仲間とナロウオンライン 〜ぷちミントのハピバな一日〜
このお話を、お誕生日のミントさんに捧ぐ!
返品不可!!ww
先週発売されたばかりのナロウオンライン。
そのVRゲームの中に、ひとりの男が降り立った。
プレイヤー名『Petit Mint』、白魔道士。
リアル名は白虎白秋というが、友人には『ミント』と呼ばれている。いつも母親に、プシュッとミント系の香水をされるためだ。
流石にゲームの中まで匂いは持ち越せないと思っていたが、流石は最新のゲーム。自分の体からミントの匂いがふと香ってくる。
「すごいなぁ、最新のゲームは……アバターは色々あったけど、リアルのままでもいけたし」
白秋はリアルそのままの姿でプレイする事に決めていた。
このナロウオンラインに白秋を誘ってきた男もそうすると言っていたので、見つけやすいだろうと考えたからだ。
「おーい、ミント! こっちだ!」
約束していたヨモウ街の北ホームポイント前で、その男が手を降っている。
金髪長身のゴツイ奴。なぜか真っ黒いローブ姿だ。プレイヤー名は『Salaman Suzaku』……白秋はそのプレイヤー名を見て、こいつはほぼ本名でプレイするのかと少し呆れながら言った。
「サラマン、その容姿で黒魔道士かよ?」
「おお、かっこいいだろ?」
「このゲーム、リアルパラメータも反映するんだから、サラマンなら戦士とかモンクの方が適性高いだろうのに……」
「ははっ、まぁこういうのも良いじゃねーか! ミントは、白魔道士か?」
「サラマンが前衛すると思ったからさ。回復役は必須だと思って」
「流石よく考えてんなぁ」
「でも、どうする? 白黒だけじゃあ、狩りはちょっと厳しいよ」
「ああ、ちょっと待ってくれるか? 俺のリアフレをもう一人呼んでるからよ」
高校の頃からの友人である朱雀サラマンダーは、そう言って笑った。
サラマンダーはどこかの外国の血が流れていて、女も男も見境のない奴だ。その昔、ミントもごにょごにょだった事がある。もう既に笑い話であったが。
「ああ、あれだ。おーい、ラノ!!」
サラマンダーが手を振る方に、『Rano Huura』というプレイヤーがいた。慌てているようで走ってこっちに向かっている。
「朱雀、ごめん、遅れたぁぁああ?!」
「おせーよ、ラノ。遅刻だ遅刻!」
「仕事が忙しくてブベッ」
駆け寄って来た瞬間、その男は派手にズッコケた。サラマンダーがその男を引っ張り起こし、苦笑いしながら汚れた部分をはたいてあげている。「相変わらずだなぁ」とズッコケ男に向けるサラマンダーの顔は優しい。
仲の良い所を見せつけられたところで、サラマンダーはクルリとこちらに向き直った。
「ミント、こいつは俺の友人の羅乃太郎だ」
「ちょ、本名晒すのやめてぇええ?! 風浦らの、だから!」
風浦らのと名乗る男が焦ったようにサラマンダーに突っかかる。しかしサラマンダーは悪びれもせずに笑っていたが。紹介をされた男は、改めて白秋の方を向いてくれた。
「初めまして、風浦らのです。気軽に『らのさん』って呼んでね。ええっと、ぺチットミンツさん?」
「いや、俺ぷちミントだから……」
「わわわ、ごめんーー!?」
「ぶははははっ」
羅乃の読み間違いに、サラマンダーは大ウケだ。どれだけ英語が弱い人なのかと、逆に白秋はプッと吹き出す。
「じゃ、じゃあプチさんって呼んで良いかな」
「お好きにどうぞ」
「ありがとう、プチさん」
その、羅乃の爽やかな笑顔。白秋は周りに王子様系イケメンと呼ばれているが、羅乃はもう少し男らしいイケメンであった。
中々そそる顔をしている。……いやいや。
「んじゃあ、三人揃った事だし、ちょっとレベリングに行ってみっか!」
今にも飛び出しそうなサラマンダーの言葉に、白秋は慌てて待ったをかけた。
「らのさんは見た感じ青魔道士だろ? 黒白青って、バランス悪過ぎだって。せめて盾になりそうな前衛を誘おうよ」
「初期の敵ならなんとかなるんじゃないか? まあやってみようぜ」
白秋の言う事など聞きもせず、サラマンダーと羅乃はルンルンと町の外に出て行く。
楽観的なサラマンダーと、ズッコケたりボケたりする羅乃に不安を覚えながら、白秋は仕方なく二人の後に続いた。
「よーし、あのハッピーバニーを狙おうぜ!」
エリアチェンジをしてヨモウ街を出ると、サラマンダーがスチャッと杖を取り出している。
ナロウオンラインに初めて入った時に、ジョブごとで支給されるものが変わるのだが、白魔道士を選んだ白秋は、棍棒もしくはポイミという回復魔法のスクロールだった。白秋は迷わずポイミを選んだわけだが、サラマンダーは……
「さ、サラマン!! まさかお前、杖を選んだのか!? 魔法は!?」
「いやー、火魔法のメランも魅力的だったんだけどよ、理力ワンドが目に付いてついな。ほら、殴れるって爽快だろ?」
