出会ったのは
三年ぶりのVRMMOは聖人にとって刺激てなものすぎて、直視が出来なかった。
まぁそれも仕方がない事だった。
なぜなら、小学生ぐらいの背丈の美少女が『きわどい黒のビキニ』に『縞々のニーソ』と『黒のロングブーツ』だけという言った変態チックな恰好をしていたからだ。
(またこの手の直視できない系女性かよ)
聖人は昔遊んでいたVRMMOのギルドメンバーの事を否が応でも思い出す。
彼女は露出趣味がある上に、聖人の反応が面白いという理由で彼の前に際どい服装で現れては、恥ずかしがる聖人を揶揄って楽しむと言う困った趣味の持ち主だった。
そんな彼女のせいもあり聖人はそういう衣装に過剰に意識をしてしまうようになってしまった。
「やぁ。『Continuation of the Legend』をプレイしてくれてありがとう。僕はヘルプAIのフォールだよ」
聖人の事情を知る由もない少女『フォール』は話しかけてくるが、聖人はそんな彼女を直視できない。
「おーい。聞いてる」
そんな反応をする聖人が不満だったのか、フォールは可愛いしかめっ面を浮かべはグイっと聖人に近寄る。
「近づくな。てか、なんか服を着ろ。それじゃ痴女だぞ」
恥ずかしさが募り限界が近い聖人はフォールから二歩下がり身振り手振りで彼女を拒絶する。
「もう。誰が痴女だよ」
そう言い、再びフォールがグイっと近づいて来ようとしたときに事件が起きた。
ガッと自分の足に躓きバランスを崩すフォール。
しかも、彼女の履いていたブーツのヒールは高く踏ん張ることが出来なかった。
視線を必死にそらしていた聖人が気づき反応した時にはすでに手遅れで、フォールの顔面が聖人の股にあるシンボルへと吸い込まれていった。
体重が乗った頭突きを受けた聖人から声に鳴らない悲鳴が起きたのは言うまでも無い。
☆ ☆ ☆
「ごめんよ。大丈夫かい」
ぶつけた鼻を赤くしたフォールは脂汗をかきながら蹲っている聖人を後ろからさすっている。
「なんで、急所に頭突きを食らったんだ俺は。つか、こんなところまで作りこむ必要があったのか」
聖人が苦しそうな声で抗議する。
「これも売りの一つで。どうしても僕の口から言わせたいのなら言ってあげるけど」
「大体わかったからいいわ。それよりも問題なのは、その格好だ。どうにかしてくれないか」
「えー。セクシーでしょう」
「倫理的にアウトだろうが」
「えーっ。でも、触れるなら触ってみたいでしょ。いいよ頭突きをしたお詫びに触っても」
「何を言ってるんだお前は」
うずまっている聖人はフォールの方を見上げたが、すぐに真っ赤になって視線を背けた。
「同性同士なんだら問題ないよ」
「お、男だと」
小悪魔的な笑みを浮かべたフォールのカミングアウトに驚いた聖人は呆けた顔でフォールの足の付け根あたりに視線を向ける。
「えっち」
少し顔を赤らめて、フォールは見られている部位を隠す。
「な、すまん」
聖人は急いで視線を戻す。
「どうしたの。僕に欲情しちゃった」
「欲情はしていない。けど」
言いづらそうに言葉を詰まらせる聖人。
「そう、はっきり言われるとがっかりしちゃうな。だったら何なのさ」
「えっとな」
「煮え切らないなぁ。怒らないから言ってみなよ」
「わかった言うぞ。そのこぼれないのかなと思ってな」
意を決して言った聖人を、フォールは何処から取り出したタブレット端末で思いっきり叩く。
「痛って」
聖人は頭を押さえる。
「もう。頭突きをした痛みは引いてるんだよね。ならさっさと立ち上がってこれを書いてよ」
(やっぱり、まずったな。ここは素直に従っておこう)
『わかった』と短く返事をし聖人は言われたまま立ち上がると、拗ねたような表情をしているフォールを極力見ないようにしながらタブレット端末を受け取り、そのまま操作していく。
まず、同意書にチェックを入れ、プレイヤー名を昔に使っていた名前ではなく、黒木から安直にとった『クロ』と設定する。
アバターはあまり弄らず、カラフルな色が散乱するゲーム内で目立たないようにするためにと、髪の色を黒から薄灰色にして、髪型も短髪からローポニーに、そして瞳の色をダークレッドすればおわり。
そして、次の項目へ進んだところでピタリと止まり悩み始めた。
(職業はどうしよう)
このゲームはメイン職業とサブ職業を選ぶことができるのだが、ひょんなことでこのゲームを始めた聖人には当然ながら事前情報がない。
