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 ― 始末屋の鷹 ―

捜せないものは、俺には無い!


 ―Prologue― 


 一 


 大阪の北区から中央区一帯は昼間は、オフィス街として人並みが多い場所だが、夜の午後十時を廻ると人並みも(まば)らに成り、閑散として静寂な場所に様変わりし、女性の一人歩きは極めて、危険窮まりないものだ。 


 美紗樹(みさき)は、道修町二丁目の東亜信託銀行大阪支店勤務する一年目の行員だ。今夜は、決算月で残業の帰り道を足早に、帰宅する途中で在った。 


 美紗樹は、 


 「あっ」 


 と(すく)んでしまった。 


 夜霞の中から、忽然とした黒い人影が、五つが現れたのだ。其の五匹の糞蝿どもの顔が、約二メートル近く目前に在った。 


 「……」 


 「……」 


 「……」 


 「……」 


 「……」 


 五匹の糞蝿どもは、ジッと美紗樹を見詰めている。 


 先ず、最初の男は眼光鋭くと云おうか、悪童相とでも云うべきなのか。まるで、獲物を狩る(まむし)っぽく冷酷なギラギラとした光を放っている眼、鼻筋が通っていて、薄い唇、夜叉面の様な其の表情は、如何にも襲いかかって来そうな、どす黒い色に翳っていた。 


 二人目は、鬼瓦の様な顔に小牛の様な躯付きに、最新のモヒカン刈りのゴールドカラーに染め上げた髪型をしている。其の鬼瓦の様な顔の男は、両耳に無数のゴールド、シルバーカラーのピアスをしている。口には絶えず、紙たばこを噛み続けていた。 


 三人目は、のっそりのっそり、歩み寄り肩まで在るロングヘアーに、顔は毛虫眉の下に血走ったぎょろ眼をはめ込んで、厳つくいららいだ鼻から下のぶ厚い大きな唇をし、口髭を蓄えている。肌の色は赤茶けた肌をし、髭を蓄えている。逞しい躯付きの百七十センチメートル半ばの男は、煙草を吸っている。銘柄はペルメール・スーパーロングだ。ダークブラウンのカラーのカウレザー・スウェードのジャケットを身に纏っている。 


 次に、四人目は五人組の中で一番の高身長で恐らく、百九十センチメートル前後は在るだろうかまるで、フランケンシュタインの様な面長な顔に、スキンヘッドをした頭にはネイティブアメリカンの原住民の様な、Tattoo(※刺青)を彫っている。血に飢えた獣の様な、其の上に狂暴な獣が、獲物を狙い定めた光を放っている細く切れ長な眼に、削げた頬骨、薄い唇をした表情を浮かべている男。 


 そして、最後の男が、此の五匹の糞蝿のリーダー格らしく、他を圧倒する様な全身黒付く目のトンチコートを纏っている。其の顔蒼白、喜怒色に見られず、身長百八十二センチメートルの偉丈夫で、やや顎が逞しいが、鼻梁容貌には色合いの薄めのレイバンのサングラスをした男。此のが、手下の夜叉面の様な顔の男に目配せで指図して、 


 「――待ちなぁ。其処の姉ちゃん!」 


 と、云って訊ね掛けて、俯きかげんに通り過ぎようとした其の時、猛獣か毒蛇かの様に舌舐めずりする様な、不気味な声で美紗樹を、呼び止めて来た。 


 「えっ!」 


 思わず、美紗樹はグレイッシュブロンズカラーのトートバッグの中に、護身用に何時も持ち歩いているベスタスタンガン(※十五万ボルトのスタンガンでは最小最軽量。コート等の冬服の上からも瞬時に通電。サイズ:一七五×二八mm,重さ:二五〇g,安全スイッチ付き)VESTA V−四をグレイッシュブロンズカラーのトートバッグの中に忍ばせている其れを、ギュッと握り締めた。 


 美紗樹が何故、此の様なグッズを、バッグに忍ばせて要るのか。実は此処最近、帰宅途中の女性ばかりが、相次いで拉致監禁、レイプ事件が多発していた事から、美紗樹はネットショップで購入していた。 


 「其の綺麗な(つや)の在る髪を振り乱しているやんけ。どないした、一体全体、何か在ったんか!?」 


 美紗樹が、 


 「……」 


 背後を素早く振り返って見ると 


 夜叉面の様な顔の男が、 


 「キィヒヒヒヒィィィィ。誰かに、追われているのか!?」 


 と、云って美紗樹に(たず)ねかけた。 


 ぎょろ眼顔の様な男が、 


 「何なら、俺たちがおくっていってやろうか!?其れとも、俺たちと騒ぎに北で、楽しもうやるか!?」 


 下心見え々々の口調で、訊ね掛けて来た。 


 美紗樹は如何にも、危なそうな五匹の糞蝿どもをジッと、 


 「……」 


 凝視している。 


 其れを、ぎょろ眼顔の男が、美紗樹に 


 「何んやったら、俺たちが人通りの多い所へ、一緒について行ってやろうか」 


 と、云った具合に相手を油断させる様に訊ね掛ける。 


 少し、心持ち背伸びして、美紗樹の肩越しに暗闇を捜る様に、 


 「あんたらに関係あらへんワァ。急いでるんやから、其処をどいてやあぁ」 

 強い口調で、五匹の糞蝿どもに、(とげ)の在る言葉遣いで云い放った。 


 鬼瓦の様な顔の男は美紗樹に、 


 「ヤナコッた、そんな簡単には通されへん」 


 半分おちゃらけた感じと、残り半分は恐喝する様に訊ね掛けた。 


 フランケンシュタインの様な顔の男は、 


 「ヨォヨォ。気取ってんじゃねぇぞぅ。姉ちゃん!」 


 そう云って、美紗樹を脅して怒声を浴びせた。 


 「……」 


 だが、美紗樹は其の怒声に対して、だいぶ余裕が出て来ると、もう余り怖くはないとばかり、 


 「やっ。止めてやあんたら!ヱヱ加減にせんと本気で怒るわよ!!」 


 きっぱりとした切り口上で決め付けた。 


 不気味な嗤い声で、夜叉面の様な顔の男は、舌舐めずりし乍も、 


 「キヒヒイイィィ。……ヱヱで女、へぇぇ―本気(マジ)で怒って呉れるんけぇ。じゃ、其の優しい愛の在る怒り方でさあぁー。俺たち愛に、餓えてんねんやぁ!……そんな、荒れんとさあぁぁ俺たちと楽しく遣ろうぜぇ。キィヒヒヒィィィ」 


