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メルハ14歳(4)

 戦闘機(ファイター・ジェット)はそれこそべらぼうに高い。家が何十軒と買えるくらい。個人の所有物だというのも、カレヴィの虚勢ではなさそうだ。

 ここに至ってようやくメルハは自分がどんな家に嫁ぐのか。自国で愛された王女が他国の王家でもない、いち軍事家の統治者に迎え入れられる意義を理解しはじめた。


「そこまでして……」


「姫の信頼を得られるのなら安いものだ」


 カレヴィはメルハと目を見て対話をして、要求を聞き、また叶えようとしてくれている。


「そんな物騒なもの、飛ばしてくださらなくてけっこうよ」


 鼻をすする。カレヴィのハンカチで目尻を拭かれた。ありがたく受け取って、濡れた頬を押さえる。


 こうしてカレヴィは訊けば答えてくれるのに、交流を拒絶してきたのはメルハの愚かさゆえだ。いまからでも取り戻せるだろうか。


「……わたくしのお部屋にイブリーカの調度品を揃えてくださったでしょう。とても嬉しかったわ。ありがとう」


 微笑みには頷きが返ってきた。


「でも、どうして用意してくださったのが客間だったのかしら。教えてくださる?」


「あの部屋が一番広いからだ。狭い部屋には慣れてないだろう」


 理由はメルハを遠ざけるためではなかった。

 母国の王宮の造りと比べてしまえば、アーティサーリ家屋敷のどの部屋であっても小さい。とはいえ、メルハは伯爵家の養子となったときに適度な大きさの部屋での生活を経験している。部屋の大小に文句をつけるつもりはなかった。


「イブリーカでは夫婦の部屋は同じ一室か、隣りあっているものなのだけれど、グルーウィスではどうなの?」


 それで結婚相手として歓迎されていないと悲しんだわけがカレヴィにやっと知れたようだった。


「まとめて一室が一般的だ。だがメルハだって急に男と同室は嫌だろう。私も未成年女性と部屋を同じくするのは居心地が悪い。他に気に入った部屋があれば移ってくれてかまわない」


 はじめに抱いた乱雑な印象からがらりと変わった。口にしないだけで、こまごまとした気遣いがどこそこにある。


「いまのお部屋、とても気に入っているわ」



 

 突如としてサイレンが鳴った。肩を揺らしてカレヴィの腕に手を置く。


「これは、なんなの?」


「十時と十五時に鳴らしている」


「模擬訓練や、事故ではなく……?」


「いや、休憩を兼ねた……間食の時間を知らせているのだ」


 間食、つまりおやつどき。怯えたのが馬鹿らしくなる理由だった。


「もっとおだやかな音をお使いになってくださらない?!」


「ヘルメットやイヤーマフをしていれば聞こえない音では困る」


 軍事訓練では騒音を出すこともあるから、と。

 細い体から力が抜ける。カレヴィの肩に額をつけた。父や兄よりよっぽど筋肉をつけている体はこのくらいの重しでは微動だにしない。メルハはこの人に頼っていいらしいことを学んだ。



 メルハはこれまでの行いを素直に反省し、カレヴィも謝罪を受け入れた。もとより年下の彼女に本気で怒っていたわけではない。子どもの癇癪だから、と流す気持ちのほうが大きかった。カレヴィにきょうだいはなかったが妹ができたのだと思うことにしている。


 ソンダーブロにすっかり馴染んだ婚約者をカレヴィはどこに行くでも連れ回すようになった。王城での二人の婚約披露パーティで、発表前に王弟がメルハに求婚するまでは。


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