8.世界よりもマッマのために。
難産でした。5回くらい「これじゃないんだよな~」で展開変えまくりました。あと、あんまり長くないっぽいですよ。
よろしくおねがいします!!
「もう、いいです。帰ってください」
マッマのちょっと怒ったような声を聴き、俺は目を覚ます。
ふわぁ~。なんすか。俺が寝てる間にナイショの話をするなんてずるいぞマッマ!なにはなしてたんだYo!俺がしっかり相手のことぶん殴っちゃる!!
「ああ、起きちゃいましたか。ごめんなさい」
そういいながら、マッマは優しく微笑みながら、俺を撫でてくれる。
謝らなくていいんやで!!ん~バブみがすごい!俺がおぎゃってしまうのも仕方がないってやつですよ。このままここにいたら精神年齢も低下すること間違いなしだな!
「とにかく、私は世界のことなんてどうでもいいんです。今は、この子と一緒に、この子が危険な目にあうことがなく、平穏に過ごすことだけが私の願いです」
....え、なにマッマ。なんかめっちゃ重そうな話してない?世界?え、今なんか世界ピンチだったりするの?あ、でも、俺ずっとマッマとイチャイチャしてたいんで、俺も旅とか出たくないからいいぞ~もっと押せ押せマッマ!!
つーか、話し相手結局誰?姿も見えないし、声も聞こえないんだけど、マッマと念話でもしてるん?あー、テレパシーとかって、どういう原理なんだろう。再現とかできるのかな、できたらしてみたいな。離れてても常にマッマを感じれる!最高じゃないか!!まぁ、離れる気なんてさらさらないけどな。コアラが木にしがみつくみたいに、俺もマッマにずっとしがみついて撫でたりだっことかしてもらいたい。
「...ふぅ。起こしちゃって、ごめんなさい」
マッマだから別にいいけど、一緒に寝てくれたらもっと許すわ!!
「じゃあ、もう一回お昼寝といきましょうか。おやすみなさい、シャナちゃん」
おやすみ、マッマ。
◆
「ママ...寝てる?...起きないでね....」
マッマがすやすやと眠っているのを確認すると、名残惜しく感じるも、腕の拘束から慎重に抜け出す。
そのまま、ゆっくりと、物音を立てないように歩いて家から出る。
....あ、マッマ寝てるんだからおっp....ちょっと変態行為でもしてくればよかった。くそ、戻るか?...いや、まぁいいか。というか、いざ相対したらそんなのできる気しないし。
裸足のまま、俺はあのはじまりの場所へとたどり着く。そして、ちょっとだけ他よりも大きい木の根元に座る。
「あー...お前だろ?さっきマッマと話してたのは」
『そうじゃ』
「驚いたそぶりすら見せないのか。まじでむかつく木だな」
へっ。やっぱりコイツだったぜ。俺のシックスセンスがコイツが怪しいって囁くからよォ、血涙流しながらお昼寝タイム抜け出してきてやった次第よ。泣いて喜べ、俺だぞ。
というか、そもそも今日のコイツはなんかおかしかったからな。いきなり自分の正体暴露しようとしたり、なんか伝えたいことがありますーって匂いがプンプンしてたわ。
「...で、何がいいたいわけ?ほら、話していいぞ」
『えー。わし、そんな舐めた態度取られると話す気失せちゃうー。もっと可愛くおねだりしてくれない?』
...あれ、気のせいだったわ。正直めちゃくちゃシリアスモード出してると思ってたのに、コイツ平常運転だわ。やっぱりボケ入ってない?大丈夫?