 美紗樹の眼線を追う。 


 夜叉面の様な顔の男が、不気味な嗤い声と共に、 


 「キィヒヒヒィィィ。しかし、男ならば是非とも抱きてぇ面を…グヒヒヒィ……」 


 其の他の四匹の糞蝿どもは、此の一月ばかりか味を占めたのかグループで、手頃な女性を餌食に陵辱強姦(りょうじょくごうかん)――所謂連続レイプで在る。女性が恥辱の為に表沙汰を拒み泣き寝入りするを良い事に五匹の糞蝿どもの所業は一段とエスカレートし、ついでに貴金属まで悪辣非道を繰り返していた。 


 美紗樹は、直感した此の兇暴な男たちの行動はどんどんエスカレートして行くのが具に表れて来た事に対して罵声を浴びせた。 


 「折角やけど、今夜は残業で早く帰りたい気分やから……」 


 五匹の糞蝿どもは其れ々々が、 


 (花はマン開だろうぜぇ…おっ、そうやあ。に、臭いなら……美人に産まれたがふうん。い、嫌。ハッピーだろうなあぁ……) 


 (男なら、ぜってぇ諸ぶり付き、抱きたい美貌やなあぁ) 


 (キヒヒイイィィ…下の方は…あっちのすぼめた肛門(アヌス)がキュッと締まって形のいい菊花を最初は指を入れて、次に俺の片腕まで突っ込んで見てぇ…) 


 (もうー。俺のゴールドバットを、おめえの全ての穴にぶち込まねえと治まらねぇ) 


 (此の(あま)のアソコに、俺の極太の物を入れたらたまらねなぁ……) 


 心の奥底に在る淫欲を、一人一人が心の中で思っていた。 


 美紗樹は心の中で、 


 (あぁ。鬱陶しい早く帰らんと、近所のスーパーで、晩御飯を買いたいのにもー!) 


 半ば泣きが入る。 


 「そんな強がんないでさぁ!フフふぅぅぅ……」 


 ぎょろ眼顔の男が、 刺の在る云い廻しで云った。 


 少し苛立ち乍も、 


 「な、何よ、離してやぁ」 


 美紗樹は云い放った。 


 其の様子を見詰めていたフランケンシュタインの様な顔の男は行き成り、 


 「うるせぇんだよ。此の(アマ)」 


 美紗樹に、近付いて腕を鷲掴みにし様と、恫喝し乍右腕を伸ばした。 


 「やっ。ちょぉっ、何すんー‥ひッ、止めてやぁー‥」 


 「来いっ。おめえの様な(あま )は、俺たちが足腰立たねえ様にタップリ可愛がって遣らァ」 


 美紗樹は、グレイッシュブロンズカラーのトートバッグの中から、 


 「……」 


 護身用のスタンガンを手早く抜き放つ。とても尋常では通れないと察したのか、並々ならぬ覚悟のほどが窺われる。 


 フランケンシュタインの様な顔の男は 


 「て、てめぇ。舐めた真似してんじゃねぇ」 


 更に、大声で怒声を浴びせて来た。 


 美紗樹と五匹の糞蠅どもとの間合いに、 


 「……」 


 異様なほどの空気が漂っていた。 


 糞蝿のリーダー格の男が 


 「誰も。助けなんか来ねえ。おめえは俺たちと此の場を去るんやぁ。用が在る、どないしてもおめえの躯に用が在るんやぁ」 


 鬼瓦の様な顔の男のゴツゴツとた骨羽った手を無造作に伸ばして来た。 


 「おいっ。女!!」 


 美紗樹は、両手で身構えていたスタンガンが、立ち込める霧を切り裂き 


 「ええいっ」 


 と思い切って、伸ばして来た手を払い除けられる。 


 鬼瓦の顔の様な男が、 


 「おいっ。大人しくした方が身の為やぞぉ」 


 美紗樹が手にしていた、其の頼みスタンガンはあっさりと、地面へ落ちて転がる。 


 「キャー!!あっ。離して、離してっ!!」 


 手首を堅く掴まれて、美紗樹の躯が反り返った。鬼瓦の様な顔の男がジロリと睨み乍 


 「だ、誰が離すか、狙った獲物は逃しゃしねぇ。

此が俺たちの信条やぁ。

おめえだけは殺しゃしねぇ。永遠に可愛がってやらぁ、一目惚れをしちまったぜぇ。今宵まで手名付けて来た女郎(めろう)(※【欲】女性を罵って云う言葉。【対】野郎)どもには、嘗て見られねぇ手応えがな、おめえなは在るんやぁ。捜して来たかいが在ったってもんよぉ、おめえの様な女をなぁぁ」 


 美紗樹を逃がさない様に押さえ付けていた。だが、美紗樹は其れを必死に逃れ様と、 


 「な‥何を、云うてんのん。あんた。頭おかしいんとちゃうぅぅ」 


 糞蠅どもは、強引に抱き竦められて、美紗樹が懸命に身をよじって見せた。 


 「お水の女(※水商売の女,ホステス[例]お水の花道)、出会い系サイトの女は人妻、淫乱人妻、若妻、塾妻、素人女、マニア・フェチの女、更にセレブ系の女、美人女子大生、美人女子高生、超美少女、OL、そしてアメリカ系、ヨーロッパ系、アジア系、アフリカ系など、様々な(アマ)どもを物にして来た。

だが、どの女も皆、調教したが、まるで腰抜けアバズレ(※【阿婆擦れ】すれていてずうずうしく、品の悪い女性)だった。

俺たちの姿を見ただけで、ちょっと声を掛けられただけで人形の様に成りやがった。

其のクセ抱かれて溢れ漏れ出す有り様に、喘ぎ声が次第に漏れ出したり、自ら此処にいる俺たちのものにむしゃぶりついて腰を振りまくりやがる。

最初は、恐怖におののき続けてていたのが其れを忘れやがって調子を合わせていやがる。

そして……淫らな肉欲に忠実な奴隷嬢にする快感に溺れ死にする程に成っている。だが、おめえはこうして何時までも抵抗し続けていやがる。其れが当たり前なんやあぁ。気に入ったでぇ、益々おめえを物にしたくなって来たでぇ。こう云うじゃじゃ馬慣らしが、俺たちは大好きで楽しみって云うヤツや。きっと、おめえはとびっきりのヱヱ情婦(いろ)に成るだろうよぉぉ」 


