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3 憂色

 入寮の翌日。史朗は、征治の運転する車の後部座席に座って、流れる景色をぼんやりと眺めていた。隣には雪博、斜め前の助手席にはうつぎが座っている。


 昨晩、史朗は行方不明だという友人、昴にメッセージを送ってみたが、ついぞ返事がくることはなかった。電話もかけてみたが無機質な音声が通話できないことを伝えてきただけだった。誰も連絡がつかないとは聞いていたが、実際そうなるとより一層、心配になってくる。


「史朗くん」


 呼びかけられた史朗はおもむろに振り返る。雪博が心配そうな表情でこちらを見ていた。


「なに?」

「あ、いや、えっと。ぼーっとしてるみたいだったから……」


 そこで雪博は黙り込む。少し考えてから、ためらいがちに尋ねてきた。


「お友達のこと、考えてた?」


 その言葉に史朗は視線を下げた。少し間を置いて、こくりと頷く。


 友人が行方不明になっていることは朝陽と陽和(ひのわ)楽楽(ルゥルゥ)明明(ミンミン)の小学生組以外のメンバーには告げている。一般人の行方不明案件は、特能警ではなく、普通の警察の管轄になるそうで、征治やうつぎは、何か情報がないか、警察の知り合いに聞いてみると言ってくれた。情報が入れば、すぐに伝えてくれる、とも。


 いい人たちだ、と史朗は思う。まだ出会って数日しか経っていないが、第四部隊の面々は、他人の不安や心配を真面目に受け取ってくれる人々であると。現に今も、史朗の目の前では雪博が難しい顔をして、「そうだよね」と頷いている。


「心配だよね。そりゃそうだよ。1番、仲が良かったんだっけ?」

「……うん」


 頷くが、会話は続かない。雪博もどう言葉をかけたらいいのか迷っているようだ。


「しろーくん」


 2人して黙り込んでいると、前からうつぎの声がした。史朗と雪博は揃ってうつぎを見た。彼は体をひねってこちらを見ながら、優しい顔をして言う。


「不安なのはわかるけど、そんなうつむいてばっかはよくないな。大事なものを見落としちゃう」

「大事なもの?」


 言葉の意味をはかりかねて眉をひそめる史朗に、うつぎはそっと笑う。それは普段の飄々とした雰囲気を感じさせない、真面目な気配の含まれた笑みだった。


「そう。足元ばっかり見てると、いろんなこと見逃しちゃう。もしかすると、昴くんに繋がる何かは、すぐ近くに転がってるかもしれないよ」


 思いもよらないうつぎの変化と、発された言葉の何とも言えない力強さに、史朗は困惑した。どう返答したものかと思案する彼に、うつぎは続けて言う。


「だから今は、下を向くときじゃ、ないんじゃないかなって、おれは思うな」


 そこまで言ったところで、うつぎの雰囲気がまた変化した。いつもの明るい様子で彼はおちゃめにウィンクする。


「人生の先輩として、ね」


 背後にバチコーンと擬音語が見えそうなほどの綺麗なウィンクに、やはりどう反応すればいいかわからず史朗は困り顔をした。見かねた征治が大きな溜息をつく。


「なにが人生の先輩として、だ。たかだか10程度の歳の差だろう」


 呆れたと言いたげな口ぶりでそう言ったあと、征治は助手席を一瞥して、ぼそりと付け加える。


「……ジジくさいぞ」


 その言葉にうつぎは一瞬、固まって、それからすぐにぎゅっと唇を尖らせた。顔をしかめて運転席に向き直る。


「10違うって結構な差ですけど? 世代間ギャップなめてんの? てか、爺くさいってお前、同い年でしょうが……!」


 訴えかけるうつぎを、征治は再び一瞥した。そして、またぼそりと答える。


「……オレは、お前ほどジジくさくない」


 返答にうつぎは再び固まって、おもむろに、にっこりと笑った。とはいっても、笑っているのは顔だけで、目は笑っていないのだが。


「案外そう言う奴ほど爺くさいときあるよー?」


 うつぎの言葉に征治がぼそぼそと反論し、静かな応酬が続く。その様子を史朗は呆気に取られて眺めていたが、ハッとして隣を見た。


「あの、止めなくて、いいの?」


 征治とうつぎを指さしながらコソコソ問いかければ、雪博は「あー」と声を洩らして苦笑する。


「あれは軽口っていうか。うん、本気のケンカじゃないから、大丈夫。いつものことだよ」

『いつものことなんだ』


 内心で呟いて、史朗は前の席の2人を眺めた。彼らはお互いのジジくさいところを変わりばんに挙げあっている。不思議と罵り合っている感じはしないので、本当に軽口を叩きあっているだけのようだ。


