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開演

 

 ガヤガヤと騒がしい劇場。この場にいるのは一人しかいない。


 聞こえてくる声は彼の幻聴なのかそれともありえた、いや()()()()()()未来なのだろうか。


「ーー【開演】」

 ただ一言、彼は口にする。



 ステージの上で、ただ一人。立っていた男優は、誰もいない客席に、丁寧なお辞儀をする。


 すぐに、ラッパの幻聴()が寂しく響く。

 始まりの合図が鳴った。


















「いや〜それにしても、七将全員が集まるなんて、意外ですね」


 闘技場のとある一室、八つの席の内六つが埋まっている。


「まぁ、個人的に気になっただけですよ。だってあの絶対に人前に出ない二将様が、戦うんですよ?」


 フードで顔を隠した青年が、ワクワクした表情で話す。興奮してるのか、尻尾がブンブンと振っている。


「魔術技師は、情報が何よりも重要……味方内でも、おいそれと知れたものでは無い。あの小僧には、感謝をせねばな」


 初老の男性が右の手で自身の髭を触りながら呟く。ステージに羨ましそうな視線を送り、左手で腰にかけた剣に触れる。


「はいはい、そこまでにしなさい。魔神王様が来ましたよ」


 その一言で、バッと座っていた七将全員がその場に跪く。ゆっくりとした足取りで、一人の女性が入ってくる。その目は眠そうで、ぼんやりとした雰囲気を纏っている。


「ーー顔を上げなさい」


 彼女が真ん中の席に座って、足を組む。頬杖をして、怠そうな様子で会場を見る。


「どうしたんです?そんな眠そうな顔をして?」


 一将が顔を上げて彼女に問いかける。彼女は怠そうな表情で、ため息を吐きながら答える。


「どうも何も、七将はこの戦いで二将を引き込みたいようなのよ」


 その言葉で、周りの雰囲気が変わる。


 七将(ハルト)が、“魔神領”に対して明確な反戦意識を示したようなものだからだ。


「へぇ……そりゃあ、面白いですね」


 一将()は不敵に笑う。今、自身が激動の時代の渦中にいるのが嬉しいのか笑みをこぼした。



















『やっべえ……どちゃくそに緊張する』


 自身の控え室で複数人の部下を連れて、部屋の隅っこでプレッシャーに押し潰されそうなハルト。


 それを見た一人の部下が駆け寄って、ハルトの頭を撫でて言葉をかける。


「ーーがんばって、お兄ちゃん」


 未だ幼さが抜けない。最年少の少女、名前はアンと言う。ハルトが初めて救った亜人である。

 ハルトの後ろをよくついていたため、側から見れば完全に兄と妹の図である。


『あ!そう言えば『宝具』は!?オレ、あれ無いと戦え無いんだけど、誰か持って無い?』


 ハルトの言葉に、居合わせた部下がそれぞれ顔を見合わせて、それぞれ首を横に振った。


『何しに来たのオレ。え、二将の人にボコられに来たの?ねぇ?なんで全員『宝具』忘れてんの?この戦い結構重要なんだけど』


 全員が気まずそうに顔をそらす。顔は画面で見え無いが、それでも凄まじい圧を感じる。


『無いわー!『宝具』忘れるとか無いわー……』


 ハルトが顔を俯きながら部屋の出口に向かう。しょんぼりとした雰囲気で、静かに部屋を出るその時


「ーー私が行きます!」


 アンが手を挙げ、立ち上がる。


『アン、自分が何を言ってるのか、理解してるのか?()()は出来ればこんな所で使いたくは無いし、何よりアンが危ない』


 部屋を出て行こうとしたハルトが、その言葉を聞いた時足を止めて、部屋に戻る。


「大丈夫、平気だよ?アンは絶対に死にたく無いし、まだ恩も返せてない」


『いや、そういう問題じゃ』

「危なくなったら、ちゃんと逃げるから。お願い?」


 じっとハルトを両眼で見つめる。しばらく沈黙が続いた後、ハルトがため息を吐く。


『わかった。ならオレが合図を出すまで、隠れておけよ?』


 パァっとアンの顔が明るくなる。


「ーーうん!」


 二人、手を繋ぎながら歩いて会場に向かう。部屋を出る時、ハルトは部下達の方に振り返る。


『ーー勝ってくるよ、絶対』














 同時刻、そこら辺にあるようなベンチで一人の青年が座っていた。

 闘技場からは、そう遠く無い。近くの公園にある、簡素なベンチ。


 今の季節は秋の後半。冬ほどでは無いにしろ、かなりの寒さである。

 それなのに座っている彼の服装は、半袖や半ズボンといった、軽装ばかりである。しかし、右腕のみ長袖になっていた。

 

 通り過ぎる人達は、何度か振り返る。その理由は、彼の体にあった。


 彼の体は切り傷の跡が酷く残っていて、特に左腕や太ももといった場所に集中している。半袖も相まって、まるで傷を象徴しているかのように見える。


 しかし、膝から先の右腕だけが一才の傷が無く、彼はその腕を服の上からゆっくりと撫でていた。


「ーーうん。うん。そうだね」


「もう直ぐ始まるね」「怪我なく帰って来れるかな」「相手はどんな人なんだろ」「上手くやれるかな」「血は怖いな」「ちょっと怖いね?」「緊張しちゃうね」「稽古の成果を見せよう!」


「ーー大丈夫だよ。ボクが、ちゃんと仕立ててあげるから」











「「ーー上手く演じられる(壊れないように)がんばろ?」」


「「ね?」」


 ゆっくりと立ち上がる。座っていたベンチに背を向けて、歩き出す。


 元気よく。大股で歩いて会場に向かう。しかしその右手は、驚くほど動いてなかった。


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