 糞蠅どものリーダー格の男は、そう云って含み笑いを浮かべていた。夜叉面の様な顔の男が、美紗樹の顎を押さえ込み、美紗樹の美貌が仰向け成った。伸し掛かる様に刃渡り三九.〇センチメートル在る超過激派タイプのサヴァイヴァル・ナイフを薄い唇と頬に近付けられた。

 「キィヒヒィィィィ。俺たちがおめえを、頭の天辺から爪先までタップリと舐め回してヤラァ。キィヒヒィィィィ……」 


 美紗樹は、夜叉面の様な男から逃れ様と手足をバタ付かせ 


 「キャー!イヤー。離してやあぁっ!汚い手で触らんといてやぁ、は、離してっ!!」 


 押さえ付けられた美紗樹が、コンクリート塀を背にした。痩せてはいるが物凄い力で、ジーンと躯が痺れて来る。左右に顔を背けるのが精一杯だった。 


 「其の可憐な唇、後で俺たちのアジトへ行ってからタップリと可愛がって遣らぁぁ」 


 美紗樹は、もう顔も動かせなく成っていた。顎の辺りを押していた手に、更に力が加えられてきた。 


 とうとう美紗樹が、 


 「キャー!た、助けてーっ!だ‥誰か!お、御願いっ!!」 


 悲鳴を上げていた。 


 「ヒヒヒィィィ!誰も助けなんか。来るもんか!!」 


 手下の四匹の糞蠅どもは、ちょっと背後を気にし乍、夜叉面の様な顔の男、フランケンシュタインの様な顔の男、鬼瓦の様な顔の男、ぎょろ眼顔の男たちは、時々背後を気にし乍も、再び糞蠅どもは代わる代わるぐうっと唇に指やサヴァイヴァル・ナイフなどを、近付けてきた。 


 美紗樹は、悔しさで一杯の気持ちだった。柔らかに肥える朱唇には、流行りのナチュラルなグロス入りの口紅をし、朱唇が喘いでいる。リーダー格の男は美紗樹の唇に手で撫で廻していた。 


 「おめえ。流石に、いいセンスをしているぜぇ。おめえは、俺たちの色に染めがいが在る女だ。フフン……!!」 


 美紗樹は、もうー此以上、此の糞蝿どもの思い通りには成りたくは無いと 


 「うぐっ!」 


 美紗樹は咄嗟(とっさ)に覚悟を決めた。美紗樹の一瞬の行動を見逃さずにニヤリと、鬼瓦の様な顔の男が、 


 「おっと。其の顔に描て在るぜぇ!舌を噛み切ろうとしとるが、そんな事はさせないぜぇ!!」 


 唇を歪めた。 


 「……」 


 刹那、其の右手が素早く美紗樹の顎を襲っていた。舌を噛む余裕も与えぬ早さで在った。 


 「ああっ、やめてやぁ!」 


 美紗樹は悲鳴を上げる。 


 しかし、其の顔を 


 「ううっ」 


 美紗樹が、掴まれた顔を懸命に拒んで振った。 


 すると、鬼瓦の様な顔の男は、 


 「ええいっ、」 


 大人しく出来ねえか、とばかり美紗樹の頬に食い込んだ指先に、唇が意志を無視して、鬼瓦の様な顔の男の思い通りに開くので在った。 


 「――此の(あま)を殺してしまっては、俺たちの負けだからなぁ―――」 


 と、鬼瓦の様な顔の男が低く呟く。絶望と屈辱が美紗樹の心を押し潰すので在った。もはや、鬼瓦の様な顔の男の思うが儘に成るばかりで在る。 


 「ふん、こうすれば舌も噛めねぇ」 


 五匹の糞蠅どもの双眸が嗜虐(しぎゃく)の悦びに光らせていた。 


 糞蝿どものリーダー格の男が、 


 「ふふ、無駄な事やあぁ。おめえが、舌を噛ませるほど俺たちを甘く見るなよぉ。おいっ……」 


 そう云って、ドスを利かせて凄んだ鬼瓦の様な顔の男に目配せをして指図をした。 


 鬼瓦の様な顔の男は、 


 「……」 


 其の指図に従って頷き乍も、黒いゴムボールを美紗樹の鼻をつまんで、思わず開いた口の中へ思い切り詰め込んで、痛みに耐えかねて美紗樹は激しく顔を振ろうとする。

だが、鬼瓦の様な顔の男の指は顎を捉えて動かさない。

其の上から、赤いビニールテープでゴムボールごと、ギリギリと何重にも貼り付ければ、ちょっとやそっとではまず剥がれ落ちないビニールテープで口を塞ぎ、グイグイと圧迫すれば美紗樹の鼻から下顔半分を、ロングヘアの髪の毛ごと、一緒にギュッと強く締め付けられた。絶対に吐き出せない様に縛り巻き付けて、息苦しさで呻き声を洩らし乍も、鼻から懸命に呼吸をするのも一苦労で在った。 


 「うぐっ、ううぅぅっ!」 


 と喉の奥で鳴り続け、美紗樹の口にぴったり合致した、大きさに成っている。

口の中に溜まった唾液が外に出さないばかりか、もはや口から唾液は完全に止められてしまった。ゴム製の独特の臭いが、咽の奥と鼻へ突き出てくる。(こら)え様としても涙腺へ作用を止めぬ刺戟(しげき)で在った。余りにも化学製品的で、苦悶を楽しむ様に五匹の糞蠅どもが頬に嗤いを刻んだ粗暴者たちらしくない器用さで、鬼瓦の様な顔の男は美紗樹にビニールテープの猿轡を噛ませた。 


 其の上、両手首を後ろで交差させて、結束バンド(※【Band together;unite】アメリカ合衆国西海岸、東海岸両方の警察では、警官が犯人逮捕時に手錠を使用すると与えられているのが、一警官に、一つのみとされている為、犯罪者が、大量逮捕の場合は、使用される強化プラスチック製の手錠。百数十kgの力まで耐えられるのだ)が嵌められていて、完全に手は身動きが取れない状態に成っていたのだ。 


 「おめえは此で、舌を噛み切る事も出来へんでぇ!アジトへ帰ったら、おめえをタップリと俺たち全員で、弄んでやらぁぁ!!」 


 リーダー格の男が、手下たちに目配せをすると、鬼瓦の様な顔の男がフォード・リンカーン・ナビゲーター 二〇〇八年式 カラーリング:ブラック,(※装備内容:三バルブのSOHCユニットを搭載し、其の五.四lトライトン V八,出力:三〇四ps@五〇〇〇rpm,最高出力:五〇.五kg−m@三七五〇の最大トルクを発揮する。

