4
「……………………つーかよぉ、最近アイツうざくね?」
一つ一つの揺らぎがはっきりと識別できる距離まで近付いた時、ふとそんな言葉が聞こえてきました。
バリボリと、小気味よい咀嚼の音もします。
「あー、アイツね。名前なんだっけ……確か…………なんか白っぽい名前してたよーな……」
「ははっ、お前さっきの自殺したアイツと言い、どんだけ名前忘れてんだよ」
「しゃーねぇだろ。だってパッとしねぇし、そもそも興味ねぇし」
「でもよぉ、あの子けっこー可愛くね?」
「えー、マジかよ……」
「いや、チョー分かるわ。ふつーに顔面の偏差値はタケぇと思うわ」
「だよな。……んで? そいつがうざいって話だったか?」
「そーそー」
先程、最初に聞いた声の主が、再び口を開きました。
「自殺したアイツの友達だったか何だか知らねぇけどよぉ、『みんなで葬式行こう』とか『みんなで色紙書こう』とか……勝手にやりたくもねぇこと仕切りやがってよぉ。……最近調子に乗ってると思わねぇ?」
バリボリと、ゆらゆらと、周囲のカタマリは愉快そうに踊りました。
「まぁ確かに。てか、色紙て。小学生のお遊戯かっつーの」
「ほんとそれな。やりたくもねぇことを、こっちの都合も考えねぇで押し付けるのは間違ってるよな」
「そんでそーゆーヤツほど『私えらいんです』感出して、あれこれ上から指示するんだもんな。良い子ぶってるだけじゃん」
「マジでわかりみが深いわ~。まー、つっても俺らそんなくだらねぇことは全部シカトしてんだけどな。興味ねぇヤツの葬式とか行く意味ねーし」
『だよなぁ~』と、今度はゲラゲラと跳ねていました。
……ただ、一つだけ、調子の狂ったように見える灯りはイライラしている様子でした。
「無能なセンコーもよぉ、結局アイツに肩入れするし……。ハァ……ガチでかったりーわ。どいつもこいつも自惚れてんだよ」
「みーんな“良い子ちゃん”、だもんなぁ……」
「なんかつまんねーよなぁ」
「なーんか起きねーかなぁ」
「つーか、俺らでまたネタ探しでもしよーぜ。暇潰しのよぉ」
『お、いーねぇ!』と、周囲のカタマリはこれまた一段と愉快気に踊りました。
――と、そこで。
ピーン! と、今し方の調子の狂ったように見えた灯りが、嬉しそうに輪の中へ混ざろうとしていました。
……が、それはとても、とても妖しげに揺れていて、一種の恐怖を覚えるものでした。
「な、暇だろ? 暇になったろ? ……そこでなんだがよぉ、一つ面白い提案があるんだぜ」
それに反応した周囲のカタマリは、案の定恐る恐る忍び寄っていましたが、拒む様子はなさそうでした。
「お? 気が利くじゃん。何だよ、早く教えろよ」
「新しいオモチャでも見つけたのか?」
ドキドキ、ワクワク、といった雰囲気を醸し出すカタマリに、「そーなんだよ」とまたも妖しげに揺れる焦燥の灯り。
そして次の瞬間――。それらすべては明らかに、不明瞭になり、ゆらゆら揺らめく炎のように……完全なる“揺らぎ”となりました。
「そのうぜぇアイツをよぉ――――俺らの新しい“オモチャ”にしちゃおうぜぇ~!」
「――――!」
同時にこの瞬間――。ボクの身体は、そこに身体が在るということを認識しました。
胸の内より突如湧き水のように噴き出してきた、この身を灼き焦がさんばかりの“熱”を感じたからです。
「おぉ、なるほど! そりゃあいい提案だなぁ~」
これは、『Bくん』……だったか?
「俺は別に好みじゃねぇけど、でも退屈しのぎにちょっと遊んでやっても面白いかもな」
これは、『Cくん』…………だったか?
「えー、なにそれ。ふつーにサイコーじゃん。可愛いコとこれから仲良くできるんだろぉ? 今から楽しみになってきたわ」
……これは、『Dくん』…………だったか?
「いやそれもいいけどよぉ、俺らのパシリとしても色々働かせようぜ。普段からえらそーにしててムカつくヤツが俺らに頭下げてヘコヘコしてるトコとか、どんなもんか見てみたくね? ついでにどこまでその“奴隷ごっこ”に耐えられるか、実験もしようぜ」
『それサイコ~~~~!!』
ゆらゆらと揺れ動くカタマリは、お互いにひゅーひゅーと風を送り合ったり、パチパチと祝砲を鳴らし合ったりしていて、心底楽しそうでした。
……これは……『Eくん』…………だった、か?
もう、誰が『A』で誰が『B』で誰が『C』で誰が『D』で誰が『E』なのか……。
誰がどこにいて、何をしているのか……。
彼らは果たして、一体誰だったっけか……?
ボクには、よく分かりませんでした。
と言うより――。
もはやボクには、関係のないことでした。
「てかよぉ、そいつに何か弱みとかねぇの? あったらオとすの楽勝なのによぉ」
殺す。
「いや逆に“作る”ってのはどうよ? 有ること無いことでっち上げて、濡れ衣でも何でも着せちまえば一丁上がり、ってなもんだろ」
殺す。
「それよりよぉ、胸はあんのか? そいつってデカかったっけ? まぁ、小さいなら小さくてもいいけどよぉ……いざオモチャにするところで絶壁だったら楽しさが半減しねぇか?」
殺す。
「おいおい、そんな話は後だろ。まずはどうやってそいつと俺らを会話に持っていくかってトコが一番肝心なんじゃねぇのか? ま、そいつのことだから、『実は……自殺したアイツのことで話があるんだ……』なんてこと言って、ちょぉ~っと泣き顔見せればすぐに誘き出せるとは思うけどなあ」
殺す。
「ギャハハハ! どうしたどうした、今日はいつにも増して最高に楽しいじゃねぇか。やっぱ、人生楽しく生きなきゃなぁ。じめじめした日陰で過ごして最後は自殺……なんて、まっぴらゴメンだよなぁ」
「――――」
「……んじゃあ、そういうわけで。俺たちでうぜぇアイツを食っちまおうぜ。――おおっと、言い出しっぺは俺だからな? 最初に食うのは俺からでいいよなぁ? ウへへへ……さぁ~て、どこからどうやって食い散らかしてやろうかねぇ!?『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!』
「――――」
ボクの名前はレイでした。
ボクには殺したい人が……今、できました。
もう…………誰がこうでそうでああでどうでもよかった。
w;:lcxmこいあねんk;slxdんかscにあうjないrvんdsw;しn
ただ……えうりvぺfvkでんcぴうえrvしえぱwんfvじんせろい
こrえいづえりぁsじdんcldkcんヴぃぁにあえうんf
コイツ二シヨウ