表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/126

17 ラモンの問いかけ

海神祭はヴィエイラ共和国で最も有名な祭りで、毎年、夏至の前後一週間に開かれる。シャナーン王国ではこの時期、精霊の輪くぐりが各地の聖徒教会で催され、精霊付き探しが行われるが、他大陸との交易が盛んなヴィエイラでは、聖徒教会の影響力も絶対的なものでは無い。海神祭に代表される海神トライドンが最も信仰を集めているが、イーウィニー大陸で大多数を占める三位一体神や少数派の動物神を祀る神殿もある。


イーウィニー大陸は、ヴィエイラ共和国から西に船でおよそ半月の所にある。コルドー大陸の人間より、大柄で赤褐色の肌が特徴的な人々が住む土地である。成人男性は頭部を完全に剃って刺青を入れている。例外は三位一体神の聖職者と成人前の子供であり、成人女性は頭を剃る代わりにをすっぽりと布で巻いている。その布がまた、色鮮やかで、刺繍も見事な為、工芸品としての価値が高く、人気の高い輸出品となっていた。彼らの言葉や服装もコルドー大陸とは大きく異なり、特にこの祭りの時期には観光客も多く、道を歩いているだけで、賑やかな華やかさが楽しい。


海神祭の開催地は共和国の4大港湾都市の持ち回りだ。特に首都ダブリスが開催地となる時の規模は大きく、国賓の参加も多い。祭りの期間中は、開催地の港は閉鎖され、船は交易船、観光船を問わず、隣接州の港への出入りを強制される。それさえ、隣港から人や物を開催地へと動かし、いつもはそれ程、物流の多くない街道にお金を落とすシステムとして考えられたもので、流石に交易で成り立つ国家だと感心させられる。


ダブリスの海神祭では、参加団体毎に市内に入れる人数制限がある。アイリ達のキャラバンは、歌舞音楽組が会場近くに寝泊まりし、それ以外の主にナイフ投げや動物遣いなどを得意とする仲間は、ダブリスよりの街道に拠点を作り大道芸を披露していた。

母テラと姉ユーリは市内に父ダンとアイリ、ミルナスは市外にと、今回は珍しく別れているのもその為だ。母はこの機会にミルナスに母乳を卒業させようと考えているようだ。


それでも昼食は家族揃って摂ることにしていたから、お腹一杯になって眠ってしまう弟をテントに連れ帰るのはアイリの仕事になっていた。とは言え、5歳児が0歳児を連れて歩く訳ではなく、一家の馬車を出すので、荷物の運搬のついでに連れ帰ってもらうのだが。多くの場合、それは当然父の役目なのだが、祭りの本番を翌日に控えたこの日は父も他の大人も都合が付かず、ラモンが送って行く事になった。当然、ダンは愛する子供達をこの青年に任せる事に非常に抵抗を示したが、人手不足は如何ともしがたく、泣く泣く、本当に目を潤ませて、仕事に出かけて行った。


ぽくぽくと馬車馬のメルは賑わう街の中を進んでいく。

「テラ様の家族は本当に仲が良いんだな。」

自分に言い聞かせる様にラモンが手綱を捌きながら呟いた。

アイリはラモンに苦手意識を持っていた。思ったことをそのまま言葉にして、後悔しない。言葉遣いも態度も乱暴なのに、意外に街の人々から頼りにされている所も、何となく腹が立つ。

「そうですか?キャラバンのみんなのところもあんなもんだと思いますよ。ナキムの所も仲良いですし。」

「あー、愛し子ちゃんって性格悪いって、よく言われるでしょ。それとも、空気読めない子?」

「え!?」

「いやー、だってさ、親兄弟のいない俺に向かって、あんなにいい家族がいるのに“あんなもん“とか言える人そういないよぉー。」


やってしまった。アイリの背に冷や汗が流れた。そう、この褒められると否定したくなり、否定されるとムキになる性格こそ、アイリの最大の欠点なのだ。初代に比べると大分マシになっているはずなのだが、深く考えずに返事をすると大抵こうなる。もう癖なってしまった服の下に隠したお守りのペンダントの魔石を握りしめる。


