6. 封印ダンジョンボスバトル そのに
三つ目のクリスタルが割れて出現したのは大量の『光』だった。
「眩しい。かのんが少し羨ましいや」
「ますたあはみえないなの?」
「少しだけね」
視覚を奪おうとして来る魔物は多いけれど、基本はスキルで対策出来る。
でもあまりにも強烈だと全部を無効化することは出来ないんだ。
強烈に光を放つ魔物の正体はふわふわした小さな毛玉。
名前は『ウィルオウィプス』。
どうやらもう誰かが名前をつけたみたい。
「ぼうれいなのにひかりのせいれいなのがふしぎなの」
「そうなの?」
ウィルオウィプスって亡霊の事だったんだ。
というか光の精霊って意味でもあるんだ。
これも一般常識なのかな。
もっと勉強しないと。
「光の魔物ってことはやっぱりキョーシャさん達が相手なのかな」
光属性が得意なキョーシャさんが苦手とするのは光属性が効かない魔物だ。
隠しボスの撃破ボーナスでその弱点は克服されているけれど、今のボクのようにその力が封印されている可能性は高いと思う。
「ますたあくるなの」
ウィルオウィプス達が一際強烈に輝き出した。
「対光バリア」
攻撃の属性が分かっていれば対応する属性のバリアを使えば攻撃を防げるはず。
そう思っていた。
「っ!?」
でもウィルオウィプスの攻撃はバリアを貫通し、ボクの体は強烈な太陽光線を浴びたかのように熱で焼かれてしまった。
隠しボス以外からダメージを受けたのなんて久しぶりだよ。
光攻撃対策を無効化する全範囲光攻撃ってところかな。
キョーシャさんは耐えられそうだけれど、お仲間さんが心配だ。
カマセさんはともかく他にもメンバーを増やそうとしてたから……あ!
「かのん大丈夫!?」
ボクも人の事を心配している場合じゃなかった。
全範囲攻撃ってことはかのんが逃げられなかったってことだもん。
「へいきなの」
「何で!?」
確かにかのんの本体であるカメラはパッと見ダメージを負っているようには見えない。
間違いなく攻撃を喰らったはずなのにどうして。
「ますたあのためにつよくなったなの」
「強くなった?」
「がんばってもよいなの?」
「う、うん」
なんとなく許可しちゃったけれど、頑張るって何をするつもりなのだろう。
それに強くなったってのはどういう……
「おらおらなの~」
「えぇ!?」
人型かのんがウィルオウィプスに突撃したかと思ったら素手で殴って攻撃してる!?
あれって映像じゃなかったの!?
「これでもくらえなの~」
良く見ると両手がうっすらと光ってる。
あれは凝縮した魔力を平らにして纏っているのか。
「危ない!」
ウィルオウィプス達が極細強威力レーザーをかのん本体に向けて放って来た。
あれが直撃したらいくらかのんだって無事では済まない。
「まがれなの~」
「…………」
あれれ~
おかしいな~
今のレーザーって最初の光攻撃と同じで光魔法耐性が効かなそうなのにどうやって曲げたのかな。
「かのん、今何をしたの?」
「どうせいまりょくはをぶつけたなの」
「どうせいまりょくは?」
「こうげきをかいせきしてまったくおなじこうげきではねかえしたなの」
攻撃を受ける前に解析して対処したってことかぁ。
なるほどそれなら納得……すると思ってるの!?
どうしてかのんにそんなことが出来るのさ。
ただのカメラのはずなのに!