 淡々とうつぎに言葉を返す征治を見て、史朗は思う。


『征治さんは、もっと……怖くて、真面目なイメージだったんだけどな』


 出会ってから数日、入寮してからはまだ一晩しか経っていないが、最初に会った時の強面で威圧感があるイメージは、史朗の中で少し払拭されている。


『うつぎさんは……』


 視線を動かす。征治の言葉にいちいち表情を変えながら答えるうつぎの様子に、史朗は内心でしっかり頷く。


『イメージより面白い人だな。うん』


 飄々として、なにを考えているか分からないところに変わりはないが、思っていたよりずっと面白い人、というのが史朗のうつぎに対する今の印象だ。


 史朗がそんなことを考えている間に、言葉の応酬は終わりを迎えたらしい。うつぎがわざとらしく荒い呼吸をしてから吐き捨てるように言う。 


「くそっ、爺レベルはっ、五分五分か……!」


 征治のほうはまだ納得がいかないのだろう。不満げな様子で言葉を零す。


「だから、オレはお前ほど」

「あっ、史朗くん、ごめんね」


 うつぎは征治を無視して振り返った。諦めたように溜息を吐く征治を横目に、自分と征治を交互に指さしながら続ける。


「おれら、これで通常運転だから。気にしないでね」

「あ、はい。なんとなくそんな気はしてました」


 史朗の返答にうつぎはにこっとする。


「理解が早くてよろしい」


 それから彼は改めて体をひねって史朗を眺めた。史朗が小首を傾げると、うつぎは「あぁ」と微笑する。


「いや、寮でも言ったけど。似合ってるね、隊服(それ)


 言って指さすのは史朗の服装だ。今の彼は、征治、うつぎ、雪博同様、あの軍服のような制服を身にまとっていた。特能警の一員として出かけるからこれを着ろと、今朝、渡されたのだ。なんでも、この服は部隊入りした者だけが着ることのできる特別製だとかで、「隊服(たいふく)」という通称も普通の制服と言い分けるために使われているものらしい。


 黒を基調とした史朗の隊服は、雪博が着ているのとよく似たものになっていた。ダブルブレストという、打合せを縦2列に並んだボタンで留めるデザインのジャケットに、パンツ、編み上げブーツと手袋。ジャケットの下に着たワイシャツの首元、雪博はきっちりとネクタイを締めているが、史朗のはスカーフをチーフリングでゆるく留めるスタイルになっている。


