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まるで見ず知らずの人を間違えてお母さんと言うようで

穴に落ちたクロは気が付けば石造りの教会で一人の女性と共に片膝をついて祈りを捧げていた。

クロは祈りを捧げ終えると顔だけを上に向け、女神の石像を見上げる。

そう、両手を少し広げどや顔を浮かべている女神『フォール』の石像を。


その瞬間、厳か雰囲気が死んだ。


石像の背後にあるステンドグラスから光が差し込み石像を照らしているが、それがさらにシュールで笑いを誘う。

それでも、クロは真面目な表情を一切崩さない。

ただ、瞳に光はなく死んだ魚のような眼をしていた。


☆ ☆ ☆


クロはげんなりと落ち込んでいる。

理由は先程無理やり見せられたムービーシーンだ。


ゲームとかでお馴染みのあれだが、事VRMMOにも存在する。

VRMMOのムービーシーンは体を勝手に操作され、話す事も感情を露にする子すら許されない。

その為、体を勝手に動かされたりする感覚になれなかったり、直ぐにゲームが出来ない事にイライラするプレイヤーが多いくムービーシーンがあるゲームは駄作などと言う輩も少なくない。


もちろん例外もあり、ムービーシーンが好きな少数派も確かに存在する。

その少数派にクロも含まられていた。


(酷いムービーシーンだった。なんであいつなんだ。もっといいキャスティングなんていくらでもあっただろうが)


クロは恨み言を漏らし不満点を挙げていく。


「いやぁ。さっきのムービーは酷かったっすね。笑いたくっても笑えなくて辛かったす」


隣で一緒にいた女性から話しかけられているがクロは彼女の存在に気づかず無反応だ。


「もしもーし。聞いてるっすか。無視は悲しいっすよー」


女性は色々話しかけていたが痺れをきらしクロの肩を叩く。

そこで、彼女の存在に気づいたクロは驚き、彼女の方へと顔を向ける。

ただし、相当イライラしていたため彼女に向けれた表情は眉間にしわが寄ったしかめっ面だった。


ビキンと顔の表情を引きつらせる女性。


「あっ。すまない」


自分の失態に気づき気まずそうに女性に謝るクロだが、ふと既視感を覚え眉をまた顰めた。


(この女性どこかで)


身長はクロより頭一つほど低く、整った顔立ちの銀髪ロングに鳶色の瞳をもつ女性。

だが、クロは一向に思い出せない。

普通であれば気のせいで済ますのだが、なぜか無性に気になり思い出せない自分自身に腹を立てる。


「また、怖い顔になってるんすが。どうしたんっすか」

「すまない。君と―――」


直接、尋ねようとしたクロの言葉が詰まる。

『君とどこかで出会った事がある気がした』など、まるでナンパの常套句ではないかと気が付きクロは言葉が続かなかい。


「いや。なんでもない。重ね重ねすまない」


最終的には聞くことが出来ずに、ヘタレたクロ。


「はぁ。まぁいいっすけど。では改めて私はシロっす。よろしくっす」


そんなクロに疑問を持ちつつもシロは言う。


「あぁ、俺は、クロだ。よろしく」


クロがそう言い終わると同時に『バァン』!と教会の扉が開く。

その音に驚いた二人はビクリと反応した開いたドアの方を見る。


「クロ。シロ。二人とも大丈夫ですか」


修道服を着た二人より少し年上の修道女が勢い良く飛び込んできた。


(誰だ。この人)


クロがシロの方を見ると、シロもまたクロの方を困ったように見ていた。


「えぇと。私たちの名前を知って居るようですが、あなたは誰ですか」


クロは失礼にならないように言葉遣いに気を付けて話す。


「やはり、選ばれてしまったのね」


修道女は悲しそうな顔をして、クロたち二人に語り掛ける。


「選ばれたですか。それはどう言う事でしょうか」

「そうね。それも、今についても説明してあげるわ。それが、私の役目だもの」


修道女は自分に言い聞かすように言った。


「まずは、自己紹介からかしら。初めましてとは言いたくないけど初めまして。私はアンジェリカ。記憶を失う前のあなた達の世話をしていた者よ」

「記憶を失う前ですか」


事前情報を持たないクロはシロに『何か知って居ないか』と視線を送るが、意図が伝わらずシロはクロに可愛らしく首をかしげるだけだった。


「そう。あなた達は世界を救うために勇者として神に選ばれ。恩恵を受ける代償として記憶を差し出したの」

「記憶を差し出したですか。何故記憶を差し出さなければいけなかったんですか」

「それについては諸説あるけど、今の主流は2つね。『勇者の強大な力を悪用されにくくする為』か、『授かった強大な力に脳が耐え切れず記憶が失われる』のどちらかよ」

「強大な力ですか。授かったと言う実感があまりないのですが」

「いえ。あなた達は強大な力を授かっているわ。実感は無いのかもしれないけど、今のあなた達は輪廻の輪を外れて死すらも超越した存在になっているの」


(これはゲーム仕様のリスポーンの話か)


恐らくゲームの概念を無理やり落とし込んだ話なのだろうと気づいたクロ。


(だとすると記憶を失うと言う設定にも意味があるのだろうか)


クロが考え込むと、アンジェリカは心配そうにそちらを見る。

その視線に気づいたクロは考えるの後にした方がいいとアンジェリカの方へ意識をむける。


「実感はまだありませんが。そうなのですね」


クロはアンジェリカを安心させるため話を合わせるように答えた。


「何か他に聞きたいことはないかしら」

「そうですね」


クロがずっと大人しくしているシロの方を見ると、彼女もクロへと視線を向ける。

その視線を『任せるのでどうぞ』と捉えたクロはアンジェリカへと話を切り出した。


「いくつかあるのですが、まずは、普段私たちはアンジェリカさんを何とお呼びしていたのでしょうか」


想定外の質問だったのだろう。アンジェリカは少し驚いた表情を見せる。


「確かに私たちは勇者に選ばれ、記憶を失いました。しかし、私たちは記憶を失おうともここの住人です。ですので、私たちは勇者ではなくここの住人としてここを去りたいのです」

「そう。そう言ってくれるのね」


嬉しそうな顔をした、アンジェリカは何かを思いついたのかニィっと性質の違う笑みを浮かべる。


「クロの方は私の事を『アン母さん』と、シロは『アン母様』と呼んでいたわ」


アンジェリカの言葉にクロは困惑する。


(アン母さんは呼びづらい)


だが、自分が切り出した手前、今更なかったことには出来なかった。

どうしたものかと思いクロはシロの方をみる。

すると、彼女は口をすぼませ、ジト目をこちらに向けていた。

それはまるで『なんてことをしてくれたんっすか』と言っているようだった。


(仕方がない甘んじて受け入れよう)


シロからジトッとした抗議の視線を浴びながらクロはそう決心する。


「アン母さん。これで―――」


「口調も崩してくね」


羞恥に苦しみクロに追い打ちをかけるアンジェリカ。


「―――いいか」


もう、クロはなすがままだった。


「じゃあ次は、シロもお願いね」


クロの発言に気をよくしたアンジェリカはシロへも促す。

シロは顔を真っ赤にし、逃げ場のないこの状況を作り出したクロへと恨む。


「ア、アン母様」


消え入るような声でシロはボソリと言うと、思いっきり、クロの二の腕をつまみひねった。

思った以上に長くなったので一旦ここで切って次に持ち越します。


本当はここでアンジェリカとのお話は一旦、おわるはずだったんだけどなぁ・・・。

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