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47 お茶会の招待状

ミルフォード公爵家から、調査団にお茶会の招待状が届いたのは王都入りして5日目の事だった。それは、ブラフ伯爵令嬢のルー宛の正式な招待状が一通とキャラバン経由でシモン・ラモンに一通。いずれも同日同時刻に郊外のミルフォード公爵家別邸に“皆様揃ってお越しください“とあった。ご丁寧にも“非公式のお茶会ですので是非普段着で“と書き添えてある。


《アタシの所には、大聖女ダイアナ様から大聖女就任?祝いの返礼にもてなしたい、フェラ砂漠の現状についても、大聖女として把握しておきたいので、直接話を聞かせて欲しい、って内容だ。まあ、意図したことが透けて見えるけど招待状が届くのはわかる。で、ラモンの所にミルフォード公爵家からの招待状が届く理由はなんだ?》

「あー、俺様が知るかよ。ガキンチョの所に転がり込んでんの見られたんだろ。」

《だから、何故、一介の、大して有名でもない旅芸人一座の人間をシャナーン王国の公爵家が把握してるって聞いてるんだ!》

「だから、知らねーって、ンな事。バレちまってるモンはしゃーねーだろ。」

ギリギリとルーが歯を噛み締める。


「ええーっと、すみません、多分、ミルフォード公爵家発行のシャナーン王国への入国許可証が関係しているのだと思います。」

おずおずと、シモンが手を上げた。

《入国許可証?》「え、あれってダイアナ様のお家のだったの?」

ルーとアイリが同時に声を上げた。

《アイリ?》

アイリはルーに出会ったヴィエイラ共和国の海神祭の前にシャナーン国王の在位20周年記念にこの国を訪れていた事、その時の講演で上位貴族に気に入られ、シャナーン王国の入国許可証をキャラバンが得ていた事を話した。


「でも、それって翌年限りの許可証だと思ってた。」

「ええーっと、その後も夏至祭や秋の収穫祭や春節祭など毎年シャナーン王都で興行を続け、今年も更新が認められたらしいですよ。ナキムさんが、誇らしげに話していました。」

“大陸一の一座になる“そう言っていたナキムの泣き顔と震える声を思い出して、アイリは誇らしくも寂しい気持ちになりながら、お守りの魔石を握り締めた。

魔石は、今は、ラモンの魔力封じの魔導具でがんじがらめに封じられている。聖徒教会のお膝元で、あの膨大な魔力をダダ漏れにする訳にはいかないからだ。当然、アイリを慰めたくても精霊達は顕現できない。しかし、魔石にこもる暖かさが、アイリに確かにそこで精霊達が見守っていることを伝えていた。


《どこまで把握されている?ダイアナ大聖女の後にはアルブレヒト王太子、ひいてはシャナーン王家がいると思うか?》

考えに沈むルーに周りも黙る。しばらく、沈黙の時間が流れた。

《行くしかないか。》

最初から断れる立場では無いのはわかっていたが、その上で、少しでもこちらの不利になる事は避けたい。

《私、どうしたら良い?》

全員がアイリを見た。そして、ルーを見た。

シャナーン王都に入ってから、もっとはっきり言うなら、フランク商会と別れてから、アイリはイーウィニー人の少年・アイルになっている。ここで招待されているのはルー付きの侍女・アイリの方なのだが、この宿屋にはにアイリはいないことになっていた。


《不味いな。》《不味いですね。》

《どうする?》《どうしましょう。》

その場に居合わせた者達はお互いに顔を見合わせた。

《アイル、で通すしかないな。幸い、アイリとヨシュアという子供が二人いるんだ。ラモンの補佐はアイル、と言うことになら出来るだろう。》

「ンじゃ、ヨシュアが女装決定なー」

ケタケタとラモンが笑い、ヨシュアは青くなった。

「どうして、僕が女装する話になるんですか!」

「いや、だって、お嬢ちゃんの侍女ちゃんは正式な調査団メンバーでしょ。いないとダメでしょ。」

「だからって!」

《済まない、ヨシュア。一日、いや、半日我慢してくれ。》

「病気でも何でも理由をつけて、不参加だって良いじゃないですか!」

《・・・・・。》

「・・子供は遠慮して置いてきたとか。」

《・・・・・・。》

「・・・・途中ではぐれたとか。」

《・・・・・・・。》

「・・・・・・わかりました。でも、一つ条件があります。」

「姉さん、カタリナ姉さんかもしれないというカトリーヌ聖女をその場に連れてきてもらえませんか?」


今度こそその場は騒然となった。いくら女装の交換条件としても、叶わない可能性が高いのだ。“嫌“と言っているのと同義ではないか!


「そんな無理なお願いにはならない、かも。」

「何言ってんの、愛し子ちゃん。聖女を気軽に呼び出すなんて、あり得ないでしょ。」

アイリはヨシュアを見る。

「ヨシュアは何か、確信があるから言ってるんじゃないかな。」

ヨシュアは優秀だ。元々、今回の調査団にもカタリナさんの真意を確かめる為に参加しているのだ。シャナーン入りしてから今まで、何もせずに過ごしているはずが無い。ならば、何か掴んだのだろう。アイリに前世の知識がある様に。大聖女にはいくつかの特権が与えられていたが、当然義務もある。その中の一つにその身を守るための制限があった。ヨシュアはどうやってか、それを調べ上げたのではないか?

少し不機嫌そうにヨシュアが眉を顰めた。なんでお前が知っているのだ、とでも言いたげだ。アイリは微笑んで先を促した。眉間の皺が益々深くなった。


「大聖女は今回のダイアナ様で13代目になります。今は、聖徒教会の方針で聖女が市井に降りることに厳しい制限がかけられていますが、これまではそんなことはありませんでした。しかし、大聖女の外出は例外です。その尊い身を守るために、最低でも一人の聖女と一人の神兵の同行が義務付けられています。」

《と、いう事は、》

「その同行する聖女にカトリーヌ聖女をこちらから指名してください。それなら、僕は女装でも何でもしてルーさんの側にいますよ。」

そうすれば確実にカトリーヌ聖女の顔を見れますからね、とヨシュアは付け足した。


確かに本来の目的の一つも叶うし、一石二鳥の案ではある。しかし、公爵家からの非公式とはいえ正式なお茶会の招待に条件をつけるのはどうなのか?そう戸惑っているルー達の元にもう一つの連絡がもたらされた。

それはブラフ海賊貴族当主からの帰国命令だった。


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