4. 勇者会合 アメリカの勇者
「ど、ど、どうしてボクだけこんな席なのさ!」
勇者会合当日、隠しボス道場付近に準備された会場に向かうと一つだけ明らかに違和感のある豪華な椅子のところに案内されたんだ。
他の人はフカフカそうな普通の椅子なのに、どうしてボクだけこんなに豪華絢爛でピカピカしてる椅子なのさ!
場違いだし目立って恥ずかしいし座りたくないよ。
「だって救ちゃんは勇者より格上だから仕方ないよ」
「格下だよ! とお~っても格下だよ!」
「おかしいなぁ。温水さんが説明してくれた筈なんだけど」
「うっ……」
それってボクがVIP扱いされるだろうって話だよね。
確かに聞いたけれど、いきなりこんな目に遭うなんて思ってなかったから準備出来てないもん。
「でもでも、今日は勇者会合なんでしょ。そもそもボクは勇者じゃないから、メインの勇者さん達より目立つのはダメだよ」
「勇者じゃない人の方が多いから大丈夫」
「それは知ってるけれど……じゃあせめて普通の椅子にしてよぅ」
「だ~め」
京香さんのいじわる癖がまた出ちゃったよ。
いいもん、ボクだっていつもやられっぱなしじゃないんだから。
「あ、ずる~い!」
「ふふ~ん、今日はこれにするもん」
金ピカ椅子をアイテムボックスにしまって、代わりの椅子をアイテムボックスから出したんだ。
これなら見た目が地味だからこの場に置かれても違和感ないはず。
「本当にそれにしちゃうの?」
「うん」
「…………そっか」
あれ、もっと抵抗するかと思ったのに素直に諦めちゃった。
どうも嫌な予感がするなぁ。
『やぁ救様』
『こ、こ、こんにちは』
「キョーシャさん! カマセさん!」
まだ開場していないのだけれど、知り合いと言うことで中に入れて貰ったようだ。
『今日はよろしくお願いします』
もう会場でやることは無いので、挨拶や他愛も無い話をしながら二人と一緒に控室に戻ることにした。
会場に入る順番が決まっているから待たなきゃならないらしい。
別に好きな順番で良いのにって思うけれど、こういうのが大事なんだって。
会合が始まるまでの間は、各国の参加者間で挨拶や情報共有などをしているらしい。
こうしてキョーシャさん達が会いに来てくれたように。
ボク達は改めて話すことも無かったので控室に真っすぐ戻り、控室前でキョーシャさん達と別れた。でもその別れ際にとても悲しい事を言われちゃった。
『そういえば救様の椅子がとても貴重な物に見えたのだけれど、今日のためにわざわざ用意したのかな?』
「え?」
『アレは深層の魔物を使ってクラフトスキルで作成した椅子だろう。シンプルな意匠だがとても高貴で強大なオーラを纏っていて思わず息を呑んで見惚れてしまったよ。深層を軽々と攻略可能だという証を用意して格の違いを見せつけるとは救様も策士だね。アレなら各国の勇者達も度肝を抜かれること間違いなしさ』
「ぷぎゃああああああああ!」
金ぴかな椅子よりももっと酷いことになってる!
だから京香さんは止めなかったんだ!
「回収して来る!」
「もう入場が始まるから行っちゃダメだよ」
「ぷぎゃあ! そんなあ!」
どうしていつもこんな結果になっちゃうのさ!
――――――――
「うう、行きたくないよぅ」
ボクが入場する番が来たのだけれど、例の椅子について驚かれていると思うと中に入りたいとは全く思えなかった。
「ほらほら、皆待ってるよ」
「う、うん」
ここでボクが急遽欠席なんかしたら皆をがっかりさせるかもしれないと思うとそれも出来ず、かといって目立つのも嫌なので中に入りたくもなく、どうしようもない状況に苦悩していたのにそんな時間すら与えてくれないなんて。
仕方ない、諦めて中に入るか。
大きな扉に近づくと、スタッフさんが開けてくれるからボクは自分の席に向かって歩くだけ……
ぷぎゃああああああああ!
「きょ、きょきょ、京香さん! どうしてボクが最後なのさ!」
部屋の中を見たら、ボク以外の参加者が既に揃って座っていて、一斉にジロりと見られてしまった。最初の方に入場するって言われてたのに騙された!
「一番偉い人は一番最後に入場するのが一般的なんだよ」
分かった、こうするために入場順番があるなんてボクに説明したんでしょ。
多分ボク以外の人は順番なんて決まって無かったんだ。
いじわる京香さんならそうするに違いない。
「京香さん酷いや……」
「抗議は後で受け付けるから早く入ろ」
うう、皆がボクを見てる……見ないで……
ぷぎゃっ! 目が合っちゃった!
に、にに、逃げ……ちゃダメだけど、恥ずかしい!
