劣等感
『クソ……』
ダメだ、【領域】内部での戦闘じゃあメトゥールに勝てねぇ。
アンはまだ復帰出来ない。
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。
「ーーどうして君は、そんな体になってまで勇者達をーー君を、『篠暮晴翔』を殺した友人達を助けようとするんです?」
え?
何でって、それは……
あれ?
思い出せない。
「そう言えば、その仮面。邪魔ですね」
上に乗っているメトゥールがオレの仮面を取ろうと、左手を伸ばす。
やけにその光景が何倍にも引き延ばされて、迫って来る手も、自分の呼吸音も、ゆっくりと流れて行く。
『止め……』
魔法で奏でてる音声ですら、酷く遅い。オレ含めた全てがゆっくりとなってしまった。
そんな世界で、オレは見てしまった。
【ナンダ?モウオワリカ?】
馬乗りになって、オレの首に指をかけている骸骨が、酷くつまらなさそうにコチラを見ていた。
『まだっ!!』
オレは伸ばして来る手を左手で掴み返す。
そのままオレとメトゥールの間に『白夜』を叩き込む。
「なっ!?」
メトゥールが咄嗟に防御魔術を展開しようとするが、オレの『白夜』の方が早い。
威力は最低にしたが、炸裂した魔力の塊に当てられ、オレの上に乗っていたメトゥールは吹き飛んだ。
『あっぶねぇ…』
主要な部位は何とか守ったが、オレは『白夜』を食らって左手が完全につぶれた。
それでもまだ戦える。
「やって、くれましたねぇ……ハルト君!!」
瓦礫を押し除けて出て来たメトゥールは胸の辺りが大きく抉られていた、だが関係ないようにメトゥールは清々しい程の笑みを浮かべた。
「いやー!二度目です!!二度目ですよ、ボクが人生で“死”を感じた事は!!先程の君からは明確な殺意を感じられた!」
『勘弁してくれ、狂人は苦手なんだよ』
「おや?つれないことを言いますねぇ。勿体無い!!」
「もう一度!」
「そう!より良い“劇”のために!!」
「やり直しましょう!!」
『は?』
その時、オレの視界は反転した。
吹き飛ばされたと、オレが認識するのは座席に激突する時だった。
『何で……クソッ!そう言う事かよ!!』
やり直しって事は、あの“演目”を最初からって事だろ!だから……
「当然、彼女もいますよ?」
オレとアンが破壊した女の人形が、再びオレの目の前に立っていた。
『今度は、二対一ってか!?』
メトゥールが魔術で、人形がメトゥールの魔術の間を縫うようにオレに攻撃を仕掛けて来る。
どちらかをアンに任せたい所だが、両方ともアンには荷が重い相手だ。
人形が左腕を振り上げて、オレに切り掛かる。
『魔力糸』で防護した足で腕を蹴り飛ばし、右手から射出された『魔力糸』で人形を吹き飛ばした。
「やります、ねぇッ!!」
吹き飛ばした人形と入れ替わるようにメトゥールがオレの足元に滑り込んだ。
メトゥールが左手を床に伸ばすと、床から銀色に煌めく剣が一本、メトゥールの手に収まる。
「えいっ!!」
メトゥールの剣がオレの首に一直線に吸い込まれるように動く。
剣先が服を破り、首の皮に到達する時
「なっ!?」
剣が弾かれた。
『オラッ!!』
メトゥールに生じた一瞬の空白を見逃さず、オレは鳩尾に拳を叩き込んだ。
『クソ、バカすかやりやがって……』
殴られたメトゥールが、ケロッとした表情で立ち上がった。
「軽すぎですよ、君の打撃は」
『うるっせ、ちったぁ気にしてるんだよ』
やっぱ【身体強化】してねぇオレの打撃はこの程度かよ、まぁ予想通りだけど。
『おいおい、肩で息してんじゃん。もうバテちゃったか?』
「ふふっ、確かにそうですね。もう三十は超えてますし、日に日に体力の衰えを感じてますよ。まぁ!代わりに髭がよく生えますけどね!!」
「『はっはっはっは!!』」
『おいオッサン、もう休憩はいいのかよ?』
「えぇ、そちらこそトイレはもうすませましたか!最後まで見て下さいよ?」
メトゥールの後ろから、何かが飛び出す。さっき飛ばした人形が帰って来た。左手の刃を掲げてオレめがけて振り下ろす。
やっぱり、人形はオレと同価値がある。
人形の刃を結界魔術でガード、すると案の定メトゥールが右に移動して複数の魔法陣を展開して、魔法を撃つ。
オレは背中から『魔力糸』を生やして、後ろの壁に差し込む。伸ばした『魔力糸』を引き込むことで後ろに下がる。
それと同時に、腕を振るい横一文字に『魔力糸』を射出した。
メトゥールと人形は各々の避け方をし、結果『魔力糸』は当たらず後ろの壁に斬痕を残すだけになる。
『チッ』
メトゥールが後方で魔術を、人形が空いた距離を埋めるため、走ってこちらにやって来る。
オレは両手を合わせて、手のひらの中で細かく『魔力糸』を発生させる。
発生した『魔力糸』同士が互いにぶつかり合い、削って刃を研いでいく。
手袋越しでも分かる衝撃に、オレは顔を微かに歪めてしまう。
別に痛いわけでは無いが。
研ぎ続けた刃を、手の中で一点に集めて行く。
『まだ、まだ』
メトゥールが放った魔法が、目の前に迫る。
時間にして三秒、オレは動くこと無くこの技を研ぎ続けた。
『白夜』に次ぐオレの魔術の高火力技。
一点に集めた『魔力糸』の塊をわざと圧縮を緩める。
『白夜』が圧縮して放つ魔力の塊だと言うなら、この技は圧縮を緩めて放った、細い魔力の塊。
指向性を持たず、四方八方にばら撒かれる『魔力糸』の斬撃。
『円削』
万を超える斬撃が、自身含めた全てに“平等”に降り注いだ。




