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9.将来の...。

序章ではほとんど主人公以外に触れませんでしたが、本章からはバンバン触れていきます。場合によっては数話連続で主人公欠席したりするかもしれません。


あと、少々グロいかもです。今後も、こんな感じのグロは出てくると思うので、よろしくお願いします...。指摘されたらポップな感じでグロくなくする...。

その日は本当に、朝から最悪の日だった。

朝は、一緒に寝ていた妹に、毛布を剥ぎ取られてトイレにこもることになってしまった。最悪だ。その後、お母さんに頼まれて近くの小川までいけば、滑って川の中に落っこちて服を水浸しにしてしまい、よけいトイレにこもることになってしまった。最悪だ。朝食後、妹につむじを強く押されて下痢になってしまい、またトイレにこもった。最悪だ。朝起きてからトイレ。トイレ。トイレ。いい加減、お尻が痛い。本当に、最悪の日だ。




トイレから出た僕の眼に入り込んできたのは、赤。僕の足元まで流れてきたそれの発生源に目を向けてみれば、妹にお母さんにお父さん。そして、見たことのない生き物。玄関には大穴が開けられていて、朝食をとったテーブルは、椅子は、全てが原形の残らないただの木くずになっていた。


僕の目の前には、大きく開かれた口。――ああ、本当に。今日は最悪の日だった。







到着到着ゥ!ごめぇん、待った?

...ってうぉあ!なんや、村めっちゃ崩壊しとるやんけ!!何事!?すでに手遅れな感じか?


俺の視界一杯に広がったのは、いくつもの家。それらが倒壊している姿だった。

ふと、音の鳴る方に耳を傾けてみると、それがだんだんとこっちに近づいてきていることがわかった。アイェェ....全然戦闘準備できてないぞぉ....。

急いで魔力を抽出しようとしたが、俺の横にある家の壁にひびが入り始めたのをみて、華麗なバックステップで後退する。直後、壁を壊しながら一人の筋骨隆々な男性が俺の足元に転がってきた。みれば、全身がボロボロで、体中の至る所から血が出ている。


うーん、こんな筋肉オジサンをボコれる存在とか、正直俺勝てるビジョンないぞ。...今のうちに帰っていい?大丈夫、魔法抽出したらすぐ戻ってくるから!


「な、アンタ冒険者か!?何級だ!?」


ふぁ、なんやコイツめっちゃ元気やん!なら、まだ戦えるやんね?時間稼いでくれよ魔力抽出するから。

つーか、何?冒険者って。何級って....高いほうが偉いのか?適当にいってもいいの、コレ。SSS級とかって言っちゃう?....いや、まぁここはウソ使わないで華麗に回避してやんよ。見ててください。


「そんなこと、どうでもいいでしょ。私、今から魔力抽出するから。時間稼いでくれる?」


はい、クールビューティー俺!俺外だとこのキャラで行くことにしたから、よろしくな!いや、まぁ正直このキャラだと、普通に男口調な感じで話せるから楽なんだよね。お嬢様口調とかは一回考えたんだけど、正直精神的にキツイと思ったから結局これになった。ちょっと不愛想な感じだけど、できる女って感じがするでしょ!いやー、俺ってばまじ策士。


あ、あと俺は今フード付きのローブ着てるから、本当に誰だかわかんないと思う。なんだろ、マジックミラーっていうのかな、コレ。フードの中は見えない仕様になってるっぽい。着るときに手を入れて一回確認したけど、外からじゃ本当に真っ暗なままだった。仕組みはさっぱりわかんない。


「時間稼げば、アイツを倒せるのか!?」


うん。多分ね。まぁ、正直アイツとか言われても姿みてないし、知らんけど。まま、いけるいける。チュートリアルで苦戦する奴、おらんから。


いやな気配が近づいてくるのを感じる。筋肉オジはすでに態勢を整えなおしていて、ボロボロの剣を構えている。お、横顔ちょっとイケオジやん。


そして、それは筋肉オジの出てきた穴から、顔を出した。

鋭くとがった体毛、ピンととがった耳。真っ赤な目が、俺達を睨む。


....これ、犬?犬じゃね?えー...動物虐待反対だぞぉ。まぁ、ちょっとというか、かなりでかいけど....。でも、俺は動物にも容赦はしないぞ。舐めてかかったら、死ぬかもしれないんだからな。


しかし、一瞬にして俺の考えは改められることになる。やがて、穴より出でるその全貌。顔だけは愛らしい犬の姿をしているのにも関わらず、それは二足歩行をしていた。でっぷりと太った巨躯のおっさんの、頭部だけが犬といったような感じ。

