魁蟾妖と海と
妖霊の体は凄く便利だ。息が詰まることもないし、腹が減ることもない。暑過ぎることも寒過ぎることもない。
だが逆にいうと、常に軽い息苦しさを感じてるし、疲れると飢えを感じる。しかも飢えは時間で満たすしかない。太陽の暖かさも気づかないし、海の心地よさも分からない。
多分、俺がいつまでも生きていた頃の感覚でいるせいだ。割り切れれば気にならないのかも知れないけど、割り切れるほど俺は効率厨でもない。
俺はミアズマント達の生活を見ているうち、彼らに夢中になった。もともと、奴らは辛気臭い顔をしていた。当然だ、家を追い出されたどころか、全く見知らぬ土地で生きることを強制されたんだ。不安にならないわけがない。
ソレがここに来て変わった。俺は海にはしゃぐ子供達を見て、魚やイルカを連れてくることを思いついた。それをきっかけに、全員に笑顔が増えた。まぁ魚を獲るとは思わなかったけど、イルカは獲らなかったし十分だ。
魚の処理で一日使ったけど、みんな魚で盛大にパーティを開いた。大量の魚だったから、みんなが腹一杯食べることが出来た。火を焚いて、みんなで騒いだ。歌を歌い、何かを話し、疲れれば眠った。
俺が出来なくなったことを、盛大に楽しんでいた。とても羨ましく、そして輝いて見えた。
だから、もっと見たくなった。
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ミアズマント達は大陸に上陸した。俺が魚を追い立てた時の海流で、一緒に押されたらしい。宴会の次の日には岸が見えた。
「お前にもなんだかんだ世話になったな。出来ればこの辺りから動かないでくれよ?」
俺はミアズマント達からだいぶ離れた海で、【憑依】を解除した。【憑依】中も記憶はあったようで、俺の顔を見た途端泡食って逃げ出した。
さらばだ海蛇よ。また会うかもな。その時は出来ればもっと舌を開発してくれ。もう宴会の下で魚を食って虚無を味わうのは懲り懲りだ。
上陸したのは砂浜で、その先はすぐ森となっていた。ミアズマント達は二手に別れた。船を解体して荷物や布を集める班と、森に入る班だった。
森班が帰ってくる何事か話合って、それからすぐ移動を始めた。ここの森には入らないつもりらしい。そんなにヤバいのか?ちょっと入ってみよう.......
森の中は鬱蒼としている。俺には森の良し悪しなんて分からないが、問題はないと思うぞ?ミアズマントの瘴気だって何も今すぐに森を枯らすわけじゃないし、取り抜けるだけなら問題はない.........
!?
今遠くで何か音がした!?跳んで向かう。
見ると、巨大な....虎?ヒョウ?がミアズマントの狩人達を襲っていた。「瘴気でモンスターは逃げ出すんじゃねぇの?」と思ったが、ヒョウが思いっきり尻尾を振ると突風が吹き荒び、瘴気を狩人ごと吹き飛ばす。
ヒョウは変幻自在に飛び回り、狩人達に一撃一撃確実に入れていった。一方狩人達の武器は短めの剣が2人と、ボウガン?クロスボウ?との3人で、まるで手を出せていない。このままだといづれやられるかも知れない。
........やってやるかぁ
幸い、ヒョウは飛び回り続けてるから、狩人達の視界には殆ど入っていない。前に姿を見せて怖がられたこともあったし、都合は良い。
狩人の頭上で方向転換をするヒョウに対し、【浮遊】で近づく。ヒョウじゃすぐさま気づいたが、勢いのまま飛び掛かってくる。反応出来なかったが、問題はない...
問題はないと思ったんだけどなぁ!!
ヒョウの牙には魔力が篭っていたのか、俺の【魔性肉体】を容易く噛みちぎる。
だが痛みはない。だから冷静に、その横っ面目掛けて土弾を発射!!
バランスを崩して落ちるヒョウの下に【泥生成】を発動!!泥に足を取られた隙に泥に対して【眷属支配】を発動し、その足を掴む。
だがヒョウもさるもの、掴まれた足を軸にして体を一振り。魔力のこもった風を飛ばして来た。それを【引力強化】で無理やり落下することで回避し、逆にその風を全て吸い込む。
俺の吸い込んだ空気は【魔性気管】のおかげで操作できる。【魔性気管】から空気を思いっきり縛り付けてミニ竜巻を作り、ヒョウの肉体を捻ってやった。
・・・・
ヒョウは背骨をやったようでピクピクと痙攣している。だがまぁ派手に戦ったので、周囲は切り開かれた。
切り開かれたということは、まぁ丸見えになるってわけで。俺たちの先頭は、狩人達にすっかり丸見えとなっていた。
俺がそのことにあっと気付き恐る恐る狩人達の方を向くと、狩人達は堰を切ったように逃げ出した。
あぁ....またやらかしちまったよ...
短めの剣=鉈
旋風豹
尻尾を振ることでボロ小屋を吹き飛ばせる程の突風を生み出す。またこれを応用することで、高速か変幻自在の旋回軌道で飛び出す。