七スポークの二十inchホイール・ポリッシュド・クロームのアルミ,タイヤサイズ:二七五/五五R二〇,未だ人気が衰えないリンカーン。

シルエットはもとよりプレミアムSUVクラシカルで在りながらモダンな街中でも一際目立つ存在感)のサイドドアを開け広げて、美紗樹の躯全体を、ぎょろ眼の男、夜叉面の様な顔の男、フランケンシュタインの様な男と鬼瓦の様な顔の男の四匹の糞蠅どもに、抱き抱えて、フォード・リンカーン・ナビゲーターに無理やりに、乗せ込もうとしていた。 


 其の時、堺筋通りから、ボウッと車体の低そうな車の陰影が(にじ)み出てヘッドライトのハイビームに光の中で、五匹の糞蠅どもに今にも、拉致られ掛けていた。 


 「おい。待ちなぁ……!」 







 二 






 「だ、誰だっ、てめえぇっ!」 


 五匹の糞蠅どもが、眼をひん剥いて、声の主の方に、今にも吼え、噛み付くかの様に牙を研ぐ様に見据えていた。其の時、左側のドアが開いて、 


 「……」 


 人影が、車から降り立って、ゆっくりと近付いて来る。 


 「何だっ、てめえぇっは、此の(アマ)は俺たちが眼を付けていたんやらなぁ……!絶対(ぜって)ぇに邪魔をさせねぇ!!もし、邪魔しやがる奴ァは、即刻ぶち殺してやるぜぇ!!」 


 声の主が、悪辣な奴らを見て、 


 「ダセぇ連中やなぁー。もっとスマートな女性の誘い方が、在るやろうぅ!?」 


 五匹の糞蠅どもは、其の車の光で人影で顔までは解らないが、声の主の見据えていた。 


 「だから、何ん々だ!?てめぇはあぁぁ!!」 


 其の相手を、苛立たせる言葉には刺がある。 


 声の主の人影が、ハッキリと見えて 


 「ただのお節介な通行人。様子が、おかしかったから、ちょっと、覗いて見ただけやぁ。人からは、よくお人好しで向こう見ずだと云われるけどなぁ」 


 男は、ブラック・ホースレザーのジャケットを、身に纏った身長が百八十九センチメートルは雄に在るだろう。ジッと、五匹の糞蠅どもに拉致され掛けている美紗樹を見据えて立ちはだかる。 


 五匹の糞蠅どものリーダー格の男が、其の男を、睨み付けて居た。 


 「チッ、アホが!!余計な真似しヤガッテェ!!」 


 男は、不適な笑みを浮かべた。 


 「ふぅ……」 


 手下の一人、フランケンシュタインの様な顔の男が、 


 「サッサと失せろ。もたもたと、して居やがるとぶっ殺すぞ。てめえぇ!」 

 罵声を浴びせた。 


 五匹の糞蠅どもは、美紗樹をレイプ目的として、男を睨み付け乍、 


 「ああん?んー?なんだぁてめぇは!?」 


 「何んかあんのかコラ!!」 


 「よぉよぉ。兄ちゃんよぉー!カッコ付けてっと、てめぇからぶち殺すぞ!!此の呆け!!」 


 「き、聞いてんのかああ!?ああ?」 


 其の言葉に対して男は、糞蠅どもを、

 「粋がってんじゃねぇよ糞餓鬼どもが…」 


 鋭い眼付で、ドスの利いた口調で云った。 


 五匹の糞蠅どもは、男の一言で、呻く様に云った。 


 「なぁにィー!!!」 


 「俺たちに云っていやがるのけぇ!!」 


 「うるせぇ!!生意気に突っ張りやがって。ぶっ殺すぞ此の野郎が!!」 


 「な、何。遣ってんだあぁおめぇらぁ!其のべっぴん(※【別嬪】関西では、美しい人、美人、美女、美少女などを表す名称で在る)に、手を出すんじゃねぇ!!」 


 「ああー!?な、何云ってやがんだぁ。此奴!!」 


 「てめぇ。頭、おかしいんとちゃうかぁ!?ああん!?」 


 「おめぇらぁ。もし、彼女を遣るって云うなら、俺が相手に成って遣るぜぇ!!」 


 五匹の糞蠅どもは、 


 「フン…おもしれぇ…いいだろう…御前ら!!」 


 「オウ!!」 


 「クククゥゥ…」 


 「キヒヒヒヒィ…よぉよぉ、野郎を八つ裂きにしてやろうぜぇ!!」 


 「アホが、なめてんじゃねぇ!!」 


 フォード・リンカーン・ナビゲーターの中から鉄パイプや金属バットを取り出し、其れ々々が手に取り身構えた。 


 男は、せせら嗤いを洩らし、 


 「フン…馬鹿が…そいつぁーこっちのセリフだ!生きて帰れると思ったら大間違いやぁ!!」 


 ドスを利かせた口調で、鋭い眼差しで、五匹の糞蝿どもを睨み付けた。 


 其れを、聞きいていた五匹の糞蠅のリーダー格の男は手下に、 


 「かまうこたーねぇ!!此のどアホをやっちまいなぁ!!」 


 命令すると、手下の四匹の糞蠅どもは、一斉に大声を 


 「『おおおっ!!』」 


張り上げて、其れ々々が、得物を振り廻し乍、男を目掛けて、攻撃を開始した。 


 「いけぇ!……」 


 「うおりゃあぁ!!」 


 「野郎をぶち殺せぇ!!」 


 「生かしちゃおかねぇ!」 


 だが、男は、次々に敵の攻撃を見極め乍、交わして行く。先ずは、鬼瓦の様な顔の男が、金属バットで、男の背後から頭、目掛けて振り下ろしてきたが、彼は素早く其の奴の軸足の膝頭の上から左ローキックを放つ。透かさず、責め手の彼は、此の反撃の左ローキックで、戦いの主導権を握る事が出来るのだ。 


 直ぐに、蹴り足を引き戻せる様にコンパクトに蹴る事が大切で、男は 左の蹴り足を戻して体勢を立て直し乍も、やや間合いを詰めて、鬼瓦の様な顔の男の前足へ右ローキックを放ち、躯のバランスを崩さない様に気を付け乍も、強く鋭い蹴りを繰り出した。次の瞬間には、鬼瓦の様な顔の男は、両膝を地面に(ひざまず)いて俯せに倒れ込んだ。 


