第4節 街の崩壊と戦争の影
季節が変わる頃、街の空気はさらに重くなっていった。
孤児院の窓から見える通りは、以前よりも人影が少なく、店の扉には「閉店」「休業」の札が増えていた。
戦争が始まったという噂は、子どもたちにも届いていた。
だが、戦争がどれほど恐ろしいものなのか、誰も正確には知らなかった。
ただ、街の大人たちの表情が日に日に険しくなっていくのを、リュシアは感じていた。
「また徴兵か……」
「うちの旦那も連れていかれたよ」
「残されたのは、子どもと借金だけだ」
そんな声が、孤児院の外から聞こえてくる。
リュシアは窓辺に座り、外の通りをぼんやりと眺めていた。
兵士に連れられていく男たちの背中は、どれも疲れ切っていた。
(……みんな、怖いのかな)
そう思った瞬間、胸の奥がざわついた。
恐怖や不安が渦巻く街の空気が、リュシアの心を刺激する。
(この感じ……まただ)
胸の奥が熱くなる。
息が浅くなる。
戦争という言葉が、リュシアの中で“ざわめき”と結びつき始めていた。
孤児院の生活も、戦争の影響を受けてさらに厳しくなっていった。
寄付はほとんど途絶え、食べ物は日に日に減っていく。
「今日は……これだけよ」
院長が差し出したのは、黒パンを薄く切ったものと、ほとんど具のないスープだった。
子どもたちは不満を叫び、院長に文句をぶつける。
「こんなんじゃ足りない!」
「もっと持ってこいよ!」
「腹が減って死んじまう!」
院長は疲れた顔で首を振った。
「私だって……どうしようもないのよ……」
その言葉に、子どもたちは舌打ちし、パンを奪い合った。
リュシアはその光景を見つめながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。
(みんな……必死なんだ)
必死に生きようとする姿。
怒り、泣き、叫ぶ声。
そのすべてが、リュシアの心を刺激する。
(私も……必死にならなきゃいけないのかな)
そう思うと、胸の奥が熱くなった。
ある日の夕方、孤児院の前で大人たちが言い争っていた。
食料の配給を巡っての争いだった。
「うちの分が少なすぎるだろ!」
「文句言うなら前線に行けよ!」
「ふざけるな、こっちは家族がいるんだ!」
怒号が飛び交い、互いに胸ぐらを掴み合う。
リュシアは孤児院の扉の隙間から、その光景をじっと見ていた。
胸の奥が、またざわつく。
(……どうして、こんな気持ちになるんだろう)
争いを見ると、心臓が速くなる。
息が浅くなる。
手のひらが熱くなる。
怖いわけではない。
むしろ、目が離せない。
(私……おかしいのかな)
そう思っても、胸のざわめきは止まらなかった。
その夜、院長は子どもたちを集めて言った。
「これから、もっと厳しくなるわ。戦争が続けば、食べ物も物資も手に入らなくなる。みんな……覚悟しておきなさい」
子どもたちは不安そうにざわめいた。
泣き出す子もいた。
リュシアは静かに院長の言葉を聞いていた。
胸の奥が、またざわつく。
(戦争……)
その言葉が、リュシアの心に深く沈んでいく。
(戦争って……どんなものなんだろう)
怖いはずなのに、胸の奥が熱くなる。
その感覚が、リュシア自身にも理解できなかった。




