朧は月に寄り掛かる
この世界の「モンスター」と言う言葉は、「猛獣」に近いニュアンス
動物は自分に素直だ。嘘をつくこともない。「取り繕う」「騙す」なんてことをしない。どこか距離を感じる人々の付き合いに疲れ切っていたので、動物に心を寄せる様になった。
勿論、動物だって【瘴気】は嫌う。だから、それを抑える訓練を頑張った。結果、数ヶ月程度ならなんとか「取り返しがつくレベル」にまでは抑えることが出来た。
そうしてから、動物関連の仕事を請け負う様になった。モンスター拘留所の仕事が主だ。
拘留所はモンスターを捕らえておくためにある。モンスターは危険で、同時に未知の存在だ。だから学者様方はこぞって調べようとする。学者様方が「生きたモンスターを調べたい」と言った時、繋いで置く檻が拘留所の主な役割だ。他にもモンスターを解体するまで預かったり、迷子になったペット何かを預かったりする。
モンスターを弱らせる手段を持つこの身は引っ張りだことなった。ある程度までは安全であることを示せる様になると、拘留所の人たちは「モンスターのお世話係」として雇うようになり、他の町の拘留所も紹介するようになった。もっとも、拘留所の人達が優しくしてくれるわけではなかったが。
でも、動物達と触れ合えるのは良かった。餌をあげたり糞尿を片付けたりするだけで簡単に懐いてくれる。勿論逃げられない諦めと、「疑う・勘ぐる」ほど頭がいい動物がいないからだけど。でも好意を見せてくれ、懐いてくれる子もいた。だから彼らが出ていく時、とても辛くなる。友達がいなくなるかのようだったから。
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ある日ある街ある拘留所、そこに見たこともない蛙が連れてこられた。門を破り街に入ろうとしていたところを薬で眠らせたらしい。全身から汗のように泥がうっすら滲み出てる、土気色の蛙だった。
蛙は今までの動物とは違った。大抵の動物は「檻が魔力を分解する」ことが分かると、抵抗を諦める。でもその蛙は、いつまでたっても抵抗を諦めなかった。檻の外に時々泥水が溢れていたし、色々と試行錯誤をしたんだと思う。こんな子は初めてだ。
他にも餌を警戒してるのかいつまで経っても口をつけようとしないし、時々視線が何かを訴えたりしている。所作も含めて、なんだか人間味がある。変わった蛙だった。
その蛙は図鑑にも乗っていない大変珍しい蛙だったらしく、学者様方が直接調べにきた。学者様方に連れて行かれた動物は戻ってこない。やめて欲しいが、雇われの身ではどうしようもない。指をくわえて見ていた。
ところが事件が起きる。なんと蛙は学者様方が油断した隙を縫って脱走したのだ。檻の中にいたのは泥で作られた人形だったのだ。私は慌ててサイレンを鳴らそうとするが、蛙は私を泥で拘束して見せた。すぐに振り解けたが、蛙はそのまま脱走してしまった。これは不味い。
蛙は警備員や傭兵達を翻弄した。しかも運の悪いことに停電し、拘留所は大混乱に陥った。何やら爆発音もした。
全てが落ち着いた頃、蛙が逃走したことが告げられた。入り口を張っていた一級の傭兵達が、水に塗れて土に埋もれていく蛙を確認したとのことだ。他にもいくつか注意事項を述べていたが、「友達(勝手)がいなくなった」と言う事実に悲嘆していた。
ーーーーーーーーーーだからこそ、あの瞬間は嬉しかった。
蛙には、また会うことが出来た。数年前に放棄された廃村の馬小屋、私が今宿として使っている廃屋の中に逃れている蛙を発見した。蛙は私を警戒こそすれど、撫でても抵抗もしなかった。なくしたものを取り戻したような錯覚に、包まれた。




