蝌蚪、ひたすら逃げる
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【ポップ・クラブ】
Dランクモンスター。水流を操る力を持つ。ハサミの中で大量の水を圧縮し、一気に開放する事で大規模な破壊を起こす。辺境の村々からの通信が途絶えたので調べてみれば、ポップ・クラブに跡形もなく吹き飛ばされていたという事例が多々ある。人々は水辺に家を構えるとき、まずこのポップ・クラブを警戒する。その身はとても美味で高級食材とされているが、戦闘職の中でもいわゆる一流とされている者でしか討伐できないため、目が飛び出るような価格で取引される。
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そのザリガニは恐ろしくデカかった。今でのデカ虫やデカ魚は、デカイとは言っても俺と同じくらいの大きさだった。だがコイツは違う。見上げるように大きい。もう全身が見えない。仮に俺を普通サイズのオタマだとしてら、コイツは普通のザリガニより何倍もデカいことになる。
そのザリガニ...ポップ・クラブはどうやらさっきのデカ魚...メダカを追っていたらしいが、この濁りで見失ったようだ。怒ってハサミを振り回し始めた。地面に叩きつけるだけで死体の山が飛びちり、俺の元まで振動が伝わってくる。何だあの出鱈目な力は。デカ虫...タガメ野郎に喰われたときには怒りが湧いてきたが、ザリガニに対してはただ震えることしか出来ない。頼むからアッチ行ってくれ...!俺のことなんか気づくな...!
だが祈りは届かなかった。奴のハンマーが俺ごと死体を叩き上げた。ぬおおおおおおおおおおお!!!!!!な、なんてパワーだ!?ヤベェ!逃げないと!!死体が舞ってる間に逃げないと!!俺は全速力で泳ぎ出す。だ、駄目だ!尾鰭がボロボロで速さが出ない!
「SHYAOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!」
な、何だ!?ま、まさか俺に気づいたのか!?チラリと後ろを見ると、ポップ・クラブが俺をじっと見つめている!!ひいいいっ!?
俺はあらんかぎりの力を振り絞って泳ぎ出す。しかし突然横から衝撃波に襲われた。な、何だ!?見れば、ポップ・クラブが挟みを俺に向けていた。そこに魔力が集まるのを感じる。そして俺向けて何かが射出され、数秒後前方から衝撃波が飛んできた。狙い撃ちしてやがる!?幸いだいぶ離れたところで爆発したのか、押し流されはすれどダメージはなかった。だが次も助かるとは限らない。しかし予想に反してその後何回か狙い撃ちされたが、全部当たらなかった。しかし逃げ切ることも叶わず、俺は今だポップ・クラブの近くに居た。しかも奴は一歩も動いていない。
「SHYAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!!!」
ちっきしょう....にゃろう遊んでやがる....でも何も出来ねぇ....。何か...何か手は.......手?
俺は思いつくままに、尾鰭の魔力を感知し、両腕に込める。するとニョキニョキ腕が生えてきて、やがて完全な蛙の腕となった。
【身体再生を獲得しました】
し、身体再生?もしかして力を込めて体を治せるのか!?俺は魔力を尾鰭にも込める。すると不思議な感覚と共に、尾鰭が治って行くのを感じた。す、すげぇ!!こんなこと出来るのか!?
【魔力の過剰消費です。経験値が失われました】
何か聞こえるがそんな場合じゃねぇ!!これがあれば逃げられるぞ!!俺は興奮のままに足を再生した。
【魔力の過剰消費です。経験値が失われました】
俺は再生したての腕と足で水を掻く!!尾鰭もいい調子だ!!目に見えて早くなったぞ!!希望が見えてきた!!
「SHYSGAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」
奴さんもいい加減俺の変化に気づいたようだ。だがもう遅い!俺はとっとと逃げさせて...っ!?何だ!?体が後ろに引っ張られる!?
「SHYUOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!」
ポップ・クラブの奴、ハサミを前に突き出してる。そしてハサミに体が吸い込まれてる!!せっかく逃げられそうだったのに、これじゃ逆戻りじゃねぇか!!
俺は再び尾鰭の魔力を感知し、今度は全身に込める。タガメやったとき見たく、今度は全身の力を強化する。いいぞ!力が漲ってきた!
【魔力の過剰消費です。経験値が失われました】
煩い!!後にしろ今忙しい!!
俺は強化された身体能力でもってして必死に逃げる。水流から逃れ、そのままポップ・クラブからも逃げ出す。ポップ・クラブの表情は分からないが、どうやら愕然としてるらしい。よっしゃ!!あいつ見かけよりアホだ!!このまま逃げ出させて貰うぜ!!
【身体強化を獲得しました】
なおこいつ、同じように遊んでメダカにも逃げられてる模様