白夜
更新が遅れてすいません。
この際、ハッキリと言おう。
ーー俺は弱い。
魔力を用いた対人戦において、断言できるクラスの中で俺が一番弱い。
理由としてはこの神格、『待機』のせいである。
何を待機してるんだコイツは……
どんな事かと言うと、魔法を覚えるのがめちゃクソに遅い、そのせいで魔力を用いた対人戦では勝てないのである。
魔法の覚えが悪すぎるせいで、俺が使える魔法は二種類しか無い。
体外に魔力を放出するだけの、【魔砲】と呼ばれる誰でも出来る初歩中の初歩、そもそも魔法と呼んでいいのか分からないものと、放出した魔力を練って作った、【魔力糸】物理では切れにくいものの、魔力をちょっと流したもので簡単に切れてしまう魔法である。
「こんな能力で、ドラゴンと戦う俺は……頭がおかしいな」
はっきり言うと、自分でもビックリするほどの弱さである
『ガアアアッ!!』
目を潰されたことが、よほど気に障ったのか……
立派なツノを振り回し所構わずに火を吐き、業火が森を覆い尽くす。
ドラゴンより、大幅に大きい木が燃え始めて温度が大幅に上がっていく。
「クソッ、もう少しなんだ……あともう少しであいつが来る」
俺は、それまでの時間稼ぎをすればいい
それにしても……
「暑いんだよ!」
あのクソトカゲが火を吐き散らしているせいで、森が暑くなっている。
元の世界で言うと、八月の最高気温以上の中で、全力の鬼ごっこをしているようなものだ。
「早くしないと、殺られるぞこれ」
『どおしたどおした! さっきの威勢はどこにいった!』
意気揚々と追ってくるじゃねえよ、くそったれが。
少しづつアイリから距離を稼げているものの、今この場で攻撃をするのは、非常に俺にとって都合が悪い
『どうした! 腰が抜けたかクソガキが!』
「うるせぇんだよ! ここじゃ巻き込むだろうが!」
そう、俺が唯一使える攻撃魔法【魔砲】だが、このクソトカゲをブッ飛ばすとなると、ここではアイリを巻き込んでしまう。
このクソトカゲは、俺を踏み潰そうとして生えている木や崖を次々と蹴り飛ばし、押し倒して行く
ドラゴンの体に、俺の罠の残骸が絡みついて行く
「あぁ、……クソ、罠が全滅じゃねえか」
光が届かない森の中を走り抜け、途中枝や根っこに引っかかりそうになったが、【魔力糸】でなんとか持ち堪えた。
その時、ハルトが何かを感じたように首を振り、周りを見ていた。
「ーーもう少しだな」
その時ハルトは、グッと右腕を引っ張った
すると、ドラゴンの体に引っかかっていた【魔力糸】の緩みが無くなり、周囲のドラゴンが押し倒した木や瓦礫を引き連れて……ドラゴンに巻き付いた。
『何だっ……これは!』
ドラゴンの動きが止まっているように見える程遅くなり、ハルトはドラゴンの目の前でランランと歩き出した。
「あんたが押し倒したーー俺の罠の残骸だよ」
この【魔力糸】は、物理でも切れない事は無いが……まぁ、特段丈夫な糸だと思ってくれればそれで良い。
要するに、このクソトカゲが引き回した程度じゃ千切れないって事だ。
チクショウ! 罠達だってちゃんとした見せ場の方が良かったのに……
一人で勝手に、悲しんでいたその時
「あぁ、悪い少し遅れてしまった!」
元気が良い好青年のような見た目で、髪は俺達と同じ黒っぽいが、腰に自分の身長と同じが少し小さいくらいの剣を携えて、落ちてきた。
空から、正確に言えば結構上にある枝からだが、まぁとにかくそこから
ーー人が降りてきた
「おせぇよ、フラベル」
この男は、俺の唯一のこの世界で出来た友だちである。
こいつは、俺たちと同じ転移者だが、元の世界が俺達と違い別の異世界から召喚されたようなのだ。
どんな仲かと言われると、剣を教わってる仲である。
俺がこの世界に来た時に、俺の世界にあったアニメやラノベの話で盛り上がって、仲が良くなった。
その後しっかり推しを布教して、俺が立派に育てた異世界産のオタクだよ!