そして、なによりおそろしいのは――その、腹。ぱっくりと割れたその腹には、血に塗れた牙が生えており、俺の上半身くらいの大きさの舌が、だらしなく、唾液を垂らしながら揺れていた。そして、その中には――幾人もの人間の死体が見えた。


ぶわ、っと全身の鳥肌が逆立つのを感じる。明確な、死の気配。それを前にして、俺は今までの甘い考えを一瞬で捨て去った。舐めていた。人と魔物の争いというのを、俺は思い知らされることになった。そうだ、当たり前だ。これはフィルターの一切ないノンフィクションな世界で、人は傷を負えば血を流すし、人が魔物を殺すように――人も魔物に殺される。ゲームのように曖昧な表現何て一切ない、現実の残酷な姿。それをまざまざと見せつけられた俺は、しかし理性と反して、驚くほど冷静だった。


しっかりと、現実を認識した。人が死ぬというのも、魔物との争いというのも理解した。今まで他人事のように感じていた世界も、自分のものとして捉えられるようになった。しかし――なんだろう、本能とでもいうのだろうか。俺は心の底から、これっぽっちもこの魔物を怖いとは思えなかった。


「...ああ、もう準備できたから、下がっていいよ」


筋肉オジを下げて、俺は目の前の魔物に、抽出した魔力塊を吹き飛ばす。そして、それが当たると同時に――


「炎よ、燃やし尽くせ」


大きな火柱が立ち上がる。見れば魔物は苦しそうに悶えていて、なんとか火の手から逃れようと、家や地面に体を何度もこすり付けるが、結局火は消えず、俺を術者として認識したのか。最後に俺に向かって手を伸ばしてきて、それが届く前に、魔物は燃え尽きた。


ふーん、まぁ、こんなものか。...これってどれくらいの強さだったんだろうか。正直これで強いほうとかだったらうれしいんだけど....。あと、なんか俺戦闘中性格変わるっぽいな。なんだか自分でも不気味に感じるほど冷静だったし、今思えば十分あの魔物も怖く感じるんだが。まぁ、余裕だったわ!!!


「す、すげぇ...あの大魔を一撃なんて...」


お、筋肉オジが驚いてる。むふふ。もっと褒めてくれてもいーんだよーん。俺はすごいのだ、ドヤッ!...驚くってことはそれなりには強い部類だったのかな。まぁ外見だけで見たら正直作中屈指のトラウマシーンとかで出てきてもおかしくないレベルだったしな。...ただ、正直マッマとは比べ物にもならない雑魚っていうか...。マッマはかなり強い部類だと思ってるけど、のほほんマッマにすら秒殺されるレベルで弱く感じたんだけど....。

んー、わかんないことは聞け!!俺は超絶美少女陽キャ!!絶対いける!


「ちょっと、あなたに質問。まず第一に、冒険者って、級ってなに?それで、二つ目に今戦ったやつはどれくらい強いほうなの?最後、あなたはどれくらい強いほう?」


ちょっと命令口調になったけど、多分声かわいいし、虚勢張ってるとか見抜かれてそうだなあ。まぁ、実際実力は多分お前より上だし、何よりお前を救った恩人なわけだからね。ほら、はやくはやく。潔く教えるといいよ。


「ま、待ってくれ。冒険者も知らないのか....?ど、どこ出身なんだ?」


なんやコイツ。冒険者ってこの世界だとそんな当たり前の単語なの?俺って140くらいだから、多分外見だけで見たら子供に見えると思うし、声も幼いほうだから子供だという発想にはいきつきそうなんだが...これは、子供ですら知ってる当たり前のことっていうことかな?ふーん....。あ、あとどこ出身ってそれ聞かないほうがいいよ。まじナンパだから!次はビンタするよ!


ん?この...懐かしい気配は...故郷の、森の気配....?


気配の発生源に目を向けると、倒壊した家の柱から、ひっそりと、一人の男の子が俺たちを見ていることに気付いた。男の子も、俺が見ていることに気付いたのか、あわてて柱の後ろに姿を隠す。そして、オロオロと震えながらもう一度顔を出し、また引っ込めるというのを繰り返していた。なんだ、あの可愛い生き物...。お持ち帰りしてもよきですか?