 其の次に、男の一番左側の鉄パイプを握りしめた、ぎょろ眼顔の男が勢い良く、袈裟掛けに振り下ろしてきたが、彼は、前に踏み込んで下から鉄パイプの柄頭(つかがしら)を、躯全体ですくい上げ、(※此の時、腕力は使わない)柄中(つかなか)を取って!半身(はんみ)に躯(※たい)を引くと!(※()を描いてはいけない。最短距離の直線)地面を摺り足で、引き戻す。其の動きは流れる様な一拍子で行う。 


 其の時、ぎょろ眼顔の男の躯は空転して、道路に備え付けられている大阪市営のゴミ箱に躯事、物凄い音を鳴り響かせ乍、叩き付けられたぎょろ眼顔の男は地面にうっぷしていた。呻き声を洩らしている。 


 「ぶはっあ!!!」 


 ゴミ箱にぶち当たり、辺り一面にゴミが散らばって居る其の中に、ぎょろ眼顔の男は白眼を剥いて仰向けに倒れた。 


 男は、 


 「フン…。話しにならねぇなぁ……」

 五匹の糞蠅どもは一瞬、躯がまるで、金縛りにでも在った様に、動けなくなって彼を見ている。 


 直ぐ様、リーダー格の男は我に返って、 


 「く、糞ったれがー……!!!」 


 其の時、男の躯に弾みを付けてグルリと、一回転。 


 三人目のフランケンシュタインの様な顔の男が、物凄い形相で攻め込んできたが、男は其の動きを見切り乍も、フランケンシュタインの顔の男の胸から首の辺りを、(すく)い上げる様に蹴り飛ばした。フランケンシュタインの様な顔の男は、嗚咽した。 


 「がは…ゲホ…」 


 「フン…話しにもなりゃしねぇなぁ…」 


 「さ、佐伯っ!…糞ぉ」 


 「や、野郎っ!今度は、佐伯までもが!!」 


 「て、てめえぇ!!」 


 リーダー格の男は、 


 「ち、散れ!!散れ!!」 


 と、云って喚き散らす。 


 其の男の攻撃に、残り二匹の糞蠅どもは驚き乍も、得物を身構えて道修町筋に皆、飛び下がった。 


 男は、残りの二匹の糞蠅どもを見据え乍も、何時如何なる時でも、攻撃態勢を崩さずにいた。 


 先の三匹の糞蠅を薙ぎ斃した時に、夜叉面の様な男は二十三センチメートルは在るだろうか、両先端に刃渡り三九.〇センチメートルの長い棒を持って身構えた。 


 そして、リーダー格の男はやっと構えを立て直して、白い眼を剥き出し、じりじりと男に、サバイバル・ナイフの二刀流の刃を詰め寄らせて、残り二匹の糞蠅は其れ々々が、激怒に歯を剥いて、 


 「植田っ。野郎に、此処まで遣られ放しじゃ許されねぇ!!」 


 「おおぉっ。松永さん!当たり前やぁ!!野郎を絶対(ぜってい)ぶち殺せぇねぇ限り、遣られた勝呂、佐伯、矢田の仇を討ったなきゃ。俺たちの気が、治まねぇー!…あの(あま)が手に(はい)らねぇ!!」 


 リーダーの松永と夜叉面の様な顔の植田は、此の謎の男を殺さないと腹の虫が治まらないと、追い詰められる側にされた二匹の糞蠅は、 


 「う、植田。いいか、一斉攻撃で野郎を()るぞおぉ!!!」 


 「おぉぉ。松永さん!!!」 


 二匹の糞蠅たちは、口々に仲間を遣られた分を、倍にして殺ると復讐を誓い合った。 


 「き、貴様は何んやねん!!何者やぁ!!」 


 其の男は応えなかった。 


 植田は、全身をフルに使って、長刀を振り廻し乍、男を攻め捲る様に激闘が始まった。 


 其の男は、植田との攻防戦が、連続の中。松永も加わり更に二対一の戦いに変わった。 


 男は、二匹の糞蠅の攻めを、見極め乍鉄パイプを拾い上げて、植田の長刀の攻めを鉄パイプで、交わし乍も、攻めに転じる。 


 次の瞬間、其の男は、先ず植田の左ローキックを右足でカットし、反撃に移行しやすい様に、右膝をディフェンス(※膝ブロック)して、植田の軸足に成っていた右足へ、男が右ローキックを放つ、此の反撃の右ローキックで、戦いの主導権を握る事が出来る。

直ぐに蹴り足を引き戻せる様にコンパクトに蹴る事が大切、男の右の蹴り足を戻して体勢を立て直し乍、やや間合いを詰め、植田の前足へ左ローキックを放ち。躯のバランスを崩さない様に気をつけ乍、強く鋭い蹴りを繰り出して、素早く戻し乍も、植田が前に出て来るのに合わせて、其の男は右足でストッピングのフロントキックを繰り出す。 


 植田の繰り出す長刀を素早く交わす男の身の軽さには、微塵の隙も見せない。遉の植田も、 


 「うおぉー…」 


 と雄叫びを上げて、焦れば焦るほど攻め入る隙は寸分も見当たらない。男は総合格闘技と米国海軍特殊部隊の訓練を積んだ高い身体能力を駆使して、鍛え上げて居る。 


 植田が、長刀の(※長刀の動きが不完全の場合は長刀を使う事で突きのタイミングや軌道をのズレやブレが拡大される為、動作の細かな微調整をする)連続的な攻撃を繰り出して、肘を曲げないで(※肘の動きで誤魔化さない事で、躯全体で長刀をコントロールする事が出来る)腰を廻し乍、(※腰と云ってもウエスト部分を廻す。躯を廻してしまうと膝が内側に入ってしまい痛めるので注意する)真っ直ぐ突き出し(※長刀は躯の正面を真っ直ぐ往復する。左右にブレない様に腰を廻す)其れを、男を的に突き出した。 


 植田は、長刀を上段から頭を割にいく様に、長刀を振り下ろしてきたのを、男は鉄パイプの接触点を崩し、鉄パイプは前手を視点として、ただ思いっきり打ち付けるだけで意味がない。 

 掌の力を調節して、当たったところから更に伸ばす様にして遣る事で、其の男の力とぶつからずに植田を崩す事が出来き、更に後ろの手を視点に変える事で植田は力の出所が分からなくなり対処できずに崩れる事に成った。 


