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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

女騎士アルテミス・エルドラド建国記『人の書』(HDリマスター版)

忠誠と慈悲 〜破滅の運命に抗う、主従の始まりの物語〜



「【私とロールプレイをしてください】」






『女王様』の『試練』を、やり遂げた、私。


『女王様』は、先程までの威圧感がなくなり、無邪気な笑顔を見せています。


「気に入ったわ!あなたを、私のお気に入りとするわ!……さあ、私のお気に入りとして、相応しい名前を提案しなさい!」


『女王様』の言葉には、強制力がなく、私は『女従者』として認められたと感じました。


「はい、『女王様』。『アルテミス』は、いかがでしょうか?」


私は、提案という名の自己紹介をしました。


「アルテミスね、素敵な名前だわ!」


『女王様』は微笑んで、私の名前を褒めてくださいました。







私、アルテミスは、貴族たちを召集する会合『女王会議』の準備に追われていました。


貴族たちに招待状を送り、人数分の料理の手配、会場の清掃など。


特に、気を付けなければならないのが『お酒の銘柄』です。こだわりが強い人が多いのです。




『女王様』に呼び出され、貴族の『忠誠心』をはかる手筈を確認します。


紅茶を淹れ、『女王様』に差し上げてから、話し始めます。


「全体会議に先立ち、即位したばかりの『女王様』へ、個別に挨拶する場を設けます。その部屋で貴族たちの『忠誠心』を確認します」


『女王様』は紅茶を一口飲み、おいしい、と言ってから答えます。


「ええ、そこで私の『権能』に従うかどうかで、『王権に協力的な貴族』、『自領のみの利益を追い求める貴族』、そして『王族の打破を目論む貴族』に分別するのね?」


私は、顔をしかめてしまいました。


『王族を打破する』。


そのために「『事件』の黒幕は、王位簒奪の『女王』だ!」とか「『女』である『女王』に、国家運営はできない!」などといった言説を流布する。


そのような行為には『忠誠心』の欠片もない!


私の心の中を察してか、『女王様』は声を掛けます。


「……アルテミス、『貴族』とは、本来そのようなものよ?自分に属する者たちを食わせるためなら、何でもやる!……それが、大きくなったものが『王族』なのだから」


「ですが!!」


私は、大声を上げてしまします。


「ふふふ、あなたの気持ちは嬉しいわ。でもね、人の上に立つとは、そういうことなのよ」


私は、どうしても納得できませんでした。







『女王会議』の日。


『女王様』に挨拶する部屋には、万が一のために、貴族には1人ずつ入ってもらい、物陰に衛兵を配置します。


私も『女王様』の側に控えることになりました。


愛用の『柄の太い箒』を、ギュッと握ります。


「あなた、いつも、その『柄の太い箒』を持っているのね?お気に入りなの?」


ふふふ、と笑いながら『女王様』が尋ねてきます。


「はい!私の『仕事道具』です!」


そう、私は胸を張って答えました。




大勢の貴族が、順番に『女王様』に挨拶します。


そして『女王様』は【命令】をしていきます。


最初は戸惑うも、『忠誠心』が高い貴族は順応し、自ら【命令】に従います。


『女王様』に対して、敵意がある貴族は反発し、【命令】に抵抗します。強制力を抑えているので、その様子で判別できます。


それら『忠誠心』が低い貴族も『女王様』は、貴族として当然の振る舞いとして、寛大に許しました。



「すまぬ、我の戯れであった。貴殿の『胆力』を、測りたかったのだ。見事、我の『試練』に打ち勝ったな!」



ですが、コーアン伯爵などは「『女』の言う事など、従えるか!」と言って、退出してしまいました。


その後も【命令】により、『腕を「こ」の字にして片足(ショー——!!)を上げる伯爵』や『ガニ股開きになり手を股下から(コマチネ!)クイッとやる子爵』など。


最終的に変なポーズをさせられても、少しずつ【命令】されてるから、気が付かないものなのですね。


『女王様』を見ると、プルプルと震えている……絶対、楽しんでいますよね?




終盤に差し掛かり、ある男爵の番になりました。


扉が開かれると、傲慢な足取りで入室し、吐き捨てるように言います。


「フン、これが『女王』か……」


金髪に青い瞳を持つ若き男爵。


新興貴族の家柄でありながら、『女王』批判を利用して、急速に発言力を増していった人物だった。


「これは陛下、御即位おめでとうございます。自分は、ゼウス・オショクギーン男爵と申します」


慇懃無礼といった感じで挨拶します。


『ゼウス』や『ユピテル』という名前は、『王国』では珍しくありません。


領地経営や人心掌握のために、偉大なる神の名前を名乗ることは、理に適っています。


実際、今日も何人もの『ゼウス』様や『ユピテル』様が、いらっしゃいました。


もしかすると『王国』の人混みで、適当に石を投げれば『ゼウス』様に当たるのかも?


