表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

アン


「ーー大丈夫。いける」


 ハルトの問いかけに、アンが静かに答える。


 今まで以上に、ハルトの手を強く握る。アンの体に紫色のヒビが浮かぶ。


「【万毒錬成(アンタレス)】」


 アンの体から液体が纏わりつくように、生成される。


「やはり、何か仕込んでましたか……」


 会場を俯瞰するように、ハルト達を観察していたメトゥールが呟く。


 ハルトの部下十二名は、ハルトが体の肉に術式を刻み込んでおり、自身の魔力で起動させるか、対応する『宝具』によって起動するかの二通りがある。

 しかし、付近にハルトがいた場合、ハルトと肉体的接触を行っている間、ハルトも刻まれた術式を使うことが可能である。


「ハルトさん!」


 アンが、毒で作った短剣をハルトに渡す。


 アンの能力は毒。そのため経口摂取以外の毒物もある、粘膜や接触で毒が体内に入ってしまうため、ハルト以外では携帯して使用は不可である。


『おっらよっ!』


 右は魔力糸、左は毒の短剣。

 目の前の人形は毒剣に触れないように立ち回るが、ハルトの魔力糸がそれを阻害する。


(まずは……足!)


 順手で持っていた剣を逆手に持ち直し、太ももの付け根に刃を突き立てる。


(多分だけど、毒は効かない。せめて、相手の動きを阻害すれば良い)


 左の骨の剣は、右の魔力糸で押さえ込んで、突き刺した剣から手を離し、左の人差し指から軽めに圧縮した魔力糸が頭を狙う。


 顎に当たる寸前で、人形は糸に絡まっている左腕を強く引っ張る。

 ハルトの体は耐えられず、投げ飛ばされる。そのせいで、頭を撃ち抜くことは失敗してしまった。


 吹き飛ばされたハルトは、空中で二、三回回転し体勢を整え、壁に着地する。


『ーーやっぱり軽いか』


 ハルトは両手両足を揃え、壁に張り付くように着地する。

 その時激しい轟音を響かせながら、左腕の骨をむき出しにした人形が、チャンスとばかりに追撃をする。


 ハルトは両手から魔力糸を出すが、速度で翻弄されてしまう。糸使いは操作がかなり難しいし、間合いに入られると一方的に弱くなってしまう。


 手を伸ばせばすぐそこの距離で、自身の死が少しづつ迫って来る。


 魔力糸は、物理攻撃に強い耐性を持っているが、それが嘘のようにスパスパと切られていく。

 次々と切られていくので、ハルトと人形との距離が少しづつではあるが、縮まっていく。


『ーー残り六分』


『ちょっと、本気で行くわ』


 人形の手足を縛り付ける。しかし、急ピッチなため数秒程度しか動きを封じれない。

 その貴重な数秒を、ハルトは人形を蹴飛ばす事に注力した。


 観客席に突っ込んでいき、たくさんの椅子を壊して、それでも勢いよく壁に激突した。 

 轟音と砂埃が舞い、木の破片が頭に落ちていく。


 人形が、何事もなかったように立ち上がり、舞い上がった埃の中、辺りを見回す。


 その時、埃を破るように突き抜けて、複数の魔力糸が張り巡らされる。

 

『第二形態……なんつって』


 両手の指から魔力糸が這い出て、それぞれが観客席に突き刺さる。

 ハルトは段々と後ろに下がっていく。下がる度に突き刺した糸が、ギシギシと今にも千切れそうな音を出している。


『ーーよーいドン。なんてね』


 地面を踏み締めていた足を、静かにジャンプして地面から離す。


 その時、ハルトの体は凄まじいスピードで人形に直線を描いて迫る。それは人の目では追えないほどの速度であった。


 人形は迎え撃つために、骨の剣を腰に添えてカウンターをしようとする。

 完璧なタイミングで、人形は剣を振り抜く。


 切ったと思った剣先は、虚しく空を過ぎた。


『ーー読み通り!』


 ちょうとハルトと人形との半分の距離にいたのは、両腕を後ろに引き絞り、後ろに戻らないように、足から魔力糸が出て地面に刺さっている姿であった。


『これで……終わりだ!』


 

 今度こそ、ハルトは後ろに引いていた腕を、前に振り切る。足の補助はそのままで、数多の瓦礫を引き連れて魔力糸が人形に迫る。


 人形はそのまま、引き連れた瓦礫に押しつぶされるその時……


「ーー“修正”」


 パッと、あれだけ大量にあった瓦礫が嘘のように、消え去っていた。

 どこからか聞こえたメトゥールの、たった一声。


『冗談だろ……』


「君には……と言うか魔神七将達にも話した事は無いんですけどね。ボクの【領域】は『物語の忠実な再現』だよ」


 姿は見えない、声だけが会場に響いている。

 ハルトは周りを見渡すが、声は聞こえるがメトゥールの気配を感じる事はできない。


「ボクは演出家だからね。舞台の上に立つのは、役者の仕事だろう?」


 ヘラヘラと軽い感じで、メトゥールは自身の能力をひけらかす。


 気配を探り続けるが、やはり感じられない。まるでこの空間にいないかのように。


『別に話しても問題ねぇってか……舐め腐りやがって』


 吹き飛ばされた人形が、ゆっくりと立ち上がる。


(多分だが、最初にメトゥールが言っていた“演目”の内容に沿わないと、さっきみたいな“修正”が入るってわけか)


『めんどくせぇ……』


 ハルトは張り巡らした魔力糸の上に飛び乗る。思った以上に不安定だったが、既に慣れているのでそこまで問題では無い。


 ハルトは全体的に見れば、弱い部類に入ってしまう。特段魔力が多いわけでは無いし、魔術式の展開も速いわけでは無いし、これといったスキルも持ってはいない。

 では、ハルトの何が強いのか。なんで彼が魔神七将にまでなったのか。


「これは、驚きましたね」


 無手での戦闘。それが唯一、ハルトが勇者達を圧倒したものだった。


 ハルトの背後には、巨大な魔術式が浮かび上がった。【身体強化】と呼ばれる類いの魔術式である。


 魔力糸を足場に人形に接近、当然骨の剣で迎え撃つが、手のひらに魔力を集めて即席の盾を作って、剣を握る。


 その後、掴んだ左腕に飛びかかり、人形に対して腕十字を繰り出す。


『右腕、動かないんだろ?』


(ずっと疑問だった、何故語られた“演目”では両腕が骨の剣になってたはずなのに、この人形は左だけだった)


 だから、ハルトは山を張った。()()()()()()()()()で左腕に腕十字をしたのだ。


 人形だからか、一才の遠慮が無く腕を締め付けていく。

 人形の腕がギシギシと、音を立てている。表情はわからないが、きっと痛みで悶絶してるだろう。


 そしてーー


『ヨシッ!!』

 

 バギッと腕が悲鳴を上げて、反対に曲がってしまった。骨が突き出て、肉だけで繋がっている状態になっている。


 ハルトはそれを確認した後、魔力糸を後ろに伸ばして、脱出する。


「まぁ、無駄ですけどね」


 折れた腕が、元に戻っていく。骨が元の形に戻って、肉がその周りに再度巻き付いていく。


 何事もなかったかのように、修正される(元に戻る)。その時……


『アンッ!今だ!!』


 人形の背後から、毒の短剣を持った少女が、治りかけの膝の部分に剣を突き立てる。


「しまった!」

 メトゥールの驚いた声が劇場に響くが、物語の修復は無情にも止まらない。


 腕は、()()()()()()()修復してしまった。

 

 ーー更新まで、残り三分

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