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65 同行者

南の大森林、そこは今、魔物狩りの冒険者や傭兵で荒らされていた。聖女の離反により、魔石への魔力供給の独占と言う権力を失った聖徒教会は、新しく魔物から魔石を得るしか無くなった。教会からの依頼で、魔物狩りが各地で勧められる中、魔物の多いこの地に人々が集まって来るのは自明の事。もう一つ、魔物が確実に大量にいる場所はフェラ砂漠のオベリスク周囲だが、流石にお互いを食い合い強者となった砂漠の魔物の相手は皆避ける為、本当に駆逐すべき、脅威となる魔物が残され、簡単に倒せる魔物ばかり狩られていた。


アルブレヒト王太子は魔物も生態系の一部と言う考えを示し、不必要に狩れば、数年前のイナゴの大発生の様な被害が出る、と警告していたが、困窮する聖徒教会は警告を無視した。聖女の加護があれば、魔石の獲得確率は上がるが、聖女の協力はダイアナ大聖女の反対に合って得られない。教会は同等の魔力を持つ神兵まで使って魔物を狩り始めた。


その懐中に飛び込もうと言うのだ。ルーの警戒も当然。ミケーラ元傭兵ギルド長が推薦する傭兵の手腕も気になる。

今日はその顔合わせだ。流石にこれ以上出立を遅らせると先行したインディー達との差が開きすぎる。マリも同行する為、魔導車の速度も制限しなければならない。追いつけるギリギリが今日の午後の出立となる。出立準備を整えて、一同は傭兵ギルド本部に向かった。

ギルド本部は昨日よりさらに閑散としていた。荷造りもほぼ終わり、運び出しも始まっている。必要最小限の応接セットのみ残し、ギルド長室も家具が運び出されていた。そこに今回の依頼を受ける傭兵が待っているはずなのだが・・・。

そこにいたのはミケーラ・チェルリだけだった。


「これは、どう言う事ですか?」

強張った声でルーが尋ねるのも最もだ。大事なアイリ達の安全を託すのが老女一人とは。

「先ずは、謝罪を。腕の良い信用のおける傭兵は、皆、あなた方の家畜の護衛として、先日、後を追わせていました。まだ彼らに連絡が取れません。連絡がついて、戻ってくるまでには、しばらくお待ち頂かなくてはなりません。勝手に護衛に押しかけようとして追いつきさえしないとは情けない限りですが。数日お待ちいただければ、人数を揃えることは可能です。すぐに出立すると言われるのでしたら、私が責任を持って護衛を努めさせて頂きます。不安に思われるのもごもっともですが、私も引退したとは言え、仮にも紅蓮の魔女の弟子を認められた元は傭兵。そこらの現役には引けを取りません。カイ殿のご契約されたあの不届き者が一人で南の大森林への護衛任務に適任と認められたのは、あの者の腕がそれこそ勇者級でありますが、私も劣らない、と言えば納得して頂けるでしょうか?」

確かにそれが真実なら、戦力として不足はなさそうだが・・・。

「一応、私の契約精霊にも会っていただいた方が、良いでしょう。トゥーン。」

ミケーラの握っている杖の先端に嵌められた魔石から現れた精霊は、土の属性を持った熊として顕現した。

「彼女が私の契約精霊のトゥーンです。アイリ殿の火と風の精霊程ではありませんが、かなり高位の精霊ですよ。」


アイリは土と水の精霊付きでもあり、拘束はされていてもその二体も顕現出来るが、それは、まだ内緒だ。同行するミルナスは風、シルキスは火の精霊付きで、まだ、顕現させることは出来ない。顕現した精霊は戦力も高い。


「元ギルド長として各方面に多少の無理も効きます。国境越え時の身分証明なども不要です。ですから、お急ぎならこのまま出立し、ダマルカント公国内を経由し、西側から大森林に入るルートをお勧めします。利点は砂漠越えより、補給が容易いこと、ダマルカント公国内で追いかけてくる我がギルドの傭兵と合流が期待できること、それが無理でも、公国内で傭兵を雇うことができる、の3点です。」