「俺の親はねー、俺が魔物に襲われて死にかけてた時も、飲んだくれてたぜ。」

「ごめんなさい!」

「んー?何に対して謝ってんの?愛してくれる家族がいること?」

「そうじゃなくて、その、」

「あははー、今、俺の事、めんどくさいやつ、って思ったでしょー。シモンならすぐに許してくれるのにー、って。」

「えっ、違っ、違います。私は、」

「俺さー、愛し子ちゃんの事、大っ嫌いだから、優しくなんて出来ないからねー。」

「!?」

突然の大嫌い宣言にアイリは絶句するしかない。そんなに接点は無いはずなのに、どうしてこんなに嫌われなければいけないのだろう。


「愛し子ちゃんさー、精霊見えてるのに見てないでしょー。そんなに好かれてるのに知らんぷりできる神経って凄くね?」

「ちゃんと見えてます。赤や青、黄色に緑色の綿毛みたいな。だから、シモンさんがピノちゃんの体に地の精霊を戻した事も知ってます!精霊契約だって済ませてる、ってお母さんが、」

「笑えるー。それで精霊見える、契約してるって言っちゃうんだー。」

本当に可笑しそうにラモンは笑って、次に怒気を滲ませて、アイリを睨んだ。


「俺が精霊見えるの知ってるよね。テラ様の精霊を赤竜と緑竜、って言った時、驚いてたもんな。あれってさ、精霊の本質なんだよ。だから、テラ様には自分の精霊は普通に人型に見えてる。で、あんたに付いてる精霊はさ、人型だけど、目を縫いとめられ、口を塞がれ、後手に縛られてるぜ。」

「!?何で?」

「はあ?何で、ってあんたがそうしてるんだろうが。そんな状態になってんのに、まだあんたに付いてるって、一体、どう言う事なんだよ。何で、縛り付けてるんだよ。解放してやれよ。」


「そんな、私、知らない。」自分の周りを漂うこの四色の綿毛がそういう状態であると想像した途端、アイリの目から涙がこぼれた。

「知らない、んじゃねーよ。知ろうとしてねぇんだ。ガキみてぃに泣いてんじゃねえ。お前が見た目通りの年じゃ無いこと位、わかってんだよ。」

「!!」


次々と投げつけられたラモンの言葉に、アイリの理解が追いついていかない。酷い事を言われていると、傷ついたのは間違いない。だが、反面、その通りかも、と思う気持ちもあった。

3度目のやり直しから5ヶ月余り、このダブリスまでの旅路でアイリは母から色々な事を教わって来た。だが、キャラバンでの生活や家庭内の役割、そして、やはり5歳児の体力は、どんなに頑張っても、すぐに眠気がやって来てしまい、出来る事は限られた。


それでも、精霊とは真剣に向き合ってきたつもりだった。母から、大切にすれば見える様になる、話も出来る、と聞かされれば尚更、仲良くしたいと思った。全く見えない訳では無いから、朝夕に挨拶はしたし、誰も見ていない時には話しかけてもいた。その甲斐あってか、綿毛は綿毛でも、その色の違いはくっきりとわかるようになったし、ちょと尻尾らしきものが生えてきた様にも感じる。目を閉じる必要はあるが、自分に付いている以外の精霊の気配も感じ取れるようになった。


だが、そんな事はラモンの知るところではなく、彼の目に見えている“拘束されている精霊達“が真実なのだ。そんなものが見えていれば、自分だってそれを強要している人物と親しくなりたいとは思わないだろう。


誤解だと言った所で、納得してくれるとは思えない。彼が女神と崇める母に泣きつくのは最も避けるべきことで、父やユーリにも知られてはいけない。絶対、母の耳に入るからだ。そんな事にでもなれば、ラモンは、アイリをそういう人間と決定づけてしまう。母を崇拝していたとしても二度とアイリとは、関わろうとはしないのでは無いだろうか。


『だけど、本当にどうしてそんなことになってるんだろう。』

以前、母が驚いていたように、アイリの今の魔力があって、精霊が見えなかった、声が聞こえなかった、というのは何か原因があり、今、その何かが、精霊達にアイリが施した(?)拘束、なのだとはっきりした。ならば、その拘束を外すために自分は何をすれば良いのか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