 其の男は、鉄パイプを下から滑らかに切り上げて、植田の長刀の真ん中を、叩き落として真っ二つに割り鉄が木の棒の部分はへし折れる凄い物音を発していた。

植田は、長刀を持ち替えて刃先を上にしての攻撃に転じて男の顔と上半身へ攻め込んで来たが、植田と向かい合い左手で狙いを付けておき、左手で植田に触れ右パンチを植田の死角と成る下から打ち出し、右足を伸ばし乍右パンチで打ち、足の力で打つ事で強力な打ち拳と成り、更にフェイントもなしに、一気に両腕を縦横無尽に動かし、拳を胸の前で回転させ乍、必殺拳の攻め技を駆使する。仰け反る植田に、更にストレートパンチの連打乱れ打ちを、ブチ込んで行く。 


 植田は、二つに折れた長刀で、男の動きを左右に振り乍、払いのけ様とするが、其の男の連続攻撃には歯が立たない。 


 其の男は、ローキックを右膝への集中攻撃を見舞い乍の植田の脚の感覚が麻痺した。 


 次の瞬間、植田の襟首を掴み取り、地面へ引き倒して、男は植田を膝十字固め(※膝十時固めは、ひとことで云うと腕ひしぎ逆十時固めを足に掛けた技で在る)にして、グランドポジション(※仰向けの敵に対して、攻撃が敵の体側から半身で覆い被さる)から男が上に成り、植田がハーフガードポジションを取った。 


 其の男は、植田の左膝を右手で押し付け乍、体勢を移行させて、男は躯を左回転させて、植田の左足を抱える様にし乍しゃがみ込み、此の一連の動きは、ハーフガードポジョンを崩す為の一つのテクニックで在り、男は植田の左太腿を両足でロックし、自分の腰を植田の左太腿に押し付け乍、左足を真っ直ぐ伸ばさせる様に、其の男は両腕と両足で上手く植田の左足をコントロールし、男が植田の左足首を双手で抱え、上体を寝かし、植田の左膝と自分の下腹部とが密着する形に成り、其の儘腰を前に突き出し、男が背中を反る様にすると、より技が決めていた。 


 植田の膝は完全に膝十時固めが決まり、左膝は鈍い音を立てて折れていた。 


 「ぐあ゛っ!」 


 植田は、悲鳴を上げて白眼を剥いている。 


 其れを、見ていた松永は二刀流のサヴァイヴァル・ナイフを身構えていた。男が、植田の躯から離れる前に背後から忍び寄り、刺し殺そうと近付き、サヴァイヴァル・ナイフを振り下ろした。 


 「や、野郎ぉー!死にやがれぇー!!」 


 素早く其の男は、見切り乍も身構えた。 


 松永のサヴァイヴァル・ナイフの二刀流による縦横無尽な連続技が、応酬をして来たが、其れを男はまるで、清涼水の様に流れに、逆らわず流れに乗り乍も、松永のサヴァイヴァル・ナイフの攻撃を見切り、自らの間合いの中で交わして、男はオープン・カフェバーの店に在る椅子を振り廻し使い乍も、交戦して松永の両腕からサヴァイヴァル・ナイフを叩き落とした。 


 男は、松永の顎を目掛けて右ストレートを繰り出す。

此の攻撃は、次の掌底(しょうてい)(※掌底とは、手の平の親指と小指の付け根付近の肉厚部を指し、転じて其の部分を使って打つ技術を云う。

一般にパンチと云えば拳で人を打つと云う行為は意外に困難で在る。

何故なら、拳を握る際、腕や肩に無駄な力が入りやすく、其の結果パンチのスピードが鈍り、命中度も低く成る事が多いからで在る。

更に素手で打つ事を考えた場合、拳を痛めやすいおという欠点も持つ。

対して掌底は、手を握らない為、無駄な力も加わりにくく、素早く打つ事が出来る。

勿論柔らかい部分で打つ為、怪我の心配もない。

又、グローブを装着せず、素手で打ち合うという事を考えるならば、掌底は一般的なパンチに勝りこそすれ劣らない有効な攻撃だと云える。

『面』的な衝撃力を持つ技。一言で云って、拳で打つパンチは『点』の攻撃と云える。対して掌底は『面』の攻撃で在り、点の攻撃は内面よりも表面に損傷を与えやすい。しかし面的な攻撃は表皮よりも内面への衝撃力が大きい。顔面やボディへ攻撃について考えた時、脳や内臓に与える衝撃力では、拳によるパンチより掌底の方が大きいと云っても間違いではないだろう。【Point―腕の振り幅を小さく―】掌底の最大のPointは、腕の振り幅を小さくする事に在る。あくまでも、掌底はビンタとは異なる技術だと云う事を忘れてはならない。脇を絞り最短の軌跡で敵の顎を打つ。此はストレートで打つ場合もフックで打つ場合も共通する原則で在る)に繋がる為の、リードパンチ(※ジャブ)と成り、男による左の掌底フックし、左腕を外側から小さな振り幅で、松永の顎に的確にパンチを当てて、腕の振りが小さいとどうしても威力が半減してしまうが、右半身に成るまで腰をしっかり振り切る事で、其のデメリットを克服され、男が右の掌底フックを放ち、攻撃箇所はさっきと同じ、松永の顎へ右ストレートを繰り出して、次の掌底に繋がりのリードパンチの連続動作によって自然に間合いは詰まるが、掌底で在れば、松永との距離が近くても攻撃しやすく、男による左の掌底アッパーを松永の脳を大きく揺さぶる様にアッパー(※アッパーの場合、敵の喉から顎の辺りを突き上げるつもり打つと掌底が顎に掛かりやすい)を放った。 


 此の時、松永の頭の中の脳は、脳震盪(のうしんとう)を起こしていた。余りの衝撃波で脳の中は可成り揺れていた。 


 其の男と松永に正対した状態から松永の首をロックして喉仏に強烈な圧迫を加える絞め技をする。

其の為、松永の体勢が低くし乍、此の技を決める事は困難で在り、決める事は困難で在り、(※敵の首をがっちりと絞りする時、抱え込む手の拳を強く握る。

更に、拳を右に回転させ乍手首を返し、敵の喉仏を下から突き上げる様にして圧迫する事が大切で在る。と、同時に攻撃側は、己の腰を前に突き出し、背中を後方に反らせる様にして、敵の上体を浮かす。こうする事で、自然と喉仏への圧迫は強まり、敵の動きは完全に停止する)がっちりと絞り上げ、抱え込む手の拳を強く握る。 


