つよがり
あの日のキミの背中を今も覚えてる
あの背中は泣いていたのか?
実はボクも泣いていた。
ココロの中でね。
ボクには恋人がいた。とても好きだった。
だけど、些細なことですれ違ってしまったんだ。
そこからどんどん溝が広がった。
あの日は最後のデート、じゃなくて別れ話をしたんだ。
もう、どうにもならない。
そんな事は分かっていた。それでもボクは彼女が好きだった。
最後はキレイに終わらせたい。だからボクたちは穏やかな時間を過ごした。
彼女も笑顔を作りながら
「貴方は良い人だから、すぐに新しい彼女ができるよ」
彼女の瞳から一瞬光るものが見えた気がした。
「良い人だけどね……」
光るものがハッキリ見えたけど、ボクは気づかないフリをした。
「私はちゃんと貴方が好きだったよ。それは分かっていてね。今までありがとう。貴方と一緒にいた時間は宝物だよ。これからも元気でね」
そうなんだ。今ならハッキリ分かるんだ。
彼女はボクを好きでいてくれた。
なのに、あの頃のボクは彼女の気持ちを疑ってしまった。
彼女にもっと責められると思っていたのに……。
ボクは彼女をまっすぐ見ることができないままに
「こちらこそありがとう。キミを好きになって良かったよ。幸せにしてあげられなくて本当にごめん」
最後に彼女に伝えた言葉は今も覚えてる。
「キミは素敵な人だから、新しい恋人も見つかって幸せになれるよ」
「だけど……」
「もし、10年後、どこかで偶然出逢えたら……」
「もし、その時にお互いに独身で恋人がいなかったら……」
「その時は結婚しようか」
なんでそんな事を言ったのか分からない。
いや、実は分かっている。
言えなかった「好き」という言葉の代わりの「つよがり」
ボクの意味不明なプロポーズに彼女は小さく笑って
「もう遅いけど……」
瞳の光るものを隠さずに
「10年後、結婚してもいいよー」
そう言って去っていった。
お互い分かっていた。もう二度と逢えないことを……。
最後に残ったのは、彼女の悲しい背中とボクのツヨガリだった。