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「特殊能力警察庁東日本地区能力訓練センター」。それがこの施設の正式名称だ。特能警の人間は単に「訓練センター」と呼ぶことが多い。
その名の通り、主に能力の制御、強化などの訓練をするために使われるが、広大な敷地内には、能力研究専門の棟があったり、任務時の作戦本部として利用できる棟があったり、ちょっとした宿泊場所があったりと、様々な目的で利用される。
その中でもひときわ大きな建物が、史朗たちの目的地だった。入館の手続きを経て、征治を先頭に建物内を行く。
最終目的地は上の階ということで、エレベーターホールに移動する。かごが降りてくるのを待ちながら、物珍しげにきょろきょろする史朗に、征治が声をかける。
「柊君」
「あ、はい」
「すまないな。なにも説明せずに連れてきてしまって」
その言葉に史朗は目をぱちくりさせた。
たしかに今日は、行く場所だけ告げられて車に乗り込みはした。だが、今朝はいなくなった友人のことで頭がいっぱいだったし、説明を受けていたとしても上の空で、頭に入っていなかっただろう。そのような旨の話をして、大丈夫だと告げれば、征治は何とも言えない表情を浮かべて、「そうか」と頷いた。
エレベーターが降りてきたので、史朗と雪博が奥に、征治とうつぎが手前に、かごに乗り込む。
「まあ、そうは言っても、だ。軽く説明をしておく」
改まった様子でそう言って、征治は最上階行のボタンを押した。
「今日はここの屋上で、他部隊の仕事の見学をすることになっている」
「仕事の見学?」
どういうことだと言いたげな史朗に、斜め前にいたうつぎが言う。
「史朗くん、今、能力使えないでしょ? でも、能力開花したのは間違いない。だったら、なにかきっかけさえあれば能力が使えるようになるんじゃないかってね。で、手始めにお仕事見学から始めてみようかって話になったわけ」
「ああ、なるほど?」
わかったような、わからないような、曖昧な気持ちで頷いた史朗は、はたと首を傾げる。
「え、でも。それって、第4部隊じゃダメなんですか?」
「能力を使ってるところをただ見るだけなら、それでいいんだけど、仕事見学ってなるとね。第四部隊は、ちょっと特殊だから」
史朗に答えたのは隣を歩く雪博だった。史朗は雪博に視線を投げて尋ねる。
「特殊って?」
「うちの部隊は、そのほとんどを兎と狼の能力者で構成されてるから、他の部隊より段違いに強くてね。でも、だからこそ、隊として動くことがほとんどないんだ」
説明に史朗の頭上にはてなマークが飛び交う。それに気づいた雪博は困った顔をして、すぐ、ハッとした。
「そっか。能力分類の話も、ちゃんとしてないもんね。えっと……」
「現状、能力分類の中で、兎と狼が最強……ってことがわかってれば、今はオッケーじゃない?」
うつぎが口を挟んできた。雪博は少し考えて、おもむろに答える。
「まあ、そう、ですね。うん、そういうこと」
力強く頷いて、彼は説明を再開する。
「第4部隊は、最強だらけの強い隊だけど、僕らが隊として出なきゃいけないほどの凶悪犯って、滅多にいないんだよね」
「滅多にっていうか、今回、第4部隊が結成されてからは、まだ1回も隊としての出動要請はないんじゃない? ねぇ、征治」
うつぎが声を投げかければ、肯定の言葉が返ってくる。