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111 合流

【ウィン、索敵!】

風の精霊が飛び出していく。テセウスが臨戦態勢で顕現した。特徴的な叫び声が風に乗って聞こえてくる。あれは!

「ルー達だ。助けにきてくれた!」

「カイさんとレンツィオさんはここにいて。見てくる。」

「リン、それは、」「嬢ちゃん、待て、」

【クレイ、お願い。】

二人の制止を無視して、土のドームは中に二人を閉じ込めたままその入り口を閉じた。

【テス、乗せて。】

アイリは半人半馬の火の精霊の背に跨ると、一気に山を駆け降りた。


途中、ウィンディラが合流する。

【弟くん達も来てるわよ。】

その知らせに、きゅっと胸が締め付けられる。来るかもしれない、いや、来るだろう、とは思っていた。けれど、実際、ミルナス、シルキスが戦うのは、魔物ではなく、人間。ルーはこれまで、自分たちを海賊船に乗せることはあっても、直接、人殺しをしなければならないような場面に立ち合わせることを極力避けてくれた。今回、ダマルカントの騎士と戦わなければならない。命のやり取りになる。

出来れば、そうならないうちにこの戦いを終わらせたい。戦いを始めるのは簡単だ。しかし、終わらせるのは大変な労力を必要とするのだ。


《ルー!みんな!私はここ!全員無事!》

そんな思いを込めて、アイリはウィンディラの風の魔法を使い、声を拡散させる。呼応するように、霊山のあちこちから、《おう!》と声が上がった。


《良かった。この分なら、魔力補充も出来てるな。》

アイリの声を聞きつけ、ルーの顔が安堵に緩む。

「ねーちゃん!ぐすっ。」「全く、自力で脱出とか、流石だけど、心臓に悪いよ。」

シルキスは泣き出し、ミルナスの強張りも解けた。


夜陰に紛れ、太極殿跡に戻ってきたルー達は、霊山のそこかしこにちらちらと松明の灯りが揺れているのを見た。その動きは、目的を持って進んでいる様ではなく、何か、誰かを探している動き。アイリ達が逃げだして山狩りが行われていると推察し、一組だけを太極殿跡の捜査に当て、その他は霊山に登った。更に一組に空の魔石への魔力補充を優先させ麓の鳥居に残し、残りでダマルカントの騎士達を追跡した。ルーとミルナス、シルキスはアイリが逃げ込む先として、最も人が近寄らないであろう魔力の濃い場所を目指し、鳥居に沿って山を登っていた。

隠密行動をとっているルー達ブラフは灯りを持っていない。雨足が弱まったとは言え雨中の行軍の為に敵方が煌々と灯りを灯しており、その明かりで十分、夜目も効いた。それでも山の中の追跡は困難を極める。一組が見つかって戦闘に入るとそこから、混乱が広がるのは早かった。アイリ達が聞いた音はそれだった。


《アイリの無事も知れた。さっさと回収して帰るぞ!》

ルーの合図が全山に響いた。それに《うらー!》と先ほどよりも大きな声が上がり、あちこちで剣戟の音が激しさを増した。アイリの無事が確認された以上、見つからずに追跡する必要はない。結果として、戦闘が激化している。