「がんばっておぼえたなの。ますたあのちからになるなの」
「かのん……」
クラフトスキルをかけて欲しいってこれまで何度かお願いしたのはこれが理由だったんだ。
「かのんもますたあのなかまなの! ますたあをまもるなの!」
ああ、そうだ。
かのんはボクが配信を始めてからずっと一緒だった。
一番付き合いが長くて、一番最初に出来た『仲間』だ。
僕が楽しんでいる時も困っている時も死にそうな時もずっと傍にいてくれた。
でも傍で映像を撮るだけじゃなくて一緒に戦いたい。
そう思うのは当然のことじゃないか。
なんだろうこの気持ち。
心がポカポカして温かくなる。
「ありがとうかのん。一緒に戦おう!」
「うんなの!」
よお~し、テンション上がって来たぞ。
頑張っちゃおう。
「かのんの攻撃でウィルオウィプスが分裂してるけれど、攻撃方法が間違ってるのかな」
「これでだいじょうぶなの。きえるまでちいさくするなの」
「じゃあそれで行こう」
かのんが分析して導いた撃破方法なんだ。
信じるに決まっている。
「それとこれもどうぞなの」
「え……ぷぎゃっ!」
かのんから知識が流れて来た。
ウィルオウィプスの攻撃に関する情報だ。
これがあればボクもウィルオウィプスの攻撃を無効化出来る。
「それじゃあかのん」
「うんなの!」
かのんと背中合わせに立ってウィルオウィプスに立ち向かう。
周囲からはどんな感じで見えるのかな。
後でかのんに映像を見せてもらおうっと。
「対ウィルオウィプス式、無限ロケットパンチ!」
「たいうぃるおうぃぷすしき、むげんろけっとぱんちなの!」
拳にウィルオウィプスに効果のある魔力を纏わせてロケットパンチのように打ち出す即興技。
それを連打して空中漂うウィルオウィプスを次々と殴る。
ダメージを与えられたウィルオウィプスは分裂して小さくなるけれど再度ロケットパンチで攻撃を与える。指弾でも似たようなことが出来るけれど相手が小さいのでなるべく当てやすいようにと今回はロケットパンチを選んだ。
「えいえいえいえいえいえい!」
「えいえいえいえいえいえいなの!」
反時計回りに少しずつ回転しながら攻撃をする。
背後のかのんはボクの動きに見事に合わせてくれている。
もちろんウィルオウィプスも黙ってやられているわけではない。
光属性の魔法を仕掛けて来るけれど、かのんがすでに解析済みなのでボクらにはその攻撃が届かないし、全範囲攻撃を使われても容易に防御できる。
本来ウィルオウィプスは攻撃すればするほどに数が増えて、その分だけ攻撃手数が増える厄介な魔物なのだと思う。でもボクはかのんのおかげで完封しながら楽に攻略させてもらっている。
「かのんがいて良かったよ」
「ありがとうなの。でもゆだんしちゃだめなの」
「そうだね。最後まで気を抜かないでやろう!」
初めてのボクとかのんの共同戦闘。
それはとても心躍る体験で、油断してはダメだと分かっていても笑顔になるのを止められなかった。
――――――――
なんて綺麗に締められれば良かったのだけれど……
「おらおらおらなの~」
「あ、あのかのん?」
「ますたあはやすんでてなの」
「う、うん」
おかしいな。
これってボクのボーナスタイムだったはずなんだけど、かのんが楽しんでるよね。
ウィルオウィプスを撃破したら、すぐに次のクリスタルが割れて魔物が出現した。
今度の魔物はダメージを与えるごとに姿形を変化させるのだけれど、その姿というのがあまりにも性格が悪かった。
最初は子供。
次は老人。
そしてケガ人に妊婦と、攻撃をつい躊躇ってしまう姿になるんだ。
多くの人を助ける英雄になりたがっていたキングさん向けの敵なのかな。
得意の斧で真っ二つにするのをこれほど躊躇させる見た目は無いだろう。
「さっさときえるなの~」
でもかのんは見た目を全く気にせずに容赦なく攻撃している。
ボクはやり辛かったから助かるけれど、複雑な感覚だ。
というか、ボクの番って回って来るの?
「ますたあやったなの!」
「お疲れ様。良く頑張ったね」
「えへへなの!」
こんなに楽しそうにしてるなら邪魔できないよね。
仕方ない、ここからはかのんに任せよう。
「こんどはますたあといっしょにたたかうなの」
「なんて良い子なんだ」
自分が夢中になるだけじゃなくてボクのことも気遣ってくれるだなんて。
「ますたあといっしょがよいなの」
そうだった。
かのんにとって一番大事なのは戦えるようになったことじゃなくて、ボクと一緒に戦えるようになったことなんだね。
「よぉ~し、じゃあ次はどっちが倒せるか勝負だ!」
「まけないなの!」
かのんはボクの姿を真似て妹だなんて言っているけれど、本当に妹を相手しているような気分になってきた。
現実の妹はそんな風に慕ってくれない、なんて空耳が聞こえた気がするけれど気のせいだよね?
――――――――
そんなこんなでボクとかのんの無双は続き、最後のクリスタルの魔物も無事に撃破した。
もし最初にボクが想像した通りにこの魔物達が現実の封印ダンジョンで倒された後に出現したのなら、全ての封印ダンジョンがクリアされたってことになる。
流石にそろそろ解放して欲しいんだけど……と思ったら体が淡い光に包まれ始めた。
「ようやく戻れるのかな」
「そうみたいなの」
「分かるの?」
「むこうとつながったなの」
これまでかのんは映像を送り届ける事しか出来なかったけれど、双方向に通信が出来るようになったってことなのかな。
良かった。
やっと戻れる。
そう安心した瞬間。
「くるなの!」
「!?」
ボク達の体は光に包まれ、強制的に死闘を繰り広げさせられ続けた訓練場からバイバイした。
そして転移した場所は……
「ラストダンジョン」
禍々しいという言葉がこれほど似合う場所は他にはないと言えるほどに昏い気配が漂うダンジョンの入り口が目の前にあった。
「救ちゃん!」
「す~ちゃん!」
「救様!」
「救!」
そしてその場所で多くの見知った顔がボク達を出迎えてくれた。
「ただいま!」