この感覚久しぶりだなぁ、アハハハ。
なんて現実逃避してないで早く席に向かわないと。
それに強制的に場慣れさせられ続けて来たからか、それともボクと同じ探索者が相手だからか、恥ずかしくて逃げたいって感じは実はそんなにないんだ。
だから冷静にどんな人がいるのかを確認しながら進もう。
まず直ぐに気になったのが人数かな。
事前に聞いていた話だと四十六人が参加するらしいけれど、それぞれが付き添いの人を連れて来ているから百人以上が集まっている。
例えばこの中で一番目立っている体つきが大きくていかつい顔をした男性の探索者。
あの人はアメリカ合衆国の勇者さんで、付き添いに綺麗な女の人を沢山連れてきている。
両肩を椅子の背もたれにかけながらボクの方を睨んで来ていて結構怖い。
初対面だよね。ボク何か怒らせるようなことしたのかな。
性別が逆のパターンもあって、とてもグラマラスで色気たっぷりの体つきをしているオーストラリアの女性探索者は沢山のイケメン男性が傍に立っている。ボクの方を舌なめずりして見ているのがやっぱり怖い。
もちろん付き添いの人達もこの場に参加するのを認められる程には強い探索者ばかりだ。
大多数は付き添いが一人で、付き添い無しで参加している人も何人かいる。
事前に名簿を貰って名前を覚えたので、席につくまでめぼしい人を確認しておこう。
ボクをずっと睨んでいるアメリカの勇者は『キング・シーカー』さん。
本名じゃなくて自分で名乗っている仮名なんだって。芸名みたいなものかな。
探索者の王を自称するだなんて大胆だなぁって思ってたけれど、実際に見たら確かにそのくらいの風格がある。
オーストラリアの美女さんは『パッド・イリ』さん。
勇者では無くて男性専門のバッファーで、ボクよりも効果の高いバフをかけられるらしい。対象を絞った特殊なバフだから全員にかけられる普通のバフよりも高性能なんだって。
インドの勇者の『ニガテ・カライ』さん。
つい最近勇者になった若いスキンヘッドの男性で、光魔法の使い手らしい。
キョーシャさんと一緒に戦ったらとても眩しそうだ。
チリの他称聖女の『ミタ・メサギ』さん。
おっとりしていてとても優しそうなオーラを纏っていて強力な回復魔法を使えるところから聖女と呼ばれているらしいけれど、ボクの感覚だととても暴力的な人に見える。本人は隠したがっている様子だから触れないでおこう。
他にも沢山強そうな人がいて、何よりも……おっともう席に着いちゃったから考えるのは後にしよう。
「ふぅ……」
皆に見られながらの入場でめちゃくちゃ緊張したから思わず溜息が漏れちゃった。
「…………」
座ってもまだ見られてる!
「きょ、京香さん。始めようよ」
会合が始まってさえしまえばボクのことなんか忘れてしまうはずだ。
『それではこれより勇者会合を開始致します』
京香さんの宣言により、ボクに向けられていた視線の一部が京香さんの方に動いた。
そうそう、その調子だよ。
『僭越ながら私が進行を勤めさせて頂きますが、よろしいでしょうか』
今回の会合の進行役はなんと京香さんなんだ。
日本が開催地ということもあって日本の誰かが担当することになり、最初はおばあちゃんがやる予定だったのだけれど、集まるのが現役探索者ばかりなのだから引退している自分が参加するのは変だと断ったんだ。
それで白羽の矢が立ったのが京香さんってことになったのだけれど、ボクと同い年なのにこの重要な場での進行役をやるなんて凄いや。
ちなみに今回の会合はリアルタイム翻訳機械を使っているので、京香さんは英語で話しているけれどボクには日本語に訳されたものが聞こえている。
『文句はねーが、始まる前に一つ言いたいことがある』
最初に発言をしたのはキング・シーカーさん。
彼の目はまだボクを睨んだままでやっぱり怖い。
『スクイ・ヤリスギが座っている椅子について聞かせて貰おうか』
ぷぎゃあ!
そりゃあそう思うよね。
だってキングって自称してるのに、王より立派な椅子に座っている人がいるなんて納得出来るはずがないもん。
『それは深層産の素材で作られた椅子だろ』
「う、うん」
キングはボクの方を見ながら話をしているので、仕方なくボクが頷いた。
本当は一言も話さずに空気で居ようと思ったのに!
『しかもその中でもド級の魔物を素材にしてやがるな。そんな素材を椅子なんかにしやがって』
うう、目つきが更に鋭くなったよ。
やっぱり怒ってるのかなぁ。
「じゃ、じゃあ椅子を交換する?」
それで少しでも機嫌を治してくれないかな。
『スクイの椅子に俺様が座れるわけないだろうが!』
だよね。
ボクに譲られたなんてキングのプライドが許さない。
そのはずなのにどうしてこんな失礼な事言っちゃたんだろう。ボクのバカバカ!
