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コミュ障ダンジョン探索者、人助けしまくってたことがバレて感謝されすぎる ~やめて! もう感謝しないで!~  作者: マノイ
最終章 ラストダンジョン編 中編

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1. リベンジマッチ

 剣の間。


 剣を武器にしている探索者さんはとても多いから、強い剣が手に入るとなれば希望者が殺到した。

 ボクも基本は剣を使うので参加することにしたのだけれど、この扉ってその武器を使える人しか入れないらしいんだ。


 例えば斧使いのキングは入ろうとしても弾かれて入れなかった。

 大剣使いの京香さんは入れるけれど、報酬の武器が普通のロングソードだったら合わないなって思ったらどうやら剣の間の奥で更に分岐があって長剣の間、短剣の間、大剣の間、みたいな感じでそれぞれボスと報酬が用意されているらしい。


 それともう一つ、ワープでここまで来た人も入れなかった。

 ここまでちゃんと攻略した人のみチャレンジする権利があるっぽい。


 てなわけでボクが挑戦しようと剣の間に入ろうとしたのだけれど……


「あれ?」


 扉の向こうは魔物を狩りながら奥へ進むシンプルなダンジョン攻略って先に入った人から聞いていたのに、何故かボクだけ全く別の場所に飛ばされたんだ。


 セーフティーゾーンと同じ宇宙空間で、果てがどこにあるのか分からない程の広さがありそうだ。入り口も他の場所への扉も見つからない。


「そう来たかぁ」


 異常事態に焦りそうなものの、ボクを待ち受けていたある人物の姿を見つけたら何が起きたのかすぐに理解出来た。


 派手な装飾が施された剣の先を床につけ、柄の上に両手を重ねるようにして真っ直ぐな姿勢で立つ一人の女性。


「リベンジマッチだ」


 ソーディアスさんがそこに居た。


――――――――


「わざわざこんなことをしなくても言ってくれれば戦うよ?」

「それでは本気の戦いにならんであろう」


 だからゲームマスターさんにお願いして、命を懸けた戦いの場を用意してもらったってわけか。


 ソーディアスさんはボクに剣技で負けたのを相当悔しがっていたし、あの人に出会うまでは何度も再戦をせがんで来た。リベンジの機会をずっと狙っていたのだろう。


 でもこれって本気の戦いになるのかな。


「ソーディアスさんって一時的に魔物扱いになってるよね。死んでも復活するか、人間の姿には影響ないでしょ。ズルくない?」


 ボクだけが一方的に本気にならざるを得ないじゃん。


「し、仕方ないだろう。そうでもしないと貴様は本気で戦ってはくれぬではないか」

「まぁそうだけど」


 もしもソーディアスさんが負けたら命を失うとなれば、ボクはどうにかして勝敗を決さずにこの戦いを終わらせて脱出する方法を考えるだろう。大切な人がいるのだから、いや、居なくてもボク達と同じ命あるものなのだから当然だ。でもそれは彼女の願う『本気の戦い』とは程遠い。だからこうして妥協したってわけか。


