突っかかって来た奴らは、固まってしまった。
「うーす、フラベル」
食事会場を抜け出して、ベランダでゆっくり休んでいた友人に気軽に声をかける。
彼はこちらに気付くと、安堵した表情を見せてリラックスした雰囲気で俺が隣に座る事を許してくれた。
少し思い詰めた表情をして
「アイリさんの様子はどうなったんだ?」
「あー、あいつは大丈夫だと思うぜ、まだ実践経験が少ないだけで戦える力は持ってる……俺と違って」
自身の手のひらを見ると、手の皮が全てずれ落ちていて、少しだけだが肉もチラッと見えていた。
「ーー俺は君がこの世界に来る前の事は知らないけど、君がどんな人なのかくらいは分かるようにはなっているはずだ」
「……」
「君が、手がそんな風になるまで剣を握っている理由も、君がそんなに神経をすり減らしている理由も……俺は分かっている、だからそんなに思い詰めなくても良いんじゃ無いのか?」
分かっている、そんな事ぐらい
知っている、そんな事ぐらい
でも、でも、ダメなんだ。
「……フラベルが言いたい事も分かる、でも『全部』は無理だ」
「俺がどんなに力をつけても、どんなに強い能力を持ったとしても、守れるのはこんな小さい手に入る物しか守ることが出来ない」
分かってるさ、“勇者”として俺は無能だって。
「でも、これだけは譲れない……俺は守る物を選んで、切り捨てて、この世界を生きて行く」
「それは今も、昔も、この先も変わらない事だ」
最後にフラベルが
「君は……変わったね、いや変わら無いといけなかったんだね。今の君は凄く、凄く生き急いでる感じがするんだ。」
そんな一言に俺は大層驚いた。
「君は本当に大丈夫なのかい?」
あの日、あの森での出来事が衝撃的で、私はまだこの部屋から出れないほどにショックを受けていた。
コンコンと、私の簡素な部屋に響いた音に、二つ返事で返す。
扉が開く音がして……
「よっ」
ハルトがお見舞いに来てくれた。
今しかないと思い、私はベッドで横たわっていた体を奮い立たせた。
知るべき事は、自身の行動の先にしか無いのだから。