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※ここからしばらく、視点が第三人称へと移り変わります。

「……ッ!!」


 少年Aが突然喉を押さえて苦しみ始めたのは、彼がブドウ味のキャンディを口の中へ放り込んだ直後だった。


「……? おい、どうした……?」


 その異変にいち早く気付いたのは、彼の隣に座っていた少年Bだった。

 つい今し方まで高らかに哄笑し、幸せに満ち満ちた表情をしていた彼がそうしているものだから、気にかけるのは至極当然だった。


 ……周囲の少年たちは、崇高な計画を実行している最中の夢でも見ているのか、未だ興奮の熱でのぼせていた。少年Aの様態の変化には気付いていない。


「ぅ……ッ!? ぅ、ガッ……!! あ……! お、ぉぇ……ッ! ガ、ハ……ッ!!」


 その間も、少年Aは苦しみ悶え続けた。

 まるで陸に揚げられた魚のように、マラソン直後のランナーのように、上手く息ができないようでいた。懸命に呼吸し、何とか酸素を肺に取り入れようとするも、何かがそれを阻んでいるようだった。


「ははは、お前またタバコの煙でむせたんじゃ――って、お、おい! マジでどうしちまったんだよ……! お前ッ!」


 ついには、少年Aはそのまま流れるように地面へ倒れ込み、ゴロゴロと、ゴロゴロと……“寝返り”とは到底呼べないような激しい挙動をしていた。


 いよいよ只事ただごとではないことを悟った少年Bが声を大にすると、ようやく他の少年たちは現実へ帰還し、“こちら”と“あちら”の温度差を認知した。


「なんだなんだ?」「どうしたぁー?」という周囲の間の抜けた呼びかけに、少年Bは「いや、実は……」と先程から少年Aの様子がおかしいことを端的に説明した。

 少年Bは、少々血相が変わっていた。


「「「…………」」」


 少年三人はお互いに顔を見合わせる。正直に言って、彼らには何が何だかさっぱりだった。

 ただ、少年Bが言うには少年Aの身に異常が起きているらしく、そして少年Bの眼差しは珍しく真剣なものだった……。


 彼らは手にしていた菓子を下に置き、仕方ないといった風にその場から腰を上げると、少年Aの元へと歩み寄った。


「おい! しっかりしろ……! おいっ!」


 少年Bは倒れ込んだ少年Aの肩を掴み、強く揺さぶっていた。

 少年Aの意識を確かめるかのようなその声音は、やはり真剣そのものだった。


「じょ、冗談、だよな……?」


 ……それでも。

 少年Aが地面に倒れ、しきりに喉を押さえながらもがき苦しむ姿を信じられない者がいた。……いや、本来ならここにいる誰もが現状の急変を信じれていないのだが、はっきりとそのことを口にしたのは少年Cが初めてだった。


「いやでも……。演技……にしては、かなり大袈裟というか……」


 少年Dも、少年Cとかなり似通った心境だった。

 “嘘”と“まこと”の狭間で、心はかなり揺れ動いていた。


 ――しかし、


「まーたドッキリとかじゃねぇの? つーか、なんでそんなことになったんだよ。原因は?」


 ただ一人だけ、冷静に物事を分析しようとしている人物がいた。少年Eだった。


 ……そもそも、なぜこの三人が未だ少年Aの現状に完全な信用を置いていないかと言うと、彼――少年Aが普段からかなりお調子者で、すぐに冗談を言ったりすることを知っているからだった。

