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110 脱出行

一本だけ、元に戻ったカイの指に、彼が遠慮してアイリの治癒を受けないのでは無いことはわかった。

「自分の体しか治せないからね、あまり、他の人には恩恵がない。むしろ、どうせ治るなら、と無茶を言われた。だから、黙っていたんだ。」

リン達を信じていない訳では無いんだよ、と申し訳なさそうに言うカイだったが、治せるとはいえ、痛みはあるはずだ。どうしてそんな状態で放っておくのか?答えはきっと、一緒に捉えられていた聖徒教会の信徒や傭兵達を解放する為なのだろう。さっさと脱出して、治してあげたい、と切に思う。同時に自分を大事にしないカイに腹が立った。本当に猿轡をしたままにしておいて良かった。そうじゃなければ、きっと、声をあげて怒っていた。ポカポカポカ、とカイの胸を叩きながら、アイリは怒りながら涙を流した。

しかし、ならばとレンツィオの傷口の具合を確認させてもらう。先程集めた鳥居の欠片には思う以上の魔力が残っていたのだろうか?傷口の消毒と無茶をして熱の上がり始めた体を冷ますことが出来た。


「ありがとう、楽になった。しっかし、俺は本当に不要だったな。」

そう困ったように言う傭兵を見て、カイはアイリに苦言を呈する。

「リンのその優しさは美点だけれども、脱出するには、もっと多くの魔力が必要となる。僕としては、君の安全の為にも少しでも温存しておいて欲しいよ。」


【大丈夫よ、私達が戻って来たからには、この子にも、あんたらにも手出しはさせないわ。】

【おかえり、ウィン!ディディ!魔力は十分?良かった。テスもすぐに行ってきて。】

風と水の精霊は霊山で魔力を補充し、密かに戻って来た。代わりに火の精霊が送り出される。

今回、アイリが大人しく囚われたのは、カイの救出は元より魔力の補給もその目的だ。ダンジョン攻略とその後の怪我人の手当て等で、アイリだけでなく、四精霊の魔力も底をついていた。本来、魔力はゆっくりと自然回復するものだが、それを待っていては時間がかかりすぎる。


ウィンディラは、霊山やダマルカント公国第二公子軍の様子なども教えてくれた。雨足は強くなり、この後の今日の予定は全て中止になった。改めて、明日、アイリを霊山に連れて行くつもりでいるらしい。霊山に噂の魔人は見当たらず、不安要素は消えない。誰かに擬態して近くに潜んでいるのかもしれない気味悪さが残る。

一通りの報告を聞き終わり、それならば、と安心してアイリが猿轡を外そうとした時、外を警戒していた地の精霊アスクレイトスの警告が届いた。

慌ててアイリは手を後に回し、緩めた縄に両手を巻きつけた。


「おい、女!出ろ!アルコー公子様がお呼びだ。」

その言葉に思わず不審な顔をしてしまう。何故なら、今、アルコー第二公子はアイリを呼び出す筈がないのだ。ウィンから霊山へ魔力を取りに行くのは明日になったと聞かされたばかりだ。何の用事があると言うのだろう?


「さっさとしろ!公子様はお前のような卑しい女に情けをかけてくださろうと言うのだ。ありがたく思え。」

その言葉に顔色を変えたのはカイとレンツィオ、そしてウィンディラ。アイリには意味が通じていない。思わず、守る様に立ち上がった二人にキョトンとしたアイリだったが、抜刀した騎士に顔色を変えた。風の精霊ウィンディラが魔力も満たして戻って来ている。アイリの感情も写して、彼女の周囲を風が渦巻いた。


「!?そんな、封印は?」

本当なら攻撃力の高い火の精霊テセウスが戻ってくるまで待ちたかったのだが、こうなっては仕方ない。

アイリは手首の拘束と猿轡を外し、ウィンに頼んで、他二人の拘束も解くと、自分も立ち上がった。

そして、首につけられた魔力封じの魔道具に手をかけ、アスクレイトスに頼み金属を腐食させこれも外す。

迎えに来た騎士は今度こそ、腰を抜かさんばかりに驚いて、逃げ出した。

「やっちゃた・・・。どうしよう。」

情けない顔で自分を振り返ったアイリを心から可愛い、と思うカイだった。


アスクレイトスの隠形を使い、雨の中、ダマルカント公国第二公子の軍を抜ける。行き先は霊山。火と水の精霊はまだ帰って来ていない。カイとレンツィオの怪我を治すのに風と地の精霊が持ち帰った魔力を使ったので、効率が悪く、また、手持ちの魔力が減ってしまっていた。

追手もかかっている。太極殿跡に松明の明かりが右往左往していた。辺りは暗くなり始めている。レンツィオの切断した足の代わりにアスクレイトスの魔力を使い、土で義足を作った。中に地の魔力と風の魔力を込めた鳥居のかけらを埋め込んだので、強度も軽さも十分だ。その使い勝手の良さに本人が一番驚いていた。


鳥居の近くに行くにつれ、アイリの目にはフワフワと漂う生まれたての精霊が見えてきた。漏れ出る魔力の影響で倦怠感が酷い。ラモンの魔力封じの魔導具の効果は凄い、と改めて実感する。それでも、ウィンディラが魔力で障壁を張ってくれているので、かなり、上まで登って来ることが出来た。葛折の鳥居の折れ曲がりの部分、最も鳥居と鳥居の間隔の狭い所で足を止めた。正直、かなり魔力酔いが酷いが、それだけダマルカントの騎士達も近寄れないと言う事だ。アスクレイトスに土のドームを作ってもらい結界を張ると、かなり楽になった。


【主】

ほっと息を吐いていると火の精霊テセウスが魔力を回復して戻ってきた。まだ、十分ではないが、合流を優先させたようだ。ここなら、彼女を守りながら、回復も可能だ。

【あんたもさっさと魔力補充しなさいよ。】

ウィンディラも顕現し、ついでのようにアスクレイトスも現れた。

四精霊揃っての顕現、しかも、人質交換の時の様に手のひらサイズではない、自分達と同じ大きさでの顕現にレンツィオは数歩後ずさった。


【んー、取り敢えず、かけらに魔力を付与しておくね。みんなの魔力貸してね。】

霊山を登りながら集めてきた鳥居のかけらに四精霊の魔力を付与していく。レンツィオの義足を作った時に、アスクレイトスの土魔法で武器も作れる事に気がついた。カイはともかく、傭兵であるレンツィオには武器があった方が良いだろう。彼の得物は大剣だったらしいので、思い浮かべてもらって形成する。大剣の根本にカケラを嵌める溝を刻み、そこに属性を付与したカケラを嵌めると、各属性を帯びた攻撃が可能になるようにした。ブラフが使う魔石の付いた武器の応用だ。

「おぉー。」

レンツィオは嬉しそうだが、狭い空間で振り回すのは遠慮して欲しい。


アスクレイトスの隠形をかけたドームは安心して眠ることが出来た。しかし、


明け方、寄り添って眠っていたアイリとカイに、押し殺した声でレンツィオが呼びかけた。

「近くで戦ってる奴がいる。」

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