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リュシア戦記  作者: たつと
第1章 孤児院の底で
3/18

第2節 孤児院の現実(前半)


孤児院に入った翌朝、リュシアは薄い布団の中で目を覚ました。

 夜の冷気はまだ残っていて、吐く息が白い。

 隣のベッドでは、同じ年頃の少女が丸くなって眠っていたが、布団を奪われまいと必死に握りしめている。


(寒い……)


リュシアは布団を胸元まで引き寄せた。

 だが、布団は薄く、冷気を防ぐには心許ない。


起き上がると、部屋の隅で年上の少年たちがパンの袋を巡って揉めていた。


「それ俺のだろ!」

 「昨日はお前が多く食ったんだよ!」

 「うるせぇ、腹が減ってんだ!」


殴り合いが始まり、ひとりが床に倒れた。

 鼻血が垂れ、床に赤い染みが広がる。


リュシアはその光景をじっと見つめた。

 胸の奥が、またざわついた。


(……痛そう。でも……)


その“痛み”を見ていると、心臓が少し速くなる。

 理由はわからない。

 ただ、胸の奥が熱くなる。


倒れた少年は泣き叫んでいたが、誰も助けようとしなかった。

 院長が来るまで、殴り合いは続いた。


朝食は、黒パンと薄いスープだった。

 パンは固く、スープはほとんど味がしない。


「もっと欲しい……」

 「だめよ。今日はこれだけ」


院長は申し訳なさそうに言った。

 だが、子どもたちは院長に文句を言うだけで、誰も感謝しなかった。


「こんなんじゃ足りねぇよ!」

「もっと寄付もらってこいよ!」


院長は疲れた顔で首を振った。


「寄付をお願いしても、誰も応じてくれないのよ……」


その言葉に、子どもたちは舌打ちした。


リュシアは黙ってパンをかじった。

 固くて、口の中が痛くなる。

 でも、食べないと生きられない。


(……生きるって、こういうこと?)


胸の奥がまたざわついた。


昼になると、孤児院の裏庭で子どもたちが遊んでいた。

 遊ぶといっても、ほとんどは喧嘩か奪い合いだ。


「それ俺の棒だ!」

 「違う、さっき拾ったのは私だ!」


棒切れ一本で殴り合いが始まる。

 リュシアは少し離れた場所から、それを見ていた。


(また……)


胸の奥がざわざわする。

 喧嘩を見ると、心臓が速くなる。

 怖いわけではない。

 むしろ、目が離せない。


「リュシア、止めてきなさい!」


院長に呼ばれ、リュシアは喧嘩の間に割って入った。

 棒を持った少年がリュシアを押しのける。


「邪魔すんなよ!」

 「……やめて」


リュシアは少年の腕を掴んだ。

 少年は振り払おうとして、リュシアの頬を叩いた。


パチン、と乾いた音が響く。


頬が熱くなり、じんじんと痛む。

 だが、リュシアは泣かなかった。


(痛い……でも……)


胸の奥が、またざわついた。


その“ざわめき”は、痛みよりも強く、

 リュシアの心を支配していくようだった。


院長はリュシアの頬を見て、深いため息をついた。


「あなたは……どうして泣かないの?」

 「泣いても、何も変わらないからです」


リュシアは淡々と答えた。


院長は悲しそうに目を伏せた。


「あなたは、強い子ね……でも、それは……」


言葉を続けようとしたが、院長は口を閉じた。

 リュシアには、その続きを聞く勇気がなかった。

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