「だったら最初から前衛選べって!」
理力ワンドはMPを消費する代わりに、物理攻撃力が増大する杖だ。殴りたいなら最初から前衛職を選べば良いというのに、サラマンダーは理力ワンド片手に「オルァァアアア」とか言いながらハッピーバニーに殴り掛かっている。
バコンと良い音がしたが、初期モンスターと言えどそれで倒せるはずもなく、サラマンダーは反撃を食らっていた。
「ぐああー、痛ええッ」
「ったく、紙防御なんだから無茶すんなー!! ポイミ!!」
ポワンと音がして、小さな光がサラマンダーを癒した。しかしその瞬間、ハッピーバニーの視線がこちらにギロリと向いてしまう。
「や、ヤバイ……ッ! 俺も紙防御ーーッ」
いくら理力ワンドを使ったとはいえ、所詮は黒魔道士の攻撃だ。ポイミの方がヘイトが高いのも当然。サラマンダーへの攻撃が終わった事で、彼へのヘイトが下降しているところへのポイミだ。完全にミスった。
タンクがいない時の白魔道士の回復のタイミングは、針に糸を通すほどの正確さと細やかな気配りが必要なのだ。
ハッピーバニーが白秋に向かって飛ぶように走ってくる。
ロッドも持たない、攻撃魔法など持つはずもない白秋には、立ち尽くす事しか出来ず。
「うわぁああっ」
「危ないっ!!」
ザシュッと音がしたかと思うと、ハッピーバニーのターゲットは青い男に向かっていた。
そう、青魔道士の羅乃だ。今度はハッピーバニーが羅乃の腕を噛んで攻撃しているところを、理力ワンドでサラマンダーが応戦する。
敵が離れて手が自由になった羅乃は曲刀を振り下ろし、トドメを刺せたようだ。
しかしゲームとは言え、羅乃の左手はだらだらと血が流れ落ちている。どうやらある程度の痛覚まであるようだった。
「らのさん、大丈夫? ポイミ!」
「ありがとう、ポイミン」
「変なあだ名付けないでくれる!? 俺はミントだから!!」
「あ、そっか。間違えちゃった」
羅乃はウインク付きのテヘペロで、その場をさらっと流してしまった。
このテヘペロ男ーーーーッ
でもちょっと可愛いから困ってしまう。結局白秋はテヘペロに負けて羅乃の事を許してあげる形となった。
「よっしゃ、このパーティでもやれそうだな」
「ちょっ、サラマン。お前それ本気で言ってんの!?」
「よし、次はもうちょっと強いモンスター行ってみようぜ」
「おおおおおおいいいいい?!」
羅乃はサラマンダーの言葉に何の疑問も持たず、ずんずん奥へと歩き出す。
白秋は先に魔力回復をと座り込み、ある程度回復してから二人を追い掛けた。
そんな無茶な戦闘を繰り返し、レベルが10まで上がると、日が暮れかけてきた。
それでもなお「じゃあ次はあっちに……」と移動しようとする二人を、白秋は必死に止める。
「待て!! 待て待て!! 一旦町に帰る方が先だ!! レベル10にもなって、なんだこの初期装備は!! 稼いだお金で装備を買ったり、魔法スクロールを買ったりしておけば、もっと楽にレベル10まで上げられたっていうのに……っ」
「一気に良い装備に変えた方が、無駄がないじゃねーか」
「サラマンお前、ロマリアに着いた途端にイシスを目指して、サクッと地獄のハサミにやられるタイプだろ! 絶対そうだろ!? とにかく一旦戻って、装備を整えるよっ 」
白秋が強く言うと、サラマンダーと羅乃は仕方なしに着いて来てくれた。
サラマンダーはレベルが上がったとは言え、理力ワンドと黒ローブのみ。
羅乃は曲刀があるとはいえ、運が悪いのか中々敵の技をラーニング出来ずに、未だ青魔法ゼロ。
白秋はやっぱりポイミしかない白魔道士だ。レベル10ならペポイミも使えるようになるはずなので、スクロールを買えば戦闘も楽になるはずである。
町に戻る道すがらにはもう雑魚しかおらず、適当に蹴散らしながらヨモウ街を目指す。
しかし町まであと少し……という所まで来た時だった。
ハッピーバニーよりもふた回り以上も大きなウサギ型モンスターが、ドスンドスンと土埃をまきたてながら飛び跳ねているのを見たのは。
「うおおお、なんだアレ!?」
「ハッピークレイジーバニーだって」
サラマンダーと羅乃の言葉に、白秋は青ざめた。
「……ネームドだ」
ネームドモンスター……それはこの世界に一匹しか存在しない、レアなモンスターの事である。
その近辺でレベル上げをしているパーティには、太刀打ち出来ないモンスターである事の方が多い。
「あいつは聴覚探知だったか……静かに音を立てないように、そっと町へ──」
「ひゃっほー、狩るぞー!!」
「おっけーい!」
「こらーーーーーーー!?」
理力ワンドを手に殴り込む黒魔道士と、青魔法の使えない青魔導師が、嬉々としてネームドに突っかってしまった。
……バカなの!?