あ、言う気ないので、さっさとすすめてください。どうぞ。
『仕方ないのぉ....。まぁ、ぶっちゃけるとこのまま放っておくと世界滅ぶんじゃよね』
随分とぶっちゃけたなおい。あー、やっぱ外はかなりカオスになってるんか。正直、マッマのセリフからなんとなく想像はできてたからあんま驚きはないな。むしろ、まだ滅亡してないだけましともいえるかもな。
...あー、そういえばマッマに結局外の話聞けてないな。ずっと魔法の話だけして....気付かなかった俺も俺だけど、もしかしてマッマは話を逸らしてたんかな。話題に上がることのないようにしてたのかな。
『まぁ、そうじゃ。お前を可愛がるあまり、下界からの救いの声のすべてを聞かないようにした。そら、そうじゃろうな。だって、死ぬ可能性もあるわけじゃし。それに、まだ初めて話してから全然時間も経ってないじゃろ。そんな状態でずっと待ち望んでた娘を死地に送り出す母親はいないじゃろ』
マッマは、世界よりも俺を、たった一人の娘の命を...。いったい、それにはどれだけの覚悟が必要だったのだろう。
『お前を愛している、お前を守りたい。その一心で全てを隠し、全ての責務を放棄したんじゃ。それだけ大事に思われているのだということくらいはしっかりと理解してあげてほしい』
うっせ、そんなの俺が一番よくわかってんだよ。マッマが俺のことハイパー大好きで、どきどきしながらお昼寝の時にキスしようとしてたってこともな!俺がマッマを嫌いになるわけねーだろ、やっぱコイツは腐れ老木人だな。まったく、見当違いも甚だしいぜ。
つーか、やっぱりマッマってなんか偉い役職だかについてる人だったんだな。本当に神だったら笑う。俺のシックスセンスが最強すぎて笑ってしまう。
『わしは、無理矢理お前の運命を決める気はない。ただ、お前にはわしらの意志とは関係なしに、自由にその道を選択してほしいとは思っとる。選択肢は二つ。一つは、この森に残り、世界が崩壊するまでの間ここで危険とは程遠い充実した日々を送るか。もう一つは、この森を出て、危険と隣り合わせのいつ死ぬかもわからない日常を生きていくか。....ちなみに、わしとお前の母親は、この森から出ることはできんから、外では本当に自分の力で生き抜く必要があるぞ』
『お前は、どっちを選ぶ?』
...あっはは。いやぁ、お前と会えないってのは別にくそどうでもいいし、せいせいする気分にすらなるんだが...マッマと会えないってのはな。やっぱり、きついな。...ん、目いっぱい甘やかされすぎたから、一層離れたくないよ。離れたくないんだけどさぁ...!!
「一つ聞きたい。世界が崩壊....人間側が敗北すると、この森はどうなる?」
『燃やし尽くされるのは確定じゃろうな』
そっか。そうだよな。...誰かがやんなきゃ、事態は改善しなくて。そんで、それをできるのが俺で。俺がやんなかったらこの森は燃やされて、俺の故郷は、消失して....それで、マッマは?
『さっきいったように、お前の母も、わしもこの森から離れることはできん。お前は自由に出入りできるがの。....森の消失は、わしらの消滅を意味する』
...そっか!なんだ、先にそれを言ってくれよ。それなら、こんなマッマと離れ離れになるとかで悩む必要なかったのに、さ!!
俺は――
「外に出るよ。この森から出て、世界を救う。それが、俺の使命で、俺にしかできないことなんだろ?」
『...怖くないのか?』
「ぜんっぜん怖くないね!!余裕だわ!!」
虚勢張って口元に慣れない笑みを浮かべてみる。
嘘だ。前世の俺に戦闘経験とかないし、実際チート持ってるからと言って咄嗟にうまく使えるかと言われたら疑問を呈さずにはいられない。一々魔力を抽出して発動させるのだって、全然慣れてないから時間はかかるわけだし。一瞬の隙が命取りになるような戦場で、果たして俺が生き残れるのかってことに確信をもって答えることはできない。死んでしまって、世界を救うこともできないかもしれない。
でも、だからなんだって話だ。世界が崩壊したら、森は消失してマッマが死ぬ。それだけで、俺が外に出る理由は十分だ。
世界の為――とか、ああ、本当にどうでもいい。俺はまだ世界から何かをしてもらったわけじゃないからな。ただ俺は――マッマの為。そのためにこの世界を救うよ。マッマに生きてもらいたいから、外に出る。
『....ああ、森よ。わしらの希望の姫に、祝福を』
その言葉と共に、あたりを覆ってた神聖オーラのようなものが俺の目の前で集まり、俺の身体の中に溶け込んでくる。それは、俺の少し震えていた体に落ち着きを取り戻させ、芯から俺をあたたかくしてくれる。
「んだよ、最後にかっこよさげなことしやがってよ」
『いいじゃろ。これ、お前の母にもできない、わしだけの特権なんじゃよ』
チッ...本当にむかつくやつだな...そんなことしても好感度とか別に上がんねぇからな。
『出口は、この先を直進すれば見えてくる。...ただ、強烈な幻覚魔法がかかってるから、お前にそれを認識することはできないじゃろうがな。まぁ、わしにはできるがの』
あー、だから最初俺出れなかったわけね。まぁ、なんかしら神聖パワーが働いてるからだと思ってたし、予想はしてた。
こういう手の輩って、反応するとアウトなんだよな。無視だ、無視。
『だから、目を瞑ればいい。わしが、外まで導こう』
ふーん。じゃあ、お言葉に甘えよっかなぁ。しっかり、俺を導けよ?
