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第1話 トレーニング①

ツーーーーッ。


アカリは、背中にゆっくりと冷や汗が流れ落ちるのを感じた。

川べりの草むらの中で、膝をつき息を殺して周囲の人間達が離れるのを待つ。

顔をなでるススキの穂が、くすぐったく煩わしい。

手足につけられた金属製の重りが、何もしていないのにジワジワとアカリの体力を奪っていく。

丸腰でなければ、いや、この重りさえなければ、たかが人間の数名、一瞬で仕留められるのに。

じっと待つのはアカリの性分ではなかった。


草むらからわずかに頭を出し、前方を確認する。

黄金色のススキ野は川べりだけで、その奥に大きな木々が並ぶ濃緑の森が広がっている。

温暖で水資源に恵まれたこの地域の森は、木々が密集しており生命に溢れている。

爽やかな滴る緑を感じる匂いは、それだけでお腹がいっぱいになるようだ。

もちろん、()()()()()にももってこいだ。


アカリの後方では、水が穏やかに流れている。

この辺では最も大きな川がさやさやと何とも心が癒される歌を歌っている。

汚染の少ない清潔感のある匂いにも若干の冷静さを呼び戻される。

しばらく暑い日が続いているため、水位は決して高くはないが、オレンジ色の日光の下で透明な水がキラキラと輝く。

ところどころで顔を出すオレンジ色に染められた大きな岩が、川に表情を与えている。

色が濃くなるにつれて、アカリの本領が発揮される時間帯が近づく。


アカリは自分を落ち着かせるために、片手を膝の隣に置き、ざらざらした土とそれに交じって川からあがってきたのであろう丸くなった石たちを撫でた。

無意識にいくつかの石を拾い、ポケットに無造作に突っ込む。

もう少し、もう少し耐えられたら...。


そんなアカリの願いを心得ているかのように、人間達の匂いが近づいてくる。

人間だけじゃない。苦い、火薬と鉄の匂いもする。

相手は武器を持っている。だから、一人ずつ確実にやらなければ、こちらがやられる。

しかし、団体行動が大好きな人間たちが、こんな状況で単独行動をする訳がない事は、アカリは痛いほど心得ていた。

どうやって奴らをバラバラにするか、もう疲れて動ける気が全くしないが、それでも動くしかない事は本能で分かっていた。


(...?)


人間だけじゃない。

何か別の生物の匂いが混じっている。

うまく誤魔化しているが、何かもう一体、いる。

でも、何かが分からない。馴染みのない匂いだ。

人間達と一緒にいる。

これは、作られた匂いだ。


(私の特技を知っている奴が作ったな)


彼らは、すぐそこまで迫っている。

木々の間を縫って、アカリの場所を特定しようとしているのがわかる。

ここまで来るのも時間の問題だ。

アカリは、覚悟を決めて目を閉じた。

水の音の中に、そよ風にゆられるススキ同士の擦れる音が混じる。

頬を撫でるススキの穂を感じながら、人間達の匂いに焦点を定める。


目を開いたら、彼女の顔はハンターのそれになっていた。


狩りの時間だ。

何人いようが、全員、狩る。


アカリは、極力音を立てないように腰を落とし、そろそろと森に向かって移動し始めた。



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