アイリは、ウィンディラからその様子を聞いて、青くなった。「逆効果!?」

テセウスの背から降りるとハラハラしながら、うろうろその辺りを歩き回る。

【大丈夫よー。なんか手加減してるみたいで、軽くいなしながら、こっちに来てるわー。】

その報告にほっと息をつく。そして間も無く、雨の止んだ夜明けの薄明かりの中、ルーと弟達の姿が木々の間に現れた。

「姉さん!」「ねーちゃん!」《アイリ!》

アイリは大きく両手を振った。わずか一日だが、随分、離れていたような気がする。夜明けの太陽が冷えていた心にも朝を運んで来た。


その時、突然、地面が大きく揺れた。


転びそうになるアイリをテセウスがしっかりと抱き止める。ルーは踏ん張っていたが、ミルナスとシルキスは地面に転がった。

「何?どうしたの?」

ウィンディラが高度を上げて索敵範囲を広げる。

【山が一部崩れてるわ!】

上空からウィンの声。

《ルー、霊山が崩れてる、って。今、クレイはここにいないの。カイさん達の所に戻ろう。クレイならもっと詳しいことがわかるはず。》


最初の時程、大きく揺れることは無かったものの、小さな揺れは、間欠的に続いた。ルーはブラフ達に霊山からの撤退を命じた。不安定な足元でも、揺れる船の上での生活に慣れているブラフの歩みを妨げることは無い。しかし、ダマルカント公国アルコー第二公子の騎士団は別だ。フラフラと揺れる松明が山麓に移動していくが、その歩みは遅い。今なら、機動力を活かしたブラフ海賊が脱出することは容易だ。合流先は当初の予定通り元五重塔ダンジョン。そこで、自分たちを待て。ただし、一日のみ。その後、連絡がなければ、何があってもイーウィニーに帰国。前当主の指示に従え。逆らうことを許さない当主の言葉に、仲間達は無事を祈りつつ、霊山を降りていった。


【クレイ!】

アイリの呼びかけに土のドームがぽっかりと口を開けた。

「リン!」

すぐに飛び出して来たカイにアイリはきつく抱きすくめられた。

「わ、わ、わ、カ、カイさん!?」

「心配した。」

「え?あ、うん、ごめんなさい。」


少しの間、二人だけの時間が流れ、かすかにまた、地面が揺れた時、「ん、ん」と軽い咳払いが聞こえた。

《あー、なんだ、カイ、もう、大丈夫なようで良かった。》

「ちょっと、おっさん、おっさんのせいで俺たちしなくても良い、心配したんだけどー。」

「あなたが無事で良かった、と言いたいんですよ。」

シルキスの文句をミルナスが言い直して、レンツィオに握手を求めた。

「い、いや、こっちこそ、余計なことをしたなあ、と骨身に染みたぜ。なのに、良い義足と素晴らしい剣をもらっちまって申し訳ない。」

そう言って、頭を掻く傭兵に、「義足?」《剣?》と其々が興味のまま言葉を返した。

「ん?クレイの土魔法で、って、そうだ、クレイ、この揺れ、何?」

アイリのいきなりの話題の転換についていけないのはレンツィオだけで、他の人々は、やれやれと肩をすくめた。


地の精霊アスクレイトスは、まだ、拘束が一部残っていて、直接会話は出来ない。火のテセウスを介して知っていることを教えてもらう。

「この霊山は、天然の山ではなく、土を盛って作られているらしいです。それが、先日の山狩りでの木々の伐採と先ほどの豪雨、そして、盛った土を固定していた鳥居から魔力が抜けているのもあって、地盤が緩くなった。そんな所に、人が大勢歩き回り、戦闘が行われたので、緩くなった大地が崩れつつある、だそうです。」

一度で説明が済むよう、テスは人語を使った。


「ちょ、ちょっと、それって、不味いんじゃね?」

みんなの気持ちをシルキスが代弁した。

「今すぐ、崩れる、と言うことはなさそうですよ。ただ、揺れの理由を聞かれたから答えただけ、と。」

焦った。

と、同時にほっとする。クレイは自慢げに蛇の尾を振った。

「この霊山全てが人工の山?驚きですね。」

《何の為にこんな馬鹿でかい物を作ったんだ?これは、シモンが残念がるなあ。》

「だねー、絶対悔しがる。あんなに色々調べたのに、意外な落とし穴だよ。」


「《・・・》」


《「これから、どうしよう。」》


とりあえず、合流は出来た。全員、五体満足だ。魔力の補給も完璧。

しかし、麓にはダマルカント第二公子の親衛隊、崩れる事がほぼ確実な山の中。さて、これをどう切り抜ける?

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