....ここと、お別れか。
マッマは今も寝てるのかな。俺がいないって知ったら、どうするのかな。悲しむのかな、それとも別に何とも思わないのかな。...いや、それはさすがにちょっと寂しいから少しは寂しんでほしいな。でも、俺は、別に流されたわけじゃないんだぜ。マッマの為に世界を救うわけなんだけど、マッマの為ってのは俺の為でもあるんだ。マッマは俺だけが安全ならそれでいいのかもしれないけど、俺からしたらマッマが安全でいてくれることだけが望みだ。我儘言うなら、その隣に俺がいることなんだけど、まぁマッマの平穏が一番の願いだ。
「...ん、いくか。案内頼むわ」
目を瞑る。しかし、視界は何も捉えていないはずなのに、漠然と、進むべき道っていうのが頭の中に入り込んでくる。暗闇の中で、光り輝く浮かび上がる一本道が、俺にここを通れと教えてくれる。
『頑張れよ』
「おう。いっちょ世界救ってやるから、それまでマッマのこと頼むな。あと、マッマには全部俺の独断だって言ってくれ。マッマが責任を感じる必要なんてないって」
『わかったわぃ』
「...ありがとな。なんだかんだ言っても、お前との会話も楽しかったわ。本当の俺を曝け出せて...いや、まぁいいか。じゃあな」
歩き出す。振り返ることも、眼を開けることもなく、一本道をただひたすらに歩いていく。...雰囲気が、薄れていくのを感じる。いままで圧倒的に身近に感じていた神聖オーラがだんだんと消えゆく。
一本道の終着点が、見えた。...この森を出て、まずは情報収集だな。結局、詳しくどういう状況なのかってのは聞けてないし。
ま、俺にはマッマから貰った最強チートがあるからな。正直負ける気がしないわ、がはは!
最後まで歩き抜くと、真っ暗闇だった世界が、急に眩しくなる。うっすらと目を開けると、俺は土の上に立っていた。
後ろを振り向くと、大きな森があったが、そこからは神聖オーラは感じなかった。...文字通り、俺がいたのは聖域だったってわけか?
そこで、俺は足元に麻袋が置かれているのに気づいた。麻袋の中を覗くと、よく分からない液体が入った瓶がいくつか、それと...なんだ、種?あと....なんだこれ?変な光球みたいなのも入ってる。あとは、これは装備かな?俺の全身を包み隠せるフード付きのローブに、幾重にも捻じれた木の枝。それと....よくわかんないけど、葉っぱ。まぁ、あとで見てみることにするか。
あと、気付いたんだけどいつの間にか俺はブーツを履いていた。ふかふかとしていて、少しゆとりがあるが、足は簡単に抜けるような感じではなく、履き心地は快適ですね。....本当に、あの老木ってやつは。
目頭が熱くなり、瞳から何度も液体がこぼれ、麻布にしみこむ。もう、マッマとも、全部が終わるまで会えない。マッマに甘えることができない。ついでに老木とも会えない。
『まじ?泣いちゃう?いやー、わし好かれちゃってごめんね!モテモテってつらいのぉ』
涙が引っ込んだ。頭の中で老木なら何て言うだろうかって考えたら、一気に萎えた。ああ、そうだったそうだった。アイツはクソだ。最後に少しマシなことしたから評価上方修正されてるだけで、アイツクソだったわ。よし、余裕余裕。俺は寂しくて泣いたりとかそんな女々しいことはしていない。....次からも泣きたくなったらこれやってみるか。ありがとう、腐れジジイ!!
...意識を切り替え、眼前に広がる景色を一望する。いくつものクレーターに、明らかな戦闘跡....え、ちょっとまって。なに、こんなクレーター作れるようなやつと、俺今から戦うわけ?お、おう....も、燃えてくるってやつだぜ....。すまん、かなり舐めてた。まぁ、人類が負ける寸前って言うんだから、前世の常識じゃ図れないような化け物が当たり前に出てくるってことなんだろうな。
ん?これは...声が、聞こえる。雄たけびのような声。そして、いくつもの金属がぶつかり合うような甲高い音。
仕方ねぇな。ここで、劇的な俺の活躍をもって、サーガの幕開けとしようか。さしずめ、森での平穏な生活は、序章といったところか?