『女王様』は、冷静にゼウス男爵を見据えます。


「ご足労感謝する、ゼウス男爵。貴殿のような若き貴族の力は、この『王国』にとって重要なもの。今日は、貴殿の意見を聞かせてもらえればと思っている」


ゼウス男爵は口の端を歪め、皮肉げに笑いました。


「はっ!『女』である、あんたよりも、俺はこの『王国』の未来を考えているよ!!」


ゼウス男爵の気配が増大し、私は、無意識に愛用の『柄の太い箒』を握りしめます!


「【動くな!】」


今にも飛びかかりそうなゼウス男爵に、『女王様』が【命令】をします。


ゼウス男爵の身体がピタリと止まる。


しかし、ゼウス男爵は余裕を見せている。


「あんたの情報は集めている。これは『サトゥルヌス』の権能。『サトゥルヌス』の祭典の『遊び』の再解釈。『絶対遵守の命令』とやら、だろ?」


『女王様』は苦い顔をしながら叫ぶ!


「よく調べてるようね!だけれど、その拘束から逃れられないのなら、意味はないわね!」


「……なめるなよ!」


ゼウス男爵の気配が高まり、筋肉が隆起していく。『権能』の力を、膂力を高めるために使っているのか!?


「うがぁっ!!」


ついには『女王様』の【命令】の拘束を解いてしまいます。


「あんたが『サトゥルヌス』つまりは『クロノス』ならば、俺は『ゼウス』様がついているんだ!……あんたにとっては『天敵』、だろ?」


ゼウス男爵は、くっくっく、と笑って続けます。




「さあ、バトルの始まりだぜ、『女王』さんよぉ!!」




ゼウス男爵は暗雲を纏い、黒い雷が室内に迸ります。


「お下がりください、『女王様』!」


私、アルテミスは、『女王様』の前に歩み出ます。


「衛兵達よ、今こそ出あえ!王権に仇なす不届き者を捕らえるのだ!」


しかし、衛兵達の動きは鈍い。


半分は『権能』の所持者である、ゼウス男爵に恐れをなしているようにも見える。


それも不甲斐ないが、半分はゼウス男爵の側に立つ。


「……まさか貴様ら、『女王様』を裏切るつもりか!?」


衛兵達に代わり、嘲笑しながらゼウス男爵が語る。


「ふははは。来たるべき王族打倒に備えて、こいつらに賄賂を渡して、警備の中枢に入り込むように指示していたのよぉ……まさか『女王様』と、1対1で面会するチャンスがあるなんて、思わなかったがなぁ」


私は苦虫を噛み潰したような顔をして、ゼウス男爵と裏切った衛兵達を睨み付けます。


「……『王族』が弱まっているならば、支えるのが『貴族』や『騎士』の務め。方向性は違えど『王族』や『王国』や『民衆』を想っての行動かと思えば……貴様らに『忠誠心』など、あってたまるか!!」


私は、愛用の『柄の太い箒』から()()()()()()


箒の正体は『()()()()』であり、私は、反逆者達に剣を向けます。


「『女王様』、万が一があります。あなたの権能は『ゼウス』が天敵!……ここは、私にお任せください!」


しかし『女王様』は、言います。


「いいえ、アルテミス。臣下の不始末は、主の責任よ。こればかりは『女王』の権威を守るために、やらせてもらうわ!」


『女王様』は、賄賂に目が眩み裏切った衛兵達を、睨みます。


「裏切り者の衛兵達よ、【頭が高い、跪け!】」


ゼウス男爵の周りの衛兵達を【命令】により、拘束します。


ありがたい。これで私は、ゼウス男爵に集中できます。




ゼウス男爵は、余裕を見せながら、アルテミスに話しかける。


「アルテミスちゃんよぉ、俺の権能は『ゼウス』、お前の権能は『アルテミス』。神話の主神である俺の『権能』に、お前が勝てるのかぁ?」


「偉大なる『ゼウス』神の名前を授けられながら、その『権能』を使いこなす努力をしてこなかったと見える……我が守護神『アルテミス』に代わって、仕置きつかまつる!」


アルテミスは、口上を言い放つことで、権能の覇気を高める!


