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馬鹿


 ハルトが放った『円削』によって、メトゥールの【領域】内部は無数の斬痕を残す事となる。


 術士(ハルト)を含めた自爆技、故にメトゥールの対応がワンテンポ遅れてしまう。

 放った斬撃は、【領域】の内部に留まらず空間を隔てる壁にまで到達した。



 戦闘開始から九分二十四秒。


 メトゥールの【領域】は崩壊した。

















「ありゃ〜二将様の【領域】が崩れちゃいましたね。まぁ、ほとんど見えませんでしたから良かったですけどね」

 

 闘技場の特等席で今までの戦闘を俯瞰して来た、『魔神七将』達は崩れた【領域】を見てそれぞれの感想を言い出した。


「マジかあのガキ!二将様の【領域】から生き残りやがった!!マジであるんじゃねぇか!あのハルトっつうガキが二将様を倒しちまうんじゃ!!」


「ーーでも、あまり楽観視は出来ないわね」


「おや、魔神王様は感じたんですかね?俺にはメトゥールが詰んでる状況しか分かりませんが?」


「えぇ、確かに今の状況だけを見たら一見、ハルトの方が有利に見えるけど、まだメトゥールにも逆転出来る目はあるのよ」


「え?でも、【領域】は一回使ったら魔術式が壊れて、しばらく使えないって……あ」


「魔術技師であれば、誰でも一度は考える事よ……『【領域】を何度でも使えれば』ってね。でも、それは子供が考えるような突飛なものよ」


「ふむ……申し訳無いですが、魔術技師でない儂等にも説明を願いたいですな」


「気づいた人は何人かいるようだけど、【領域】使用のデメリットは『核となった魔術式が壊れるため連続使用は出来ない』と『一回でほとんどの魔力を消費すること』よ。前提として、“複数回【領域】を使える魔力量がある”ことが条件となるわ、と言ってもそこまで難しくは無いわよ」


「答えは簡単。【領域】を使用した後、()()()()()()()を用意すればほぼ同じ効果の【領域魔術】が使用できるって事よ。幸いにも、メトゥールは魔術技師としての才はあるわよ、ただ……」


「『演出』なんて()()()()()()に惚けてなければ、『魔術師』に覚醒してもおかしく無い器だったわ」


「それじゃあ、ハルトはどうなんです?メトゥールの【領域】を破壊した今、仰った可能性も有りますが、それでも個人的にはハルトが有利だと思いますけど?」

「無理よ」


「ありゃ、随分と言い切りますね」


「おそらくだけど、【領域】を破る為にほぼ全ての魔力を消費したはずよ。その状態で、彼が戦えるはずは無いわよ」


「だってもう……()()()()()()()()()()()


 目を細めてもういう事は無いと黙り、じっと闘技場を観察する。

 それを察したのか、他の七将も静かに戦いの様子を見ていた。
















『アンッ!!何処だ!!』


 しくじった!【領域】を破壊する為に魔力を使い過ぎた。おかげでもう体が動かなくなって来ている。


 上も下も、右も左も分からない。自分が何処に立っているのかすら知らない。

 両手を前に突き出して、姿勢を低くして手探りで探す。


 トンっ


 何かに触れたのだろう。その“何か”が、オレの行く道の前で邪魔するようにあった。


『アン!?大丈夫か!?』


 体を抱き上げているはずだ、それでもわずかに下にずり落ちては抱き直す。

 まるで縋るように、アンであろうその物体に手を添え続ける。


「ハルト……さん?」

 

『おいアン!!返事をっ……返事をしてくれッ!!アン!?』


「っ……【領域】が崩壊してる?まさか!?」


 私は目の前で不安そうに言葉を紡ぎ続けているハルトさんの仮面にそっと手を置いて、少しづつ魔力を流し込んで行く。


 彼の状態はおそらく、魔力切れによる錯乱状態。


「魔力を……渡せば……」


 その時ぞわりと、生温い感覚が私の背中を這い回った。



「ーーちょっと、いいですかねぇ?」


「何でっ?まだ、生きて……?」


「結構な傷は負ってしまいましたが。まぁ許容範囲の域ですかね」


 私とハルトさんをじっと、舐め回すように熱を帯びた視線で見てくる。


「……良い」


「え?」


 ボソッとこぼした言葉に私は呆気とした様子で、目の前の男を見るが、突如として自身の左手で自分の顔を掻きむしり始めた。


「良い!良い!!実に良い!!!」


「ボロボロになりながらも仲間に支えられながら足掻き続けている主人公!!それを献身的に支える勇婦!!」


「そして立ちはだかる、強敵(ボク)ッ!!」


「良いとは思いませんかねッ!?観客の皆様!!」


 この男は、“狂っている”んだ。もうどうしようも無いほどに。


『ありがとう……アン。もう、もう大丈夫だ』


「おや、ハルト君。随分と辛そうですね?」


『はっ、うるせえうるせえ。そう言うお前も、全身傷だらけの血だらけじゃねぇか』


「言いますねぇ。先程まで這いずり回っていた男の言葉とは、思えないですね」


『おかげさまで、あんたの【領域】の核が分かったよ』


「ーーほぉ?いきなりですね?」

『その長袖で隠してる右手。だろ?あんたの【領域】の核は』


「……」


『おかしいと思ってた!あんたはこの戦闘で、一つとして右腕を使わなかった』


「……」


『最初は何かの気の迷いなのかと思ってたが、さっきの『円削』で頑なに右腕のみを守ってた!!』


「……うるさい」


『極め付けは、あの人形!あいつもおんなじ、左腕の部分だけで戦闘をしていた!(ブラフ)にしちゃあ、あからさま過ぎるだろ?』


「……うるせぇ」


 メトゥールから、ドロリとした黒い感情を感じる。突き刺すと言うより、油に手を突っ込んだような不快感が体に巻き付いている。

 だが、それで良い。今は煽れ。


『それに!あの【領域】もだ!!『演目』だとか何とか言ってたが、ありゃあただの人形に対するプログラミング……予めの動きを書いただけの……』


『下手っくその演出なんだよ!!!』


「うるせぇんだよ!黙れやテメェ!!」


 メトゥールの長袖に隠れた右腕に光が走る。どうやら焼き切れた魔術式は、修復出来たらしい。


「【開演】ッ!!」


 最初の優雅な【領域】ではなく、今度は荒々しく、歪んだ【領域】がハルトとメトゥールのみの二人を飲み込んで展開された。


『ハッ、馬鹿が』


 閉じていく結界を境に、空間が捩れている。もうすぐに、メトゥールの【領域】に閉じ込められる。

 あいつの目には、魔力が枯渇寸前のイラつく男。あるいは、もう直ぐに殺せる男としか見えていないはずだ。


 メトゥールの【領域】が完全に閉じる。


 オレは今、真っ暗の中に立っている。


 手をわずかに前に動かせば、コツンと座席の皮のような物の質感を感じる。


 ーー闇は心地が良い。


 オレが持ってる権能のせいか、暗闇に対しては不思議と恐怖は薄い。


 今度は照明は無い。そして最初から、メトゥールは舞台に降りて来る。


 今、戦闘開始から十分が経過した。


 オレの骨に刻み込んだ、『魔砲』や『魔力糸』以外の三年と言う月日をかけて作った、唯一無二の魔術。


 

『【魔技駆動式】ーー更新』


 さぁ、地獄を始めよう。



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