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リュシア戦記  作者: たつと
第1章 孤児院の底で
13/18

第10節 初めての銃声 前半

リュシアが撃ち倒した敵兵の影が、土煙の中で静かに崩れた。

 その瞬間だけ、周囲の音が遠のいたように感じた。


だが、戦場は待ってくれない。


すぐ近くで別の銃声が弾け、土嚢が砕け散る。

 兵士たちの怒号が再び耳を刺した。


「押されてるぞ!」

 「西側に回り込まれた!」

 「負傷者を運べ!」


ミーナは震える声で言った。


「……もう無理……こんなの……!」


カイルは息を荒げながら叫んだ。


「ミーナ、立て! ここにいたら死ぬ!」


ミーナは涙をこぼしながらも、必死に立ち上がった。

 リュシアは銃を握ったまま、二人の背中を押す。


ハルツが遮蔽物の向こうから顔を出した。

 その表情はいつも通り冷たく、しかし状況を正確に見ていた。


「こっちだ! 走れ!」


その声に、子どもたちは反射的に動いた。

 足がもつれそうになりながらも、ただ前へ走る。


背後で爆発が起き、熱風が背中を押した。

 ミーナが悲鳴を上げ、カイルが彼女を支える。


リュシアは振り返らなかった。

 振り返れば、動けなくなる気がした。


走り抜けた先は、別の塹壕だった。

 そこにはすでに数人の兵士が陣取り、銃を構えていた。


「子どもか……!」

 「ここまで来たのかよ……!」


驚きと苛立ちが混ざった声が飛ぶ。

 だが、誰も追い返す余裕はなかった。


ハルツが短く言った。


「ここで踏ん張る。撃てるやつは撃て」


その言葉に、ミーナは震えた。


「む、無理……無理だよ……!」


カイルは唇を噛んだ。


「でも……やるしかねぇんだよ……!」


リュシアは銃を握り直した。

 手は震えていない。

 それが、自分でも不思議だった。


塹壕の向こうで影が動く。

 敵兵が森の中から姿を現し、こちらへ向かってくる。


兵士たちが一斉に銃を構えた。


「来るぞ!」

 「距離八十!」

 「撃て!」


銃声が連続して響き、火花が散る。

 土が跳ね、木片が飛び、空気が震える。


ミーナは耳を塞ぎ、しゃがみ込んだ。

 カイルは震える手で銃を構えたが、狙いが定まらない。


リュシアは、ただ前を見ていた。


(……また来る)


胸の奥が静かに熱くなる。

 恐怖ではない。

 もっと別の、言葉にできない感覚。


敵兵が塹壕に近づく。

 距離は五十。

 兵士たちの怒号が飛ぶ。


「撃ち続けろ!」

 「止めろ、ここで止めろ!」


カイルが叫んだ。


「リュシア、下がれ!」


だが、リュシアは動かなかった。

 銃を構え、敵兵を見据える。


(……撃つ)


引き金を引く。

 銃声が響き、敵兵が倒れる。


その瞬間、リュシアの胸の奥で何かが静かに軋んだ。


ミーナが震える声で言った。


「リュシア……どうしてそんなに……」


カイルは息を呑んだ。


「お前……本当に初めてなのか……?」


リュシアは答えなかった。

 ただ、胸の奥が冷たくなっていくのを感じていた。


(……私は、何をしてるんだろう)


その問いは、銃声にかき消された。


ハルツが叫んだ。


「まだ終わってない! 構えろ!」


戦場は、まだ続いていた。



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