「……言ってろ!」


吐き捨てるように言うと、ゼウス男爵は雷を放つ。


一撃必殺の稲妻が、迸る!!


……しかし、アルテミスを捕らえることはできない。


何故ならば、ゼウス男爵が放つ雷さえ、人間の思考速度で考えて、人間の反射速度で制御してから放っているから。


「なせだ?なぜ当たらない!?」


アルテミスのような者に対しては、弾幕のようにバラ撒くのが正解なのだ。


アルテミスは、ずっとゼウス男爵の眼球の動きを追っている……そして、そのすべてを見極め、ゼウス男爵に肉薄する。


「俺は、こんなことも、できるぜ!!」


さすがに雷は放てないと、ゼウス男爵も権能の力を束ねて、雷の剣を作り出す。


「少しはヤルようだな、アルテミスちゃん!しかし男のフィジカルに、女の身でかなうかなぁ!?」


ゼウス男爵に、権能の力が迸る!


不釣り合いにも筋肉が隆起して、一時的に膂力が増したように見える!!


「そら!受けてみろよ!」


ゼウス男爵は、剛剣ともいうべき力で、雷の剣を叩きつける!


アルテミスは、軌道を逸らすのが精一杯で、鍔迫り合いに持っていけない。


「ふははは、軟弱!その程度で、俺の相手が務まるか!?」


刀身は稲妻、振り降ろされる力は剛剣。


ゼウス男爵は、幾度もアルテミスに、必殺の剣を振るう!


アルテミスの剣は弾かれて、ゼウス男爵の剣を逸らすだけ……


……いや、剣の軌道を『逸らし続けている』のだ!!


ゼウス男爵も気付き、焦りの色を見せる。


「てめぇ、これが狙いなのか!?」


アルテミスは、静かに答える。


「あなたの、()()()()()()()()()()()()……すべてが、私に教えてくれる。あなたの攻撃は、私には効かない!!」


アルテミスは、続けて言う。


「これが本物の『騎士の力』!主君に仕え、民の安寧を守る者の力!!その『忠誠心』を笑う貴様達に、私が負けるはずがない!!」


ゼウス男爵は、混乱しながら悲鳴をあげる。


「なんだと!!『騎士』?『忠誠心』?そんなものに俺は負けるのか!?……権力を手に入れるために、どんなことでもやってきた!それが、お前なんかに!!」


アルテミスは、剣を振り抜く。


「成敗!!」


ゼウス男爵は倒れ、静寂が訪れた。




アルテミスは侍女服のまま、女王様の前に片膝をついて跪いた。その姿は、騎士のようだ。


「『女王様』、このような事態になってしまい、申し訳なく存じます。また、衛兵に裏切り者が混ざっていた事も、私の管理不行き届きです」


アルテミスは顔を上げ、『女王様』の目をまっすぐに見つめる。


「それよりも『女王様』に、身分を偽っていたことを謝罪いたします」


『女王様』は静かに驚くも、アルテミスが、ただの女従者ではないことを察する。


「私は、近衛騎士団、筆頭女騎士・アルテミスです。女従者に扮して、陰ながら『女王様』の護衛の任務に就いていました」


アルテミスは、再び深く頭を下げる。


「任務とは言え、主である『女王様』を騙すことになったこと、謹んでお詫び申し上げます!」


しばらくの静寂の後、『女王様』が口を開く。


「顔をあげてください、アルテミス」


アルテミスは顔をあげる。『女王様』は微笑み、告げる。



「あなたの『忠誠心』を認め、感謝いたします、アルテミス。


私は今まで、あなたが騎士であったことを知りませんでした。


あなたに知らずに、無礼を働き、名誉を傷付けてしまったこともあったでしょう。


私が、こうして今日という日を無事に過ごせているのも、


あなたの陰ながらの守護があったからだと、今、思い至りました」


『女王様』は、頭を下げて言う。


「このような、至らぬ『女王様』ですが、これからも忠節を尽くしてくれると嬉しいです!」


アルテミスは、涙ながらに言う。


「……もったいない、お言葉です」




『女王様』の言葉に、私は、涙を流してしまいました。


不意に、剣の腹で、肩を軽く叩かれました。



「『王国』が近衛騎士団、筆頭女騎士・アルテミスよ!


あなたの剣は、誰のために振るわれる?」



それは『王国』式の『忠節の儀』。



「……はい。我が主『女王様』のために、振るわれます!」



『女王様』は微笑み、私に告げます。


「……そう、よろしい」




こうして、私達は正式に『主従』と、なりました。


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