泥淵蛙と施設
天国のばあちゃん元気ですか?俺は今心が折れそうです。
いやキツい....。コソコソ君の操作回線の固定は普通に意識できるようになったが、逆に言うと意識しないと出来ない。このラインが途切れるとコソコソ君は崩れるし、そしたら回収が出来ない。補充できない泥水を失ってしまう。
まぁ要するに、眠る事が許されないってことだ。俺には【不眠適性】があるがこれだって限界がある。それに3つのスキルを同時に発動させ続けてるのだ。しかも結構無理がある形で。昨日か今日か、そのあたりから軽い頭痛がしてきた。
まぁその甲斐あって得られた情報もそこそこある。ガキはこの建物ではかなり地位が低いらしく、いろんな奴の使いっ走りをしていた。それて建物のあちこちに出入りしていたので、それを尾けていたコソコソ君も建物の構造を知れたわけだ。
それによると、俺の脱出に必要な情報は以下の通りだ。この大広間は建物のほぼど真ん中にあるらしい。大広間から(天窓からの光から判断して)北向きの廊下は、かなり広い部屋に繋がる。この部屋は大きなドアや受付っぽいのがあるので、ここを「エントランス」と呼ぶことにした。俺が目指すのはこのエントランス.....ではない。エントランスの脇に小部屋があり、そこのドアから出るのだ。ここは従業員用出入り口らしく、人の出入りが少なく荷物チェックみたいなのもほぼない。そこに紛れ込む。
で、肝心の「檻からどうやって出るのか」だが...これにも作戦はある。今、俺の檻の中にはお菓子っぽいのが山のように積まれている。いわゆる餌のようなものらしく、檻のモンスターは皆コイツを食っている。俺は気色悪くて口着けてないがな。
この餌の山の中に隠れ潜み、ガキが掃除しに檻を開けたところで飛び出すのだ。この時泥で俺そっくりな人形を作っておく。いわゆる囮だ。幸い、ここ何日も俺はじっとしていて、人間達からも「そう言うモンスターなんだ」と思われてる。それに俺の体は泥色だ。漬け込むならここしかねぇ。
行き当たりばったり?仕方ねぇだろ俺バカなんだし。まぁこれ以外にもう1つするべきことがある。そのためにはある部屋を見つけなければいけない。見つかるまでは大人しく獄中生活だな。
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「+『>`P&)?{P >*+P')’&%&$*@=*」
『君は全く動かないね?生きてるよね?』
まぁこれぐらいの意味か?ガキは掃除の時、よく俺たちに話しかける。俺にしてみれば集中力が削がれるのでいい迷惑だ。だが蹲ってる蛙が凄い集中しているなど、ガキには想像もつかないらしい。そりゃそうか。
モンスターへのガキへの印象は様々だ。ソッポ向く一本足の鶴もいれば、首を振る鰭付きイタチもいる。ガキは鰭付きイタチをいい話し相手みたいな雰囲気出してるが、そいつ多分モップの柄先を目で追ってるだけだ。後そこの襟巻きブサ猫、「掃除婦如きが口を利くな」みたいな態度すんな、癪に障る。あ”な”んだオイテメェ?尻尾打ち鳴らして?さっきからテメェ何様のつもりだよコラ?
「?』`*#$’)(!*`?&?*」
っち、ここまでにしてやんよ。ガキが俺たちを諫める。しかしよくもまぁ睨み合いに割って入ったもんだ。側からみりゃ猫と蛙がお互いに「ゴロゴロ」鳴ってる絵面だぞ?しかも猫なんか冷蔵庫見てえにデケェし。
コソコソ君尾けさせて分かったことなのだが、ガキはこの施設だと友人っぽいのがまるでいない。施設で働く人間はそこそこ居るのに、皆ガキに距離のある態度を取ってる。手短に指示を出すだけだ。言葉が分からなくても、それぐらい分かる。
だからなのか、その分ガキは俺たち檻のモンスターとよく話す。表情も、俺たちと居るときの方が柔らかい。何と言うか、溌剌としている。それに、偶にモンスターが出ていくときは、笑っちゃ居るが凄い辛そうだ。その後はまるで何事もないように見えるのも何かと気に掛かる。
多分ここを出ても、ガキのことはずっと覚えてるだろうな。