 更に、拳を右に回転させ乍手首を返し、松永の喉仏を下から突き上げる様にして圧迫する事で、同時に攻撃側は、己の腰を前に突き出し、背中を後方に反らせる様にして、松永の上体を浮かし、こうする事で、自然と喉仏への圧迫は強まる。 


 松永の動きは完全に停止させて、次の攻撃へのタイミングを想定し乍も、男は段取りよくテンポアップして更に松永への攻撃を緩めずに、男は松永を背負い投げで地面に叩きつけて、ツイストアームバーの技へ移り変わり、仰向けに成った松永に対して、男が袈裟固めを決めた。 


 次の攻撃動作に繋げる為に、其の男は自分の右足の付け根に松永の右腕の付け根を引き寄せ、しっかりと密着させ、自分の右膝を胸を引き付ける様にし乍、松永の右の二の腕を右足の付け根辺りで挟み、此の時、右腕で松永の頭部を決める事により、松永の右の肩関節を完全にロックし、体勢を作ってから、其の男は左足を松永の右手首に引っ掛ける様にして乗せた。 


 此の時、松永の手の平を下に向け、男が右足を伸ばし、松永の右手首を下へと沈ませた。其の男は、松永の右肩や右の二の腕を、しっかりと固定させて、自分の左足のみを動かした。其れだけで、松永に大きなダメージを与えたのだ。 


 其の瞬間、 


 「ぐぁ!!」 


 松永は、悲鳴を上げると其の儘、白眼を剥いて口からは嘔吐物と血の混じった唾液を、垂れ流し出て失神をした。

 男は、絞めていた両足で腕を絞って肘関節を解き放した。 


 此で、五匹の糞蝿ども全てを、叩きのめし終えた男は、 


 「確かに、てめえの肉体(ボディ)は頑丈でサヴィヴァルナイフのテクニックはたいしたものだったぜぇ。だからこそ、今まで、其れを楯にして、勝って来れたんだろうが、此からは、気を付けるんだな…だが、てめえら、まだ…遣り合うと云うなら…徹底的に叩きのめすだけやあ……そん時は、死ぬ気で来いやあぁ!!」 


 男は、松永や手下の糞蝿どもに、そう云うと手下の四匹の糞蝿どもが、ズタボロの躯を引きずり乍も、松永に近付いて矢田と佐伯の二人が、松永の両肩に腕を廻して立たせた。 


 「い、嫌っ。もうー参った!」 


 そうこうすると、遠くでパトカーのサイレンのけたたましい音を鳴らし乍、谷町筋の大阪府警本部の方から聞こえて来た。 


 『ファオンファオンーファオン…ファオンファオン!!』 


 「さ…警察(さつ)やあぁ!!」 


 パトカーのサイレンの音を聞いて直ぐ様、勝呂が喚き散らした。 


 「ヤベえ!!に、逃げるぞぉ!!」 


 今度は、佐伯も大声で喚いて、逃げる算段をし始めた。 


 「お、おいっ。撤収だ!!撤収!!!」 


 植田が、フォード・リンカーン・ナビゲーターがドライバーズ・チェアに乗り込んで、イグニッション・キーを捻るとV八エンジンは目覚め、 


 『ドドドドオオオォォォ』 


 爆音を響かせた。五匹の糞蝿どもは、フォード・リンカーン・ナビゲーターに乗り込んで、道修町通りから堺筋線へ一目散に逃げ出して北方向へ行った。 






 三 






 激闘を制して堺筋の道修町通りの四差路から男は、ゆっくりと美紗樹の倒れている所へ歩み寄って、腰を屈めて 


 「……」 


 其れから後ろ手に、嵌められているプラスチック製の結束バンドを愛車フォードGTのキーホルダー付のユーティリキー。

ユーティリキーとは、刀付きの鍵型ツールで、隠し武器に用いるアメリカ製品で在り、又の名をキーナイフとも云われて発売されている。

其のユーティリキーのキーボードから手にして、プラスチック製結束バンドを切断してフォードGTのトランクの中からファーストエンド(※救急箱)を持ち出して来ていた其のバックの中から消毒剤や絆創膏などを取り出して、擦り傷、切り傷の応急処置を施して遣り、其の当の本人の美紗樹は、まだ気を失った儘だった。 


 其の男は、手当てを終えると美紗樹を、両腕で抱き抱え込んだ。所謂、御姫様抱っことい、う奴をして、愛車フォードGTの助手席に、そっと乗せ換え寝かせた。 


 美紗樹にそっと、近付いて見ると軽い寝息を、 


 「スウスウゥゥゥ……」 


 と、立てて居たのを男は、其の寝顔をのぞき込んで、 


「おい。君ィ……」 


 と、声掛けを試みて三度目に声をかけた時、美沙樹は眼を覚まし、直ぐ側に人の姿を見てハッとして、起き上がろとするのを、 


「あっ、危ない。頭をぶつけるぜぇ!!」 


 と、男は声を掛けた。 

 美沙樹は、其の声に一瞬、 


 「……」 


 ドッキと反応して、其れから声のした方に首をゆっくりと向きを変えて見ると、声の主の姿をもう一度見直した。 


 外は一面の星月夜で在った。 


 (めっちゃ、べっぴんやなぁ……)


 月明かりに滲む様な美紗樹の横顔を見て、さして興味を示さなかった其の男だったが、美紗樹の顔を覗き込んでそう思った。 


 べっぴんと云っても、人に与える感じは其れ々々異なる。べっぴんとしても嫌悪感を与える者もいるし、べっぴんでなくても心を温めて呉れる者もいる。美沙樹は其の点、心の優しさが其の顔を見ただけで感じられるのだ。 