「ですよねですよね。すごく似合ってる」


 うつぎの指摘に雪博も嬉しそうに同意する。褒められて、史朗は気恥ずかしそうに視線をさまよわせた。胸元のチーフリングをいじりながら、もそもそと言う。


「でも、こういうの着馴れないし、ちょっと恥ずかしいっていうか。普通の制服あるなら、そっちじゃダメなんですか?」


 うつぎと雪博は顔を見合わせた。それから、苦笑交じりに雪博が言う。


「わかるよ。最初はちょっと恥ずかしいよね」

「でも? 実は? 内心? カッコいいなとか思って? テンション上がっちゃってたり?」


 雪博に続けて、うつぎがニヤニヤしながら尋ねてきた。史朗はぐっと押し黙って、それから照れくさそうに視線をそらせる。


「や、うーん……。まあ、そりゃあ」

「だよねぇ」


 ニコニコ頷いてうつぎは前に向き直った。おもむろに腕を組み、しみじみと言う。


「雪くんも征治も、隊服貰ったときは、今の史朗くんと同じ顔してたっけなぁ。うーん、懐かしい」

「ちょっ、うつぎさん。やめてくださいよ……」

「懐かしむな。親か」


 雪博の恥ずかしそうな声と征治の呆れ声が同時にうつぎにつっこんだ。うつぎは笑いながら「ごめんごめん」と謝ると、バックミラー越しに史朗を見て口を開く。


「まあ、史朗くんがそう言いたくなるのもわかる。わざわざ違うもの着る意味……ってなるもんね。でも、おれたちが隊服を着るのにはちゃんと理由があるんだよ」

「理由」

「そ」


 史朗が繰り返した言葉に頷いて、うつぎはにこやかに説明を始めた。


「隊服を用いる意味は大きく分けてふたつ」


 作ったピースサインを、前を向いたままゆったりとした動きで背後に見せて、うつぎは中指だけを折る。


「ひとつめに、能力を最大限活かすため。気づいてるかもだけど、おれら全員、服のデザイン違うでしょ?」


 その言葉に史朗は改めて、自分と周りの隊服を見比べた。


 史朗、雪博、征治の3人は、ダブルブレストのジャケットを着ているが、襟や肩章の形、袖や裾の丈、手袋の有無や装飾品など、少しずつ違っている。うつぎに関しては、4人の中では特に独特な隊服で、袖が肩口から袖先に向けて大きく広がるジャケットのデザインはどこか漢服を彷彿とさせる。


「たしかに、全然違う」


 史朗の呟きにうつぎはうんうんと頷く。


「隊服はね、もれなくオーダーメイドなんだ。個々の能力に合わせて調整される。例えば、おれなんかはこうやって」


 言葉を切ったうつぎが史朗に見える位置で右の掌を上に向ける。隣で征治が迷惑そうな表情をして体を少し右側に寄せた。同時にうつぎの掌の上がにわかに光る。次の瞬間、その手にはサバイバルナイフが握られていた。


「え!? 今、どこから」


 驚く史朗を振り返り、うつぎは「いい反応だねぇ」とにんまり笑う。


「これがおれの能力。武器を生み出す能力なんだけど、今みたいに出すよりさ、こうやって」


 彼は再び言葉を切り、掴んだナイフごと右手を左袖に、何も持たない左手を右袖に突っ込んだ。じっとこちらを見てくる史朗を楽しげに眺めながら、うつぎは袖から両手を引き抜く。


「おわ、銃になってる……」

 目を見開いて、史朗が声を上げる。うつぎが持っていたはずのナイフは忽然と姿を消し、その両の手には1丁ずつ、拳銃が握られていた。


「こんな感じで、隠しながら出した方が先を読まれにくいでしょ?」


 得意げに言ううつぎの横で、征治がしかめっ面をして「車内で武器を振り回すな。危ないから消せ」と小言を言っている。だが、うつぎはどこ吹く風といった様子だ。


「袖に、隠してた……?」


 怪しむ史朗にうつぎはわずかに唇を尖らせると、握っていた拳銃を1丁、放り投げてきた。慌てて受け取ろうとした史朗の目の前で、銃は輝きと共に姿を消す。


「消えた」

「能力で生み出してるからね。出し入れは自由なの」


 史朗の呟きに答えながら、うつぎはもう1丁の銃も消して見せる。能力者が力を使うところをこんな間近に見るのは、史朗にとって初めての経験だ。ただただ驚く彼にうつぎは正面に向き直りながら言う。


「とにかく。部隊入りすると普通より凶悪な相手と戦うときもあるからね。能力を最大限活かせるデザインの服になってるってわけ」

「なるほど」


 頷きながら史朗はこれもそうなんだろうかと思いながら、自身の隊服を眺めた。そんな彼にうつぎは言う。


「で、ふたつめの理由なんだけど」


 その言葉にハッと史朗は顔を上げた。うつぎはミラー越しにその様子を確認して、先を続ける。


「ふたつめの理由は、識別しやすくするため。おれらは任務なんかで部隊入りしてない警官と合同チーム組むこともあるからね。それぞれのリーダーが指示を出しやすいよう、隊員か否かわかるようにしてる。まあ、あと、君らの場合は能力の識別も兼ねてるかな」