ねぇあの人たちバカなの!!
羅乃が傷を負い、すかさずポイミを詠唱するも、一度のポイミではそんなに回復量は多くない。レベルが上がってHPが増えているから、尚更だ。
「ポイミポイミポイミ……ぎゃー、こっち来たーっ」
連発すると、どうしても白秋への敵対心の方が優ってしまう。白秋は今居るところからグルリと円を描くようにして逃げつつ、羅乃の元へと走った。そこまでくると羅乃が一撃を食らわせて、ハッピークレイジーバニーのターゲットを取ってくれる。
「ありがとう、らのさん!」
「でもやられちゃったーっ プチさん、ポイミちょうだいーっ」
「ポイミポイミ……また来たーー!!」
白秋が逃げる、ハッピークレイジーバニーが追い掛けてくる、羅乃が殴ってターゲットを引き剥がす、ポイミをしてまた追い掛けられる……その繰り返しだ。
ちなみにサラマンダーは敵対心を上げすぎないように、適当に殴りながら休んでMPを回復させている。
「おー、がんばれー」
「休んでんじゃねー、サラマン!!」
走るのもしんどい、MPもキツイ。このままでは、やられてしまう。
死ぬと、経験値やお金がごそっと消えてしまうらしい。せっかくここまでレベルを上げて、お金も貯めたというのに、それだけは避けたいところだが……。
「っく、あいつをやっつけるのが先が、俺のMPが切れるのが先か……?!」
なんだかんだと、ハッピークレイジーバニーのHPも結構削れて来た。白秋が危惧していたほど、レベルの高いネームドではなかったようだ。
「このうっ!!」
ザシュッと羅乃の曲刀がバニーの腕を切り裂く。その瞬間、ウサギはウオオオンと声を上げたかと思うと、何かの技を繰り出した。空気の振動が、白秋の所にまで響いてくる。
「な、なんだ!?」
「やった、ラーニングし……っ」
羅乃の声は、そこで止まった。
ハッピークレイジーバニーの爪が、羅乃の体を引き裂く。羅乃の血が、辺りにぶちまけられる──
「らのさん!! ポイミーー!!」
しかしその魔法は虚しく、発動しなかった。いや、発動しなかったのではない。対象となるものに掛けられなかったのだ。
そう、羅乃はもう……。
「ラノーーーーッ」
黒魔道士が理力ワンドを持って走り込んでいる。そしてハッピークレイジーバニーの頭へと、思い切り振り下ろしたのが見えた。
ゴガンッという鈍重な音がしたかと思うと、敵はゆっくりと崩れ落ちていく。地面にドスンと音を立て、土は円を描くように埃を巻き上げた。
「……倒した……のか?」
ぜえ、と肩で息をしながら、白秋は二人の元へと急いだ。羅乃が無残な姿で横たわっている。ポイミを掛けようとしても、やはり掛けられない。
このままホームポイントに戻れば、経験値もお金もごっそり減ってしまう事だろう。
「くっそ、もうちょっとだったのにな。ラノ、仕方ねぇからホームポイントに戻っとけ」
「いや、ちょっと待って。高レベルの白魔道士が居ないか、サーチしてみる。蘇生魔法をかけてくれるかもしれない」
そう白秋がサーチしようとした、その時である。
「あ、動けた」
なんと、羅乃がむっくりと起き上がったのだ!