『キング、大人げないわよ』
会場の空気が悪くなってきたところで、パッドさんが手助けをしてくれた。
とても良い人だ!
『チッ、うるせえ。色狂いには関係ないだろ。黙ってろ』
『あらぁ、我らが英雄様を困らせるなんて見過ごせないわ』
この二人って知り合いなのかな。
なんとなく話慣れている感じの雰囲気がある。
『スクイちゃん、キングのことは気にしなくて良いのよ』
「ありがとうございます。でも、ボクが悪いので……」
というか、どうしてこの翻訳機はボクの名前にちゃんをつけるのかな。
成人しているって何度も言ってるのに機械まで……
『うふふ、違うのよ。キングったら……』
『止めろ!』
「ちょっ!」
キングさんがいきなりパッドさんに魔力弾を放ったからびっくりしちゃった。
なんとか横から魔力弾を当てて消滅させたけどさ。
『今のスピードの魔力弾に後発で当てただって……?』
『しかも弾くのではなくて消滅させたぞ』
『全く同じ威力の魔力弾じゃなきゃ出来ない芸当だよな』
『あの一瞬でそこまで判断してやってのけたって言うのか?』
『これが英雄の力か……』
あ、あれ。
なんかいきなり皆がざわめきだしたよ。
しかもキングさんの行動についてじゃなくてボクの行動について話をしているっぽい。
どうしてさ、突然攻撃したキングさんの方について話をしなよ!
『うふふ、スクイちゃん優しいのね。お姉さん助かっちゃった』
『はん! あの程度どうってことないくせに猫なで声出しやがって!』
『あらぁ、嫉妬してるの? あなたが尊敬するスクイちゃんが私を助けてくれたから』
『ばっ……そんなんじゃねーし!』
え、今パッドさんって何を言ったのかな。
何かとてつもない聞き間違いをしてしまったような気がするんだけど。
『キングの愛しい彼女さん達も何か言ったらどうかしら』
『お前ら分かってるよな! マジで何も言うなよ!』
さっきまでの堂々とした風格は何処に行ったのか、キングさんがとても慌てている。
そしてその姿をキングさんの背後の女性達が微笑ましそうに見つめている。
『キングは英雄様のことが大好きですから』
『止めろって言ってるだるぉ!?』
えっと……また聞き間違えたのかな。
それともこの翻訳機がおかしいのかも。
だってボクのことをちゃん付けするくらいだし。
『キングは英雄様が幼い頃に人助けをした動画を偶然見つけて、自分も英雄様のようになりたいって憧れたのよ』
『はぁ~尊すぎて無理耐えられない。会ったら上手く話が出来るかな。何を話せば良いのかなってここ最近ずっと悩んでたの本当に可愛かった』
『英雄様の配信動画のヘビーリスナーで時差があるのに毎回必ず生で見てるしコメントもしてるのよ』
『英雄様のようになりたいって必死に努力する姿が本当に素敵なんだから』
『おまえらマジで止めろおおおおおおおお!』
まってまってまってまって。
理解が追いつかないんだけど。
え、キングさんがボクに憧れてる?
配信も全部見てる?
いやいや、そんなまさか。
「で、でも入場した時からずっと睨まれてたよ?」
だからむしろボクのことが嫌いなのかと思ってたのに。
『『『『あははは!』』』』
女性陣が突然笑い出した。
キングさんは顔を真っ赤にして俯いちゃってる。
『それは英雄様のお姿を生で見られて感動しているけれど、それを悟られるのが恥ずかしくて必死に顔に力を入れていたからそう見えたのよ』
「えぇ……」
それじゃああれは怒っていたわけじゃないの!?
「で、でもそれじゃあ椅子について不満があったのは?」
あれも怒っていた感じだったよね。
『素直に感心していただけかな。交換を断ったのも恐れ多かったから』
『むしろ英雄様を神と同レベルに思っているから相応しい椅子に座っていて満足しているはず』
『英雄様が神なら俺はキングになって少しでも追いつくんだ、が口癖なの』
『普段は優しくて格好良い最高のキングなのに、英雄様のことになるとポンコツになるところが本当に可愛いんだから』
『『『『ねー』』』』』
そ、そうだったんだ。
ええと、その、とても衝撃的で何をどう考えれば良いのか全く思いつかないんだけれど、一つだけ言いたいことがある。
「そのくらいにしておいた方が……」
だってキングさん、俯いたまま肩をプルプル振るわせてるんだもん。
公開処刑みたいなものじゃないか、可哀想だよ。
『あらまぁ、良かったわね。憧れのスクイちゃんにフォローして貰えたわよ』
パッドさんそれは逆効果では!?
絶対に追い打ちかけようとしてるでしょ。
『お前らああああああああ!』
錯乱したキングさんを宥めるのに時間がかかり、会合が始まるのが遅れちゃった。