「いやはや、すまない。何せこの森はかなり広くて迷子になってしまったんだよ」
「だろうな、途中から動きが右往左往し始めたから……もしやとは思ったが」
やれやれと頭を抱えてしまったハルト、それを見て少し微笑んでいるフラベル、その隣で拘束されているドラゴン。
『これ、どう言う状況なんだ?』
「それにしても、よく分かったね俺がここに迷って来たって事」
「まぁあれがあるし、居場所程度一発で分かっちゃうからな」
頭を掻きながら、本題に入った事を意識させるためか、声を少し低くして言う。
「俺がして欲しいのは、このクソトカゲ殺してくんない?」
「……分かった」
剣を引き抜いて、ドラゴンの首筋にゆっくりと刃を向き置いて、ゴウッと空気が唸る音が森中に響き渡り、そのまま……
ーー死ななかった
『クソっ、まさかこんなガキ共に【犠心】を扱うハメになるとは……とんだ失態だ』
何と、首を切ったにも関わらず、次の瞬間切ったはずの首が繋がり、生き返ったのだ。
「あー、これフラベルと相性悪い能力じゃん」
「そうだね、多分これは自分の体の一部を犠牲にして、生き返ってるようだね」
『な……なぜ分かったのだ!』
糸に縛られているドラゴンが、凄まじい形相でこちらを睨んでいる。
俺たちは顔を見合わせ……
ーー笑った
「いや……だってさ、お前今ツノないじゃん」
「わかりやすいツノがないって事は、犠牲になる部位は選べないことなのかな?」
そう、俺達が一発で分かってしまった理由が、このドラゴンの頭にあるツノが消えていたから。
「こんな事が出来る能力は、俺が知ってる限りこの能力しか思い当たらないからな」
「まぁ、諦めろって事だ」
片手をヒラヒラと振って、ハルトと言われていた人物がこちらに近づいてくる。
拘束したドラゴンの額にそっと、人差し指を当てて……
「なぁ、【魔砲】ていう技知ってる?」
『そ、それがどうした』
「いやな、俺がさぁさっきここじゃあ攻撃出来ないって言ったじゃん」
「これな、俺が唯一扱える攻撃魔法なんだけどさ、元々の威力が弱すぎるんだよね」
そう、この【魔砲】の威力はせいぜい岩や壁に少しのヒビを入れる程度……他の魔法と比べてしまうと、どうしても使えないのである。
「んで! 俺が考えたのは、この【魔砲】を極限まで圧縮したらさ、どうなるかなぁって」
直後に人差し指に、青白い光の塊が礫程度の大きさで表れそれが……見えない程に小さくなった。
「……だいたい原子核ぐらいの大きさかな? それとさぁ、全身を吹き飛ばしても蘇生出来るのかな?」
俺は弱いよ、対人戦はね。威力が強すぎて、勝負どころじゃ無いからね。
「ーーもう良いよ、お前は」
『まっ……』
「白夜」
“原子核ほどの粒”が指先から放たれた瞬間、音が消えた。
次の瞬間、押し寄せるような熱と、皮膚を剥がすほどの風圧が辺りを包み込む。
だがその中心は、ただひとつ、静かに光っていた……
その日、私は奇妙な物を見た。
昼は、太陽の光すら通さず、まるで夜のような森
ーー斜陽の森
夜は、夜の闇がさらに深くなり、もはや光をつけていたとしても、手元しか見えない暗がりである。
おかしいはずだ、だってその日私は
ーー昼を見た
夜の、森の、一寸の光すら通さない、闇の中で
しっかりと太陽を、ありえない太陽を私は見てしまった。