「能力の識別?」


 言葉の意味を測りかねて、史朗が小首を傾げるのがミラーに映る。横で雪博が「あ」と声を上げた。


「僕らだけ隊服の色が違う理由、でしたよね、それ」

「正解」

「そういや、色違う……」


 雪博の言葉にうつぎがにんまりと頷く。史朗は黒、雪博は白、征治とうつぎは紺色が、それぞれ隊服のベースカラーになっている。


『そういや、澪さんと綾祢さんも紺色のやつ着てたっけ』


 昨日、寮に着いてすぐに会った2人の姿を史朗は思い返す。他のメンバーのことはよくわからないが、少なくとも、今まで見てきた隊服は自分と雪博以外はみな、紺色だ。


「たしか、元々、特能警の制服は能力の種類によって色分けされていたんでしたっけ」


 雪博が前の席に向けて問いかければ、「そのとおり」とうつぎが答える。


「昔は、誰がどの分類の能力者なのか、パッと見で判別できたほうがいいとされてた。でも、能力に合わせて、色を変えて制服作るのはコストかかるでしょ? それに、いざという時、能力を見分けられない方が、なにかと都合がいいって話になって、一昔前に色が統一されたんだ。君ら、狼と兎を除いてね」


 うつぎが後方の2人を一瞥した。史朗は不思議そうに尋ねる。


「なんで、全部一緒にしなかったんですか?」

「さあねぇ。でも、君らは特別だから、守るために、じゃないかな。緊急時に、誰がどこにいるのか素早く判断できるように、隊服の色で能力の識別をしてるんだと思うよ」


 そう答えてうつぎはぐっと伸びをした。次の瞬間、彼は感情の読めない表情で冷たく呟く。


「まあ、おれ的には悪手(あくしゅ)だ思うけどね」

「え、すみません、なんて?」


 小さな声は後部座席にまではきちんと届かなくて、史朗が思わず問いかける。けれど、うつぎはにっと笑って振り返り、明るい口調で答えた。


「ああ、いや。こっちの話。それより、右手をご覧くださーい」


 バスガイドのような声音に促され、史朗は窓の外を見た。長く続く鉄柵があって、冬特有の葉のない木々と、その奥に灰色の大きな建物が見える。車が曲がり、門の前で停止する。

 警備員に身分証を提示し、敷地内へ車を進めながら、征治が言った。


「着いたぞ。ここが特能警訓練センター。今日の目的地だ」


***


 「特殊能力警察庁東日本地区能力訓練センター」。それがこの施設の正式名称だ。特能警の人間は単に「訓練センター」と呼ぶことが多い。


 その名の通り、主に能力の制御、強化などの訓練をするために使われるが、広大な敷地には、能力研究専門の棟があったり、任務時の作戦本部として利用できる棟があったり、ちょっとした宿泊場所があったりと、様々な目的で利用される。


 その中でもひときわ大きな建物が今回の目的地だった。入館の手続きを経て、エレベーターホールへと移動する。エレベーターが降りてくるのを待ちながら、物珍しげにきょろきょろする史朗に、征治が声をかけた。


「柊君」

「あ、はい」

「すまないな。なにも説明せずに連れてきてしまって」


 その言葉に史朗は目をぱちくりさせた。


 たしかに今日は、行く場所だけ告げられて車に乗り込みはした。だが、今朝はいなくなった友人のことで頭がいっぱいだったし、説明を受けていたとしても上の空で、頭に入っていなかっただろう。そのような旨の話をして、大丈夫だと史朗が告げれば、征治は何とも言えない表情を浮かべて、「そうか」と頷いた。


 エレベーターが降りてきた。史朗と雪博が奥に、征治とうつぎが手前に乗り込む。

 どうやらこの建物は地下1階、地上4階の造りになっているらしい。征治が4階のボタンを押しながら口を開く。


「軽く説明をしておく」


 ドアが閉じて、エレベーターがゆっくりと上昇を始めた。


「今日はここの屋上で、第5部隊の仕事を見学することになっている」

「仕事の見学?」


 どういうことだと言いたげな史朗に、斜め前にいたうつぎが言う。


「史朗くん、今、能力使えないでしょ? でも、能力開花したのは間違いない。だったら、なにかきっかけさえあれば能力が使えるようになるんじゃないかってね。で、手始めにお仕事見学から始めてみようかって話になったわけ」

