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116 第二公子の改心

短いです


同じ頃


アルコー第二公子は、激しく頬を打つ冷たい風に、目を覚ました。

『なんだ、これは?』

ついさっきまで、押しつぶそうとする土の圧力に息もできず、暗闇の中絶望を抱えていた筈だった。それが、今、目の前は明るく、周りには土どころか、何もない。そう、本当に何もないのだ!

耳元で聞こえる風切り音。どうしてこんな事になっているのか、全くわからない。地面の下での圧死を逃れたことはわかったが、しかし、‘助かった‘と安心は出来ない。何しろ、今は、遥か上空から地面に叩きつけられて墜落死を迎えようとしているのだから。


アルコーは思わず、笑ってしまった。

「結局、死ぬ事には変わり無い。」

奇妙に悟った気持ちになり、アルコーは落ちながら、周囲に目をやった。

遥か遠くに見える水平線は平らではなく、緩やかな弧を描いていた。雨天が多いこの地方の、雲の上にまで飛ばされた自分には、地上は見えない。しかし、遥か彼方の海は空と溶け合い、その広大さに圧倒された。

「世界は広いのだな。」


この広い世界の中、一大陸の中のいくつかある国の一つに過ぎないダマルカント公国の公主の座が全てであるかの様に、兄弟で争ってきた。

「ちっちぇーな。」

思わずそう呟く。初めて世界の広さを感じた。死を前にして自分の愚かさを知った。

理解したからと言って、やり直す時間など無く。それでも、地面の下、全てを呪って死ぬよりは、はるかにまともな死に方だと思えた。

「神に感謝を。もし、生まれ変われるなら、今度は、間違わない人生を」


【ふざけんじゃ無いわよ!感謝は、頭にバカの付くあのお人好しにしなさいよ!】

そう叫ぶと風の精霊ウィンディラは、アルコーの顔面に自らの両足、鳥の爪のついたそれを叩きつけた。

「!?」

【あんた達なんて、本当は助ける理由なんか無いんだから。】

【とりあえず、後は自分達で何とかしなさいよね。】

ウィンの姿は見ることが出来ても、精霊語を解さないアルコーには彼女が何を言っているのか、全く聞き取れない。けれど、非常に怒らせていることは、理解した。


「・・・あと、あの子にまたちょっかい出したら、今度こそ、ただじゃおかないから。国ごと消すわよ。」

最後の言葉だけを、人語に直し、ウィンディラは言いたいことだけ言うと、アルコーの背中を思いーっっきり蹴った。


自由落下に加え、精霊の蹴りを受けて、アルコーの体は勢いを増して落ちていく。分厚い雨雲を突き抜け、目の前に滅びた国の荒れた大地がぐんぐん迫ってきた。

それでも、最後まで目を開けて、この世界を見ていたい、と彼は思った。


ぼすん。

顔面から叩きつけられる。

ぼす。どぉん。だん。周囲にも次々、何かが落ちてきた音が聞こえる。

『何だ?』

一瞬、浮かんだ疑問は、自分の真上に落ちて来た巨漢に潰された時に、現実になった。

「生きて、いる?」


アイリは自分達を空に逃すと同時に、土砂崩れの下敷きになってもまだ生きていたダマルカント兵達の救出もウィンディラに頼んでいた。

霊山に溢れる魔力を糧に、ウィンディラは彼らを死なないギリギリの高さにまで打ち上げた。そして、落ちて来た第二公子にささやかな復讐を果たした後、全員を一つの天幕にぶち込んだ。

ぎゅうぎゅうに人間の詰まった天幕の風船はかなり乱暴に風に吹き飛ばされ、地上をごろごろと転がった。木の幹にぶつかって止まったものの、全員気を失ってぴくりともしない。滅びた王国の北の端、大森林との境界にまでそれは飛ばされていた。



対照的にふわりふわりと漂い落ちる木の葉のようにゆっくり地上へと降ろされたアイリ達は、警戒しながらも、がさごそと天幕から抜け出した。目の前に大量の土砂が流れこんでいるが、ここは紛れもなく太極殿跡地だった。周囲には誰もおらず、地鳴りも今は止まっている。荒れ狂っていた魔力も、徐々に拡散しつつあり、鳥居からの新たな流出は無さそうだ。


アイリの腕の中のカイは未だ目を覚さない。


「霊山が隠していたのは、あの建物なのかな。」

ミルナスの指差す先にある物を見て、アイリは息を呑んだ。

「魔人の巣窟?」


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