 「気がついたか……」 


 男が、声を掛けると、美沙樹はハッとして、 


 「…あ、あんたは誰やのん!?」 


 恐怖に震える声で叫んだ。 


 「君を、あの糞蝿みたいな連中から、助け出したお節介な男と覚えて呉れればヱヱでぇ……」 


 男は、そう云うと 


 「た‥助け出した?私を、(うち)に帰して下さい。でも、あの人たちがまた、戻ってきたらと思うと……」 


 美紗樹は、まだ頭の中が混乱をしていて、此の男の云っている事が理解出来なかった。 


 暫くして、美紗樹はさっきまでの事を思い出して、恐怖した事が走馬灯の様に蘇ってきて躯を震わせて、ショックのあまり自然と泪が溢れ出していた。 


 其の男は、美紗樹の不安げな顔を見詰め乍も、 


 「い、家に、帰りたいのは解る。だが、今は奴らがまだ何処かに潜んでいるか解らへん。どうだろう、今夜は安全な場所へ移動しないか……」 


 そう云い乍、ライダージャケットの内ポケットからバンダナを取り出して美沙樹に手渡した。 


 美紗樹は、バンダナを受け取って 


 「あ、有難う……」 


 と、応えてから其のバンダナで、 


 「……」 


 頬を伝う泪を拭い始めた。 


 其れを見て、男はCoolに嗤って 


「俺が、信じられないのならしゃないなぁ……」 


 美紗樹の顔を見詰め乍、訊ね掛けた。 


 美紗樹は、月の光で男の顔を見詰めていたが、其の男が欲だけで動いている人間ではないのが解ったとみえて、 


 「解ったわあぁ。それじゃ、そないするわねぇ……でも、もしも、私に変なん事したら舌を噛むから……」 


 と、云ってジッと見詰め乍、此の男が自分を護って呉れる人間なのか、其れとも邪悪に満ちた人間なのかを見極め様と観察する。 


 男は、其の訊ね掛けに一挙手一投足 


 「うん。約束しよう。其れで君の名はなんて云うねん」 


 美紗樹の顔をシッカリと見詰め直して、応えた。 


 今度は、逆に祥次から美紗樹に訊ね掛けると、 


 「其れは言えへんわぁ。貴方も云いたくは在らへんと思いますから……」 


そう問い掛けに応えた。 


 「俺はどんな所でも自分の名前を隠す様な生き方はしていいひん。鷹村仁(たかむらじん)、生まれついての天涯孤独の男だ。独生独死独来独去――、気ままに遣っている男だ」 


 男は自らの姓名などを包み隠さずに応えた。 


 美紗樹は、最初に鷹村の事を本当に信用の出来る人間なのか!?半信半疑だった。だが、今、眼の前に佇む此の男が偽りの無い男にも思えるが、まだ、半分は疑心暗鬼で居たが、 


 「家族や親類は……」 


 真顔を見詰め乍も、訊ね掛けた。 


 「名も知らねえ。ただ、親父が警官で在ったと知って警察学校を出て、刑事のいらはを学んだが、世間の裏側を見てしまってからは刑事を辞めて、渡米をしてグリーンカード得る為に頑張って、手に入れてから海兵隊になり、更に上を目指してシールズ=特殊部隊として様々な事を得るものと、なくした者も在った」 


 鷹村は、自らの素性を明らかにした。 


 「じゃあ、今は何をしているの!?」 


「今の俺は、【此の世の(ちり)(あくた=ゴミ)、何でも始末を致します】とい、う所謂。『始末屋』とい、う稼業をして、銭を稼ぐ暮らしをしている」


 「『始末屋』って、何んかTVドラマの『必殺仕事人』の中村主水みたいやねぇ……」 


 「も、主水。見たいって、其れを云うなら、『仕掛人』の藤枝梅安の様な、イケメンて、云うて呉れるか!」 


 「ふ、藤枝梅安てぇ……だ、誰其れ!?誰の事!?私、知らへんわぁ……でも、まあぁ。顔の方はヱヱけど……!?ふふふ……」 


 「へっ!?ふ、藤枝梅安を知らへんか??はぁぁ……。まあぁ。って!? でも、やっと嗤ったなぁ……。もう、其の笑顔が出れば安心やぁ……」 


 「えっ。うん!知らへんワア!!あっ。私の名前は……司馬美沙樹(しばみさき)て云うんねんよぉ」 


 鷹村は、思わず云い掛けた言葉を呑み込んで、 


 「……」 


 愛車のフォードGTのドライビングを、始め様としてイグニッション・キーを捻ると、重低音のエンジンサウンドを響かせた。 


 此のフォードGTは、外観のブルー&ホワイトのストライプ・ツートンカラーリングの一九七一年式改変 カスタム・ヴァージョンで、乗車定員:二名、ボディタイプ、:二ドアクーペ、エンジン:五.四L V八DOHCスーパーチャージャー 五五〇PS/六九.〇kgm,変速機六速MT,駆動方式:MR,全長:四.六四三mm,全幅:一.九五三mm,全高:一.一二五mm,ホイルベース:二.七一mm,車両重量:一.五六八kg,ステアリング位置:左,タイヤ:ミシュラン二九/六五−一八【フロント】,ミシュラン三一/七一−一八【リア】更に、チューニングして、最高出力を七〇〇hpまで引き上げられている。 


 鷹村は、六速MTのミッションをセカンドからサード、トップへと変更させ加速させて、其のの儘十七インチホイルのミシュランタイヤの音を軋ませ乍、道修町三の交差点を左折して御堂筋の全車線の道路は走る車は少なく、業務系トラック、タクシー位が走る程度、ガラガラに透いてい(※空いているなどを差す事)た。 



 鷹村は時々、美紗樹の顔を横目で確認し乍も、愛車フォードGTを運転し、久太郎町三の交差点を右折して、中央大通を通り抜け川口三交差点を其の儘突っ切る様に港区方面へ向けて走り去った。 


 美紗樹は、鷹村がアメリカから 


 「た、鷹村さんてっ!どないして、渡米をしたん!?……そ、其の……ぐ、軍隊なんかに入隊しはったんですか!?其れに、アメリカに永住を決めたにしても、グリーンカードを取得したんでしょ。また、どないしてわざわざ、日本へ帰って来はったんですか!?」 


 何故、日本に舞い戻って来たのかが知りたくて謎と何処となく陰の在る部分を聞いてみたいと思っていた。 


 鷹村は、美紗樹の好奇心旺盛で在り美麗さに、普段は誰にも話した事が無い事までも、彼女の魅力に 


 「本当(ほんま)は、此の日本には二度と戻らないと誓っていたが、或事件をキッカケに舞い戻った……」 


 其の事を応えた。 


 美紗樹は、再び鷹村の横顔を見詰め乍 


 「えっ!?」 


 一瞬、其の応えに対して、驚愕していた。 


 鷹村の横顔には、 


 「……」 


 何故か悲しみの陰を落とす様な、 眼差しを称えていた。 


 「……」 


 美紗樹は、其の鷹村の横顔を見ていて、其れから暫くは、何も云えなかった。

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