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8/13

メルハ17歳(2)

 一般公開よりひと足先に産まれたばかりの王子に拝謁し、あとはお祝いの期日を待つばかり。夕方になる前にイブリーカ国王夫妻とも訪問を許され、歓迎してもらえた。


 カレヴィの希望で三日間は王都周辺や貴族街を中心に見てまわることに費やした。入国する際には旅客機で多くの護衛を連れてきたのかと思いきや、治安のよい場所を観光するためか日替わりで二人ほどしかつけなかった。残りは観光を楽しんでいるのかもしれない。


 当日パーティの前には馴染みの侍女たちが支度を手伝ってくれて、おしゃべりが弾んだ。


「素敵なドレスでございますね。とても大人びてお見えです」


 結婚を控えていることもあるし、深い色の引き締まったデザインにしてもらった。紺にも紫にも見える。


「カレヴィと選んだのよ」


「婚約者さまですね。あちらの生活はいかがですか?」


「慣れないことが多くて毎日が新鮮だわ。楽しい、という意味でね」


「それはよろしゅうございました」


 彼女は頷きながらも辛いことはないか、と訊きたそうにしていた。でもそれはカレヴィに失礼だからと口を笑みの形にした。


「わたくし、あの方と結婚したいの。他を薦められても、カレヴィがいいのよ」


「まぁ、まぁ。惚気に私の耳が溶けそうでございます」


「いやだわ。ごめんなさい」


「とんでもない、喜ばしゅうございます。もっと聞かせてくださいませ」


 侍女たちにからかわれていると、扉に隙間が開いた。


「メルハ様、カレヴィ様がお迎えにいらしております」


 囲んでいた女たちが頷き合って、壁際に控えた。

 入ってきた男には一分の隙もない。正装に着られることもなく、彼独特の鋭利さは一種の色気へと変換されていた。


「きれいだが。……背伸びしすぎではないか?」


 いつもより高いヒールの靴を履いてはいるが、指摘はそちらではない。くっきりとした目尻とか、キリリとした眉や肌を出すドレスだとかのことを言った。


「相応よ。わたくしの年齢を知っているくせに」


 目泳がせるカレヴィは記憶を辿っているようであり、己の婚約者を眺めて答えを探していた。


「じゅう……なな……?」


「正解よ。でもどうして自信なさげなのっ」


 実際は、メルハは侍女に頼んで少なくとも二十歳過ぎに見えるように化粧を施してもらった。二十五歳のカレヴィに釣り合う年齢に外見だけでも引き上げたくて。


「普段の愛らしさを出してもよいのではないかと思ってな」


 この男のために努力しているのに、台無しにすることを言う。それも次の一言で許してしまった。


「参ろうか、私の姫」


 コートを纏う肘に巻きつけた腕でぐっと体を寄せる。ヒールのぶんだけカレヴィが近い。「私の姫」とはメルハを「私の妹姫」と呼んだ兄に対抗してのこと。勝手に緩む顔は年相応で、斜め上からは大人びた微笑みが返ってきた。




 パーティでメルハも幸せそうな顔で挨拶に回ったり、婚約者を紹介したりしていた。それがだんだんと引きつり、口角が下がっていく。


 茶髪に見えなくもないキャラメル・ブロンドに紺の強い紫(マルベリー)の瞳はイブリーカ帝国の貴種の特徴ではない。

 上流階級からの招客が多い今夜の第一王子誕生パーティでは目立つ。いつもはギンとしている目も微笑みひとつで好ましい雄々しさを残すのみ。カレヴィと挨拶をする女性たちの三人に二人は終いには後ろ髪を引かれたように振り返り、熱のこもった流し目をくれた。

 異国っぽ(エキゾチック)さの混じる低音での発音が、完璧な外見を崩し甘さを生み出す。もっと話を聞きたいと女心を疼かせる。


 カレヴィとメルハの身長バランスも付け入る隙となっている気もした。

 彼女らは積極的に言い寄るわけではない。けれどもカレヴィに絡むうっとりとした恋の始まりをいくつも見てしまい、メルハの身のうちの何かがすり減っていく。


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