「ラノ!! 」
「らのさん……!! なんで……」
羅乃は白秋の方を向いて、あははと笑う。
「さっき、敵が使った『九死に一生』って技、ラーニングした瞬間に俺も使っておいたんだ」
羅乃の傷は綺麗に消え去って、HPもMPも満タンである。これは結構レアな青魔法をゲットしたのかもしれない。
「何だよ、心配掛けやがって」
「でも、ちょっと待て。らのさんが復活したって事は、つまり……?」
白秋は恐る恐るハッピークレイジーバニーの方を振り返った。そいつはゆっくりと体を起こしていて……
「よっしゃ、もう一回やるぜ!!」
「バカッ、もう俺のMPが持たないよっ」
「他に技は使わないのかなあ、わくわく」
「また死んじゃうからやめて!!?」
起き上がったハッピークレイジーバニーの目は真っ赤に燃えていて、今までとは様子が違う。おそらく、第二形態に入ってしまったんだろう。
しかも時刻は夜。アンデッドが次々と湧いて来ていて。
全ての目が、ギロリと白秋達に集まる。
「やばい、あいつら生命探知だ……」
「流石にこいつはヤベェな……」
「ヤバいみたいだね……」
夜間に沸く敵は、昼間より強いと相場が決まっている。
白秋はサラマンダーと羅乃を腕をガシッと手に取り。
「町まで逃げろーーーーッ」
多くのモンスターを引き連れながら、町へとダッシュする。
町の前には多くの冒険者がたむろしていた。
「きゃー、なに!? MPK!?」
「すみません!! ナチュラルです!!」
そう言い訳しながら、しまったと白秋は自分の判断を悔いた。
町は、冒険者の入り口となっている。このままでは、町を出ようとする者達が次々とネームドやアンデッド達の餌食になってしまうだろう。
エリアチェンジをするのなら、町ではない別のマップを目指すべきだった。
「くそっ、サラマン、らのさん、ここで全部倒すよ!!」
「ん? どういう風の吹きまわしだ?」
「勝てるかなぁ?」
そう言いながらも二人はザザッとワンドと曲刀を構えてくれる。
「すみません!! フリーの人、適当に誘うんで俺のパーティに入って手伝ってください!! 周りの人もパーティを組んで、アライアンスお願いしますっ」
こうなったら、周りを巻き込んでしまうが仕方がない。被害が拡大するよりマシだ。
「レイドバトルってやつ? 面白そうだから参加しまーす!」
そう言って手を挙げた『Mokusei Akino』という武闘家を、即座にパーティに誘う。
「始めたばかりで、役に立てるか分かんないけど……っ」
プレイヤー名『Nananan』、吟遊詩人もゲット。足りないのは……
「誰か聖騎士はいませんか!!」
「あー……じゃ、アテクシが」
名乗りを上げてくれた『Kaisui』もパーティに誘う。
聖騎士、武闘家、青魔道士、吟遊詩人、白魔道士、黒魔道士……前衛3人、後衛3人の中々理想的な配陣だ。まぁ、このパーティの黒魔道士は何故か前衛ではあるのだが。
「六人パーティ組んだよー、誘ってー!」
ふと見ると、どうやら頼んだ通りに見知らぬ人たちも協力してくれるようだ。有難い。
手をひらひらさせながらニコニコしている人は、プレイヤー名『Miwakazu』、シーフ。ネームドを見てうずうずしているようだ。レアアイテムを盗もうと狙っているんだろう。
そんな彼女がリーダーだと分かり、白秋は即座に同盟申請を飛ばす。それはすぐに受諾されて、新たな仲間がステータス画面に表示された。
暗黒騎士『Tokusatu Kamen』
「カオス過ぎて草」
魔法剣士『Tacosu』
「参加?! もちOKです!」
白魔道士『Nurse Yotsuba』
「頑張って皆さんを癒しますね」
ガンナー『Akki Kotaroh』
「ぼくが来たからにはもう大丈夫……なハズ!!」
赤魔道士『Akizuki』
「微力ながらお手伝い致します」
中々頼もしい面子にホッとする。もうひとチームは……と見ると、知的な女性が白秋を見て微笑んでいた。
「こちらも揃いました。誘ってください」
プレイヤー名『Shinobu Akitsuki』……彼女は陰陽師だ。手に入れるのが難しいジョブをもう持っているなんて、期待が持てる。
こちらも同盟申請を飛ばすと、すぐに受諾してくれた。
踊り子『Kosuzu Kobato』
「お誘い頂き、恐縮です。精一杯頑張りますね」
竜騎士『Maybe Tomorrow』
「ストレス解消になりそうですね〜」
サムライ『Kaede Jujo』
「よーし、暴れちゃいますよーっ」
忍者『Haruka Kanata』
「ああ〜、血が騒ぐ……」
召喚士『Yukino Nagi』
「皆さんの足を引っ張らないように気をつけます」
これで3パーティ18人が揃った。これだけの人数が揃えば、ネームドもアンデッドも退ける事ができるはずだ。
皆の力をひとつにし、戦いの幕が今、切って落とされる!
そう──
「俺たちの戦いは、これからだ!!」
***********
唐突に終わる(笑)
ハッピーバースデーミントさん!!
全然ハピバSSじゃない?
ハピバ→ハッピーバニーの略だ!(えw)
出演してくださった皆様、本当にありがとうございました!