「私とて貴様らと同じ存在になり負けられぬ理由が出来た。()として成長もした。命が懸からぬとも命を懸けると同等のモノが懸かっている。侮るな」


 ぶわっとソーディアスさんの闘気が膨れ上がった。

 確かにこれまでには無い程のとてつもないプレッシャーだ。


「ソーディアスさんが良いならそれで良いけどね」


 ボクはただ戦い、そして勝つだけだ。


 ソーディアスさんの闘気に答えるように、フラウス・シュレインを構えた。


 おっと危ない。

 戦い始める前にやらなきゃならないことがあった。


「かのんいる?」

「いるなの」

「今回は手出ししちゃダメだよ」

「わかってるなの。それにいまちょっとたいへんなの」

「何かあったの?」

「あとでせつめいするなの」


 気になるけれど、焦っている様子でも無いので今は忘れよう。


 ちなみにボクがかのんに声をかけたのは手出し禁止を伝えるためでは無い。

 それはあくまでもおまけで、本当にやりたいことは別にあった。


「じゃあソーディアスさん。始める前に大切な人にメッセージを」

「ふぇ?」


 この戦いも全世界に配信されている。

 つまりソーディアスさんの想い人もこれを見て応援しているはずだ。


「ほらほら、きっと待ってるよ」

「えっ……あのっ……そのっ……あたし頑張るから応援してね!」

「…………」

「…………」


 う~ん、やっぱりキャラ崩壊が何度見ても面白い。

 『貴様』みたいな貫禄ある強い台詞が、背伸びして頑張って言っているような微笑ましい感じに聞こえちゃう。


「かのん、ボクだけじゃなくてソーディアスさんも格好良く撮ってあげてね」

「もちろんなの」

「よ、余計なことを言うな!」

「それとも可愛い方が良いかな」

「かわいくとるなの!」

「余計な事するなああああ!」


 真っ赤になっちゃって可愛い。

 これが恋する乙女ってやつなんだね。


「ふざけるのもいい加減にしろ!」

「ふざけてないよ、本気で(恋を)応援してるんだよ」

「それがふざけてるって言うんだ! 今はそういう場面じゃないだろ!」


 このくらいで勘弁してあげようかな。

 なんだか皆がボクを弄る理由が分かったような気がするよ。


「分かった。それじゃあそろそろやろうか」

「まったく……こんはずでは無かったのに……」


 これで集中力が少しでも切れてくれれば良いけれど、なんてのは流石に甘かった。


「おおおおおおおお!」


 一気に集中力が増して雰囲気がガラっと変わった。

 このタイミングでもう一度あの人の話を振ったらどうなるかな。

 照れるかな。それとも激怒するかな。


 気になるけれど申し訳ないからやめておこう。


「ふぅ……」


 少しだけ深い息を吐いてボクも臨戦態勢になる。


 まるで音がかき消えたのではと思えるくらいの静寂が訪れる。


 もう勝負は始まっていて、少しでも気を抜いた瞬間に斬られるだろう。


「…………」

「…………」


 まるで相手の心臓の鼓動すら聞こえてきそうな静けさの中、最初に動いたのはボクの方だ。


「はっ!」


 ノーモーションからの突き攻撃。

 ケイオスツリーにトドメを刺した時の突きが良い感じだったので、その感覚が残っている間に試してみたかった。


 でも突きの先端を軽く払われて最小限の動きで避けられちゃった。

 そのままカウンターで突きが来るかと思ったら敢えて斬り上げて来てちょっとびっくり。

 思い込みはダメだよね。


 払い、振り下ろし、斬り上げ、突き。


 特別な技は無く、ただただ鍛え抜いた基本動作を駆使して打ち合う。

 純粋な剣技だけを確かめ合う。


 読みを外し、力強く踏み込み、ギリギリで躱し、フェイントで騙し合う。

 剣で受け、左右に避け、背後に跳び、全身を余すことなく活用してぶつかり合う。


 互角。


 剣技のみを追求し続けたソーディアスさんと、生きるための手段の一つとして剣を使い続けたボク。辿って来た道のりは違えど、習得した技術に差は無かった。


 キインと重い金属音が鳴り響き、鍔迫り合いになった。


「おおおおおおおお!」

「ぷぎゃあああああ!」


 お互いに全力で押し合うけれどビクともしない。

 力比べもやっぱり互角。


 基礎技術も力も互角となると雌雄を決するには基礎を越えた『技』しかない。


 ボク達は一旦距離を取って息を整えた。


 今度はソーディアスさんが先制の動きを見せる。

 右足を一歩後ろに退き、剣を水平にして切っ先をボクの方に向けた。


 露骨な突きの体勢だけれど、そのまま素直に突いてくるのかどうか。


 跳んだ!?


 突きの体勢のまま高く跳んで、空気を蹴ってボクの方に上空から突撃して来た。


「ラヴ・スターライト・シャワー」


 待って。

 お願いホント待って。


「その技名は卑怯でしょおおおお!」


 猛烈な突きの連打に慌てて大きく背後に跳んで躱した。


「こら逃げるな!」

「逃げるに決まってるでしょ!?」

「それならこれでどうだ。ラヴ・ストロベリー・カット!」

「ただの振り下ろしと斬り上げじゃないか!」

「ストロベリーの形になってるんだよ!」

「意味ない!」


 さっきまでのシリアスな雰囲気は何処に行ったんだ!


「くそぅ、ちょこまかと。ラヴ・ハートフル・シュート!」


 ハート形の剣閃飛ばすとか卑怯すぎる!

 笑っちゃうじゃん!


 それに『ラヴ』の発音に妙に力を入れるのも止めてくれませんか!?


