プロローグ むかしとやくそく
―――僕が小さい頃の話。
僕達が住んでいる、都市・支桜市。普通では有り得ない、365日・1年中散る事が無く無限に桜が咲き続ける。
その第1地区・中央区。
支桜市を支える十二支族という数漢字が付く苗字の一族達が集まる、地区の一際大きい屋敷の庭で、幼かった僕は泣いている黒い髪の美しい少女と出会った。
―――。
当時5歳だった僕はその日、何故か祖父に連れられて中央区にある一際大きく立派な屋敷へと赴いた。
「おおきいなぁ…」と感嘆する程大きい昔ながらの日本伝統の立派な屋敷だ。
祖父と屋敷の入口に入り、大きな池橋を渡り、家屋に入るところで祖父に『ここで待っていなさい』と言われそのまま家屋の外で待つ事になった。
急に連れられて家屋の中ではなく外で待つことになるとは……。何も持ってこなかったから手持ち無沙汰で暇だ……。
僕は何もすること無くただしゃがみこんで池ですいすいと泳いでいる鯉の数を数えて暇潰しをした。
……20分程経っただろうか。
「もう、さかなをかぞえるのあきたなぁ…」
ため息をつき、ぶすっと不貞腐れ僕は足を抱えた。
ずっと何も無い状態で外に待たされる現状に僕は限界がきてしまった。他に暇つぶしが無いか首だけをまわし、周りをキョロキョロと見廻した。
「やっぱり、ここのおやしきおおきいなぁ」
小さい子供ながらの好奇心がむくむく湧く。
これだけ大きな屋敷内を探検すること無く帰るのは惜しいと思った。
僕は立ち上がり祖父に待っていなさいと言われた場を離れ、この立派な屋敷を探検すべく奥へ進んだ。
家屋を囲むように植えている大きな桜の木を1本づつ片手でぺたっぺたっとタッチしながら小走りで進んで行くと、お屋敷の裏手の方に着いた。
お庭だろうか、屋敷入口にあった大きな池とはまた違う小さな池が1つ。周りには屋敷の主の立派な植物や盆栽等が置いてある。
小さな池の前に花柄の黒い着物を着た小柄の少女が1人背を向けてうずくまっていた。
「うっ、うぅ…」
お腹痛いのかな?具合悪いのかな?と思い、少しづつ近づいたら、うっ、うくぅっと聞こえ少女が泣いてるのに気づいた。
「かぁさま…、とうさま…」
「どうして…。わたしをおいて…。やだよぉっっ…」
涙をぽろぽろ落とし、小さくか細い声で嗚咽を漏らしながら泣いていた。
「だいじょうぶ?」
まさか他に人がいるとは思わなかったんだろう。少女はビクッとするとゆっくりこちらに顔を向けた。
腰まで伸びた黒くさらっとした綺麗な髪の間から色白だが泣いて目が赤く腫れてしまってる。
小さな顔と小柄な体で可愛らしく、綺麗な瞳から大粒の涙を溜めていた。
「…だれ?」
「えっと…。きょうおじいちゃんといっしょにここにきて、いりぐちでまってろっていわれたけど、まってるのあきちゃって。ひまだからここのおやしきをたんさくしていたんだ」
「……そっかぁ」
勝手に屋敷の敷地内に侵入した自分を怪しむ事無く、同い年位の少女は涙を拭った。
僕は何故泣いていたのか好奇心で気になった。
「ねぇ。なんでないてたの?」
と、子供ながら不躾に聞いてしまった。
結果、少女はまたじわっと瞳に涙を溜めてしまって今にもポロッと頬に2本の小さな滝が流れそうだ。
「ごっごめん!いいたくなければいいんだ!」
僕はビクッと驚き、手を大きく振って慌ててしまった。
「ううん…」
少女は頭を下げ首を振った。
「あのね……、きのうのよるにね、かぁさまととうさまがしんじゃったの...」
「えっ?」
まだ、僕と同じ歳ぐらいなのに……。
自分だって物心ついた時から母親はいなかった。
一緒に住んでいるのは父親と2人だけだ。
祖父は週に何度か顔を出しに家に来る。
母親居ない寂しさは凄く分かる。
しかも、この女の子は父親もだ……。
「みんなねしんじゃってね…くわしくはね、いえないけどね。わたしね、これからね、ちいさいからまだまだだけど、しゅぎょうしてもうすこし大きくなったら、じゅうにしぞくのみんなと、わるいおにさんからいっぱんのみんなをまもるためにいっぱいいっぱいがんばらないといけないの」
「そしてじゅうにしぞくのひとりとして、たくさんのひとたちをわたしがまもるの」
少女が何を言っているのか分からず頭に沢山のハテナが浮かんだ。でも、折角この子がお話してくれているのに変な態度を取るのはダメだと思った。
だから僕は、「そっかぁ、それはすごくたいへんだね。おおきくなったら、みんなをまもるのはすごくえらいし、かっこいいよ」と少女の頭を撫でながら優しく声をかけた。
「ひとりじゃなくて…。いっしょにたたかうぱーとなーと…。でも…まだわからない。もしかしたらひとりになるかも…」
「ん〜?」
またよく分からなくて自分は頭を傾げた。
「……じゃあ、おおきくなったらきみのぱーとなーになって、じぶんもいっしょにたたかうよ」
にこっと笑って少女に言った。
少女は「えっ?」と驚いた顔をした。
「きみがつらいときやくるしいときはじぶんがまもってあげる」
その言葉に少女の瞳がキラキラと輝く。
「ほんとうに?」
「ほんとうだよ。やくそくするよ」
自分は指切りするのに小指を差し出した。
「うん!やくそくだよ!」
少女はにこやかに笑い反対の小指を差し出した。
子供の小さな小指をお互い絡め合う。
指切りをし、2人で笑い合った。
「ありがとう」
頬を染めた少女は、自分の方に顔を近づけた。
自分の左頬に暖かく柔らかい感触を感じた。
離れた少女の顔がりんごのように真っ赤になっていた。
一瞬の出来事だけど少女の行動に僕も顔が熱くなった。……心臓がとてもドキドキする……。
「あ、あの!」
「……?」
「ぼ、ぼく、ぜったいまたきみにあいにいくから!だから……」
「うん……」
「だから、だからきみのなまえをおしえ……!」
「伊織」
地を響くような声に僕は思いっきりビクゥとなった。今度は違う意味で心臓がドキドキする…。
振り向くのが怖い……。でも……。僕は自分の名前を呼んだ方をギギギとゆっくり振り向いた。
そこには用事を終えて僕を探しに来た祖父が腕を組んで立っていた。
その祖父の後ろには、中学生位の詰襟の制服をきた黒髪の美少年もいて能面の如く無表情で立っていた。
祖父は近づくとその額には青筋を立てていた。
「あっ……ごっごめんなさ……おじいちゃっっ!!」
青ざめる僕は謝ろうとするが恐怖でガチガチとなり上手く喋れない。
瞬間、僕の頭にゴンッと祖父の拳骨の強い衝撃がきて─────。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
痛み、軋む身体。
うすく、ゆっくり瞼を開けた。
支桜市の永遠に散らないとされる桜の花びらが沢山ひらひらと僕自身を包むかのように舞い降りていた。
支桜市
第5区 一般地区 住宅街一般高等学校側
PM20:00
霧崎 伊織 17歳
あの記憶から12年後―――。
住宅街のコンクリートの床の上で大の字になり、僕―――は大きな刺し傷により大出血で死にかけていた。
頭で内容考えてるけど文章考えて打つの苦手なので次の投稿はいつになるか分かりません。。
ちょいちょい編集して変えてます