ヴィエイラ共和国首都ダブリスは共和国のほぼ中央に位置する。共和国は南北に細長く、コルドー大陸の西端を縁取る様な三日月型の国土を持つ。東の国境はほぼ全てフェラ砂漠に接している。フェラ砂漠はどこの国の領土でも無い為、厳密には国境とは言えないが、国土に取り込むには旨味のない砂漠は、かつてはロフェンケト皇国の中心地であった。そこを中心と考えるなら、フェラ砂漠こそが、東をシャナーン王国、北と西をヴィエイラ共和国、南をダマルカント皇国と国境を接している、と言える。


ヴィエイラ共和国から他国に行こうとすれば、海上を使わなければ、ほぼ必ず砂漠越えが必要となる。砂漠に道はないと思われがちだが、山や谷程ではなくとも、そこには起伏があり、点在するオアシスと合わせて、移動しやすいルートがあった。

かつては北、中央、南、と大きく三つあったそのルートも、オベリスク周辺に溢れ出した魔物たちによって、中央ルートは廃れ、現在は、南北の二ルートとなっている。


今回、ルー達の魔導列車が向かっているのも北ルートだ。普段なら、共和国内を北上するのだが、試験走行を兼ねて、フェラ砂漠の西端を北上している。その事もあって、押し付け護衛を試みた傭兵達が追いつけなかったのだ。

アイリは当初、フェラ砂漠を南ルートでシャナーン王国に入り、そのまま南下し大森林に向かうつもりでいた。オーム大河が南の大森林に飲み込まれる所、その辺境の村の近くで、初代アイリは家族と仲間を全て失った。

春の終わりの今は、村の周囲は、農作物が緑の茎や葉を勢い良く伸ばしているのだろう。その実が実り狩られた後、収穫祭の余韻が残る夜に、それは現れ、そして、親しい者たちの命を刈り取って、自らも消えた。


その地を訪れようと、これまでは思わなかった。両親が出会ったのも、その近くと聞いた。母が住んでいたのも、魔物達が現れた森の中だと言う。だが。


「別に急ぐ必要もない旅ですが、それはありがたいです。僕は彷徨い人の印を持っていますが、やはり、国境を通るときには、不自由な思いをします。」

物思いに耽ってしまったアイリの耳に、カイの柔らかい声が届いた。流石に吟遊詩人として、旅をしているだけあり、普通の会話でも、その声は強弱、高低、話す速さまで音楽的だ。


吟遊詩人もナキムたち旅芸人と同様、定住地を持たない彷徨い人だ。旅芸人は集団で移動するが、吟遊詩人は単独行動を取る者も多い。身分を示す物が芸一つ、と言うことも全くの冗談では無い。それでも、大陸が平和な時代には、国々の行き来も、ゆったりとしたものだったが、シャナーン王国の国力低下にダマルカント公国が付け入ろうと狙っている今、為政者が一番恐れるのは、諜報員や破壊工作員の侵入だ。ダマルカント公国では特に今、取り締まりが厳しくなっていると言う。


「でも、僕たちの身分証って、ブラフ貴族のでしょ?問題ある?」

ミルナスの問いにルーは少し顔を顰めた。

《正式な身分証だから、本来は問題はなんら無い。ただし、現在の、我らとシャナーン国王太子の関係を快く思っていない可能性はある。入国時に嫌がらせ程度はあるかもしれないな。》

「えー、なにそれー。めんどくさー。」

「でも、私たちだけで、砂漠越えは厳しいんじゃ無いかなあ。大体、ミルもシルも砂漠見るの初めてでしょ。砂漠を甘くみちゃだめだよ。」


とりあえず、ルー達の出発時間も迫り、アイリ達もただ、じっと待つよりは移動を選び、北と南に分かれてダブリスを後にすることとなった。


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