「もっとまともな技にしてよ。ラブラブなのは分かったからさ」

「ば、ばば、馬鹿なことを言うな。それならそのまともらしい技を見せてみろ」


 分かった、見せてあげるね。

 ボクだってネーミングセンスには自信は無いけれど、ソーディアスさんよりマシだと思うよ。


 フラウス・シュレインを腰の辺りに構えて低い姿勢で彼女に正面から突撃する。


「桜吹雪」


 ソーディアスさんを斬るのではなく、彼女のところに桜吹雪が舞っているとイメージする。そしてその全ての桜の花びらを一枚も漏らすことなく真っ二つにする。ふわふわと舞う桜の花びらは生半可な剣閃だと空気抵抗により斬ることは出来ない。抵抗を発生させずに斬る疾さが必要だ。


 この技のポイントはもう一つあって、ランダムな箇所をひたすら斬るということ。

 攻撃を敢えて外すことはフェイントとして使うことがあるけれど、それはフェイントであるがゆえ意図があり、その意図を想像して受ける側は対処する。


 でも桜吹雪は妄想上の花びらを斬るという性質上、外れた攻撃に意図はない。

 避ける側は攻撃の意図を読めずにランダムな超高速剣閃を対処しなければならない。

 振るわれた剣は自分に向けられたものだと反射的に考えてしまうが故、意味のない外れ攻撃に対しても対応しようと体が反応してしまう。


「ぐうっ……」


 ソーディアスさんは桜吹雪をまともに受けようとして少し掠った。

 僅かだけれどついにダメージを与えることが出来た。


「くそ……格好良いじゃないか……」


 どうやら技のセンスでの勝負はボクの勝ちらしい。

 いやそんな勝負してないけどね。


 ソーディアスさん、技使わない方が強いんだけど。


「また負けてしまうというのか。かれぴが見てくれているのに負けてしまうと言うのか。そんなのは認められない!」


 かれぴ……?


「だがまだだ。まだ勝ったと思うなよ。人間になったことで、そして愛することを知ったことで私はより強くなったんだ」


 弱くなったの間違いじゃないかな。


「人間は愛があるからこそ強くなれる。だからこそ私も愛の力で更なる高みを目指す!」


 引退して平穏な日々を過ごすのが良いと思うよ。


 ソーディアスさんは懐からスマホを取り出すと操作を始めた。


 今勝負中なんだけど。


「くっくっくっ、これで貴様は終わりだ!」


 ソーディアスさんを終わらせるチャンスがあったけど待っててあげたんだよ。

 何をやろうとしてるのかが気になるからやらなかったけど。


 そんなことを考えていたら、彼女のスマホから音声が流れだした。


『ソーディアスさん、頑張って!』


 それは彼女の愛しい人の応援メッセージだった。


「がんばりゅうううう!」

「えぇ……」


 これが、その、愛の力?


「ダーリンの声援を力に変えて、絶対にこの性悪ぷぎゃを成敗してやるんだから!」


 いつの間にかボクは彼女の中で性悪キャラにされちゃってる。

 そりゃあ模擬戦で何度もボコボコにしたけれど酷いや。


 それとぷぎゃに繋げるのは本当に止めて。

 皆が悪ノリしかねない。


「ダーリンストライク!」


 それはこれまでで一番の速さの踏み込みだった。

 ソーディアスさんの言う愛の力は確かに彼女のステータスを上昇させたのかもしれない。


 でもそこに技は無い。


 力に任せた単なる振り下ろしには彼女の想いが篭められているのかもしれないけれど、彼女の強さは洗練された基礎技術にある。それを無視した時点で敗北は決まっているんだよと教えてあげよう。


「水平線」


 名前をつけるほどでもないシンプルな右薙ぎ。


 ただしその一連の動きには一切の無駄がなく、力加減も必要最低限のもの。

 ひたすらに斬るという動作を突き詰めたが故か、剣閃がまるで水平線のように真っすぐに見えるからこう名前を付けてみた。


 愛の力により最も優れた部分を捨ててしまったソーディアスさんを、彼女が本来放つべきであろう技にて返り討ちにし、勝負は決着となった。




 むなしい勝利だ。


ガチバトルにする予定だったのに、ソーディアスさんを出すとどうしても弄りたくなっちゃう。

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[一言] ソーティアスさん...萌える...応援しとるで。
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