そのためどんな職業があってどんなスキルを覚えるのかと言うのか解っていない。
フォールに聞けば良いのだろうが、そのフォールには自業自得とは言えやらかした以上聞きにくい。
(どうするかな)
少し考えたのち聖人は昔やっていたVRMMOで培った知識で選ぶことにした。
(そうなると、前やっていたVRMMOと同じタンク職がいいな)
しかし、仲間を守るタンクはパーティーありきのため、ソロで遊ぼうと考えてる現状使いにくい。
(なら、自前でアタッカーを用意してみるか)
そんな、安直な考えから出来上がったのがこれ。
名前:クロ / 種族:ヒューマン
MANE : シールダー / SUB : テイマー
LV : 1
HP:90 / MP:70
STR : 5
VIT : 14
MND : 14
INT : 11
DEX : 8
AGE : 8
SKILL:[カバーリング][挑発][シールドバッシュ][ガードアップ][テイム][コール][念話][共鳴]
苦肉の策ではあったが聖人は意外といい出来なのではと自信が持てた。
こうして入力したタブレット端末ものをフォールに渡す。
受け取ったフォールは漏れがないか確認をしている。
「ふーん。自前でアタッカーを用意してのタンクね。なかなか面白いことを考えたね」
どうやら、フォールの機嫌は戻っているようだ。
「どうも」
平常心をなんとか保ちながら早く終われと願う聖人。
「けどさぁ。それなら、テイマーじゃなくてマリオネッターの方がいい気がするよ」
「そう言われてもマリオネッターがどんな職業なのか知らないし。これでいいよ」
マリオネットを作り出して戦うのだろうが、解らない職業よりは聞きなれたテイマーの方が聖人は運用が可能なような気がしていた。
「マリオネッターは魔物からマリオネットを製作して仲間にする職業だよ」
「ならテイマーでも問題ないと思うが」
聖人にはマリオネッターの魅力があまり伝わらない。
「マリオネッターのメリットはね。まず、マリオネットを作り出す性質から弱い魔物を使ったものでも作り方次第では強くなる。次に基本的にはヒト型なので装備品とかが流用できる。最後に知能が高いためテイムモンスターと違い複雑な命令も難なくこなせる」
「まて、テイムモンスターって複雑な命令が出来ないのか」
「そうだよ。知能が高いモンスターは例外として、基本的なモンスターは動物とさほど変わりないよ」
「つまり、動物と変わらない知能レベルと言う事か」
「そうだね。犬に30秒後に突進しろとか、攻撃を仕掛けて隙を生み出せとか言ったところで無理でしょ。それと同じだよ」
「なるほど」
聖人の心はマリオネッターへと心揺さぶられていた。
「じゃあ、デメリットは」
「制作によって生み出すからね製作者の腕に左右されがちなのと、テイムが時間経過で自動復活に対してマリオネットがやられた時は時間経過とさらにパーツの修理が必須になるよ」
フォールの言葉に少し考える聖人。
「それぐらいなら問題はないと思う。テイマーをマリオネッターに変えてくれないか」
その気になった聖人が職業を変える宣言をすると、フォールがペペペとタブレット端末を操作した。
そうして、変わったステータスを聖人に見せる。
名前:クロ / 種族:ヒューマン
MANE : シールダー / SUB : マリオネッター
LV : 1
HP:80 / MP:80
STR : 5
VIT : 14
MND : 17
INT : 11
DEX : 9
AGE : 4
SKILL:[カバーリング][挑発][シールドバッシュ][ガードアップ][木工][鍛冶][錬金][細工]
さっきより速度が下がったが代わりに硬さが増していた。
「さて、こんな感じになったけどいいかい」
「大丈夫だ」
フォールは聖人から確認を取ると、何処からかスタンプを取り出すとタブレット端末にソレを押す。
ポンと言う音がした後、聖人はクロへと見た目が変わり、なぜか頭上から光が差し込んできた。
「さぁここでお別れだね。よいゲームライフを」
フォールがそう言うと同時に足元の床に穴が開き、クロは穴へと落ちていく。
それと同時に、声に鳴らない悲鳴を上げるクロ。
クロが助けを求めるように光に向かい手を伸ばす。
そこには、逆光のせいではっきりとは見えなかったが確かに誰かがいたような気がした。
悪乗りしたら長くなりました^^;