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98 舞台の秘密

五重塔ダンジョンは、拠点を置いた太極殿の北東、魔導車で一日の距離にある。その日も小雨が降り続いており、車の走る先には靄が立ち込めていた。けぶる視界の先に、それはあった。オベリスクのようにかなりの遠くからそうと知れる程高くは無い。しかし、靄の中、漆黒の屋根と壁を持ち、先端には金色の穂先ような構造物をもつその姿は、異文化の存在をまざまざとアイリの目に見せつけた。太極殿も柱の跡から、これまでみてきたどの国の建物とも異なる建築物とは想像していたが、実際に本物を目の前にすると、実感する。


五重塔は巨大な池の中央に建てられていた。そこへは、ジグザグに木の橋が架けられているが、当然徒歩での移動になる。池の側に魔導車を停めると、各自が自分の役割を理解して、バラバラと散っていく。ミルナスとシルキスも慣れたもので、必要な資材を持って動き出した。アイリとカイ、マリとラモンは、池の端に立って、五重塔を見上げる。小雨が水面を打つ波紋に塔の影がモザイクの様に映っている。


「取り敢えず、挨拶だけでもしとくか?」

隣の家に行くような気軽さで、ラモンが声をかけた。「一階のその‘舞台‘が何であれ、下調べは必要だろ。」

早速、ルーとラモン、アイリ、カイ、ミルナス、シルキスの六人に護衛のブラフ六名が付いて、五重塔への入り口へ向かう。

大きな両開きの漆黒の扉に二つの金色の輪の取っ手が付いている。其々を二人がかりで左右に引いた。外からの弱光を受けた室内に、自分達の影が伸びる。周囲は暗闇に閉ざされた五重塔ダンジョンの一階がアイリ達を迎えた。


《中に全員が入って、入り口が閉まると壁の松明が点く仕組みになっている。》

油断なく武器を構えたルーが解説する。

「開けたままじゃダメなの?ダンジョンから出る条件は?」

初めてのダンジョンに流石に不安になり、脱出方法を確認するアイリに、弟達は笑って答えた。

「普通にそこの扉から出られるよ。」「結構、親切設計。」


ずずず、と言う音を立てて、扉が勝手に閉じる。ぼっ、ぼっ、ぼっと小さな音を立てて入り口側から右周りに壁の松明に火が灯った。


まず、目に入ったのは、一段高くなった白木の舞台。

「昼間は暗いんだ。」

そう言いながら、無防備に近づこうとするアイリの周囲には四精霊が顕現し、周囲を警戒している。

「そう、そう。だから、昼組と夜組が交代して初めて、夜にだけ、ここが照らされることがわかったんだ。」

タタタっと助走をつけて、シルキスが‘舞台‘に飛び乗ると、足元から、トン、と軽快な音が鳴った。

「ほら。」

そのまま、足踏みをする。トトト、ト、トン。シルキスの足音が強弱をつけて五重塔内部に響いた。

《あ、こら、ばか、シル。何いきなりやってるんだ!ラモン!カイ!すぐにその上へ上がれ!!》

焦ったルーの声が届くとほぼ同時に、四方の暗闇から何かが湧いて出てきた。

「それでー、ここの音に反応して、オーガが出てくる、って訳!」

嬉しそうに、そう言うと、シルキスは拳を打合せ、舞台を蹴って、湧き出てきたオーガの中に突っ込んでいった。

「ああ、もう、全く。」

ミルナスが盛大にため息をついた。「一階層のオーガはそんなに強く無いので、心配は無いですよ、姉さん。ただ、その‘舞台‘の上の足音に反応して出てくるみたいで、ある意味、無限に湧く、と言えます。とは言え、別にこの程度の雑魚はこの人数であれば問題ないので、足音忍ばせる必要もないですし、舞台の上には上がってこないので、ゆっくり調べてください。」

そう言うと、ミルナスもオーガ殲滅に加わった。


「何と言うか、色々予想外だな。」

「ソウダネ。」

「いや、さすが愛し子ちゃんの弟、と言うべきか。」

「何故!?」


火の精霊テセウスに舞台の上を照らしてもらい、十分な光源の元、調査を開始する。

ラモンとカイが床を調べる中、アイリは吹き抜けになっている上を見上げた。どこからも光はささず、暗闇が続いている。

【ウィン、上の様子見てきてもらえる?】

【良いけど、テスの火も持って行こうか?て言うか、あんたも一緒に行く?】

【いや、流石にそれはちょっと。】

あら、残念。そう言い残し、テスの炎を風の渦で包んで、風の精霊ウィンディラは飛び上がった。アイリに階層の様子を見せる為、螺旋を描くようにゆっくり登って行く。

吹き抜けと階層の境界には手すりが設けてあり、金色に塗られているそれが、炎を受けて、きらりと光った。ウィンが精霊だからなのか、全く、オーガは現れず、彼女はあっさり天井に到達した。


天井と言ってもそこには縦横に組まれた梁があるだけで、その上は直接屋根の様だ。

【もっと登るー?】

床を調べていたラモンもアイリに並んで上を見上げる。

「おー、変わった構造だな。おもしれー。あそこに何か仕組みがありそうじゃないか?」

【何かある?ウィン】

【別にー。ただの木。】

「何にもない、って。昼だからかな?」

ウィンディラの言葉を訳してラモンに伝えると、残念そうに顔を顰めた。


《ハハ、そう簡単に謎が解けてたまるか。天井はアタシ達も調査済みだ。》

舞台の脇でオーガを豪快に切り倒したルーが、ラモンに向かって良い笑顔を見せた。


「この床、場所毎に微妙に音が変わります。」

仲の良い夫婦の口喧嘩に発展しかけた時、床にしゃがみ込んでいたカイが呟いた。

「ひょっとして、この‘舞台‘自体が一つの楽器なのかも。」

「あー!」

ミルナスのあげた大声に、全員が何事かと戦いの手を止めた。

「そこ光が当たる順番あります!」

「《それだっ!》」


取り敢えず、夜に再挑戦する為に、一旦退く事となった。


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