「ああ、なるほど?」


 わかったような、わからないような、曖昧な気持ちで頷いた史朗は、はたと首を傾げる。


「え、でも。それって、第4部隊じゃダメなんですか?」

「能力を使ってるところをただ見るだけなら、それでいいんだけど、仕事見学ってなるとね。第4(ウチ)はちょっと特殊だから」

「特殊?」


 史朗が雪博の言葉を繰り返したタイミングで、弱い衝撃と共にエレベーターが止まった。「4階です」のアナウンスと共にドアが開く。うつぎが開くボタンを押しながら、残りの3人に先に出るよう促した。


 ドアの向こうで史朗たちを出迎えたのは、冷たく伸びた廊下だった。淡いグレーの床に、同じようなドアがいくつも続くその廊下は慣れていなければ迷子になってしまいそうだ。


 窓の外は晴れているが、時折、強い風が吹いて、木を揺らしているのが見える。


「こっちだ」


 先導するように征治が歩き出した。あとをついて歩きながら、雪博が「さっきの続きなんだけど」と口を開く。


「第4部隊は隊員のほとんどを兎と狼の能力者で構成されてるでしょ。だから、他の部隊と比べて桁違いに強いんだよ。でも、だからこそ、隊として動くことがほとんどないんだ」


 説明に史朗の頭上にはてなマークが飛び交う。それに気づいた雪博はきょとんとして、すぐ、ハッとした。


「そっか。結局、能力分類の話も、ちゃんとしてないもんね。えっと……」

「能力分類の中で、兎と狼が最強……ってことがわかってれば、今はオッケーじゃない?」


 1番後ろを歩くうつぎが口を挟んできた。雪博は少し考える素振りを見せて、それから苦笑交じりに頷く。


「まあ、そうですね。うん、能力分類上最強なのが兎と狼。最強が集められた隊ってことは、隊自体が最強ってわけで。そこまでは、わかる?」


「そういうことなら、うん、なんとなく」


 頷いた史朗に、安堵の表情を浮かべて、雪博は続ける。


「でも、僕らが隊として出なきゃいけないほどの凶悪犯って、滅多にいないんだよね」

「滅多にっていうか、今回、第4部隊が結成されてからは、まだ1回も隊としての出動要請はないんじゃない? ねぇ、征治」


 うつぎが先頭を行く征治に問いかける。征治は背後にちらりと視線を投げた。


「そうだな。出動要請があるかもしれないと連絡を受けたことはあったが……あのときは、結局、要請なしで終わったからな」

「じゃあ、こう……どう仕事してるんですか?」


 史朗から投げかけられた至極当然の質問に、3人はちょっと視線を交わし合った。代表して征治が答える。


「他の隊からの要請を受けて、必要な人材を出向かせている。ほら、君が入寮した日。澪が出かけて行っただろう? あんな感じだ」

「あー、なる、ほど」


 史朗は曖昧に頷いた。納得とまではいかないが、なんとなく雰囲気は理解できた。隊として動くことはほとんどないが、個人単位で見れば仕事の依頼が来る。第4部隊はそういう隊なのだろう。


「ここの上だ」


 征治が廊下の中ほど辺りで足を止めて指を指す。そこには上階に続く階段があって、かすかにではあるが、人が話す声が聞こえている。


 4人で階段を上がりながら、史朗は頭の中を整理する。隊としての仕事を見たいなら他の部隊の見学をするしかない理由はとりあえず理解できた。


『でも、それって』


 ふと、新たな不安が浮かび上がって、史朗は足を止めた。3人が不思議そうに立ち止まる。


「あの、オレ、まだ戦えないんですけど」


 その言葉に3人はきょとんとした。史朗は慌てて続ける。


「えっ、任務って、戦ったりするんですよね? 戦えないの、危なくないかな……って」

「ああ! 大丈夫、大丈夫!」


 真っ先に答えたのはうつぎだった。彼は笑いながら言う。

「今回、戦う任務じゃないから」

「え」


 どう言う意味だと言いたげな史朗に、うつぎはにこにこと告げた。


「戦うだけが、特能警の仕事じゃないってこと」

「ほら、行くぞ」


 史朗が言葉の意味を理解するより先に、最上段まで上がり切った征治が呼びかけて、屋上のドアを開けた。

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