 少年Aは、“人に迷惑をかける”そういった類の悪事が大好きだった。

 それぞれが成り行きで付き合っているだけの間柄であるとは言え、随分と長く付き合っているだけに、彼の性格や趣味・嗜好は知りたくなくとも知ってしまうものだった。


 少年Aだけではない。他の少年たちも皆同じだった。

 なぜなら、彼らもまた、差異はあれどそれぞれそういった性格をしており、自分と似た者同士の()()にお互い惹かれ合ったのだから……。


 それに、以前にも今回の事態に似たドッキリを仕掛けられた経験もあったため、少年Aに対する不信感は三人の中でより強いものになっていた。


「分かんねぇよ……。……でも、そういえば……さっきこいつ、キャンディみたいなのを口に入れてたような……。それからおかしくなって――」


 プッ、と。

 少年Bの言葉を受け、少年Eは可笑しさのあまり思わず吹き出してしまった。


「ダハハハ! キャンディ!? んだよ、ただ喉に詰まらせただけじゃねぇかよ! ダッセー!」


 あえぐ少年Aに指を向け、高らかに笑う少年Eを見て、少年Cと少年Dの頬も次第に緩み、


「だ、だよな……! やっぱそういうことだよな!」

「ふぅ~、んだよビビらせんなよ。今回はガチでだまされかけたぜ。肝試しの続きでもやってんのかぁ?」


 その三人に反して、少年Bだけは「どうすればいいか分からない」と酷く狼狽うろたえていた。

 少年Bはこの中でも特に少年Aとの付き合いが長く、また一番に親しくしていた。だから余計に心配しているのだろう、と三人は内心で思っていた。


「それなら…………。……。そうだ……みず、“水”だッ! お、おい! 誰か早く水持ってこいって!!」

「はぁ? んなモン、今は手元にねぇぞ」


 少年Eは少年Bに、文字通り手元をさらしてみせた。

 同様に、少年Cと少年Dも一度周囲に首を巡らしてみるが、確かに少年Eの言う通り、飲料水はどこにも見当たらなかった。

 そして、彼らはそういったものを持参してきていなかった。


「どこでもいいから早く見つけてこいって!! 買って来るでも何でもしてよぉ! 今こいつはキャンディで喉が詰まって息ができなくなってるんだったら、早くそれを流してやらねぇと! これが原因で窒息することだってあるだろ!?」


 “無い”と分かると、少年Bの焦燥感はますます色濃くなっていった。


「……。お前もいちいち大袈裟だなぁ。んな簡単に死ぬわけ――」

「いいからつべこべ言わず行ってこいって!! 金なら後で払うからっ!!」


 少年Eは苦笑しつつそうさとすも、少年Bの異常な気迫に鼻白んだ。

 現在、少年Bはすっかり聞く耳を持っていなかった。


「……チッ。へいへい」


 反論の余地を探し当てられず、少年Eはひとまず少年Bの言うことに従う。

 ……が、


「んじゃあ、お前行ってこいよ」


 ポン、と少年Eは隣にいた少年Cの肩を叩いた。

 無論、少年Cは驚きを隠せない。


「ハァ!? なんで俺が!?」

「いいじゃねぇかよ。な? ちょこっとそこら辺見てくるだけでいいからよぉ。頼むって」

「え~、めんどくせぇ~。ただのパシリじゃねぇかよぉ」

「そんなこと言わずによぉ~。ダチの頼みじゃねぇか。パシリ代は俺が別で出してやるから」

「え~? ん~~~~……ならよぉ、お前も来いよ」


 そう言って、少年Cは少年Dの服のそでを引っ張った。


「は!? ちょ、お前……マジでふざけんなよ」

「いいじゃねぇかよぉ、一緒に行くぐらい。俺一人で行くのは不公平だぜ」

「だからって何で俺なんだよ。そっち連れて行けよ」


 そう言って、少年Dは少年Eの肩に手を回した。


「はぁ? 結局何で俺に戻ってくんだよ。パシリ代払うっつってんだろーが。文句あんのか?」

「そもそも、お前が頼まれたんだからお前が行きゃあいいじゃねぇか!」

「そーだそーだぁ! 人を道具に使うんじゃねーぞー!」

「ったく、お前ら……」


 頭を掻いた少年Eだったが――その時。

 少年Eの口端が、ほんのわずかに持ち上がった。


「……てかお前ら、もしかして――街灯もほとんど無い暗闇を歩くのが怖いとか……?」

「は、ハァ!? んなモン怖くねぇから――――」


「――――とっとと行けッ!!」


「「「!」」」


 少年Bの一喝により、少年Cの声は途中で掻き消え、しばらくは誰もが無言だった。


「じゃあ……ジャンケンな」


 間もなくして、静寂を破ったのは少年Eだった。スッと、拳を二人の前に差し出して。


「…………」

「…………」


 その二人も、このラチの明かないやり取りに手早く決着をつけられる最適な方法に納得したようだった。


 ジャンケン――ポン。ポン。ポン…………。




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