筋肉オジも俺の視線に気づいたのか、男の子の方をみやり、そして慌てて男の子の方へと駆け出して行った。


「大丈夫か!?けがは...なさそうだな。よかった...一人でも救うことができて...」


え、まじ?生きてるの一人だけ?...あー、遅れてごめんな。俺がもっと早く来たら助かってたかもな。

俺も、男の子の方へと、小走りで近づく。


「ああ、そうだ!あんたには本当に助けられたよ、おかげでこの男の子も、俺も生きることができた。本当は、真っ先に感謝するべきだったんだけど、順番が逆になったな。ありがとう、心から感謝してる。よければ、一緒にギルドへと向かわないか?道中でも、ついてからでもあんたの質問に答えよう。とりあえず、本部は遠いから、支部からでる馬車に乗っていく予定なんだが...」


はえー。ん、まぁそれでいいよ。正直ギルドとかいう単語わからんけど、まぁ多分冒険者、ギルドつったら冒険者ギルドだよなぁ。そういうのこの世界にもあるんだな。まぁ、俺は多分圧倒的世間知らずだから、教えてくれるっていうなら甘えるわ。よろしくねッ!!


「お、おねーちゃん...あ、ありがとう...」


ん、なんだ少年。感謝の言葉とはよくできた子じゃないかよーしよしよし....んまぁ、正直俺と背丈ほとんど変わらないから、偉そうな態度取れないんだけどな。ここでイケメンなら頭撫でてる。まぁ男の子ヒロインを攻略するかどうかはセンス出るけど。


「....ふぅ。どういたしまして」


フードをとって、マッマのような慈愛の微笑みで、感謝に応える。礼儀的に、フード被ったまま応えるのはマナーがなってないと思ったから外しました!べ、別にちょっと美少女感出そうとしたとかそんなんじゃねーから!

見れば、少年は顔を真っ赤にして俺に目が釘付けになっていた。いやー、すまんすまん!また一人の少年の性癖を歪めてしまったみたいだ!!....おい、筋肉オジの赤い顔には興味ねーんだよ、しばくぞ?


つーか、それにしても....この子からしてるのって森の匂いだよな?いや、正確にいうと森とは違うんだが...この子からは森の中にあった神聖オーラと似通ったものを感じる。なんだろ、源泉?たぶん、この子の匂いにマッマの優しさをブレンドしたら完全に森の匂いになる。いやぁ、どういうことなんだろうね、さっぱりわからん。神聖属性でも持ってんのかな。もしかして力喪った神だったりします?


まぁーいいや。いつまでもここにとどまるわけにもいかないしな。よし、フード被って出発だ。オラ、筋肉オジ案内しろや。...あ、死者の追悼。...そうだな、俺もついていってやるから、泣きたいなら泣けばいい、少年よ。前を向いて生きるために、今は下を向け。託された思いの重みが、おまえを強くするだろう。辛いなら、俺の胸に飛び込んできてもいいんだぜ?







少年にとって、その日はその一瞬まで本当に最悪の日だった。


三連続トイレ。その直後の、家族の死。そして、魔物にあと一瞬で食われそうになる恐怖。なぜか、魔物は食う直前で、まるで悩むかのように食べるのを戸惑っていたが。そして、その直後にかけつけた男の人と魔獣との闘い。それは一方的と呼ぶのに十分で、男の人が負けるのは確実だった。


――その少女が来るまでは。


フードを深くまで被った少女。少女は魔物と男との間に割って入ると、一瞬で魔物を燃やし尽くしてしまった。その幻想的な光景に、目が奪われた。フードのせいで、顔は見えずらかったが、綺麗な顔立ちをしているのはわかった。見られているのがバレませんように、なんて願いながらも少女から目が離せなかった。


やがて、男の人が来て、身を案じてくれた。男の人は、少女にお礼を言って、少年もすぐさま続いてお礼を言った。そして、それに対し少女は、深くかぶっていたフードを外して....少年は思った。もし、この世界に神がいたら、それはきっとこの少女に違いないと。まぁ、とどのつまり少年は。


少女に惚れてしまったわけだ。その顔を思い出すだけで、顔を赤くしてしまうほどに。

恋する乙女は強いと聞いたことがある。では、恋する少年がいたとして。隣に立ちたいと思う少女ははるか頂き。ならば、少年が強くなりたいと、自分を磨き始めるのは当たり前のことだろう。そして、知ることになる。恋する少年は、恋する乙女と同様、強いということを。


亡くなった家族を見ると、少年の心は痛んだ。泣きたい気分になった。でも、少年は少女に泣いているところなんてみられたくないと、必死に我慢した。

少年は亡くなった家族に、よき隣人に誓った。こういうことが起こらないように、強くなるということを。少女の前で、少女のように強くなってみせると宣言した。


恋と、仇。家族を殺されたことによる、魔物への恨みからの力への欲望。そして、少女の隣に立ちたいという慕情からの力への欲求。これより、少年は、躍進する。


これが、一年後。パーティーを組むことになる二人の初めての邂逅だった。

評価、感想、ブックマーク。とっても励みになってます!もうちょっとだけシリアス続いちゃうけど、よろしくお願いします...。

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