へへ、なんかわくわくしてきた。俺は戦闘狂とかじゃないと思うんだが、やっぱり、未知を開拓しながら生きていくっていうのは心が躍る。これから先、出会って戦う敵とかを思い描いたら、いてもたってもいられない。
「よし、ここからが、俺の冒険の始まり!!超絶美少女の、世界を救う旅の幕開けだ!!マッマの為に――世界を救ってみせるぞー!!」
俺は意気揚々と、音のするほうへ向かって走り出した。
◆
『いったか....少々お土産を多く持たせてしまったが、まぁ構わんじゃろ。きっと、あの子なら世界を救ってくれる。
なぁ、そう思うじゃろ?お前さんも』
そう、一人ぼやく木は、後ろから歩いてくるものに向かって声をかける。
「....シャナちゃんは?」
正面に姿を現したのは、眩しく輝く光を背中から発する一人の女性。
『おまえ...いや、今代の精霊王よ。一つ言っておく。あの子は、自分の意志で、自分の想いの下に、旅だった。それを連れ戻すなぞ――』
「わかっています。私も、腐ってもこの森の管理者。身勝手に追いかけるつもりはありません。...まぁ、そもそも出ることができないんですけどね」
木の言葉を遮り、精霊王と呼ばれたその女性は口を開く。そんなことは言わずともわかっていると、そう言外に告げるように話をする。....みれば、そのきつく握りしめられた拳からは、ぽたぽたと血が滴り落ち、その感情を表すように、光がより一層強く輝く。
「ああ――シャナちゃん。私は、あなたに尊敬されるようなママでいることができたでしょうか」
その言葉は....聞く相手のいない呟きは独り虚空に溶け込んでいく。
「.....そういえば一つ聞きたいことがあるんですよ。あなたに。前精霊王のあなたに」
『なんじゃ?』
「あなた、どこから来たんです?あなたは精霊王としての役目を果たせなくなり、私にその任を託した後は、この森と同化して亡くなったはずです。なぜ、こうやって会話できるのですか?」
『ああ、そのことか。ふむ....いやはや、お前さんともあろうものが、気付かないとはのぉ。やっぱり、年季が違うのかのぉ』
小ばかにするように、木は語る。だが、怒るわけでも、呆れるわけでも罵倒を吐くわけでもなく、ただひたすらに無視をするという女性の対応に、少し残念そうにした後、語りだす。
『確かに、お前さんに精霊王を託した後、わしはこの森と同化した。じゃが、同化したからと言って意識がなくなるわけではない。むしろ、ずっとこの森を通してお前さんたちを見守ってきた。しかし、魔法は使えぬし、ただそちらとコミュニケーションを交わす手段がなく、今まで黙っていたわけじゃ』
「...それが、なぜ今になって?」
『わからん?わからんか?....あの子のもつ、本当の異常性に未だ気付いとらんのか?』
「シャナちゃんの....異常性...?」
にやっ、と悪い笑みを浮かべているかのような声質で、木は語る。
『あの子の真髄は、無限の魔力量でも、万物を生み出す特異魔力でもない。...願いを、かなえる力じゃよ』
「...は?」
『もちろん、なんでもというわけじゃない。あの子の能力は、自分を取り巻くありとあらゆる存在を動かして、自分の願いをかなえるというものじゃ。つまり、わしがこの森と同化していなかったら、多分何も起こらなかったじゃろうし、例えばあの子が世界の崩壊を願った時に、それを実現できる力を持つものがいたら、世界は蹂躙されることじゃろう。...わしは、あの子の『誰か助けて』という願いから、あの子を助ける存在として言葉を介する力を得たのじゃ』
「....」
『..驚いて言葉も出んか。まぁ、そうじゃろうな。わしも最初に気付いた時はビビったし。じゃけどな、それでもあの子は紛れもなくお前さんの娘なんじゃから――』
「すごい、すごいです!さすが、ママの自慢の娘ですね!!」
あー困ります!!困りますお母さん!!
返して....さっきまでのシリアス返してよぉ!!
「あーん、ぎゅーって抱きしめてあげたい♡ここにいなくて撫でまわせないのが残念です~。はぁ....そういえば、親子同士で結婚って今の人間界の法律的にアリでしたっけ?」
『え、え、わしお前のシリアス雰囲気に乗って話してあげたのになにそれー。手からめっちゃ血流してたからふざけたら燃やされるかもって思ってたのになー。お前の方からキャラ崩壊するの?まじ?よし、わしもシリアスやーめよっと。ちなみに、愛があればアリじゃよ』
「もー♡シャナちゃんは本当に女神さんなんですから~。...そうだ、シャナちゃんと私との子供の為に、今から服でも作っておきましょうか!えへへ、やることがいっぱいですね」
旅だった娘のことを心配しながらも、なんだかんだ、今日も森はいつも通り平穏です。
これにて序章は終了!となります。次話から本章へと入ります!!
ブックマークとか、感想とか本当にありがとうございます!書く気力がわいてきます!!
次章からも、よろしくおねがいします!