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『王妃』

難産でした……。

 春といえば、社交界に初参入する初々しい子達が見られる季節である。

 わたくしが王妃となってから、幸いな事に戦などは起きていない、というか、歴史書を紐解いても類を見ない平和な時代が続いているので、貴族達は社交に力を入れている様子が見られる。


 もっともわたくしが見たいのは、海千山千の狸どもなどではなく、謂わば原石のように磨いたら光るものを持つ若者だ。それは社交界の華になれそうな子でもいいし、芸術方面に秀でていても素敵。或いは話術が巧みであったりと、とにかくどんな方面でもよいので、優れた人材を掘り当てるのが好きなのだ。趣味と言ってもいいだろう。

 なのでわたくしは頻繁に、歌を歌い、楽器を奏でて評価をしあう会や、討論会のような会合を開く。原石は多ければ多い程良いので、招くのは大貴族だけではない。結果的に、陛下に有能な人材を斡旋している事にもなるので、苦言どころかお褒めの言葉を頂く事もある。

 当初は『王妃のままごと遊び』『ご機嫌とり』などと揶揄されていたのも勿論知っているが、実績を積んだ今では、そのような事は言った方が窘められる。


「さて、今年はどのような華と巡り合えるかしら」

「母上、程々になさってくださいよ」


 長男のミハイルがそんな事を言うものだから、わたくしもつい、意地悪を言ってしまった。


其方(そなた)がいい加減リアーナ嬢に求婚すれば、母も落ち着くかもしれないわね」

「な……っ!母上!」


 顔を赤くして声を荒げる我が子、20歳を過ぎたのに婚約者に「妻になってくれ」とも言えない情けないミハイルから視線を外し、初参加の子らをざっと見渡す。どの子も緊張しているさまが愛らしい。


「王妃、気になる者はいたか?」


 隣で同じように、会場を見下ろしていた陛下がわたくしに問う。


「『妖精姫』のように目立つ子はいませんわね」

「彼女は別格であったからなあ……。あの美貌は我らが息子すら虜にしたからな」


 しみじみ呟く陛下に古傷を抉られたミハイルが項垂れる。初対面で告白してあっさり振られたのはとても面白……哀れを誘う姿だった。


「あにうえは惚れっぽいですね!」

「うっ……」


 ミハイルから間を空けて生まれたせいか殊更可愛く見えて、つい皆甘やかしてしまう末の息子、ヨハンにとどめを刺され、ミハイルは呻いた。


「……『妖精姫』といえば、あの家は養子を取ったそうですね。この会場が初だそうで」

「あら、そうなの?」


 ミハエルは初恋の君の動向を監視しているのか、と、やや気になったが、それより養子だ。


「少女だそうですよ。珍しい事に随分愛されているようです」

「それは珍しいわね……」


 大貴族の養子、憧れる者も少なくなかろうが、実態は淡々とした関係になりがちだ。実の子すら駒としか思っていないような狸が、目的のために引き取った子を愛するか?という話だ。勿論愛情を持って子を育てる者もいるが、少数派だと言わざるを得ない。


「その子、呼んできてほしいわ」

「そう言うと思って呼ばせてあります」


 こういう所は気が利くのに、絶妙に残念なミハイルを婚約者の元へ追いやり、わたくしと陛下、ヨハンはその少女を待った。




 少女、アンジュは一見して普通に可愛らしい子だった。

 しかし、初の夜会で王族に呼ばれるなど緊張するだろうからと、多少の粗相は見逃そうと思っていたわたくし達の予想を裏切るように、とても美しい挨拶を淀みなくこなしてみせた。

 聞けば、あの(・・)ジェンナに師事していて、しかも懐いているように見受けられる。大物である。

 アンジュは感じ良く、媚びず、控えめで、相手を立てる事を知っていて、話していてとても気分が良くなる子だった。


 アンジュが去った後、わたくしは陛下に述べた。


「アンジュは社交界で愛される子になりますわね」

「王妃が言うのならばそうなのだろうな。少し気を付けておくか……」


 陛下のお言葉に被せるようにヨハンが言う。


「父上、母上!アンジュ嬢をお嫁さんにしたいのですが!」

「ええ!?」

「ヨハンもミハイルの弟か……」




 領地を持つ貴族は基本、社交の時期にしか王都にいない。

 わたくしはお茶会を幾度も開き、アンジュを始めとした原石達を招待して親睦を深めた。殿方などアンジュと一度話せばころりと落ちてしまうので、わたくしやリアーナ嬢を筆頭に、アンジュの元に殿方が殺到しないように防波堤の役割を担ってみたりもした。

 その所為か、『王妃はアンジュ嬢の夫をふるいにかけて選別している』とかいう噂まで流れた。確かにアンジュ嬢を娶るならば相応の覚悟を持ってほしいとは思っているが、選別しようとまでは思っていないのに。


 リアーナ嬢がアンジュ嬢にまんまと引っ掛かっていたのには、前の自分を見ているようで笑ってしまった。今ではリアーナ嬢はアンジュ嬢の親友を自負している。







 可愛い可愛い息子ではあるが、末っ子気質で甘やかされ慣れたヨハンでは、アンジュ嬢を幸せには出来ないと思う。それにアンジュ嬢はヨハンの5歳上。逆ならともかく、政略ならば許容範囲内の年齢差も、恋愛婚と思うとアンジュ嬢が可哀想だ。

 ヨハンに諦めてもらう為にも、アンジュ嬢に良い相手が出来ればいいのだけれど……。

 そう思って、アンジュ嬢の縁談を潰してきた身で都合のいい話ではあるが、アンジュ嬢を任せられそうな殿方を探そうとした矢先。


 アンジュ嬢に『いいひと』が出来たらしい、という話を聞きつけ、わたくしは相手に問題が無いのを確認して、全面的に応援する姿勢に入った。

 ーーあの子(・・・)ならアンジュ嬢を幸せに出来るでしょう。『わたくし達の』アンジュ嬢を泣かせたら許さないけれど!


「ヨハンが失恋で曲がらなければいいけれど……」

「一時期のミハイルのようにか?」

「父上、母上……っ!」

次回はふるい落とされた求婚者です。


明日から私情で1週間ほど更新が厳しくなるので、下手したら1週間更新出来ないかもしれません!すみません!出来る日にはしようと思っていますが!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ミハイルが所々でいじられてるのが好きでした(笑)
[一言] 王妃様や王子の婚約者も『わたくし達の』とか言っちゃうか まあそれを乗り越えた謎の勇者様に期待 しかし血はつながってないとはいえ母娘揃って王子を魅了する美貌か、危ない危ない
[良い点] 親友の登場!! 私の提案から素敵な発想が生まれてとても嬉しいです。 [一言] 私個人としては、読者の意見を採用して頂けるのはとても有り難い事なので、特に気に掛けることは不要だと思います。 …
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